複数の職場で働く労働者の労災について複数の職場の給付基礎日額が合算され、労働時間も通算されます

1 複数の職場で働く労働者の労災における給付基礎日額の合算

 

 

昨日のブログでは、今年9月に公表された

「副業・兼業の促進に関するガイドライン」において、

副業の労働時間が長すぎて本業に支障がでたり、

副業の勤務先が本業と競業するライバル会社であったり、

といった場合以外には、原則として副業が認められることを記載しました。

 

 

この副業の原則解禁にあわせて、労災保険の分野においても

重要な改正がなされましたので、本日は、

複数の職場で働く労働者の労災保険給付について解説します。

 

 

 

まず、雇用保険法等の一部を改正する法律(令和2年法律第14号)

において、労災保険における給付を計算する際に用いる

給付基礎日額については、複数事業で働く労働者を使用している事業

ごとに算定した給付基礎日額に相当する額を

合算した額を基礎とすることになりました。

 

 

給付基礎日額とは、労災事故が発生した日の直前3ヶ月間の

賃金の総支給額を日割り計算したものをいいます。

 

 

労災事故にあい、治療のために会社を休んでいる期間に

支給される休業補償給付や、

労災事故による負傷のために後遺障害が残った場合に

支給される障害補償給付については、

給付基礎日額をもとに支給額が計算されるのです。

 

 

今回の改正では、給付基礎日額を計算するにあたり、

複数の職場における給付基礎日額が合算されることになりましたので、

給付基礎日額の金額が増加することになりますので、

労災事故にあった労働者に支給される

労災保険からの給付が増加することになります。

 

 

この改正は労働者にとって有利です。

 

 

今後は、複数の職場で働いている労働者が労災事故にあった場合には、

労働基準監督署に対して、複数の職場で働いていることを申告して、

複数の職場における給付基礎日額を合算して

計算してもらうようにしてください。

 

 

2 精神障害の労災認定基準において複数の職場における労働時間が通算されます

 

 

次に、今年の8月21日に、精神障害の労災認定基準である

「心理的負荷による精神障害の認定基準について」が改正され、

複数の職場における心理的負荷の強度について、

労働者に有利に改正されました。

 

 

仕事が原因でうつ病を発症して労災申請をする場合、

労働者が体験した出来事の心理的負荷が「強」と判断されれば、

労災と認定されます。

 

 

例えば、1ヶ月に100時間を超える時間外労働をして、

上司から厳しい叱責を受けた場合、総合評価の結果、

心理的負荷は「強」と認定されます。

 

 

精神障害の労災認定基準では、

1ヶ月100時間を超える時間外労働が認められれば、

労災と認定されやすくなります。

 

 

この1ヶ月100時間の時間外労働を判断するにあたり、

異なる事業における労働時間や労働日数は通算することが、

精神障害の労災認定基準に明記されました。

 

 

 

例えば、A社で1ヶ月70時間の時間外労働を行い、

B社で1ヶ月30時間の時間外労働を行った場合、

A社とB社の労働時間が通算されるので、

時間外労働は合計100時間となり、

労災認定されやすくなります。

 

 

今後、長時間労働が原因で、精神障害を発症した場合、

複数の職場で働いていたのであれば、労働基準監督署に対して、

複数の職場の労働時間を調査するようにはたらきかけるのがよいでしょう。

 

 

また、複数の職場における労働時間を立証できるように、

複数の職場のタイムカードをしっかり打刻したり、

スマホの労働時間管理アプリで労働時間を記録するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

「副業・兼業の促進に関するガイドライン」から副業の原則解禁を解説します

1 パラレルキャリア実践における労働者の悩み

 

 

先日、片付けパパこと大村信夫氏の

「仕事の生産性向上とパラレルキャリア実践術」

というオンラインのセミナーを受講しました。

 

 

私は、事務所のデスクを整理整頓するノウハウを学びたいと思い、

受講しました。

 

 

