転籍の対処法
人事異動の一つに転籍というものがあります。
転籍とは,会社と労働者との間の現在の労働契約関係を終了させて,
新たに他の会社との労働契約関係を成立させ,
労働者がその他の会社の業務に従事する人事異動のことです。
関連小会社が複数ある企業や,外郭団体が複数ある
中央官庁や地方公共団体で,転籍が行われることがあります。
それでは,労働者は,転籍に応じたくない場合には,
どのように対処すればいいのでしょうか。
本日は,転籍が争われた大阪地裁平成30年3月7日判決
を紹介します(判例時報2384号112頁)。
この事件は,もともとは厚生労働省の一部局であった
国立研究開発法人に勤務していた労働者が,
別の独立行政法人への人事異動を命じられたのですが,
この労働者は,妻が重篤な精神疾患にかかっていることから,
人事異動に応じなかったところ,懲戒解雇されたというものです。
まずは,本件事件の人事異動が,
転籍にあたるか否かが争われました。
転籍になれば,労働者の個別の同意が必要になり
(民法625条1項参照),就業規則の転籍条項を根拠に
転籍を命令することができないため,そもそも,
当該人事異動が転籍なのかが争点となったのです。
本件事件では,異動元の退職手続と
異動先の採用手続がとられており,
人事異動後においては異動先の就業規則が適用され,
懲戒権も異動先が持ち,異動した職員が異動元に対し,
何らかの権利を有することは認められておらず,
異動元に復帰できるかはその時々の人事異動の結果に
よらざるをえないことから,本件の人事異動は,
実質的にみて転籍であると判断されました。
さらに,原告労働者の妻は,本件人事異動を聞いて
パニック状態となり,自殺未遂を起こすまでの状況となっており,
原告労働者は,不当な目的で人事異動を
拒否しているわけではないこと,本件人事異動は,
ジョブローテーションの一環として定期的に行われるものであり,
原告労働者を異動させることに高度な必要性はなかったことから,
本件転籍は,権利の濫用にあたると判断されました。
その結果,原告労働者に対する懲戒解雇は無効となりました。
転籍になっとくできない場合,
転籍には労働者の個別同意が必要なので,
同意しなければいいのです。
転籍に同意しないことを理由に解雇されたとしても,
その解雇は無効になることがほとんどです。
また,仮に転籍に同意してしまったとしても,
家族が病気であり,それに対応できなくなるといった事情があれば,
転籍命令が権利の濫用として無効になる可能性もあります。
転籍になっとくできない場合には,
これらの対処法がありますので,
早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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