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解雇を争うときに賞与を請求することができるのか

 

労働者が会社から解雇された場合,解雇に納得できなければ,

解雇を争うために,裁判手続を利用することがあります。

 

 

解雇を争う裁判手続において,労働者は,会社に対して,

解雇は無効なので,労働者の地位がまだありますよという

地位確認の請求と,解雇期間中の未払賃金の請求をしていきます。

 

 

 

裁判で争った結果,解雇が無効になれば,

解雇期間中に解雇がなければもらえるはずであった

毎月の給料分の未払賃金は,問題なく認められるのですが,

解雇期間中の賞与の請求については,認められないことが多いです。

 

 

それは,どうしてなのでしょうか。

 

 

本日は,解雇期間中の賞与の請求について解説します。

 

 

解雇期間中の賞与請求が認められるのは,

具体的な権利性が認められる場合に限られています。

 

 

すなわち,就業規則や労働協約,労使慣行等において,

賞与の支給基準が具体的に定まっており,その支給基準に従えば,

形式的に賞与額を算定することができる場合に,

具体的な権利性が認められて,

解雇期間中の賞与請求が認められるのです。

 

 

例えば,就業規則に,賞与は,給料の2ヶ月分支給する

と定められており,実際に,そのとおりに賞与が支給されていれば,

具体的な権利性が認められて,

解雇期間中の賞与請求が認められるわけです。

 

 

他方,賞与の金額を決定するために,

会社の成績査定を経ることが必要な場合,解雇期間中には,

会社の成績査定が実施されていないので,

賞与の金額を算定できないこととなり,

具体的な権利性が認められず,

解雇期間中の賞与請求を認めないとする裁判例は多いです。

 

 

そのような中,解雇期間中の賞与請求を認めた

裁判例があるので紹介します。

 

 

東京高裁平成30年6月18日判決

(判例時報2398号106頁)では,

大学教授に対する懲戒解雇及び普通解雇が無効とされた上で,

解雇期間中の賞与請求が認められました。

 

 

この事件では,給与規定に,賞与の支給について,

実績等を斟酌し,また,勤務の状況により

賞与を増減額することがあると定められていたのですが,

被告の大学教授の賞与は,留学や休職などの事情がない限りは,

教授ごとに個別に成績査定するという運用はされておらず,

給与額に5・25をかけることで機械的に

賞与の額を算定するようになっており,

成績査定を経ずに賞与が支給されていました。

 

 

 

 

そのため,解雇期間中に,成績査定を受けていないからといって,

解雇された原告が具体的な賞与請求権を取得していないわけではない

と判断されて,解雇期間中の賞与請求が認められたのです。

 

 

就業規則の形式面ではなく,

賞与支給の実態をみて判断することになるのです。

 

 

そのため,賞与が機械的に算定されているようなケースでは,

諦めずに,解雇期間中の賞与請求をしていく必要があると考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

解雇期間中の未払賃金と中間利益の控除

昨日は,解雇された後に,他の会社に就職しても,

就労の意思を失ったことにはならず,

労働者の未払賃金請求が認められることについて記載しました。

 

 

もっとも,他の会社で働いて得た収入については,

中間利益として未払賃金から控除されるという問題があります。

 

 

本日は,解雇期間中の賃金と中間利益について解説します。

 

 

昨日のおさらいになりますが,無効な解雇によって,

労働者が働くことができなくなった場合,労働者は,

働く意思があることを表示しておけば,

民法536条2項1文に基づいて,未払賃金を請求できます。

 

 

他方,民法536条2項2文には,

労働者が解雇された会社に労務提供をしないことによって,

利益を得たときは,解雇された会社に

償還しなければならないと記載されています。

 

 

この条文を素直に読めば,

別の会社に就職して収入を得たら(中間利益といいます),

その収入を解雇された会社に返還しなければならず,

結果として,未払賃金と相殺されてしまうことになりそうです。

 

 

 

他方,労働基準法26条という条文があり,

使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合,

使用者は,休業期間中,労働者に対して,

平均賃金の100分の60以上の手当を

支払わなければならないと規定されています。

 

 

そのため,会社は,解雇期間中の未払賃金を支払うときに,

未払賃金から中間利益を控除することができるのですが,

平均賃金の6割に達するまでの部分については,

中間利益を控除することができないのです。

 

 