物の住所を決める、帰宅時に片付けをするリセットタイムを設ける、

1週間に1回書類の廃棄をする、デスクには必要なもの以外出さない、

など具体的なノウハウを学ぶことができました。

 

 

 

さて、講師の大村氏は、大手家電メーカーの社員をしながら、

整理収納アドバイザーとしても活躍されており、

本業を持ちながら第二のキャリアを築く

パラレルキャリアを実践しております。

 

 

このパラレルキャリアの実践における質疑応答の中で、

会社が副業を禁止している中で、

どのようにしてパラレルキャリアを実践していくかが議論されました。

 

 

この質疑応答を聞いていて、副業が原則解禁になることの

情報が知れ渡っていないことを感じました。

 

 

そこで、本日は、副業の原則解禁について解説します。

 

 2 副業・兼業の促進に関するガイドライン

 

 

今年9月に、厚生労働省は、

「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改訂しました。

 

 

 https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000665413.pdf

 

 

まず、このガイドラインでは、会社は、就業規則において、

原則として、労働者が副業を行うことができることとし、

例外的に次の①~④の場合には、副業を禁止または制限することができる、

とするように明示しています。

 

 

①労務提供上の支障がある場合

 

 

 ②業務上の秘密が漏洩する場合

 

 

 ③競業により自社の利益が害される場合

 

 

 ④自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

 

 

①の具体例としては、本業の仕事をした後に、

副業の仕事をして、副業の労働時間が長時間となり、

睡眠不足によって、本業の仕事のパファーマンスが低下する場合です。

 

 

②~④については、本業の勤務先の業務と競業となる

ライバル会社で副業をすると、

本業の会社の秘密情報がライバル会社に漏れたり、

本業の会社の顧客をライバル会社にとられたりすることから、

制限されるのです。

 

 

そのため、本業の仕事に支障がでない範囲で、

競業以外の会社や事業主のもとで副業する分には、

問題ないことになります。

 

 

 

また、仮に、会社の就業規則では、以前として、

副業が禁止になっていても、

労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、

労働者の自由なので、上記①~④の場合に該当しない限り、

職場秩序を乱したことにならず、形式的に、

就業規則に違反するとしても、

懲戒処分は認められないことになります。

 

 

さらに、労働者が、会社に対して、

副業に関する相談をしことによって、

不利益な取扱いをすることも許されません。

 

 

3 労働時間の通算

 

 

会社が副業を原則解禁するにあたり、

気をつけるべきポイントとしては、

本業における労働時間と副業における労働時間が通算されるので、

残業時間の罰則付き上限規制に抵触しないようにする必要があります。

 

 

労働基準法38条1項には、

「労働時間は、事業場をことにする場合においても、

労働時間に関する規定の適用については通算する」

と規定されており、会社は、

本業の労働時間と副業の労働時間を通算して管理する必要があるのです。

 

 

今年の4月から全ての会社において、

1ヶ月の残業時間が100時間未満、

2ヶ月から6ヶ月の各平均残業時間が80時間を超えてはならず、

これに違反した場合には、懲役6月以下または30万円以下の罰金

の刑事罰が科せられます。

 

 

そのため、会社は、本業の労働時間と副業の労働時間を把握して、

上記の残業時間の罰則付き上限規制に違反しないように、

労働時間を管理する必要があるのです。

 

 

また、会社は、労働者に対して、

労働者の生命と身体の安全を確保するために

必要な配慮をすべきという安全配慮義務を負っているので、

副業をすることによって、労働者が長時間労働に陥らないように、

労働時間を適切に管理して、

労働者の健康状態に問題が生じた場合には、

適切な措置をとらなければなりません。

 

 

まとめますと、労働者としては、上記①~④に気をつけて、

健康を害しないように、副業での労働時間を調整すれば、

パラレルキャリアを実践するための副業が可能となるわけです。

 

 

くれぐれも、本業と副業とで働き過ぎになって、

健康を害さないようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ワタミの残業代未払い問題は管理監督者が原因か?会社から管理監督者と言われても未払残業代請求をあきらめない

1 ワタミの残業代未払い問題

 

