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解雇を労働審判で解決する3

昨日に引き続き,労働審判の解説をしていきます。

 

 

労働審判で労働者が復職を求めず,

金銭解決の調停が成立する場合,

次のような調停の内容になります。

 

 

 

 

まず,会社が解雇を撤回します。

 

 

会社が解雇を撤回すると,会社と労働者との労働契約が

復活するのですが,解雇があった日に,

会社と労働者が労働契約を合意で解約します。

 

 

労働契約を合意解約することで,

労働者は,会社に復職する必要がなくなります。

 

 

合意解約の日を解雇があった日からずらしてしまうと,

その間の未払賃金はどうするのか,

その間の社会保険はどうするのか,

仮払いを受けている失業給付はどうするのか

という問題が発生して,事後処理がややこしいことになります。

 

 

解雇があった日に合意解約すれば,

これらのややこしい問題が生じないので,

労働審判で調停をするときには,通常,

解雇があった日を合意解約の日とすることが多いです。

 

 

次に,解雇があった日で合意解約をすると,

本来,未払賃金が発生しないことになるのですが,

解決金という名目で,会社から労働者に対して,金銭を支払わせます

 

 

解決金という名目であれば,一時所得となり,源泉徴収されません。

 

 

この解決金をいくらにするのかが,調停成立の鍵となります。

 

 

 

 

この解決金の金額ですが,給料の何ヶ月分かで調整することが多いです。

 

 

あまりにも酷い解雇の場合は,

1年分で交渉することになりますし,

解雇が無効になるのか微妙な場合は,

6ヶ月から3ヶ月ほどで交渉することもあります。

 

 

この解決金を多くする方法として,

私は,解雇無効の主張と同時に未払残業代請求をしています。

 

 

労働者を解雇するような会社は,

通常,残業代を支払っていないことが多いです。

 

 

労働者の給料が低い場合,

解決金は給料の何ヶ月分となり,

解決金が低くなってしまいますが,

労働者が長時間残業を2年間していたなら

(未払残業代の消滅時効は2年です),

未払残業代はある程度の金額となり,

解雇無効の未払賃金とあわせれば,

解決金が大きな金額となるからです。

 

 

労働者は,解雇された会社とのトラブルを早く解決して,

新しい就職先で働きたいことを願うことが多いので,

労働審判であれば3回の期日で裁判手続が早く終わるので,

解雇を解決する手段としてよく利用されます。

 

 

もっとも,労働審判では,会社がかたくなな態度をとり,

調停が成立せずに,裁判所の最終解決案である労働審判がくだされても,

会社が2週間以内に異議を申し立てれば,

通常の裁判に移行してしまい,解決が長引くため,

やむなく労働者側が譲歩しなければならないこともあります。

 

 

会社の態度や,クライアントの思い,解雇が無効となるかなど

のさまざまな事情を総合考慮して,クライアントにとって

ベストな解決ができるように,労働審判を活用していきます。

解雇を労働審判で解決する2

昨日に引き続き,労働審判の解説をしていきます。

 

 

労働審判の申立をすると,裁判所が期日を決めます。

 

 

 

 

その期日の1週間前くらいに,会社が答弁書という,

労働審判申立書に対する反論を記載した文書を提出してきます。

 

 

期日までに,時間的な余裕があれば,

答弁書に対する反論を記載した準備書面を提出しますし,

準備書面を出せなくても,クライアントと打ち合わせをして,

答弁書に対する反論を検討します。

 

 

労働審判の期日当日には,クライアントも出席します

 

 

裁判官と労働審判員は,期日までに裁判記録を読んで,

疑問に思ったことや気になることを,当事者に直接質問してきます

 

 

通常の裁判手続でいう証人尋問が,

労働審判では第1回期日から行われるので,

裁判所側からの質問に的確に受け答えができるように

準備しておく必要があります。

 

 

ちなみに,通常の裁判の場合,証人尋問は,

訴訟の最後の方に行われます。

 

 

第1回期日では,裁判所側が当事者双方の言い分を聞き取り,

会社が労働者に対して,いくらくらいの金銭を支払うなら

調停が成立できるのかを模索します。

 

 

 

会社の解雇があまりに不当な事案であれば,

裁判所側が会社を強く説得してくれて

1回目の期日で調停が成立することもあります。

 

 

もっとも,1回目の期日は,当事者の言い分の確認をして,

2回目以降の期日から調停に向けての調整が行われることが多いです。

 

 

解雇された労働者としては,会社からいくらくらいの金銭をもらえれば,

解雇されたことを納得できるかを検討しておく必要があります。

 

 