ようするに,会社は,労働者に対して,

解雇期間中の未払賃金を支払うにあたり,

平均賃金の6割の部分については中間利益を控除できませんが,

平均賃金の4割の部分については中間利益を控除できる

ということになります。

 

 

労働者としては,おおざっぱには,

解雇されて他の会社で働いて中間利益を得ていた場合,

未払賃金の6割くらいは請求できると考えればわかりやすいと思います。

 

 

 

ちなみに,平均賃金とは,3ヶ月間の賃金の総額を,

その期間の総日数で割って計算される金額をいいます。

 

 

なお,解雇期間中の賃金のうち,賞与については,

労働基準法26条の休業手当の保障の対象外であるため,

賞与の全額が中間利益の控除の対象になります。

 

 

以上をまとめると,解雇された労働者は,

解雇後に他の会社で働いて収入を得ても,

未払賃金の6割くらいは確保できますので,

解雇後の生活を安定させるためにも,

他の会社に就職して,解雇を争えばいいのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

解雇された後に別の会社で働いても問題はないのか?

解雇された労働者は,以前の勤務先から

給料がもらえなくなるので,生活が苦しくなります。

 

 

雇用保険の基本手当を受給できれば,

しばらくの間はしのげますが,

ずっと無職のままでいるのは辛いですし,

勤務していた期間が短いと雇用保険の基本手当を

受給できない場合もあります。

 

 

 

 

そのため,解雇された労働者は,次の仕事をみつけて,

新しい職場で給料をもらいながら,

以前の勤務先に対して,解雇を争うことになります。

 

 

この場合,以前の勤務先から,別会社に就職したということは,

解雇を承認したことになるなどという主張がされることがあります。

 

 

本日は,解雇されて別会社へ就職した場合にも,

解雇された以前の勤務先に対して,

未払賃金を請求できるのかについて解説します。

 

 

そもそも,労働者は,働くことによって,

会社に対して,賃金を請求することができます。

 

 

これをノーワーク・ノーペイの原則といいます。

 

 

そのため,労働者が働いていない場合には,

原則として,会社に対して,賃金を請求できません。

 

 

労働者が解雇された場合,解雇後に労働者は,

働いていないので,賃金を請求できるのかが問題となります。

 

 

解雇が有効の場合には,ノーワーク・ノーペイの原則に従い,

労働者は,賃金を請求できませんが,

解雇が無効の場合,労働者は,無効な解雇によって

会社から働くことを拒否されたこととなり,

会社の「責めに帰すべき事由」によって,

労働者が働けなかったわけなので,

民法536条2項本文を根拠に,労働者は,

会社に対して,賃金を請求できるのです。

 

 

 

民法536条2項本文を根拠に,労働者が会社に対して,

未払賃金を請求する場合,労働者には,

働く意思と能力が必要となります。

 

 

解雇された労働者には,働く能力があることがほとんどですので,

働く意思があることを表示することが重要になります。

 

 

そこで,解雇を争う場合,労働者は,会社に対して,

「解雇は無効なので,働かせてください。」

という内容の通知書を作成して,

配達証明付内容証明郵便で会社に送付します。

 

 

これで,会社に対して働く意思があることを

表示したことになりますので,

民法536条2項本文に基づいて,

未払賃金を請求できます。

 

 

会社に対して働く意思があることを表示しておけば,

他の会社で働いて給料をもらったとしても,

解雇した以前の勤務先に対して未払賃金を請求できるのです。

 

 

この点について,聖パウロ学園事件の

大阪高裁平成12年1月25日判決(労働判例794号7号)

が参考になります。

 

 

この事件では,解雇されていた期間中に喫茶店を営業していた

労働者の賃金請求権が認められました。

 

 

その理由としては,「使用者の責めに帰すべき事由により

解雇された労働者は,収入を得る途が閉ざされることになり,

不当であることは明らか」だからなのです。

 

 

このように,単に労働者が解雇後に

他の会社で働いていたというだけでは,

労働者が働く意思を失ったとは認められず,

解雇した会社に対して,未払賃金を請求できるのです。

 

 

そのため,解雇された労働者は,働く意思を表示しておけば,

収入を得るために,解雇後に他の会社で働いても問題ないことになります。

 

 

もっとも,他の会社で働いて得た収入については,

中間収入として未払賃金から控除されるという別の問題がありますが,

この問題については,明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

学部廃止を理由とする整理解雇の有効性

少子高齢化がすすんでいるからか,

大学教授の解雇に関する事件が発生しているように感じます。

 