 

先日のブログで、ワタミの175時間の時間外労働についての、

労災認定の解説をしました。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/rousai/202010079712.html

 

 

本日は、ワタミの残業代未払いの問題をもとに、

残業代請求の解説をします。

 

 

報道によりますと、弁当宅配事業のワタミの宅食の

女性営業所長に対する残業代が未払いであったとして、

高崎労働基準監督署がワタミに対して、是正勧告をしたとのことです。

 

 

https://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye4093105.html

 

 

175時間の時間外労働をしていたのに、

残業代が未払いであったことに、

多くの方は、疑問を抱くと思いますが、

未払残業代請求事件ではよくあることです。

 

 

 

2 労働基準法41条2号の管理監督者とは

 

 

労働基準法41条2号の管理監督者に該当すれば、

残業代を支払わなくてよいことになっているので、

経営者が、労働基準法41条2号の適用を誤り、

営業所長などのように立場が上の労働者に対しては、

役職手当などが定額で支払われていて、

それ以外に残業代を支払わなくてよい

取扱にしていることがよくあります。

 

 

しかし、労働基準法41条2号の管理監督者に該当する労働者は、

ほとんどおらず、多くの会社では、違法に適用されていて、

労働基準法41条2号の管理監督者ではない労働者も、

管理監督者であるとして、違法に残業代が未払いとなっているのです。

 

 

管理監督者ではない労働者に対して、

残業代を支払わないことは違法なので、

労働者が、会社に対して、未払残業代を請求すれば、

会社は、未払残業代を支払わなければならないのです。

 

 

それでは、どのような労働者であれば、

労働基準法41条2号の管理監督者といえるのでしょうか。

 

 

3 管理監督者の判断要素

 

 

労働基準法41条2号の管理監督者に該当するかを判断する際には、

以下の3つの要素を総合考慮します。

 

 

①事業主の経営上の決定に参画し、

労務管理上の決定権限を有していること(経営者との一体性)

 

 

②自己の労働時間についての裁量を有していること(労働時間の裁量)

 

 

③管理監督者にふさわしい賃金等の待遇を得ていること

 

 

①については、当該労働者が会社の経営に関する

決定過程に関与しているか、採用や人事考課などの

人事権限が与えられているか、

現場作業にどれくらい従事していたかが検討されます。

 

 

②については、タイムカード等によって

出退勤の管理がされていたかが検討されます。

 

 

今回のワタミのケースにあてはめますと、

①この営業所長は、ワタミの経営には関与しておらず、

配達員の業務管理以外にも、配達の仕事を多く担当していたことから、

経営者との一体性は認められません。

 

 

 

②この営業所長は、配達員が急に仕事を休んだ時に

代役で配達をすることが多く、休みがとれないことが多かったので、

労働時間の裁量はなかったといえます。

 

 

③この営業所長の月額の賃金は26万円と低額であり、

管理監督者にふさわしい賃金とはいえません。

 

 

よって、この営業所長は、管理監督者ではないので、

ワタミに対して、未払残業代を請求できることになります。

 

 

4 労働時間の適正把握義務

 

 

もう一つ、報道によりますと、この営業所長は、

休日に勤務したはずなのに、エリアマネージャーから、

休日勤務の記録を削除されたようです。

 

 

「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき

措置に関するガイドライン」には、会社は、

労働時間を適正に把握するなど労働時間を適切に管理する義務

を負うことが規定されています。

 

 

そのため、会社は、労働者の労働時間を正確に記録しなければならず、

当たり前ですが、勤怠記録を改ざんすることはあってはならないことです。

 

 

ワタミのような大手企業でも、いまだに、

残業代が未払いなどの労働基準法違反がありますので、

地方の中小企業でも、残業代の未払いが多いのが現実です。

 

 

私の経験上、残業代が未払いの会社に対して、

未払残業代を請求すれば認められることが多いので、

未払残業代の請求を思い立った場合には、

弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ワタミにおける175時間の残業と精神障害の労災申請

1 ワタミにおける長時間労働

 

