在宅勤務で飲酒しながら仕事をした場合の賃金が支払われなくなるリスク

1 在宅勤務で飲酒しながら仕事をする方もいるようです

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大はおさまりつつありますが,

新型コロナウイルスの影響で広がった在宅勤務を

そのまま継続する企業があります。

 

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200526/k10012445301000.html

 

 

在宅勤務は,通勤の時間がなくなり,

家族と過ごす時間が増えるというメリットがあります。

 

 

 

もっとも,自宅で働くと,気が緩んでしまい,

飲酒しながら仕事をする方もいるようです。

 

 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO58568170Y0A420C2CE0000/

 

 

本日は,在宅勤務中に飲酒しながら仕事をすることの

問題について検討してみたいと思います。

 

 

2 職務専念義務・誠実労働義務

 

 

まず,労働者は,会社との間で労働契約を締結しています。

 

 

この労働契約に基づき,労働者は,会社に対して,

会社の指揮命令を受けながら労務を提供する義務を負っています。

 

 

労働者の労務を提供する義務は,

「債務の本旨に従って」履行しなければなりません(民法493条)。

 

 

労働者にとっての債務の本旨に従った履行とは,

労働契約に定められたとおりに誠実に仕事を行うことをいいます。

 

 

これを職務専念義務や誠実労働義務といいます。

 

 

労働者が債務の本旨に従った労務の提供をしない場合,

会社は,その受領を拒否して,労務提供に基づく

賃金部分の支払を免れることができます。

 

 

労働者から債務の本旨に従った労務の提供がないので,

その受領を拒否しても,会社に落ち度がないことになるからなのです。

 

 

以上を前提に,在宅勤務と飲酒の問題にあてはめてみます。

 

 

3 飲酒しながら仕事をすると債務の本旨に従った労務の提供ではない?

 

 

通常,会社で仕事をしているときに飲酒をしている労働者はいません。

 

 

これは,飲酒により注意力が散漫となり,

労働能力が低下すること,周囲の労働者や取引先に対して,

不快な思いをさせることなどから,

仕事をしているときに飲酒をしないのだと思います。

 

 

労働者は皆,仕事が終わってから,会社帰りに居酒屋に繰り出します。

 

 

 

 

他方,在宅勤務の場合,仕事をする場所が

会社から自宅に変わるだけで,

労働者は,会社の指示に従って,

誠実に仕事をしなければならないことは変わりません。

 

 

そのため,在宅勤務で飲酒しながら仕事をすると,

債務の本旨に従った労務の提供をしていないとして,

会社から賃金の支払を拒否されるリスクがあります。

 

 

4 懲戒処分のリスク

 

 

また,在宅勤務で飲酒しながら仕事をすると,

勤務態度が不良であるとして,

懲戒処分がくだされるリスクもあります。

 

 

勤務態度不良については,在宅勤務の場合,

自宅で一人で飲酒しながら仕事をしていれば,

他の労働者に悪影響を与えていないとして,

実質的には懲戒事由に該当しないと判断される可能性もありますが,

懲戒処分されてしまうリスクにさらされない方が賢明です。

 

 

というわけで,在宅勤務で他の人の目がないからといって,

飲酒しながら仕事をすることはおすすめしません。

 

 

会社に発覚した場合,賃金が支払われなかったり,

懲戒処分されるリスクがありますので,

自宅での仕事が終わってから,

気兼ねなく飲酒をすることをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルスに関する妊娠中の女性労働者に対する母性健康管理措置

1 妊娠中の女性労働者の心理的ストレス

 

 

緊急事態宣言が解除され,少しずつですが,

日常生活が取り戻されつつあります。

 

 

それでも,新型コロナウイルスについては,

第2波,第3波がくることが予想されていますので,

いつ感染するのかわからないストレスにさらされることが

当分の間,続きそうです。

 

 

新型コロナウイルスの感染について,特にストレスが多いのは,

妊娠中の女性労働者でしょう。

 

 

 

新型コロナウイルスに感染した妊婦の検診や出産を

受け入れてくれる医療機関が限られていることから,

これまでと比べてリスクが高くなっています。

 

 

そのため,新型コロナウイルスに感染したら,

自分やお腹の赤ちゃんはどうなるのだろうかという心理的ストレスが強く,

母体や胎児に悪影響を及ぼすリスクがあることから,

妊娠中の女性労働者を保護するための措置が新たに始まりました。

 

 

2 母性健康管理措置

 

 

妊娠中の女性労働者の新型コロナウイルス感染症に関する

母性健康管理措置というものです。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11067.html

 

 