 

本日は,大学教授に対する整理解雇が問題となった

学校法人大乗淑徳学園事件の東京地裁令和元年5月23日判決

(労働判例1202号21頁)を紹介します。

 

 

整理解雇とは,使用者側の経営事情などにより生じた

従業員数削減の必要性に基づき労働者を解雇することです。

 

 

いわゆるリストラというやつです。

 

 

 

会社が整理解雇を行う場合,会社側の経営事情で

解雇をするのであり,労働者には落ち度がないわけですので,

次の4つの事情を総合考慮して,解雇が無効となるかが判断されます。

 

 

①人員削減の必要性があること

 

 

 ②解雇回避努力が尽くされたこと

 

 

 ③人選基準とその適用が合理的であること

 

 

 ④解雇手続の相当性

 

 

本件事件は,国際コミュニケーション学部が廃止され,

人文学部が新設された際に,

国際コミュニケーション学部に所属していた

大学教授が整理解雇されたというものです。

 

 

東京地裁は,上記の4つ要素について,次のように検討しました。

 

 

①人員削減の必要性について,

国際コミュニケーション学部において

定員割れが継続していたことから,

学部を廃止する必要性はあったものの,

被告の学校法人の資産,収支,キャッシュフローは

いずれも良好であり,整理解雇をしなければ

経営危機に陥ることは想定されていませんでした。

 

 

加えて,原告の大学教授は,新設された人文学部における

一般教養科目や専門科目の相当な部分を

担当することができたこともあり,

人員削減の必要性が高度にあったとは

いえなかったと判断されました。

 

 

 

②解雇回避努力について,被告の学校法人は,

希望退職に応じた場合には退職金に

退職時の本棒月額12ヶ月分の加算金を支給すること

を提案していましたが,それでは足りないと判断しました。

 

 

また,被告の学校法人の附属機関や他学部に配置転換させて

教授を継続させることも可能であったことから,被告は,

解雇回避努力を尽くしていないと判断されました。

 

 

④解雇手続の相当性について,被告は,原告に対して,

解雇の必要性や配置転換できない理由を十分に説明したとは言えず,

労働組合からの団体交渉の申し入れを拒否していることから,

解雇手続としては不相当であったと判断しました。

 

 

以上を総合考慮して,本件整理解雇は無効と判断されました。

 

 

大学教授という特殊な労働者に対する整理解雇について,

労働者に有利な判断をした裁判例ですので,

紹介させていただきました。

 

 

大学教授の整理解雇の事例で活用できる裁判例だと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社の解雇予告義務とは

先日,30日前に解雇の予告をされることなく,

即時解雇されたことについての労働相談を受けました。

 

 

本日は,解雇の予告や即時解雇について解説します。

 

 

まず,労働基準法20条1項により,会社は,

労働者を解雇しようとする場合において,

少なくとも30日前に,労働者に対して,

解雇の予告をしなければなりません。

 

 

 

30日前に解雇の予告をせずに即時解雇するためには,

会社は,労働者に対して,30日以上の平均賃金を

解雇予告手当として支払わなければなりません。

 

 

平均賃金とは,算定しなければならない事由の発生した日以前

3ヶ月間にその労働者に対して支払われた賃金の総額を,

その期間の総日数で除した金額をいいます(労働基準法12条)。

 

 

3ヶ月の賃金の合計を3ヶ月の日数で割って計算するのです。

 

 

この解雇予告手当は,労働の対償である賃金に該当しないので,

社会保険料や雇用保険料はかかりませんので,

これらを控除することは認められません。

 

 

会社の解雇予告の意思表示は,解雇の意思表示の一つであり,

予告した期間の満了によって解雇の効力が発生します。

 

 

解雇予告期間中は労働契約関係が存在しているので,

労働者は,会社に対して,働いた分の賃金を請求できます。

 

 

また,解雇予告手当は,解雇の効力が発生する日に

支払う必要があるので,解雇予告手当を次の賃金支払日に

支払うという方法は,違法となります。

 

 

この解雇予告制度には例外があります。

 

 

労働者の責めに帰すべき事由に基づいて解雇する場合には,

30日前の解雇予告や,即時解雇のときの

解雇予告手当の支払が不要になります。

 

 

労働者の責めに帰すべき事由とは,

即時解雇を正当化するに足りる事由に限定され,

労働者の悪しき行為が,解雇予告制度による保護を否定されても

やむを得ないと認められるほど重大で悪質な場合に限定されます。

 