依頼している弁護士に相談して,この事件であれば,

いくらくらいの金銭が妥当なのかを協議して,

どこまでなら譲れるかを検討します。

 

 

労働審判では,当事者双方が譲り合い,

調停を成立させて,早く紛争を解決することを目的にしています。

 

 

そのため,解雇が無効と判断されるか微妙な事案では,

労働者側が大きく譲歩しなければならないことがあります。

 

 

弁護士としては,解雇が無効になる見込みがどれくらいあるのか,

クライアントの次の就職先が決まっているか,

クライアントがどこまで争う意思があるのかを見極めながら,

クライアントの意向を尊重しつつ,

クライアントが取得できる金銭がいくらなら

調停を成立させるべきかを模索していきます。

 

 

長くなりましので,続きは明日以降に記載します。

解雇を労働審判で解決する

解雇の法律相談を受けていますと,

会社の解雇に納得していない方がほとんどです。

 

 

なぜ自分が解雇されたのかわからない,

会社が言っている解雇理由はおかしい,

などの不満を持っておられます。

 

 

 

解雇された労働者は,自分を解雇するような会社に

復職することを希望する方は少なく,会社に対して金銭請求をして,

一矢報いたいと希望される方が多いです。

 

 

そのような場合,利用する裁判手続が労働審判です。

 

 

労働審判とは,労働者個人と会社の労働紛争について,

裁判官と労使の専門委員で構成される労働審判委員会が,

事件の審理を行うとともに,

調停(話し合いによる紛争解決)を試み,

調停が成立しない場合には,

労働審判委員会が労働審判(通常の裁判における判決に相当するもの)

を出すという裁判制度です。

 

 

 

 

労働者が労働審判の申立をするには,

労働審判申立書を作成して,

裁判所に提出する必要があります。

 

 

この労働審判申立書には,

会社における労働条件,

解雇にいたる経緯,

解雇が無効である理由などを,

証拠をもとに詳細に記載します。

 

 

通常の裁判を起こすときに裁判所へ提出する訴状であれば,

A4で3~5ページくらいの分量ですが,

労働審判の場合は,3回で終わりますので,

最初の申立の段階で,労働者が主張するべき事実を全て出し切る

必要があり,申立書は10~20ページくらい

の分量になることが多いです。

 

 

労働審判が通常の裁判と異なる点として,回数制限があげられます。

 

 

通常の裁判は,裁判期日の回数に制限がないため,

裁判を起こしてから判決がでるまで約1年以上かかりますが,

労働審判は,3回以内の期日で結論がでますので,

申立をしてから約3ヶ月程度で決着がつきます。

 

 

そのため,労働審判は,通常の裁判よりも

早く解決できる場合が多いです。

 

 

また,通常の裁判は,裁判官だけが審理を行いますが,

労働審判は,裁判官1人に加えて,使用者側から1人,

労働者側から1人の労働審判員が審理に加わります。

 

 

裁判官ではない労働審判員が労働審判に参加するのは,

労働現場の実情について十分な知識と経験を有する人物を

審理に参加させることで,紛争の実情に即した

適正な解決を図るためです。

 

 

さらに,通常の裁判では,主張と証拠のやりとりを複数回の期日で行い,

ある程度の段階になると,和解という話し合いによる解決

がされる場合がありますが,労働審判では,第1回の期日から,

調停という話し合いの解決が実施されることがあります。

 

 

 

 

労働審判では,調停が成立することが多く,

会社が労働者に対して金銭を支払う旨の調停が成立すれば,

会社は,調停に従い,労働者に金銭を支払います。

 

 

調停には,判決と同じ効力があり,

会社が調停の内容を守らなかった場合,

労働者は,会社に対して,会社の預金を差し押さえる

などの強制執行をすることができるので,会社は,

強制執行をされたくないので,労働者に対して金銭を支払うのです。

 

 

このように,労働審判には,通常の裁判にはない

メリットがありますので,解雇を争う場合,

労働審判を利用することがよくあります。

 

 

長くなりましので,続きは明日以降記載します。

 

解雇を仮処分で解決するのはどういう場合か

会社から解雇されてしまった労働者は,

収入を確保する道を絶たれてしまい,生活が苦しくなります。

 

 

 

 

一刻も早く,解雇の問題を解決して,

収入を確保したいと考えるのが通常です。

 

 

そのようなときに考えられるのが,仮処分という裁判手続です。

 

 

解雇を裁判手続で解決する場合,大きく分けて3つの手続があります。

 

 

①通常の裁判,②労働審判,③仮処分の3つです。

 

 

本日は,このうちの③仮処分について説明します。

 

 

