パワハラと労災申請
パワハラを受けたことによって,
うつ病などの精神疾患を発症したとして,
労災申請をする件数が増加しています。
https://www.mhlw.go.jp/content/11402000/H29_no2.pdf
もっとも,労災申請をしても,パワハラなどの
仕事上の出来事が原因で,精神疾患を発症したと認められるのは,
約3割程度であり,狭き門です。
本日は,会社の代表者からパワハラを受けて,
うつ病に罹患したと主張する労働者が労災申請したものの,
労災とは認められなかったため,国を相手に,
労災の不支給決定処分の取消を求めて提訴した事件について紹介します
(国・さいたま労基署長(ビジュアルビジョン)事件・
東京地裁平成30年5月25日判決・労働判例1190号23頁)。
まず,精神障害の労災認定基準では,
労災認定を受けるためには次の3つの要件を満たす必要があります。
①対象疾病である精神障害を発病していること
②対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に,
業務による強い心理的負荷が認められること
③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により
対象疾病を発症したとは認められないこと
本件事件の原告の労働者は,うつ病を発症しているので
①の要件を満たします。
そこで,原告の労働者が,②と③の要件を
満たすのかが争点となりました。
②の要件については,精神障害の労災認定基準に
「別表1:業務による心理的負荷評価表」という資料がついており,
そこに記載されている具体的出来事のどこにあてはまり,
その具体的出来事の心理的負荷の強度はどれくらいなのかを検討します。
本件事件では,原告の労働者は,会社の会議において,
代表者から,「幹部の中で会社の手帳を使っていない馬鹿なやつがいる」
などと言われて叱責されたことについて,具体的出来事としては,
「上司とのトラブルがあった」にあたり,
上司から業務指導の範囲内である強い叱責を受けたに該当するので,
心理的負荷は「中」と判断されました。
次に,原告の労働者は,休暇中にすぐに
電話に対応しなかったことで叱責,罵倒されたことについて,
同様に,心理的負荷は「中」と判断されました。
そして,原告の労働者は,代表者に対して,
退職を申し出たのですが,思い直して,
退職の申し出を撤回したものの,代表者からは,
「一度辞めると言ったのだから辞めなさい。甘ったれた顔をしやがって」
などと言われて,退職の申し出の撤回は認められませんでした。
さらに,代表者の側近からは,
土下座をする気持ちで謝るように言われていたので,
原告の労働者は,土下座を強要されているように感じました。
この退職の申し出の撤回を拒否されたことは,
具体的出来事としては,「退職を強要された」にあたり,
退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず,
執拗に退職を求められたに該当するので,
心理的負荷は「強」と認定されました。
②の要件については,心理的負荷が「強」の具体的出来事が
1つあれば要件を満たすことになり,
心理的負荷が「中」の具体的出来事が複数ある場合は,
総合評価を行い,「強」となれば,要件を満たす場合があります。
③の要件については,原告の労働者には,
プライドが高いなどの面はあるものの,
退職をめぐるやりとりの過程で代表者との人間関係が悪化するまでは,
良好な人間関係を築いていたことから,
平均的な労働者の部類に入り,
原告の性格傾向が精神障害の発症に主として
影響したとはいえないと判断されました。
結果として,原告の労働者のうつ病発症は代表者からの
パワハラが原因であるとして,労災認定がされたのです。
精神疾患の労災認定は,専門的な判断が必要となりますので,
弁護士に相談することをおすすめします。
本日もお読みいただき,ありがとうございます。