 

具体的には,①事業場内における盗取,横領,傷害など

刑法犯に該当する行為があった場合,

②他の事業へ転職した場合,

③原則として2週間以上正当な理由なく無断欠勤し,

出勤の督促に応じない場合,

④出勤不良または出欠常ならず,

数回にわたって注意をうけても改めない場合

などが挙げられます。

 

 

このような場合に,解雇予告手当の支給をせずに

即時解雇ができるのですが,そのためには,

労働基準監督署の除外認定というものを受けなければならず

(労働基準法20条3項,19条2項),

この除外認定を受けることは容易ではありません。

 

 

そのため,解雇予告手当を支給せずに即時解雇できるというのは,

よほどのことがない限り,ないと理解してください。

 

 

では,解雇予告をせず,解雇予告手当も支払わなで解雇した場合,

解雇の効力はどうなるのでしょうか。

 

 

 

この点,最高裁は,解雇予告義務に違反する解雇は,

即時解雇としては効力を生じないが,

会社が即時解雇に固執する趣旨でない限り,

解雇通知後30日の期間を経過するか,または,

解雇予告手当の支払をしたときのいずれかのときから

解雇の効力が生ずると判断しました。

 

 

また,労働基準監督署の除外認定を受けないでされた即時解雇が,

除外認定を受けなかったことだけで,

無効になるものではないとされています。

 

 

通常,解雇が争われる場合,解雇通知後30日が経過しているか,

会社が解雇予告手当を労働者の預金口座に振り込んでくることが多いので,

実務上,そこまで,解雇予告手当が争いになることはあまりありません。

 

 

ただ,労働者としては,解雇の場合には,

30日前の予告義務があること,即時解雇の場合には,

解雇予告手当の支給があることについて,

知識として知っておいた方がいいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

勤務態度や仕事上のミス等を理由とする解雇を争うポイント

勤務態度が悪い,仕事上のミスが多い

などの理由で解雇されることがあります。

 

 

しかし,労働者としては,会社からの指示にきちんと従っていたし,

ミスがないように自分の仕事を改善していたので,

解雇に納得できないことがあると思います。

 

 

 

このような場合,労働者は,勤務態度・業務上のミス等を

理由とする解雇をどのように争っていけばいいのでしょうか。

 

 

まずは,会社に対して,解雇理由証明書の交付を請求します。

 

 

解雇が無効になるかどうかを判断するためには,

会社が主張している解雇理由を知る必要があるからです。

 

 

労働基準法22条1項により,会社は,労働者から,

解雇の理由についての証明書を請求された場合,

遅滞なくこれを交付しなければならないと規定されています。

 

 

この解雇理由証明書には,単に「勤務態度不良」や「規律違反」と

記載するだけでは不十分であり,

就業規則の当該条項の内容及び当該条項に該当するに至った事実関係

を具体的に記載しなければならず,

「勤務態度不良」や「規律違反」の内容である

具体的事実を記載しなければなりません。

 

 

また,この解雇理由証明書には,

労働者の請求していない事項を記入してはならないのです

(労働基準法22条3項)。

 

 

そして,この解雇理由証明書の交付を拒む会社には,

30万円以下の罰金が科せられます(労働基準法120条1号)。

 

 

 

 

このように,攻撃対象とすべき解雇理由を具体的に明らかにさせます。

 

 

次に,明らかになった解雇理由に対する反論を検討します。

 

 

解雇は,客観的合理的理由を欠き,

社会通念上相当でない場合に無効となります(労働契約法16条)。

 

 

この客観的合理的理由の有無を検討する際には,

①労働者の労務提供が労働契約で期待された水準に至っていないと

評価される状態が将来に渡って継続すると予測されるか(将来予測の原則),

②会社が教育,訓練,指導などの解雇回避措置をつくしてもなお

雇用を継続できない場合に解雇が許容されること(最後手段性の原則)

の2点をチェックします。

 

 

社会通念上相当か否かについては,

解雇という手段を選択することが労働者にとって

過酷すぎないかをチェックするもので,

労働者の情状,他の労働者に対する処分との均衡,反省の有無

等の事情を総合的に考慮して判断されます。

 

 

勤務態度や業務上のミスを理由とする解雇の場合,

労働者の勤務態度や業務上のミスが,

会社の指示や教育によって,改善傾向にあるなら,

客観的合理的理由を欠き,解雇は無効となります。

 