妊娠中の女性労働者が,母子保健法の保健指導又は健康診査に基づき,

新型コロナウイルス感染症に感染するおそれに関する

心理的なストレスが母体または胎児の健康保持に影響があるとして,

医師などから指導を受けて,母性健康管理指導事項連絡カードを提出して,

事業主に申し出た場合,事業主は,必要な措置を講じなければなりません

(男女雇用機会均等法13条)。

 

 

ここでいう必要な措置とは,作業の制限,

感染のおそれが低い作業への転換,勤務時間の短縮,

在宅勤務,休業,時差出勤などです。

 

 

感染のおそれが低い作業への転換とは,

顧客と対面で接触する機会が多い作業から,

こうした機会の少ない事務作業などに転換することです。

 

 

事業主は,妊娠中の女性労働者から,

母性健康管理指導事項連絡カードをもとに,

これらの要望を受けた場合,

実施することが義務付けられます。

 

 

 

事業主が要望を受けたけど,何もしない場合には,

労働局から助言指導されることになります。

 

 

そのため,妊娠中の女性労働者は,

仕事や通勤によって新型コロナウイルスに感染する不安を抱えている場合,

主治医に相談して,母性健康管理指導事項連絡カードに記載してもらい,

事業主にカードを提出して,必要な措置を

とってもらうように申し出てください。

 

 

とはいえ,職場に迷惑をかけることを気にして,

なかなか事業主に対して,申し出ができない

妊娠中の女性労働者も多いと思いますので,事業主側から,

妊娠中の女性労働者に対して,

上記の必要な措置をとる必要がないかについて,

はたらきかけていってもらいたいです。

 

 

また,会社は通常どおり営業しているのに,

妊娠中の女性労働者が休業を申し出て休業した場合,

会社の責めに帰すべき事由ではない休業となりますので,

妊娠中の女性労働者が休業をしても,会社は,

法的には休業手当を支払わなくてもよいことになります。

 

 

しかし,休業して収入がなくなることをおそれて,

無理に働くことで,母体と胎児に悪影響が生じるおそれがありますので,

事業主は,雇用調整助成金を活用して,

休業する妊娠中の女性労働者に対して,

休業手当を支払ってもらいたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

株式会社金沢倶楽部の破産手続開始決定のお知らせ

2020年5月26日15時に金沢地方裁判所から,株式会社金沢倶楽部の破産手続開始決定が出されました。

 

今後,株式会社金沢倶楽部の財産は,裁判所から選任された破産管財人の管理下におかれます。

黒川検事長の訓告から国家公務員の懲戒処分を考える

1 黒川検事長の賭け麻雀問題

 

 

東京高検の黒川弘務検事長が,緊急事態宣言で

自粛要請されていた時期に,新聞記者と

賭け麻雀をしていたことについて,訓告となりました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN5V00CCN5TUTIL03N.html

 

 

検察官の定年延長問題で様々な批判があり,

さらに検察のトップクラスが賭け麻雀をしていたとして,

大々的な問題に発展しました。

 

 

 

それにもかかわらず,黒川検事長は,

懲戒処分を受けずに訓告となり,

多くの国民はこの結末に納得していないと思います。

 

 

そこで,本日は,黒川検事長の賭け麻雀問題から,

国家公務員の懲戒処分について考えてみたいと思います。

 

 

2 国家公務員の懲戒処分の基準

 

 

まず,懲戒処分とは,使用者が労働者の企業秩序違反行為

に対して科す制裁罰という性質をもつ不利益措置です。

 

 

懲戒処分には,戒告・譴責,減給,出勤停止,降格,

諭旨解雇,懲戒解雇という種類があります。

 

 

懲戒処分は,労働者の不祥事を未然に防止する観点から,

どのような不祥事には,どのような懲戒処分が科されるのかが

明確に定められ,公平に適用される必要があります。

 

 

そこで,国家公務員の懲戒処分については,人事院が

懲戒処分の指針について」という文書を公表しており,

この指針に,懲戒処分をするにあたっての考慮要素や,

どのような不祥事には,どのくらいの懲戒処分が相当であるかが

明確に記載されています。

 

 

https://www.jinji.go.jp/kisoku/tsuuchi/12_choukai/1202000_H12shokushoku68.html

 

 

この指針は,地方公務員や民間企業の労働者に対する懲戒処分にも

十分あてはまるものとなっています。

 

 

この指針では,懲戒処分を決定するにあたって考慮すべきこととして,

次の5つの要素があげられています。

 

 

①非違行為の動機,態様及び結果はどのようなものであったか

 

 

