令和元年度の過労死等の労災補償状況の解説
1 令和元年度の過労死等の労災補償状況が公表されました
6月の下旬に,厚生労働省から,
働き過ぎなどが原因で,脳や心臓の疾患を発症したり,
精神障害を発症した場合の労災補償の状況が公表されました。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11975.html
毎年公表される統計データでして,これを見ると,
脳・心臓疾患や精神障害の労災認定の件数の推移や,
どのような業種や年代で多いのかがわかる貴重な資料です。
それでは,令和元年度の統計データについて
私が気づいた点を解説します。
2 脳・心臓疾患の労災補償状況
まずは,脳・心臓疾患の労災補償状況についてです。
長時間労働や過酷な業務に従事したり,
業務上の強い過重負荷にさらされることによって,
脳や心臓にある血管へダメージが積み重なって,
脳梗塞や心筋梗塞といった脳・心臓疾患を発症することがあります。
仕事による過重負荷が原因で脳・心臓疾患を発症して
死亡することを過労死といいます。
そのため,脳・心臓疾患の労災補償状況から,
過労死のことが分かるのです。
脳・心臓疾患についての労災請求件数は
平成27年度から右肩上がりに増加し,
令和元年度も増加しています。
他方,労災認定件数は,徐々に減少傾向にあります。
請求件数は増えているのに,認定件数が減っており,
認定率は31.6%なので,労災と認定されるのは狭き門といえそうです。
脳・心臓疾患の労災請求の多い業種は,
道路貨物運送業,その他の事業サービス業,総合工事業,
社会保険・社会福祉・介護事業,飲食店がトップ5となっています。
道路貨物運送業については,長距離トラック運転手の拘束時間が長く,
不規則な勤務で,長時間運転することのストレスなどの影響で,
脳・心臓疾患が発症しやすいのかもしれません。
脳・心臓疾患の労災請求を年齢別にみると,
30歳代以下は少ないのですが,40歳代以降で多くなります。
40歳を超えると体力の衰えが顕著になるのかもしれません。
1ヶ月に概ね80時間以上の時間外労働が認められると,
脳・心臓疾患の労災認定がされやすいところ,
統計データでも80時間以上100時間未満の時間外労働の区分で
最も多く労災認定されています。
3 精神障害の労災補償状況
次に,精神障害の労災補償状況についてです。
長時間労働や厳しいノルマ,いじめやパワハラなどの
業務上の心理的負荷によって,
うつ病などの精神障害を発症することがあります。
業務上の心理的負荷によって,精神障害を発症して,
自殺した場合,過労自殺といいます。
精神障害の労災請求件数も,平成27年度から右肩上がりに増加し,
令和元年度には2060件と過去最大を更新しました。
長時間労働やハラスメントといった,
業務上のストレスが職場に蔓延しているということなのでしょう。
他方,労災認定件数は横ばい傾向にあり,
認定率は32.1%なので,
精神障害の労災認定も狭き門といえそうです。
精神障害の労災請求件数が多い業種は,
社会保険・社会福祉・介護事業,医療業,
道路貨物運送業,情報サービス業,飲食店がトップ5となっています。
介護や医療の分野で精神障害の労災請求件数が増加しているのは,
人手不足による長時間労働,
専門職としてのストレスの高さに原因がありそうです。
この統計は令和元年度なので,コロナ禍の影響は反映されていません。
コロナ禍によって,介護や医療の分野で働く方々は,
新型コロナウイルスの感染リスクや,
賞与の削減などの待遇悪化などで,
さらに高度なストレスにさらされていますので,
精神障害の件数が増加することが懸念されます。
精神障害の労災請求を年齢別にみると,
脳・心臓疾患とは異なり,
20歳代と30歳代などの若い世代に多いことがわかります。
会社に余裕がなく,若手の社員教育に手が回らず,
若手社員に過度なストレスがかかっているのかもしれません。
精神障害については,労災認定基準の表にある
具体的な出来事にあてはめて,その心理的負荷が強となれば,
労災と認定されます。
労災と認定された具体的な出来事で多かったのは,
嫌がらせやいじめを受けたや,
上司とのトラブルがあったという
パワーハラスメントが最も多かったです。
パワーハラスメントの被害の深刻さが浮き彫りになりました。
脳・心臓疾患も精神障害も,労災請求件数が増加していることから,
今後とも長時間労働やパワーハラスメントの対策を
強化していくことが求められます。
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