 

 

 

また,会社が指示や教育を施していないのに,

いきなり解雇をしても無効となります。

 

 

このように,勤務態度不良や業務上のミスは,

通常一度だけでは有効な解雇理由とならず,

会社が注意,指導したにもかからず,

勤務態度や業務上のミスが改まらないなど

勤務態度の不良が繰り返された場合に

はじめて解雇が有効になります。

 

 

もっとも,高待遇・専門性を有する労働者に対する

注意指導等の改善努力については,

会社の負担が軽減される傾向にあります。

 

 

労働者としては,勤務態度不良や業務上のミスを理由に解雇された場合,

会社からどのような指示や教育を受けていたのかを思い返し,

指示や教育がないまま解雇されたり,

指示や教育があったものの,

自分の仕事が改善できていたのであれば,

解雇は無効になる可能性がありますので,

早目に弁護士にご相談ください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ジャパンディスプレイの希望退職の募集から整理解雇を考える

経営再建中の液晶パネル大手の株式会社ジャパンディスプレイは,

6月12日,国内の従業員の約25%にあたる

1200人の希望退職を募ることを発表し,

石川県にある白山工場を7月から9月まで停止するようです。

 

 

以前,金沢から福井方面へ北陸自動車道を走行していると,

強大な工場を建設している風景が見え,

気づけば,工場が完成して,2016年12月から,

ジャパンディスプレイの白山工場として稼働していました。

 

 

 

石川県民としては,地元に強大な工場が完成して,

雇用が創出されると喜んでいただけに,

わずか約2年半で工場の稼働がストップすることに

ショックを受けました。

 

 

さて,会社が希望退職を募集したときに,

労働者はどのように対処したらいいのでしょうか。

 

 

まず,当事者が契約を締結するためには,

契約をしたい人が契約の申込をして,

その相手方が承諾をすることが必要になります。

 

 

例えば,売買の場合,

売り主が「これ買いませんか?」と申込をして,

買い主が「では買いましょう」と承諾をすることで,

売買契約が成立するのです。

 

 

会社の希望退職の募集は,法律的には,

労働契約を合意解約するための申込の誘引となります。

 

 

この会社からの申込の誘引に対して,

労働者が申込を行い,会社が承諾をすることで,

労働者と会社との間で締結されていた労働契約が

合意解約されるのです。

 

 

そのため,会社が希望退職の募集をしても,

労働者がそのまま会社で働きたいのであれば,

希望退職に応募せず,そのままにしておけば,

会社で働くことができます。

 

 

それでは,会社は,なぜ希望退職を募集するのでしょうか。

 

 

理由の1つ目は,人員を削減して,利益を出したいからです。

 

 

 

 

会社が労働者をたくさん雇用すると,

労働者に支払う給料が多くなり,人件費が高くなり,

売上があがっても,会社に利益が残らなくなります。

 

 

会社の経費のうち人件費が占める割合が多いと,

人件費を削減しないと,会社が黒字にならない可能性があります。

 

 

とはいえ,解雇はそんなに簡単にできないので,

会社は,業績が悪化してきたら,退職金を割増するなどして,

今退職すれば有利ですよと労働者に伝えて,

労働者から退職してもらい,人件費を削減するのです。

 

 

理由の2つ目は,会社が整理解雇を実施するための準備です。

 

 

整理解雇とは,会社側の経営事情により生じた

人員削減の必要性に基づき労働者を解雇することで,

いわゆるリストラのことです。

 

 

 

この整理解雇が認められるためには,

①人員削減の必要性,

②解雇回避努力が尽くされたこと,

③人選基準とその適用が合理的であること,

④労働組合若しくは被解雇者と十分協議したこと,

という4つの要素を総合考慮する必要があります。

 

 

このうち,希望退職の募集は,

②解雇回避努力の一手段として実施されます。

 

 

整理解雇は,労働者に落ち度がないにもかかわらず,

会社の事情で解雇されるのだから,会社は,

解雇を回避するために,努力しなければならず,

その一環として,整理解雇の前に希望退職の募集をするのです。

 

 

希望退職の募集は,判例上,労働者の意思を尊重しつつ

人員整理を図るうえで極めて有効な手段と評価されており,

希望退職の募集をせずに,いきなり整理解雇した場合には,

解雇回避努力を尽くしてないとして,無効になる可能性が高いです。

 