②故意又は過失の度合いはどの程度てあったか

 

 

③非違行為を行った職員の職責はどのようなものであったか,

その職責は非違行為との関係でどのように評価すべきか

 

 

④他の職員及び社会に与える影響はどのようなものであるか

 

 

⑤過去に非違行為を行っているか

 

 

黒川検事長にあてはまると,

③検察組織のナンバー2という重大な職責を担っていた方が,

外出自粛中に賭け麻雀という不要不急なことをしたことで,

④検察組織と社会に与えた影響はとてつもなく大きかったといえます。

 

 

このことは,この指針で,「非違行為を行った職員が

管理又は監督の地位にあるなどその職責が特に高いとき」には,

懲戒処分を重くすると規定されていることからも,

黒川検事長の不祥事は懲戒処分を重くする方向にはたらきます。

 

 

3 賭博とは

 

 

次に,この指針では,「公務外非行関係」として「(9)賭博」の中に

「ア 賭博をした職員は,減給又は戒告とする」と,

明確に規定されています。

 

 

賭博とは,偶然の勝敗により財物や財産上の利益の得喪を争う行為

をいい,刑法185条で50万円以下の罰金又は科料に処せられます。

 

 

賭け麻雀は,刑法185条の賭博罪に該当するのです。

 

 

 

そのため,プライベートな活動とはいえ,

国家公務員が賭博罪という犯罪行為をすれば,

戒告や減給という懲戒処分が科されるリスクがあるのです。

 

 

被疑者を刑事裁判にかけて,有罪にする起訴権限を独占している

検察のナンバー2が,犯罪行為をしていたことになるので,

不祥事の規模としては大きいと考えます。

 

 

賭け麻雀なので,一般的に行われていることで

処罰されている人は少ないこと,

過去の業績が素晴らしかったことを考慮しても,

黒川検事長の場合,最低でも,人事院の指針にあるとおり,

戒告や減給という懲戒処分がくだされてしかるべきでしょう。

 

 

それにもかかわらず,懲戒処分ではない,訓告となりました。

 

 

訓告は,今後このようなことがないように注意することであり,

対象者には特に不利益は発生しません。

 

 

通常であれば,最低でも,戒告や減給の懲戒処分がくだされるケースで,

黒川検事長が特別に訓告で終わるのでは,

国家公務員の懲戒処分のバランスが保てませんし,

このように軽い処分で終わらせるのには

何か裏があるのではないかと疑われます。

 

 

定年延長から始まった黒川検事長の問題は,

最後まで迷走を深める結果となり,残念でなりません。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社はアルバイトにも休業手当を支払わなければなりません~ユニオンの可能性~

1 ブラックバイトユニオンの活躍

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で,

日雇いアルバイトのキャンセルが相次いだ東京の男子学生が,

ブラックバイトユニオンという労働組合に加入して,

会社3社と交渉して,合計約5万円の休業手当を勝ち取ったようです。

 

 

https://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2020052001002015.html

 

 

この約5万円の休業手当の中には,

日当の10割支給分も含まれているようです。

 

 

これまでですと,アルバイトの場合,仕事がなくなれば,

次のアルバイト先を探せば仕事がすぐにみつかって,

休業手当の問題は顕在化することはなかったと思います。

 

 

しかし,コロナショックにより,飲食店や学習塾,

イベント関連など,学生のアルバイトが多い業種で仕事がなくなったため,

アルバイトをキャンセルされることで,収入がなくなり,

生活に困窮する学生が増えてきたのが,問題の背景にありそうです。

 

 

 

本日は,アルバイトと休業手当について検討します。

 

 

2 休業手当

 

 

まず,労働者が会社に対して,

労務を提供することが可能であるにもかかわらず,

会社が故意(わざと),過失(落ち度)

または信義則上これと同視すべき理由で,

会社を休業した場合,会社は,労働者に対して,

100%の賃金を支払わなければなりません(民法536条2項)。

 

 

次に,会社に過失がなかったとしても,

不可抗力以外の会社側に原因のある経営,管理上の障害による休業の場合,

会社は,労働者に対して,平均賃金の60%以上の

休業手当を支払わなければなりません(労働基準法26条)。

 

 

そのため,会社が新型コロナ特措法24条9項の

都道府県知事からの休業要請に応じたとしても,

それは,会社の自主的な経営判断による休業になるので,

会社は,賃金の100%若しくは60%以上の平均賃金を

支払わなければならないのです。

 

 

特に,緊急事態宣言が解除されても休業を継続する場合には,

賃金の100%を支払わなければならなくなります。

 

 