 

外食大手のワタミ株式会社の弁当宅配事業「ワタミの宅食」の

営業所長に対する残業代の未払いがあったとして、

高崎労働基準監督署が、ワタミに対して、是正勧告をしたようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN9Y6WKMN9YULFA047.html

 

 

報道によりますと、この営業所長は、

長時間労働が原因で精神疾患を発症したようで、

発症前1ヶ月の残業時間は175.5時間もあり、

27日連続勤務だったようです。

 

 

ワタミについては、2008年に女性社員が過労自殺をして、

過酷な労働実態が明らかとなり、ブラック企業というバッシングを受けて、

大問題になりました。

 

 

 

そのワタミについて、再び、

過酷な長時間労働の実態が明らかとなったのであり、

非常に残念です。

 

 

なお、今回のワタミの長時間労働と残業代の未払いについては、

こちらの記事が詳しいです。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200928-00200433/

 

 

この営業所長は、現在、精神疾患が原因で、休職しているようで、

精神疾患を発症したのは、長時間労働が原因であるとして、

労災申請をしているようです。

 

 

本日は、この営業所長の労災申請について検討します。

 

 

2 精神障害の労災認定基準

 

 

長時間労働やパワハラによって、

労働者に強い心理的負荷(ストレス)がかかり、

精神疾患を発症した場合、労災保険を利用できないかを検討します。

 

 

うつ病などの精神疾患を発症した場合、

回復するのに長期間かかることが多いので、

その間の治療費や会社を休んでいる期間の休業補償が、

労災保険から支給されるので、安心して治療に専念できるのです。

 

 

仕事による心理的負荷によって精神疾患を発症したとして、

労災と認定されるためには、厚生労働省が公表している、

精神障害の労災認定基準に記載されている要件を満たす必要があります。

 

 

精神障害の労災認定基準の要件とは次の3つです。

 

 

①対象疾病である精神障害を発病していること

 

 

②対象疾病の発病前おおむね6ヶ月の間に、

業務による強い心理的負荷か認められること

 

 

③業務以外の心理的負荷及び個体側要因により

対象疾病を発病したとは認められないこと

 

 

実務でよく問題になるのは②でして、

労働者が体験した出来事の心理的負荷が

「強」といえるのかが問題となります。

 

 

3 精神障害の労災認定基準における長時間労働の評価

 

 

精神障害の労災認定基準では、

1週間で40時間を超える時間外労働の数で、

長時間労働の心理的負荷が評価されます。

 

 

まず、精神疾患の発症前1ヶ月間におおむね160時間を超える

長時間労働がある場合、極度の長時間労働として、

心理的負荷は「強」と判断されます。

 

 

 

次に、精神疾患の発症前の連続した2ヶ月間に、

1ヶ月あたりおおむね120時間以上の時間外労働や、

精神疾患の発症前の連続した3ヶ月間に、

1ヶ月あたり100時間以上の時間外労働を行い、

業務内容が通常その程度の労働時間が必要であった場合には、

心理的負荷は「強」と判断されます。

 

 

また、精神疾患の発症前6ヶ月間のどこかに

1ヶ月あたりおおむね100時間以上の時間外労働があり、

心理的負荷の強度が「中」の出来事が1つあれば、

総合評価で心理的負荷が「強」と判断されます。

 

 

例えば、2週間(12日)以上にわたって連続勤務を行った場合には、

心理的負荷の強度が「中」となり、それに加えて、

精神疾患の発症前6ヶ月間のどこかに、

1ヶ月あたり100時間以上の時間外労働があれば、

心理的負荷は「強」と判断されるのです。

 

 

以上を今回のワタミの事件にあてはめますと、この営業所長は、

精神疾患の発症前1ヶ月間に175.5時間の時間外労働をしていたので、

1ヶ月160時間を超える極度の長時間労働をしていたとして、

心理的負荷は「強」と判断されると考えます。

 

 