 

そのため,希望退職の募集が実施され,

ある程度の労働者が応募して退職したとしても,

会社の業績が回復しない場合には,次は,

整理解雇が実施されるリスクがあるということです。

 

 

労働者としては,会社が希望退職を募集してきた場合,

この会社に未来がないと思えば,

退職金の割増など優遇措置が受けられるうちに,

退職して新しい職場で活躍した方がいいのかもしれません。

 

 

他方,次の就職先がみつかるか不安で,

今の会社にいたいのであれば,希望退職に応募せず,

そのまま働けばいいのですが,

場合によってはリストラされるリスクがあります。

 

 

そう考えると,労働者は,いつでも次の仕事がみつけられるように,

自分の能力を磨き続ける必要があるのでしょうね。

 

 

石川県民としては,ジャパンディスプレイの業績が回復して,

白山工場が再稼働することを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

解雇なのか合意解約なのか

2日前のブログで,解雇なのか自己都合退職なのかが

争われる事件について紹介しました。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201905158032.html

 

 

これに関連して,本日は,解雇なのか合意解約なのかが

争われるケースについて解説します。

 

 

解雇とは,使用者による一方的な労働契約の解約のことです。

 

 

 

解雇には,よほどのことがない限りできない

という厳しい規制があります。

 

 

他方,労働者からの一方的な労働契約の解約の意思表示を辞職といい,

労働者の都合で退職することを自己都合退職といいます。

 

 

自己都合退職については,退職することを会社に伝えてから

2週間が経過すれば,原則自由に退職できます。

 

 

もう一つ,労働契約の合意解約があります。

 

 

例えば,会社から退職を勧奨されて,

労働者がこれに応じて退職した場合,

会社の辞めてほしいという意思表示と,

労働者の辞めますという意思表示が合致して,

労働契約が会社と労働者の合意によって解約されるのです。

 

 

労働者が解雇が無効であると争った場合,会社は,

解雇はしておらず,退職勧奨をしたら,労働者が勝手に辞めたので,

合意解約が成立すると反論してくることがあります。

 

 

 

この場合,2日前のブログで記載しましたが,

使用者の解雇したという言動や,

労働者の退職したという言動の有無についての

事実認定が問題になります。

 

 

そして,使用者や労働者の言動が認定された場合でも,

使用者の言動がそもそも解雇の意思表示にあたるのか,

労働者の言動が退職の申込みにあたるのか,

という当該言動の評価の問題がでてきます。

 

 

この解雇や退職についての言動の評価について,

乙山法律事務所経営者事件の裁判例は

(東京地裁平成27年3月11日・判例時報2274号73頁),

次のように判断基準を提示しました。

 

 

長いのですが,重要ですので引用します。

 

 

「労働者にとって雇用契約は、

生活の糧を稼ぐために締結する契約であり、かつ、

社会生活の中でかなりの時間を費やすことになる

契約関係であることからすれば、

かかる雇用契約を解消するというのは、

労働者にとって極めて重要な意思表示となる。

 

 

したがって、かかる雇用契約の重要性に照らせば、

単に口頭で合意解約の意思表示がなされたとしても、

それだけで直ちに合意解約の意思表示がなされたと

評価することには慎重にならざるを得ない。

 

 

特に労働者が書面による合意解約の意思表示を明示していない場合には、

外形的にみて労働者が合意解約を前提とするかのような

行動を取っていたとしても、労働者にかかる行動を取らざるを得ない

特段の事情があれば、合意解約の意思表示と評価することはできない

ものと解するのが相当である。」

 

 

労働者から,退職届のような文書が提出されていない場合には,

労働契約の合意解約は慎重に判断されるのです。

 

 

 

この事件では,雇用主からもう来なくて良いと言われ,

言い分が聞き入れてもらえなかったので,

原告は事務所を立ち去るしかなかったので,

原告が「こんなとこ働けんわ」と言って事務所を立ち去っているのですが,

労働契約の合意解約があったとは認められず,

解雇であったと判断されました。

 

 

また,同じく,解雇か合意解約かが争われたゴールドルチル事件でも,

合意解約ではなく,解雇と判断されました

(名古屋高裁平成29年1月11日決定・労働判例1156号18頁)。

 

 

