一般先取特権を活用した未払残業代のスピード回収方法
労働者が会社に対して,未払残業代を請求する場合,
まずは,会社にタイムカード等の資料の開示を求めて,
未払残業代を計算し,会社に未払残業代を
請求する旨の文書を送付します。
会社が素直に残業代を支払ってくれればいいのですが,
会社は,なんだかんだとケチを付けてきて,
そんなに簡単には残業代を支払ってくれないことが多いです。
そこで,労働者は,会社に対して,
労働審判か裁判を起こして,未払残業代を請求します。
裁判で会社が敗けても,会社が残業代を支払わないのであれば,
会社の財産を差押えて回収する強制執行手続にすすみます。
労働審判の場合は,決着するまでに,申立てから2~4ヶ月,
裁判の場合は,決着するまでに,提訴から約1年以上の時間がかかります。
このように,裁判は時間がかかるのが難点です。
ところが,未払残業代を早期に回収する方法があることを
知りましたので,本日は,その方法を紹介します。
大分共同法律事務所の弁護士の玉木正明先生が担当された,
健康ランドの店長の未払残業代請求事件で,
一般先取特権を活用して,未払残業代をスピード回収したものです。
先取特権とは,法律で定められた債権を有する者が,
他の債権者に優先して弁済を受ける権利のことです。
民法306条2号と民法308条により,
労働者には,会社の財産について,優先的に弁済を受ける
一般先取特権を有しているのです。
この一般先取特権を利用すれば,
労働審判や裁判という時間がかかる手続をすっ飛ばして,
会社の財産に対する差押えができるのです。
さらに,会社の言い分を聞かずに,書面による審理で足り,
保証金を積む必要もありませんので,
1ヶ月くらいのスピード回収が見込めるのです。
もっとも,一般先取特権は,労働者の手持ち証拠だけで,
会社の反論を聞くまでもないと判断できるくらいに,
高度な証明を書面のみで行う必要があるので,
裁判所が認めるのはかなり稀であります。
そのため,一般先取特権は,あまり利用されていません。
玉木先生の未払残業代請求事件では,タイムカードがあり,
毎日の始業・終業時刻を,月末に月報でまとめて
会社に提出していたので,残業して働いていたことの
証明があったと認定されたようです。
タイムカードに漏れなく始業・終業時刻が打刻されていて,
会社がタイムカードをチェックして承認を与えており,
あわせて,給料明細や労働契約書といった証拠がそろっている場合には,
一般先取特権による未払残業代の回収が認められそうです。
そして,会社のどの財産を差し押さえるかですが,
大きく分けて,不動産,債権,動産の3つがあります。
不動産の差押えについては,費用が多くかかりますので,
費用対効果の観点で,使い勝手が悪いです。
会社の預金債権や売掛債権の差押えについては,
これが認められると,会社の銀行や取引先に対する信用がなくなり,
会社の資金繰りがショートして倒産する危険がありますので,
裁判所は,なかなか認めてくれないと考えられます。
そこで,未払残業代を回収する際に,
差し押さえるのは,現金などの動産が効果的なようです。
玉木先生の未払残業代請求事件では,
健康ランドが閉店する午前9時に,
裁判所の執行官と共に店舗へ乗り込み,
券売機,両替機,レジ,金庫,翌営業日用の釣り銭を
全て提出するように促して,現金を回収したようです。
裁判所の許可があるので,会社は抵抗できません。
このように,店舗に一定金額の現金がある場合には,
動産執行が効果的なようです。
一般先取特権を活用すれば,未払残業代を早急に
回収できる可能性があることを知ったので,
証拠が確実にそろっていて,店舗に一定金額の現金が存在するような,
未払残業代請求事件を担当することになった場合,
一般先取特権を利用してみようと思います。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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