このように,会社が休業した場合には,労働者に対して,

賃金100%若しくは平均賃金60%以上の休業手当を

支払わなければならないことは,正社員だけでなく,

アルバイト,パート,派遣労働者といった

非正規雇用労働者にも等しく当てはまるのです。

 

 

3 時給制の場合の平均賃金の計算の仕方

 

 

ただ,アルバイトのように時給で給料をもらっている場合には,

平均賃金60%以上の休業手当の計算において,注意すべき点があります。

 

 

平均賃金の計算については,労働基準法12条1項に規定されており,

直近3ヶ月間に支払われた賃金の総額を,

その期間の総日数で割って,平均賃金を算出します。

 

 

勤務日数ではなく,総日数で割るので,

1週間に2日とかしか働かないアルバイトですと,

賃金の総額が小さいため,平均賃金が低くなってしまいます。

 

 

それでは,時給制で働く労働者の保護に欠けるので,

時給制の労働者の場合は,賃金の総額をその期間中に労働した日数で

割った金額の60%とするとされています。

 

 

もっとも,平均賃金を算出するために60%としているので,

休業手当がこの平均賃金からさらに60%となると,

1回の休業に対する休業手当はとても低い金額となります。

 

 

そのため,とくにアルバイトの場合,

平均賃金60%以上の休業手当では,

金額が低すぎるので,民法536条2項を根拠に,

100%の賃金を請求すべきだと思います。

 

 

とはいえ,学生のアルバイトが,

休業手当をもらうことすら難しいのに,

賃金100%を請求するのはさらに困難を伴います。

 

 

4 ユニオン

 

 

そのようなときに活躍するのが,ユニオンです。

 

 

 

ユニオンとは,個人加盟できる労働組合です。

 

 

会社に労働組合がない職場も多いので,

一人で労働問題を解決できない場合には,ユニオンに加入して,

団体交渉することで,労働問題を解決できることがあります。

 

 

労働者が一人で交渉しても,

会社は相手にしてくれないことがありますが,

ユニオンが申し入れする団体交渉には,

会社は応じなければならず,会社が団体交渉で,

譲歩してくれる可能性がでてきます。

 

 

学生のアルバイトが団体交渉で成果を挙げたことは素晴らしく,

今後,コロナ禍で雇用が悪化していく状況において,

労働組合の大切さを学んだニュースでした。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルスで初の労災認定がでました

1 少ない労災申請

 

 

厚生労働省は,新型コロナウイルス感染症の労災について,

5月14日までに39件の労災申請があり,

2件について,労災と認定したようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN5H5W77N5HULFA020.html

 

 

労災認定された2件のうち,1件は医療従事者,

もう1件は生活関連サービス従事者のようです。

 

 

労災申請が39件というのは,率直に言って少ないです。

 

 

日々の新型コロナウイルスに関する報道を見ていますと,

一定数の医療従事者が新型コロナウイルスに感染したという

情報が流れているので,仕事中に新型コロナウイルスに感染しても,

労災申請をしていない人が多いように感じます。

 

 

おそらくですが,仕事場で新型コロナウイルスに感染したことが

発覚すれば,2週間ほどの休業に追い込まれたり,

風評被害が発生することをおそれて,

仕事中に新型コロナウイルスに感染しても,

労災申請をするのをためらったり,

職場で労災申請を控えさせる雰囲気ができているのかもしれません。

 

 

 

そのためか,厚生労働省は,日本医師会に対して,

医師や看護師など医療従事者が感染した場合には,

労災申請を勧めるよう,協力の要請をしたようです。

 

 

新型コロナウイルスに感染したのは仕事が原因であったとして,

労災認定されれば,治療費の全額が労災保険から支給され,

治療のために仕事を休んでいた期間の給料のおおむね8割が

休業補償給付として支給されますので,安心して,

治療に専念できるメリットがあります。

 

 

そのため,医療従事者など仕事が原因で,

新型コロナウイルスに感染した方は,

積極的に労災保険を活用してほしいと思います。

 

 

さて,先日,日本労働弁護団の新型コロナウイルスと労災

に関するオンラインの勉強会に参加しましたので,

そこで学んだことをアウトプットします。

 

 

2 医療従事者の新型コロナウイルス感染症の労災申請

 

 

以前ブログに記載しましたが,新型コロナウイルスの労災に関して,

4月28日に重要な通達が出されました。

 

 

4月28日の通達には,「患者の診療若しくは看護の業務又は

介護の業務等に従事する医師,看護師,介護従事者等が

新型コロナウイルスに感染した場合には,

業務外で感染したことが明らかである場合を除き,

原則として労災保険給付の対象となること」と記載されています。

 