すなわち,この事件では,労働者が

「やはり首ですよね?はっきりしないと仕事を探すにも探せません」,

「首ですね?」,「会社を辞めないといけませんけど」

と伝えたところ,会社は「仕事探してみてはいかがですか」,

「雇用保険受付してもいいですよ」と回答したという事実関係において,

労働者が当面の生活費に困っている中で

金銭給付を受けるためにされたものであるとして,

労働者は労働契約の合意解約の意思表示をしていないと判断されました。

 

 

裁判では,解雇か,自己都合退職か,

労働契約の合意解約かが争われた場合,

使用者側の言動,労働者の離職の経緯,

労働者が自分の意思で退職する動機の有無,

離職後の労働者の態度,使用者が労働者の労務提供の受け取りを

拒否する意思の表れとみられる事情の有無などをもとに

事実認定されます。

 

 

傾向として,やや労働者に有利に判断されると感じますので,

会社から,勝手に辞めただろうと反論されても,

丁寧に事実を主張立証していけば,

解雇と認定される可能性がでてきますので,

労働者は,不当解雇に泣き寝入りしないでもらいたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

解雇なのか自己都合退職なのか

昨日,解雇だと思っていたら,離職票の離職理由には,

退職勧奨による退職と記載されており,

会社に対して,離職理由の訂正を求めたところ,

会社が離職理由を解雇に訂正してくれたケースを紹介しました。

 

 

このケースでは,無事,離職理由を訂正してくれて,

会社が解雇であることを認めてくれたのでよかったですが,

会社が解雇であることを認めず,

退職勧奨に応じて相談者が自己都合退職したと主張してきた場合は,

相談者は,どう対応できるのでしょうか。

 

 

 

 

これは,労働者が会社を辞めたのが,

解雇なのか,自己都合退職なのか,

という事実認定の問題となります。

 

 

すなわち,労働者が会社を辞めるに際し,

会社側からどのようなことを言われて,

労働者は,それに対してどのような言動をしたのか,

ということを証拠に基づいて,証明して,

事実を認定していくことになるのです。

 

 

それでは,このように解雇か自己都合退職かという

事実認定が争われた裁判例である,ベストFAM事件を紹介します

(東京地裁平成26年1月17日判決・労働判例1092号98頁)。

 

 

この事件は,採用から1ヶ月半が経過しても,

新規契約を成立できなかった原告に対して,被告会社の社長が

「成績があがらないからやめてくれ」と告げられて,

原告が退職したというものです。

 

 

被告会社は,解雇ではなく自己都合退職であると主張して争いました。

 

 

なぜ,被告会社が,自己都合退職であると主張したのかといいますと,

解雇と判断されれば,営業成績が向上するように

指導したりした形跡がないので,解雇は無効と判断されて,

解雇時点以降の未払い賃金を支払わなければならなくなってしまうので,

それを避けたかったからだと思います。

 

 

しかし,裁判所は,次の事実を認定して,解雇と判断しました。

 

 

まず,原告の労働者は,退職した後にすぐにハローワークへ行き,

解雇されたのに離職票を送ってきていないことを相談しました。

 

 

 

次に,原告の労働者は,労働基準監督署へ行き,

解雇に関する申告書に,社長から,

1ヶ月半たっても成績が上がらないならやめてくれと言われて,

それって解雇ということですかと聞いたら,社長は,

そうだと回答したことを記載して提出しました。

 

 

そして,原告の労働者は,労働局のあっせんの申立をし,

その申請書に,「社長に呼び出され,即日退職を執拗に迫られました。

理由は1ヶ月以上経っているのに1件も上がっていないとのことでした。」,

「そこで私は,自己都合での退職の意思がないので

最後に『それは解雇という意味ですか?』と尋ねると

『そうです』と明快な回答が返ってきました。

それで,即日解雇された,という認識を持ちました。」と記載しました。

 

 

このように,原告は,一貫して,即日解雇されたことと,

営業成績が不良という解雇理由を主張していたのです。

 

 

さらに,解雇時の年齢が58歳であり,再就職が困難な年齢であり,

なるべく長く被告会社で働くことを希望しており,

入社後1ヶ月半で自分から退職する合理的な理由はありませんでした。

 

 

以上の事実を認定して,解雇であったと認められて,

解雇は理由がないとして無効となりました。

 

 

解雇された場合,会社は,解雇とは言っていないので

自己都合退職であると争ってくる可能性がありますので

,労働者は,一貫した態度で,不当解雇であると

主張し続ける必要があります。

 

 

 