解雇を通常の裁判で解決しようとすると,

第一審の判決がでるまでに約1年くらいかかります。

 

 

判決がでるまで約1年も待っていたのでは,労働者の生活が困窮します。

 

 

そこで,第一審の判決がでるまで,会社に対して,

仮に賃金を支払えということを強制させる

賃金仮払の仮処分を申し立てることがあります。

 

 

賃金の仮払が認められれば,会社は,解雇した労働者に対して,

毎月一定額の賃金を支払わなければならなくなります。

 

 

 

 

この仮処分の手続は,申立から2~3カ月から6カ月程度で

結論を得られることが多く,通常の裁判に比べて手続が早く進みます。

 

 

また,仮処分手続の中で和解が成立することも多く,

仮の手続とはいえ,最終的な紛争解決も可能です。

 

 

もっとも,この仮処分では,通常の裁判と同じように,

解雇が無効であることのほかに,

保全の必要性という別のハードルを超えなければなりません。

 

 

保全の必要性とは,賃金が仮に支払われなければ,

労働者の生活が困窮する事情のことです。

 

 

通常,労働者は,賃金の仮払いを受ければ,

生活費につかってしまうので,最終的に,会社が裁判で勝っても,

仮払いした賃金が返還されることは困難になります。

 

 

そのため,賃金仮払の仮処分では,

この保全の必要性は厳格に審査されます。

 

 

保全の必要性については,

解雇された労働者が資産を保有しているか,

副業などの他の収入源があるか,

解雇後に他の会社に再就職したか,

配偶者が働いているか,

同居の親の年金収入はいくらか

などの事情が考慮されます。

 

 

預貯金が十分あったり,

解雇後に他の会社に就職していたり,

配偶者が働いていて十分な収入がある場合には,

保全の必要性がないと判断される可能性があります。

 

 

 

 

また,賃金の仮払いが認められたとしても,

解雇前の賃金全額が認められるとは限りません。

 

 

認められる仮払いの賃金の金額は,

標準生計費の範囲内に抑えられる傾向にあります。

 

 

ちなみに,人事院が発表した平成29年4月の

世帯人員4人の全国標準生計費は,21万9620円でした。

 

 

なお,仮処分には,賃金仮払以外にも,

労働契約上の地位を有することを仮に定める地位保全の仮処分

という手段もありますが,賃金の仮払いが認められれば,

それで足りるとして,なかなか認められないのが現状です。

 

 

このように,仮処分の場合,

保全の必要性というハードルがあり,解雇された労働者は,

別の会社に再就職することが多く,私は,

あまりこの手続を利用したことがありません。

 

 

よほど,緊急に賃金の仮払いをさせる必要がある場合や

迅速に解雇された会社に復帰したい場合

には仮処分を検討しますが,そうでないなら,

通常の裁判か労働審判を選ぶことが多いです。

経歴詐称による解雇が有効になるには

私立高校の数学の教師が経歴詐称を理由に解雇された事件がありました

(東京高裁平成29年10月18日判決

学校法人D学園事件・労働判例1176号18頁)。

 

 

経歴詐称といえば,数年前に,

報道ステーションのコメンテーターをしていた

ショーン・マクアードル・川上氏の問題が有名です。

 

 

本日は,経歴詐称の解雇がどのような場合に

有効になるのかについて説明します。

 

 

まず,被告の学校法人の就業規則には,解雇事由として,

「採用に関し提出する書類に重大な虚偽の申告があったとき」

と記載されていました。

 

 

 

 

この就業規則の記載をどのように解釈するかが問題となります。

 

 

ここで,解雇とは,労働者の働く機会を一方的に奪うものであり,

労働者は,解雇されると,収入源を失い,生活が苦しくなることから,

解雇は,そう簡単にできず,厳しい要件を満たす必要があります。

 

 

そこで,労働者を解雇できる理由である経歴詐称とは,

今後の雇用契約の継続を不可能とするほどに会社との信頼関係を

大きく破壊するに足る重大な経歴を詐称した場合に限定されます。

 

 

本件においては,原告の数学教師が提出した履歴書に記載されていた

「中学校バレーボールコーチ勤務」という職歴が

虚偽であると問題になりました。

 

 

原告の数学教師は,外部指導者としてバレーボールコーチ

として雇用されていたわけではなく,個人的に依頼されて

コーチ業務のお手伝いをしていただけなので,

「中学校バレーボールコーチ勤務」との記載は,

事実と異なる点がありました。

 

 

しかし,原告がコーチ業務のお手伝いをしていたのは

事実であり,その期間も2ヶ月と短期間でした。

 

 