 

ようするに,医療従事者が新型コロナウイルスに感染した場合には,

基本的に労災と認定されるということです。

 

 

医療従事者に,安心して働いてもらうために,

労災の要件を大幅に緩和したのです。

 

 

先日の勉強会で学んだことは,

この通達に記載されている「患者」とは,

新型コロナウイルスに感染した,

または感染の疑いのある患者に限定されていないことです。

 

 

新型コロナウイルスは,症状がなくとも感染を

拡大させるリスクがあるので,

感染の疑いのある患者を特定することができないため,

新型コロナウイルスに感染しているかわからない患者を診療して,

医療従事者が新型コロナウイルスに感染した場合にも,

労災と認定されるようにしたのです。

 

 

また,患者の診療をする医療従事者は,

感染症科や内科の医療従事者に限定されず,

全ての診療科の医療従事者が該当します。

 

 

 

全ての診療科において,新型コロナウイルスに

感染した疑いのある患者を診療する可能性があり,

医療従事者は患者と近接して診療行為を行うので,

どの診療科においても感染のリスクがあるからです。

 

 

そのため,医療従事者が患者の診療行為をしていて

新型コロナウイルスに感染すれば,原則として,

労災と認定されるので,医療従事者には,

積極的に労災保険を活用してほしいです。

 

 

3 感染経路の特定

 

 

他方,医療従事者や生活関連サービス業の従事者以外の労働者の場合は,

感染経路を特定するのが困難となり,労災認定のハードルは高くなります。

 

 

新型コロナウイルスは,症状がなくても感染を拡大させるリスクがあり,

PCR検査を容易に受けられないので,

誰が陽性で,誰が陰性かほとんど判別がつかない状況で,

皆働いていますので,どうしても感染経路を特定するのは困難となります。

 

 

 感染経路を特定するには,日々の行動を日記などに記録したり,

スマホの位置情報の記録などを保存しておくことが重要になると考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラの労災認定基準が変わります

1 精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書

 

 

今年の6月から大企業では,パワハラを防止するために

必要な措置をとらなければならないことが義務付けられます。

 

 

パワハラを法律で定義した

改正労働施策総合推進法が施行されるのです。

 

 

この法律では,パワハラは,

①優越的な関係を背景とした言動であって,

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより,

③就業環境が害されるもの,

と定義されました。

 

 

 

このパワハラの定義をふまえて,

仕事が原因でうつ病などの精神疾患を発症した場合の

労災認定基準が見直されることになります。

 

 

5月15日に,「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書

が発表されましたので,本日は,この報告書について説明します。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11305.html

 

 

2 新しくパワハラの類型が追加されます

 

 

これまでの精神障害の労災認定基準において,パワハラは,

「(ひどい)嫌がらせ,いじめ,又は暴行を受けた」

という出来事で評価されていました。

 

 

今回の報告書では,パワハラを独立した出来事の類型として,

上司等から,身体的攻撃,精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた

として追加することになりました。

 

 

精神障害の労災認定基準では,労働者が仕事中の出来事から受けた

心理的負荷が「強」といえれば,労災と認定されることになり,

具体的な出来事ごとに,どのような場合に,

心理的負荷が「強」と評価されるかの具体例が記載されています。

 

 

3 心理的負荷が「強」になるパワハラの具体例

 

 

今回の報告書では,次のような場合に,

心理的負荷が「強」と評価されるとしました。

 

 

①上司等から,治療を要する程度の暴行等の身体的攻撃を受けた場合

 

 

②上司等から,暴行等の身体的攻撃が執拗に行われた場合

 

 

③上司等による次のような精神的攻撃が執拗に行われた場合

 

 

・人格や人間性を否定するような,業務上明らかに必要性がない

又は業務の目的を大きく逸脱した精神的攻撃

 

 

・必要以上に長時間にわたる厳しい叱責,

他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責など,

態様や手段が社会通念に照らして許容される範囲を超える精神的攻撃

 

 

 

これらの具体例で私が気になったことを指摘します。

 

 

①については,「治療を要する程度」としていますが,

暴行を受けても,そこまで大きなけがではなく,

病院で治療をしないこともありますが,そのような暴行でも,

心理的負荷は大きいと思います。

 

 

職場で暴行が行われることが,そもそも異常事態なので,

労働者が受ける心理的負荷は強いと考えます。

 

 

そのため,暴行を受けた労働者が,

病院を受診していなくても,労災と認定する必要があります。

 

 

②と③については,「執拗に」という文言が抽象的なので,

恣意的な解釈がされるリスクがあるので,

「継続して」に変更すべきと考えます。

 

