民事訴訟 裁判官からの質問に答える技術
1 適切な尋問時間
裁判の期日で、裁判官から質問をされることがよくありますが、裁判官がどのような意図で質問をしているのか迷うことがあります。
弁護士にとって、裁判官からの質問の意図を正確に理解することは、とても大事なことです。
裁判官からの質問の意図を正確に理解するために、役立つ本として、本書がとてもおすすめです。
この本では、裁判の期日で、裁判官からよくなされる質問の類型ごとに、裁判官がどうして、その質問をするのか、その質問にどのように回答するのが効果的なのかが、わかりやすく記載されています。
弁護士であれば、一読するのがおすすめです。
今回は、この本を読んで、私が得た気付きを3つご紹介します。
まず、1つ目は、尋問時間です。
裁判官からすると、尋問を聞いてみると、これほど尋問時間が必要なのかと疑問に思うことが多いようです。
主尋問では、争いのある事実について、本人が体験したことを語らせれば足りるはずで、前後の争いのない関連事実も含めた経緯を延々と語らせる必要はないわけです。
陳述書に、証人や当事者の言い分が記載されているので、尋問は、争点にしぼって行うのが効果的なのです。
争点に関して重要な点に主尋問をしぼれば、主尋問が30分もかかることはないようです。
むしろ、反対尋問で崩れたところを補強するための再主尋問に多くの時間を割り当てた方が効果的なのです。
主尋問の時間を短くして、再主尋問の時間を長くするという方法は、これまで考えたことがなかったので、目からウロコでした。
確かに、反対尋問で崩れたところをフォローすることに、時間をつかったほうが、裁判官の心証によい影響を与えられる可能性が高まりそうです。
今後は、主尋問よりも再主尋問に時間をかけたいと思います。
2 裁判官の心証形成
2つ目は、裁判官の心証形成です。
心証とは、争点となっている事実に関する裁判官の内心的判断のことです。
裁判官は、訴訟の進捗にあわせて、証拠を確認し、その証明力に評価を加え、また弁論の全趣旨を斟酌しながら判断を作り上げます。
この裁判官の心証が、自分にとって有利であれば、裁判に勝てますが、自分にとって不利であれば、裁判で負けます。
弁護士にとって、裁判官の心証というのは、とても重要なものであり、常に気を配っています。
裁判官から不利な心証が開示されたとしても、それが暫定的な心証であるならば、逆転を目指して、主張と立証の追加を検討します。
この際に、裁判官に対して、不利な心証に至った理由を確認した方が、より効果的な主張と立証ができます。
裁判官に対して、不利な心証に至った理由を確認する質問としては、「◯◯の証拠を重視しているのでしょうか」、「〇〇の事実は認められないと考えているのでしょうか」といったものが効果的です。
また、「和解の可能性を検討するにあたってもう少し詳しい理由を知りたいのです」と尋ねると、裁判官が詳しく心証を形成した過程を教えてくれるかもしれません。
裁判官から、心証の形成の過程を引き出すために、効果的な質問をすることを心がけたいです。
3 和解における質問
3つ目は、和解における裁判官からの質問への対応です。
一般的に、裁判官は、和解は判決よりもベターと考えているようです。
その理由は、①和解は、判決と異なり、柔軟な解決が可能となること、②紛争が早期に解決する、③任意の履行が期待できることがあるからです。
ですので、弁護士としても、常に和解の可能性を模索します。
和解の際に、裁判官から、譲れない点について質問されることがあります。
これは、①心証から大幅に乖離した和解案を提示することが困難であること、②当事者がこだわっている点の調整が不可能な場合に和解案を提示するのは無益であるからです。
裁判官から、譲れない点を聞かれたら、率直に、当事者が考えている譲れない点を伝えればよいと思います。
また、裁判官から大まかな金額の提示があった場合、裁判官は、提示の金額周辺が妥当な解決と考えており、判決でも、同水準の金額になることが予想されます。
裁判官は、心証から大幅に乖離した金額を提示することはできませんので、金額の調整には限界があるため、和解の最初の段階では、大まかな金額について、さぐりをいれてくるのです。
弁護士としては、裁判官の心証に近い金額と、その理屈を考えることが、和解成立に向けて大切なことだと思います。
弁護士が、訴訟活動をするうえで、大切なことが記載された一冊なので、とてもおすすめです。
今回も、最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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