また,原告は,体育教師ではなく数学教師として採用

されているのであり,数学教師としての能力や適格性を判断するのに,

バレーボールコーチの経歴はあまり重視されるものではなく,

原告を採用する際の重大な要素とはなっていませんでした。

 

 

そのため,「中学校バレーボール勤務」という虚偽の記載が,

今後の雇用契約の継続を不可能とするほどに

信頼関係を破壊するに足る重大な経歴詐称ではないと判断されました。

 

 

もっとも,原告は,他の教師と連携・協力して仕事を進めていく

姿勢に欠けており,上司の注意に対しても反発を繰り返し,

問題行動が改善されておらず,教師という職種のため,

事務職へ配転することができないため,

勤務態度不良による解雇は有効とされてしまいました。

 

 

 

 

経歴詐称について,その労働者を採用するにあたって重視したポイント

(例えば,数学教師であれば,高卒か大卒か,

大学で数学の研究をしていたか,

他の学校で数学を教えていたか等の学歴や職歴)に詐称がないのであれば,

経歴詐称を根拠に解雇するのは難しいと考えられます。

 

 

経歴詐称で解雇された場合には,

会社との信頼関係を大きく破壊するに足る重大な

経歴を詐称したかを検討する必要があります。

解雇に納得できないなら,解雇理由証明書の交付を求める

会社を解雇された(クビになったことです)場合,

労働者は,途方にくれてしまいます。

 

 

「なんで自分が解雇されたのだろう?」

「明日からの生活をどうしたらいいのだろう?」

「家族をどうやってやしなっていけばいいのだろう?」

 

 

 

 

途方にくれていても,解雇に納得がいかないのであれば,

労働者がやるべきことがあります。

 

 

それは,会社に対して,「解雇理由証明書」の交付を要求することです。

 

 

労働基準法22条で,労働者の求めがあった場合,

会社は退職の事由を記載した証明書を交付しなければらならず

解雇の場合には解雇理由を記載しなければなりません。

 

 

(労政時報の人事ポータルjin-Jourより抜粋)

 

なぜ,解雇理由証明書の交付が重要になるかといいますと,

解雇を争う場合,労働者は,会社が主張している解雇理由が

おかしいと主張していくのですが,解雇理由がわからなければ,

攻撃対象である,どういった解雇理由の,

どのような点がおかしいのかについて効果的な主張ができないからです。

 

 

ようするに,解雇理由が明らかでないと解雇が

有効か無効かの判断ができないのです。

 

 

通常,解雇された労働者が会社に対して,

解雇理由証明書の交付を求めた場合,会社は,

解雇理由証明書を交付してきます。

 

 

それでは,会社が労働者の請求を無視して,

解雇理由証明書を交付してこなかった場合,

労働者は,どうすればいいのでしょうか。

 

 

私は,もう一度,会社に対して,解雇理由証明書の交付を求める文書

を送付することをアドバイスします。

 

 

理由は3つあります。

 

 

1つ目の理由は,先ほども書きましたが,

解雇理由がわからないままですと,

解雇が有効か無効か判断できないからです。

 

 

 

 

解雇理由がわからないまま,裁判に突入してしまい,

会社から的確な解雇理由が主張されてしまい,

労働者がその解雇理由にうまく反論できなければ

裁判に負けてしまいます。

 

 

裁判の見通しをたてるためにも,裁判前に

解雇理由を知っておくことが必須と考えます。

 

 

また,裁判になってから解雇理由が分かると,

解雇理由の調査に時間がかかるため,裁判が長引きます。

 

 

裁判の前に解雇理由を明確にして,その解雇理由は有効なのかを

しっかり検討して,見通しをたてるべきです。

 

 

2つ目の理由は,解雇理由証明書に記載されていない解雇理由の

後出しを防止することです。

 

 

会社は,解雇理由証明書に記載されていない解雇理由を

裁判になって後出しすることは可能なのですが,

解雇理由証明書に記載されていない解雇理由は,

会社がその解雇理由を重視していなかったと判断されて,

裁判では重要な争点でなくなります。

 

 

 

 

そのため,会社は,解雇理由証明書に記載されていない解雇理由を

裁判で後出しで主張しても,余り意味がないことになるのです。

 

 

労働者としては,解雇理由証明書に記載された解雇理由だけ

を反論の対象にすればいいのです。

 

 

3つ目の理由は,労働者が2回,3回と解雇理由証明書

の交付を求めても,会社がこれを無視して解雇理由証明書

を交付しないということは,会社が自ら解雇理由がなかったと

認めていることにつながるという点です。

 

 