また、この営業所長は、27日連続で勤務しており、

2週間以上にわたって連続勤務を行ったので、

この出来事の心理的負荷の強度は「中」となり、その他に1ヶ月あたり、

100時間以上の時間外労働が認められるので、

総合評価として心理的負荷は「強」と判断されると考えます。

 

 

結果として、この営業所長の労災申請については、

労災と認定されて、治療費や休業補償が支給されると考えます。

 

 

労災保険からは、慰謝料が支給されませんので、今後、

この営業所長は、労災保険では支給されない損害について、

ワタミに対して、損害賠償請求をすることが考えられます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

自己都合退職の失業手当の給付制限が2ヶ月に短縮されます

1 雇用保険の失業手当

 

 

労働者が会社を退職したときには、

雇用保険から基本手当を受給することができます。

 

 

この基本手当は、一般的に失業手当と言われています。

 

 

 

この失業手当について、今年の10月1日から

重要な改正がありましたので、紹介します。

 

 

まず、失業手当は、離職理由に関係なく、

労働者が離職後最初にハローワークに求職の申し込みをした

日以後において、失業している日が通算7日に満たない間は

支給されません。

 

 

ようするに、失業した労働者がハローワークに失業手当の申請をして、

1週間が経たないと失業手当は支給されないのです。

 

 

これを待機期間といいます。

 

 

この待機期間については、今回は改正されていません。

 

 

2 失業手当の給付制限

 

 

次に、解雇などの会社都合による退職の場合には、

待機期間が経過すれば、失業手当が支給されるのですが、

自分から会社を辞めた自己都合退職の場合には、正当な理由がない限り、

待機期間が終了した後に、さらに3ヶ月間の給付制限がかかります。

 

 

この3ヶ月間の給付制限が、今年の10月1日から、

2ヶ月間に短縮されました。

 

 

https://jsite.mhlw.go.jp/ibaraki-roudoukyoku/content/contents/LL020617-H01.pdf

 

 

これまでは、1週間の待機期間に加えて、

3ヶ月間の給付制限の期間を待たないと

失業手当を受給できなかったのですが、これが2ヶ月間に短縮されて、

失業手当を受給しやすくなるので、労働者にとって有利な改正です。

 

 

もともと、給付制限は、安易な退職を防ぐために設定されたのですが、

転職が多くなり、失業手当の給付をこれまでよりも早く始めて、

安心して再就職活動や資格取得をできるように環境を整備する目的で、

給付制限の期間が短縮されたのです。

 

 

3 自己都合退職における正当な理由とは

 

 

ところで、給付制限がかかるのは、

正当な理由がなく自己都合退職した場合であって、

正当な理由がある自己都合退職の場合には、給付制限がかかりません。

 

 

この正当な理由とは、以下の理由が挙げられています。

 

 

①事業所の倒産

 

 

②大量・相当数の人員整理

 

 

③適用事業所の廃止

 

 

④採用条件と労働条件の著しい相違

 

 

⑤賃金の未払い、遅払いの継続

 

 

⑥賃金額の低下

 

 

⑦過重な時間外労働、

生命身体に関し障害が生じるおそれのある法令違反に対する不改善

 

 

⑧労働者の職種転換に対して、

事業主が当該労働者の職業生活の継続のために必要な配慮を行っていない

 

 

⑨上司、同僚等からの故意の排斥又は著しい冷遇若しくは嫌がらせ

 

 

⑩退職勧奨、希望退職の募集

 

 

⑪全日休業による休業手当の3ヶ月以上の継続的支払い

 

 

⑫事業主の事業内容の法令違反

 

 

⑬被保険者の身体的条件の減退

 

 

⑭妊娠、出産、育児等により退職し、

受給期間延長措置を90日以上受けた

 

 

⑮家庭の事情の急変

 

 

⑯配偶者等との別居生活の継続の困難

 

 

⑰一定の理由による通勤不可能または困難

 

 

実務でよく問題になるのが、⑨のいわゆるパワハラを受けて、

会社にいるのが嫌になって自己都合退職する場合です。

 

 