 

特に,暴行等の身体的攻撃については,一回であっても,

労働者が受ける心理的負荷が強いことがありまし,

言葉の暴力である精神的攻撃についても,

「殺してやろうか」などのように一回言われただけでも,

心理的負荷が強いものもあります。

 

 

そのため,「執拗に」という表現ではなく,

せめて「継続して」という表現に改善すべきと考えます。

 

 

その他に,パワハラの被害を会社に相談したけれども,

適切に対応してくれなくて,改善されなかった場合には,

心理的負荷が「強」と評価されることになります。

 

 

この点は,会社にパワハラを予防させる方向につながりますので,

よい改訂だと思います。

 

 

報告書の内容に不満な点もありますが,

パワハラの労災認定基準が変わりますので,

しっかりと対応していきたいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルスの感染拡大の影響によるアルバイトのシフト削減への対処法

1 アルバイトのシフト削減の問題

 

 

多くの県で緊急事態宣言が解除され,少しずつですが,

日常生活が取り戻されつつあります。

 

 

一方で,新型コロナウイルスの感染拡大を理由とする

解雇や雇止めについては,7428人になるなどと報道されており,

コロナショックによる雇用情勢の悪化が急速に進んでいます。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN5K6KMZN5KULFA00H.html

 

 

このように雇用情勢が悪化している中,

アルバイトのシフト削減による給料の減額の問題が指摘されています。

 

 

https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2005/13/news108.html

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大による営業自粛のあおりを受けて,

仕事がないことから,シフトが減らされて,

アルバイトの給料が減額されているようです。

 

 

特に,アルバイトで生計をたてているような学生にとっては,

シフト削減は,大学などを退学しなければならない状況に

追い込まれるほどの死活問題となります。

 

 

 

おそらく,これまでも,シフトを勝手に減らされるという

問題はあったはずですが,以前であれば,

そのようなバイト先であれば,辞めてしまい,

次のバイト先を探せばよかったので,

それほど問題にならなかったのだと思います。

 

 

しかし,新型コロナウイルスの感染拡大で,

多くの会社が採用を抑えている現状において,

次のバイト先を探そうにも求人が少なく,

シフト削減による給料の減額が,

学生アルバイトを中心に問題となってきたのでしょう。

 

 

本日は,シフト削減の対処法について,解説します。

 

 

2 労働条件を確認する

 

 

まずは,週何日間働くシフトになっていたのかを確認します。

 

 

労働条件通知書や労働契約書などの文書があれば,

その内容を確認します。

 

 

アルバイトであれば,労働条件通知書などが交付されていない

かもしれませんので,そのようなときには,求人票などを確認します。

 

 

これらの文書があれば,文書に記載されている

1週間に何日働くことが,労働契約の内容になります。

 

 

これらの文書がなかった場合には,採用時にバイト先から,

「1週間に3日間シフトに入ってくださいね」と言われて,

これに応じて,実際に1週間に3日間働いてきた実績があれば,

1週間に3日間働くことが労働契約の内容になります。

 

 

3 労働者の合意がない限り不利益な労働条件の変更をできないのが原則

 

 

次に,バイト先から,1週間に3日間働いていたのを

1日にしますと言われた場合,給料が減額される

不利益が生じるのであれば,アルバイトがこれに合意しなければ,

バイト先は,勝手にシフトを削減することはできません。

 

 

 

先の例でいうと,1週間に3日間働くことが

労働契約の内容になっているので,

給料が減額されることにつながる1週間に1日だけ働くことは,

労働条件を一方的に労働者の不利益に変更することになりますので,

労働者の合意がなければできないのです。

 

 

シフト削減によっても,以前と同じ給料が保障されているのであれば,

労働者にとって,休みが増える有利な変更になるので,

労働者の同意がなくても,問題ないのですが,

給料の減額が生じる不利益な変更をするには,

労働者の合意が必要となります。

 

 

アルバイトが,給料減額につながるシフト削減に同意していないのに,

シフトを削減されて,給料が減額となった場合,

シフトを削減された分の給料をバイト先に全額請求できることになります。

 

 

特に,緊急事態宣言が解除されれば,

都道府県知事からの休業要請は緩和されるので,

休業をするかどうかは,会社の経営判断に委ねられます。

 

 

会社が労働者に仕事をしてもらうことが可能であるのに,

自らの判断で休業する場合には,民法536条2項に基づき,

労働者は,会社に対して,給料の全額を請求できるのです。

 

 