会社は,解雇理由がないからこそ,解雇理由証明書

を交付できないのだと考えられます。

 

 

もっとも,通常の会社は,なにかしら理屈をつけて,

解雇理由を主張することが多いので3つ目の理由を

主張することはあまりないと思います。

 

 

会社が,労働者から解雇理由証明書の交付を求める文書を

受け取っていないという言い訳をすることがあるかもしれないので,

会社へ解雇理由証明書の交付を求める文書を特定記録郵便で送付すれば,

このような言い訳はつうじなくなります。

 

 

解雇に納得できないときは,まずは

解雇理由証明書の交付を求めましょう

解雇を争う2つの方法

労働者が解雇された場合,解雇を争う方法

は大きく分けて2つあります。

 

 

 

 

1つは,解雇が無効であるとして,

労働者が会社との労働契約上の権利を有する地位にあることの

確認を求め(地位確認といいます),

解雇期間中の賃金(バックペイといいます)を請求する方法です。

 

 

この地位確認とバックペイを請求する方法は,

解雇が無効なので,労働者は,解雇した会社で

働き続けますという就労請求が前提となっています。

 

 

もう1つの方法は,権利を濫用した違法な解雇によって,

労働者が損害を被ったとして,

不法行為(違法に他人に損害を与える行為のことです)を理由に,

会社に対して,損害賠償請求する方法です。

 

 

この損害賠償請求は,解雇した会社で

就労することは前提になっていません。

 

 

一般論として,地位確認とバックペイを請求する方法の方が,

労働者にとってより多くの金銭が会社から支払われることが多いです。

 

 

もっとも,地位確認とバックペイを請求する方法の場合,

解雇した会社へ復職して就労することが前提となっているため,

会社から復職を求められたときに,

解雇した会社に戻りたくない労働者は対応に困ります。

 

 

自分を解雇した会社に復職しても,会社でうまくやっていけるのか,

また,会社から仕返しをされるのではないかと不安に思うからです。

 

 

 

 

会社には戻りたくはないけど,解雇には納得できないので,

会社に対して金銭請求したいと考える労働者がほとんどだと思います。

 

 

そこで,どうしても会社に戻りたくない場合に,

損害賠償請求の方法をとることがあります。

 

 

労働契約法16条で,権利を濫用した解雇は無効とされます。

 

 

そして,民法1条3項には,「権利の濫用は,これを許さない

と規定されており,権利の行使が濫用になるときは,

不法行為として損害賠償の責任を免れることはできないのです。

 

 

そのため,権利を濫用した無効な解雇によって,

不法行為が成立するのです。

 

 

それでは,解雇で損害賠償請求する場合,

どのような損害が賠償の対象となるのでしょうか。

 

 

1つは,賃金相当額の逸失利益です(本来得られていたはずのに,

不法行為によって得られなくなった利益のことです)。

 

 

解雇がなければ,解雇した会社で勤務し続けて

賃金をもらえていたはずなのに,解雇によって

賃金が得られなくなったので,本来もらえていたはずの

賃金相当額を損害として請求します。

 

 

裁判では,解雇後,再就職に必要な期間の賃金相当額が

逸失利益として認められることがあるですが,

1年分,8ヶ月分,6ヶ月分,3ヶ月分などと幅があります。

 

 

もう1つは,慰謝料です。

 

 

解雇された労働者は,一方的に職場から排除されて

仕事をする社会人としての生活ができなくなり,

毎月の賃金も途絶えて生活できなくなる不安を抱えるので,

多大な精神的苦痛を被るのが通常です。

 

 

しかし,裁判では,財産的損害が満たされるだけでは

慰藉できないような違法性の強い解雇でなければ

慰謝料が認められない傾向にあります。

 

 

解雇で慰謝料を請求するには,

解雇の経緯,手続,解雇理由,不当な動機の有無などの点から

解雇の違法性が強いことを主張していくことが必要になります。

 

 

なお,解雇の損害賠償請求で会社から,

雇用保険の失業給付を受けている場合に,

失業給付の受給額を損害額から差し引くように

主張してくることがあります。

 

 

 

 

しかし,雇用保険の失業給付は,

離職の理由を問わず社会政策上認められるものであり,

労働者も雇用保険料を労使折半で負担していることから,

損害額から失業給付の受給額を差し引くことはできないと考えられます。

 

 

損害賠償請求の場合,労働者に支払われる金額が

いくらになるのかが見通せないことがあり,

労働者の満足いく解決にならない可能性もあります。

 

 

解雇を争う場合,クライアントの意向を聞きながら,

地位確認とバックペイの請求でいくのか,

損害賠償請求でいくのかを吟味していきます。