上記①~⑰の正当な理由があるかについては、

ハローワークが認定しますので、

会社がパワハラはなかったと主張した場合、

労働者がパワハラの事実があったことを証明できなければ、

正当な理由がなかっとされて、給付制限がかかってしまうのです。

 

 

 

パワハラについては、録音がないとパワハラの事実を

証明するのが困難ですので、パワハラを苦に自己都合退職をしても、

正当な理由がないとして、

給付制限がかかってしまうということがあるのです。

 

 

証拠がないために、失業手当について

給付制限がかかるのは酷な話なので、今回の改正で、

給付制限が1ヶ月短縮されたのは、よかったと考えます。

 

 

なお、給付制限が2ヶ月になるのは、

離職から5年間のうち2回までなので、3回目になると、

給付制限は3ヶ月になるので、気をつける必要があります。

 

 

自己都合退職の場合であっても、

上記①~⑰の正当な理由がある場合には、

給付制限がかかりませんので、

給付制限がかからないかについては、

ハローワークに相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

弁護士になったその先のこと

1 弁護士は常に勉強が必要

 

 

私は、弁護士になって、今年で10年目になり、

12月で満10年となります。

 

 

 

様々な事件を経験して、法律知識や制度についての知識は増え、

裁判における相場観が肌感覚でわかり、

事件の見通しをつけられるようになってきました。

 

 

事件を通じて積み重ねられた経験値から、

自分で「これで良い」と決断できる力が身についてきました。

 

 

もっとも、弁護士の取扱う事件には、一つとして同じものはなく、

毎回頭を悩ませるものばかりです。

 

 

そのため、弁護士は、常に学び続けて、

自分の知識をアップデートして、成長していく必要があります。

 

 

自分の弁護士としてのスキルや知識をアップグレードするために、

優秀な方々の仕事術を参考にしています。

 

 

最近では、優秀な弁護士がご自身のノウハウを書籍として

公開していますので、とても参考になります。

 

 

最近出会った書籍でおすすめなのが、

会社法の分野で著名な弁護士である中村直人先生の

弁護士になったその先のこと」という本です。

 

 

 

この本には、新人弁護士が一人前の腕のいい弁護士になるために

必要なノウハウと心構えが記載されており、

私のように10年目の弁護士が読んでも、

とても勉強になりました。

 

 

それでは、この本を読んで得た気づきを3つ、ご紹介します。

 

 

2 片付けは大切です

 

 

1つ目は、事務所のデスクの片付けの重要性です。

 

 

弁護士の仕事で多くを占めるのが、

大量の資料や文献、裁判例を読み、

書面にまとめるという仕事です。

 

 

必然的に読むべき資料が膨れ上がってきますので、

きちんと整理しないと事務所のデスクはすぐに

書類の山になってしまいます。

 

 

そして、優秀な弁護士であっても、

事務所のデスクが整理されていない方がけっこう多い傾向にあります。

 

 

デスクが片付いていないと、資料がなくなるリスクがあり、

その資料を探すために無駄な時間を費やすことになってしまいます。

 

 

私は、年に1,2回ほど、なくした資料を探すために、

無駄な時間を費やしてしまいます。

 

 

このような無駄をなくすためにも、この本には、

「事件記録は、一度に1件しか机に広げない」、

「物がなくなる場所を作らない」

というアイデアが記載されています。

 

 

事件記録を複数デスクに置いておくと、

資料が別の記録にまぎれてしまうリスクがあり、

そうなると、資料を探し出すことが困難になってしまいます。

 

 

また、物がなくなるのは、なくなる場所があるからであり、

一目で見えない物がないスッキリした環境にしておけば、

物はなくならないのです。

 

 

最近では、デスク周りを整理整頓し、

事件記録は1件だけしかデスクに置かないようにしました。

 

 

整理されたデスクで仕事をすると、不思議と気持ちが整い、

仕事がはかどるようになりました。

 

3 重たい仕事からはじめる

 

 

2つ目は、一番重たい仕事からやりはじめることです。

 

 

誰しも、やっかいなことや気が重いことは後回しにしがちです。

 

