高速バスの交代運転手の乗車時間や仮眠時間は労働時間か
1 未払残業代事件では労働時間が争点になることがあります
未払残業代請求事件では,労働時間か否かが
争われることがよくあります。
働いているような,休んでいるような労働密度の低い時間があると,
その時間が労働時間なのか,休憩時間なのかが問題になるのです。
労働時間と認められれば,労働時間が長くなり,
その分,未払残業代が認められることになるので,
会社側が激しく争ってくることになります。
この労働時間について判断した裁判例で,
興味深いものを見つけましたので,紹介します。
カミコウバス事件の東京高裁平成30年8月29日判決です
(労働判例1213号60頁)。
この事件では,高速バスの交代運転手が高速バスを運転しておらず,
交代運転手としてバスに乗車している時間が労働時間かが争われました。
2 労働時間とは
まず,労働時間とは,労働者が
会社の指揮命令下に置かれている時間をいいます。
どのような場合に,会社の指揮命令下に置かれているかといいますと,
労働からの解放が保障されていない場合です。
労働者が労働から解放されて,自由に過ごしていい場合には,
会社の指揮命令下に置かれておらず,労働時間ではないとされます。
労働からの解放が保障されているかについては,
個々の事件の事実を丁寧に分析する必要があります。
3 交代運転手の不活動仮眠時間は労働時間か
この事件の交代運転手の座席は,運転席の真後ろにある客席で,
リクライニングシートを利用することができ,交代運転手は,
運転の際に残った疲れが交通事故の原因になることがないように,
交代運転手として乗車している時間は休憩するように
会社から指導されており,仮眠するなどして休憩していました。
このような仮眠時間を不活動仮眠時間といいます。
また,交代運転手は,乗客の要望や苦情に対応することや,
運転手の補助をすることはなく,
会社から非常用の携帯電話を支給されていましたが,
会社から着信があることはほとんどありませんでした。
そのため,交代運転手の不活動仮眠時間については,
労働からの解放が保障されているとして,
労働時間ではなく,休憩時間と判断されました。
交代運転手は,高速バスの客席という狭い空間に拘束されているので,
交代運転手の身体的負担がある程度存在するものの,会社は,
明確に休憩するように指示していたこと,実際には,
労働といえる作業を何もしていないこと,
携帯電話で会社から指示がないことからすると,
この事件の不活動仮眠時間は,
労働時間ではないと判断されてもやむを得ないと考えます。
携帯電話に会社からの業務指示が頻繁にあったり,
乗客の対応を頻繁にしていたのであれば,
労働時間と判断される余地がでてきます。
未払残業代請求事件でよく争点となる労働時間について,
どのような事実を分析すべきかについて参考になりますので,
紹介しました。
本日もお読みいただきありがとうございます。