このような争点を未然に防ぐためにも,

会社との解雇のやりとりをボイスレコーダーに録音しておくと,

立証が簡単になるので,おすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

解雇をされたら離職票を確認しましょう

先日,次のような労働事件の法律相談を受けました。

 

 

入社してまだ12日ほどしか経っていないにもかかわらず,

突然,「荷物をまとめて退職してください。」と告げられました。

 

 

 

 

相談者は,突然のことにショックを受けて,パニックになり,

次の日から出社することができなくなりました。

 

 

相談者は,この解雇に納得できないとして,

私のところへご相談にいらっしゃいました。

 

 

相談者は,解雇であることを前提にしていらっしゃったので,

私も解雇についてアドバイスをしていましたが,

私が,相談者に対して,「離職票を見せてください」と言って,

離職票を見たところ,離職理由には

「退職勧奨による退職」と記載されていました。

 

 

離職票には離職理由にチェックを入れる箇所があり,

解雇の場合であれば,離職理由の

「4事業主からの働きかけによるもの」のうちの

「(1)解雇(重責解雇を除く。)」にチェックが入るはずです。

 

(離職票)

 

しかし,この相談者のケースでは,離職理由の

「4事業主からの働きかけによるもの」のうちの

「(3)希望退職の募集又は退職勧奨」の「[2]その他」として,

その理由の欄に「退職勧奨による退職」と記載されていたのです。

 

 

相談者は,私に指摘されるまで,

離職票の離職理由に気付いていませんでした。

 

 

転職活動がそれほどさかんではない日本では,

離職票を見る機会があまりないので,

初めて離職票を受け取ったときに,

どのようにチェックすべきかわからないのがほとんどだと思います。

 

 

幸いにして,相談者は,まだ離職票をハローワークに

提出していませんでしたので,会社に対して,

この離職票の離職理由を訂正してもらうように通知書を送りましょう

とアドバイスをして,通知書を送りました。

 

 

ここでもし,相談者が,会社から送られてきた離職票を

そのままハローワークに提出していたとしたら,会社は,

解雇ではなく,退職勧奨に応じて自己都合退職したのだと

主張してくるおそれがありました。

 

 

解雇であれば,よほどの理由がないと,

会社は労働者を解雇できないので,

解雇を争えば,解雇が無効となり,

解雇された以降の未払い賃金を請求できる可能性が高くなります。

 

 

他方,自己都合退職の場合,自分から勝手に辞めたことになるので,

辞めた後に賃金を請求することができず,

会社に対して,金銭的な請求ができません。

 

 

 

また,自己都合退職ではなかったことを争う場合,

会社からだまされたり,おどされたり,勘違いして

自己都合退職をしてしまったと,

労働者が証明しなければならず,

労働者の主張が認められるとは限りません。

 

 

このように,解雇であれば,労働者は争いやすく,

自己都合退職であれば,労働者は争いにくいのです。

 

 

このことを理解している悪賢い会社であれば,

本当は解雇であっても,離職票に自己都合退職と記載して,

労働者がこれに気づかずにハローワークに提出した後に,

労働者が解雇で争ってきた時に,

自己都合退職だったと反論してくることがあります。

 

 

解雇されたのか否かが争点になることがありますので,

会社から「解雇する」と言われたのか,

「辞めてくれないか」と言われたのかなど,

どのような伝え方をされたのかや,

相談者がどのように対応したか等,

慎重に検討をする必要があります。

 

 

そして,会社から離職票を受け取ったときには,

離職票の離職理由をよく確認して,

事実と異なる記載がされていたら,

会社に対して,すぐに訂正を求めるようにしてください。

 

 

会社が訂正に応じないのであれば,離職理由の箇所に

「離職者記入欄」がありますので,

そこに自分が考える離職理由の箇所にチェックをいれてください。

 

 

 

 

また,離職理由の下のほうに,

「具体的事情記載欄(離職者用)」という欄がありますので,

そこに事実に合致した離職理由を具体的に記載し,

「離職者本人の判断」の箇所に,

「事業主が記入した離職理由に異議が有る」に○を囲みましょう。

 

 

その上で,離職票をハローワークに提出すれば,

自己都合退職に応じたとは認められないと思います。

 

 

さて,先ほどの相談者のケースでは,

離職票の離職理由を訂正することを求める通知書を会社に送ったところ,

会社はこれに応じて,解雇であることを認めてくれましたので,

相談者は,会社と争いやすくなったので,よかったです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。