そのため,アルバイトが勝手にシフトを削減された場合には,

シフトを削減される前の給料と,シフトを削減された後の給料との

差額分をバイト先に請求できるのです。

 

 

もっとも,一人のアルバイトがバイト先に,

差額分の給料を請求するのは勇気がいりますので,

同じバイト仲間と一緒に請求したり,

弁護士などの専門家や労働組合に相談するのがいいでしょう。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

マスク不着用で会議に出席したら懲戒処分をされてしまうのか

1 マスク不着用で会議に出席したら4日間の出勤停止

 

 

報道によりますと,マスクを着用せずに校内の会議に出席したことを

主たる理由として,大阪電子専門学校の嘱託職員が,

専門学校を運営する学校法人から,

4日間の出勤停止の懲戒処分を受けたようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN585DSGN58PTIL00C.html

 

 

この嘱託職員は,4月7日にマスクを着用せずに会議に出席し,

会議終了後に学校法人の理事長からマスクの未着用を

とがめられたようです。

 

 

もっとも,会議のあった日は,休校中で,

学生は,専門学校にほとんどきていなかったようです。

 

 

専門学校側は,懲戒処分の理由として,

「学生の健康と安全を守る立場の教職員として,

感染リスクを軽視している」ことを挙げているようです。

 

 

新型コロナウイルスに関連する労働問題は色々ありますが,

マスクを着用せずに会議に参加したことを理由とする懲戒処分は,

珍しく,さすがに行き過ぎです。

 

 

 

本日は,懲戒処分について解説します。

 

 

2 懲戒該当事由があるか

 

 

まず,懲戒処分について,労働契約法15条には,

「当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして,

客観的に合理的な理由を欠き,

社会通念上相当であると認められない場合は」,

懲戒処分は無効となると規定されています。

 

 

第1の要件は,労働者の問題行為が就業規則所定の

懲戒事由に該当し,懲戒処分に「客観的に合理的な理由」

があることが認められることです。

 

 

懲戒該当事由があるかという問題です。

 

 

通常,就業規則には,どのような問題行為があれば,

どのような懲戒処分がされることが記載されており,

就業規則に記載されている懲戒事由に該当しなければ,

会社は,労働者に対して,懲戒処分をできません。

 

 

また,形式的には,就業規則の懲戒事由に該当する行為が

あったとしても,実質的に秩序を乱すおそれのないような行為であれば,

そもそも懲戒事由に該当しないと判断されることがあります。

 

 

大阪電子専門学校の事件にあてはめると,さすがに,就業規則で,

マスク不着用で会議に出席することを懲戒事由にしていない

と思いますので,おそらく,マスク不着用で,

校内で新型コロナウイルスを感染させる危険を及ぼして,

学校秩序を乱したことなどを懲戒事由にしたのだと考えられます。

 

 

しかし,マスク不着用だった嘱託職員が,

新型コロナウイルスに感染していなければ,

マスク不着用でも,他人に感染させることはないですし,

そもそも,休校中で学生は校内にいないのであれば,

感染リスクも極めて限定的です。

 

 

そのため,学校秩序を乱したことにはならず,

懲戒該当事由がないと考えられます。

 

 

3 懲戒処分は重すぎないか

 

 

第2の要件として,懲戒処分は,

労働者の行為の性質及び態様その他の事情を考慮して,

社会通念上相当でなければなりません。

 

 

労働者の行為の性質とは,懲戒事由となった

労働者の行為そのものの内容をいいます。

 

 

労働者の態様とは,問題行為がなされた状況や悪質さの程度をいいます。

 

 

その他の事情には,

労働者の行為の結果(企業秩序に対してどのような影響があったのか),

労働者の情状(過去の処分・非違行為歴,反省の有無・態様),

使用者側の対応(他の労働者の処分との均衡,行為から処分までの期間)

などが含まれます。

 

 

ようするに,社会通念上相当か否かについては,

労働者の問題行為の内容・悪質性の程度からして,

懲戒処分が重すぎないかという,

問題行為と懲戒処分とのバランスがとれているかを判断します。

 

 

 

大阪電子専門学校の事件にあてはめると,

この嘱託職員がマスク不着用で会議に参加した4月7日時点では,

薬局などにマスクが売られておらず,

一般の方がマスクを購入するのは困難な状況であり,

嘱託職員がマスク不着用で会議に参加することに

やむを得ない事情がありました。

 

 

さらに前述のとおり,休校中で学生は校内におらず,

感染リスクも限定されていたことから,

マスク不着用で会議に参加することの悪質性の程度は

限りなく低いと言えます。

 

 

