変形労働時間制を争う方法

労働者が会社に対して,未払残業代を請求すると,

会社から,うちは変形労働時間制を採用しているので,

労働者の残業代の計算方法は誤っている

という反論をしてくることがあります。

 

 

会社から,変形労働時間制の反論をされた場合,

労働者は,どのように対処すればいいのでしょうか。

 

 

変形労働時間制とは,一定の期間(1ヶ月以内,1年以内または1週間)

につき,1週間当たりの平均所定労働時間が

法定労働時間を超えない範囲内で,

1週または1日の法定労働時間を超えて

労働させることを可能とする制度です。

 

 

 

 

所定労働時間とは,労働契約で決められた勤務時間のことで,

法定労働時間とは,労働基準法で定められた1日8時間,

1週間40時間の労働時間のことで,

法定労働時間を超えると残業代が発生します。

 

 

変形労働時間制であれば,1週間あたりの所定労働時間が

40時間以内に定められていれば,

予め所定労働として特定された日や週の

特定された時間の範囲で1日8時間,1週間40時間

を超えた労働について,会社は残業代を支払わなくてよくなります。

 

 

例えば,1週間のうち1日は9時間働き,

別の1日は7時間働き,1週間で40時間の範囲内に収まっていれば,

1日9時間働いたうちの1時間分の残業について,

会社は残業代を支払わなくてよくなるのです。

 

 

なぜ,変形労働時間制ができたのかといいますと,

労働者の生活設計を損なわない範囲内において労働時間を弾力化し,

業務の繁閑に応じた労働時間の配分を行うことによって

労働時間を短縮するためです。

 

 

 

 

変形労働時間制は,あくまで,労働時間を短縮することを

目的としているのであり,決して,法定労働時間を超えて

労働させることや残業代を支払わないための

手段としてはいけないのです。

 

 

労働基準法32条の2において,

1ヶ月単位の変形労働時間制を導入するには,

労使協定や就業規則などで,次の事項を定めて,

労働者に周知しなければなりません。

 

 

①変形期間(1ヶ月以内の一定期間)及びその起算日

 ②変形期間における各日,各週の労働時間と各日の始業及び終業時刻

 

 

会社が,この要件を満たしていなければ,

変形労働時間制は無効になるので,労働者は,

会社から労使協定や就業規則を開示してもらい,

特に②変形期間の労働日と労働時間が

特定されているのをチェックします。

 

 

大星ビル管理事件の最高裁平成14年2月28日判決では,

就業規則などにおいて,変形労働期間の各日,

各週の所定労働期間を具体的に特定する必要があると判断されました。

 

 

そのため,就業規則に「勤務時間については変形労働時間制とし,

個別に定める」と規定されているだけでは,

変形労働期間の各日,各週の所定労働期間が

具体的に特定されておらず,変形労働時間制は無効となります。

 

 

勤務割表で所定労働期間を特定する場合には,

就業規則において各勤務の始業・終業時刻及び

各勤務の組み合わせの考え方,

勤務割表の作成手続きや周知方法を定めて,

各日の勤務割は,それに従って,

変形期間開始までに具体的に特定しておけば足りることになります。

 

 

私の経験上,地方の中小企業において,

変形労働時間制の労働時間の特定を適法に定めているところは少なく,

変形労働時間制が無効になる可能性が多いと感じています。

 

 

そのため,労働者は,会社から,

うちは変形労働時間制を採用しているので,

そんなに多くの残業代を支払わなくてもいいのだと主張されたとしても,

労使協定や就業規則を見た上で,

各日,各週の労働時間が具体的に特定されているのかを

チェックするようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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