そのため,新型コロナウイルスを感染させる危険性が

高度にあるとはいえないのに,

マスク不着用で会議に出席したことを理由に,

4日間の出勤停止の懲戒処分とすることは重すぎます。

 

 

懲戒処分をするのではなく,厳重注意をすれば,事足りたはずです。

 

 

以上より,大阪電子専門学校における懲戒処分は無効になると考えます。

 

 

このような懲戒処分が二度となされないことを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

志賀町の職員の給料5%減額の条例から登録職員団体の必要性を考える

1 志賀町で職員の給料5%減額の条例が成立しました

 

 

先日,ブログで石川県志賀町において,

新型コロナウイルス感染対策のために,

全町民に2万円を支給する原資として,

志賀町の職員の給料を6月から10ヶ月間10%減額する問題

について記載しました。

 

 

 https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/202004289245.html

 

 

この問題について,志賀町職員互助会から給料の5%減額の提案

があったようで,5月8日の町議会の臨時会が開催されて,

志賀町の職員の給料を5%減額する条例が成立しました。

 

 

 https://www.asahi.com/articles/ASN586TZWN58PISC00N.html

 

 

職員互助会の提案を受け入れたことが,

給料の5%減額の条例が成立した要因になっていそうですが,

職員互助会は,志賀町の職員の意見を代弁したのか疑問です。

 

 

本日は,地方自治体における職員の給料の決定と

登録職員団体について解説します。

 

 

2 勤務条件条例主義

 

 

まず,地方自治体の職員の給料や勤務時間などの勤務条件は,

条例で定められ(地方自治法24条5項),

条例に基づかない給料の支給はできません(地方自治法25条1項)。

 

 

これを勤務条件条例主義といいます。

 

 

条例は議会が制定します。

 

 

 

地方自治体の職員の勤務条件を住民代表の議会による民主的統制におき,

使用者である当局の恣意を排除して,職員の身分と生活を保障するのです。

 

 

とはいえ,議会は,地方自治体の労使関係の現場の状況を

熟知しているわけではありません。

 

 

そのため,使用者である当局と職員団体との団体交渉で

具体化した結果を,首長が議会に提案し,

議会は,労使交渉の結果をできるだけ尊重して,

合理的な範囲内で修正して,議決することになります。

 

 

議会は,労使交渉を尊重することになるので,

当局と職員団体の団体交渉が重要になります。

 

 

3 地方自治体の職員団体

 

 

ここで,地方自治体の職員団体について説明します。

 

 

民間企業における労働組合が,

地方自治体の場合,職員団体といいます。

 

 

職員団体は,人事委員会または公平委員会に対して

登録を申請することができて(地方自治法53条1項),

登録を受けた職員団体のみが団体交渉権を付与されるのです

(地方自治法55条1項)。

 

 

そのため,登録を受けた職員団体は,

地方自治体の当局を交渉に応ずべき地位に立たせることができるのです。

 

 

団体交渉とは,労働組合または労働者の集団が,

代表者を通じて,使用者と,労働者の待遇または

労使関係上のルールについて行う交渉のことです。

 

 

 

使用者との関係では,労働者1人1人の立場は弱いのですが,

1人1人の労働者が団体として結集すれば,

交渉力が強化され,使用者と実質的に対等な立場に立つことができて,

労働条件の維持,改善を図ることができるのです。

 

 

団体交渉は,労使双方が利害の対立を前提としつつも,

勤務条件について一致点を見出すべく模索する過程なのです。

 

 

職員団体と地方自治体の当局との団体交渉の結果を,

書面による協定にまとめることもできます(地方自治法55条9項)。

 

 

地方自治体の当局が合理的理由もなく団体交渉を拒否した場合には,

団結権及び団体交渉権を侵害するとして,

不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。

 

 

そのため,地方自治体の当局が職員の給料を減額しようとする場合,

登録職員団体と誠実に団体交渉をする必要があります。

 

 

しかし,志賀町には登録された職員団体がなく,

職員互助会は,志賀町当局と団体交渉ができません。

 

 

職員の給料を減額するのですから,

職員の意見を代弁する機会である団体交渉が実施されるべきなのですが,

残念ながら,団体交渉はされず,職員互助会の提案では,

職員の意見が代弁されたとはいえないと考えます。

 

 

給料が減額されることで,職員の士気は下がらないのか,

2万円の現金を給付することで,

どれだけ町民の生活にメリットがあるのか,

などの職員の意見が反映される機会がなかったのが残念です。

 

 

地方自治体においても,労働者である公務員の意見を代弁する

登録職員団体の存在が必要であることを考えさせられたニュースでした。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。