 

しかし、自分にとって重たい仕事を後回しにしていると、

そのうち時間がなくなり、最悪、時間切れとなって、

信頼を失うことになりかねません。

 

 

とくに、弁護士の仕事は、突発的に依頼が舞い込んできて

 

対処しないといけないことがあるので、ある程度、余裕を持って仕事をしていないといけません。

 

 

そこで、重たい仕事を最初にやっておいて、

ある程度の目処を立てておけば、

自分のスケジュールをコントロールできます。

 

 

重たい仕事から逃げないで、先に手を付けておくのが大切なのです。

 

4 準備書面の書き方

 

 

3つ目は準備書面を書き方です。

 

 

弁護士の仕事で時間がかかるのは、

民事事件でクライアントの主張をまとめた

準備書面を作成するときです。

 

 

この準備書面を書く際のポイントとして、

まずはじっくり調査して、とことん調べたという自信ができてから、

一気に書ききってしまうということです。

 

 

途中で別の仕事をすると、文章が途切れて迫力がなくなるので、

一気に書くことで読み手に説得力のある迫力が生じるのです。

 

 

そして、一旦、準備書面を書いた後に

寝かせる時間を持つことも必要です。

 

 

一度別の仕事をしてから、見直すと、

漏れなどに気づいて、よりよい文章にできるわけです。

 

 

新人弁護士や中堅弁護士にとって、

自分の仕事の方向性を定めるきっかけを与えてくれる良書ですので、

紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社から未払残業代を回収できない場合には社長等の役員に対して損害賠償請求することを検討する

1 会社から未払残業代を回収できないことがあります

 

 

未払残業代請求事件では、裁判をして、

会社に対していくらかの残業代を支払えという、

勝訴判決をもらっても、会社が任意に残業代を支払わないことがあります。

 

 

会社が任意に残業代を支払わない場合、

会社の財産を調査して、預金などの財産がみつかれば、

預金を差し押さえたりして、未払残業代を回収します。

 

 

 

もっとも、会社の預金の差し押さえをしても、

会社に預金がなければ、差し押さえは空振りに終わってしまい、

未払残業代を回収できません。

 

 

また、悪質な会社であれば、財産を隠してしまい、

財産を調査しても、差し押さえるべき財産がみつからないこともあります。

 

 

そうなると、せっかく裁判で勝訴しても、

未払残業代を回収できなくなるという残念な結果になってしまいます。

 

 

2 役員等の第三者に対する損害賠償責任

 

 

このように、会社から未払残業代を回収できないときには、

会社の代表取締役などの役員に対して、損害賠償請求をして、

実質的に未払残業代を回収する方法を検討します。

 

 

会社が未払残業代を支払わないなら、

代表取締役などの役員に代わりに未払残業代を支払ってもらうわけです。

 

 

このときに利用するのが、会社法429条1項の

役員等の第三者に対する損害賠償責任という法律構成です。

 

 

 

役員等の第三者に対する損害賠償責任の趣旨は、

株式会社が経済社会において重要な地位を占めており、

株式会社の活動は、役員等の職務執行に依存していることから、

役員等に法律で定めた特別の責任を課して、

第三者の保護を図ることにあります。

 

 

この第三者には、会社の労働者も含まれます。

 

 

役員等の第三者に対する損害賠償責任が認められるためには、

①役員等が会社に対する任務を懈怠したこと、

②当該任務懈怠について、役員等に悪意または重過失があること、

③第三者に損害が生じたこと、

④損害と任務懈怠との間に相当因果関係があること、

という要件を満たす必要があります。

 

 

3 任務懈怠とは

 

①の任務懈怠とは、役員等が会社の管理・運営を適正に行うことを

確保するために課せられている善管注意義務

(会社法330条、民法644条)や

法令遵守義務(会社法355条)に違反することです。

 

 

善管注意義務とは、役員等は、会社との間で委任関係に立つので、

善良な管理者の注意をもって、委任事務を処理する義務のことを言います。

 

 

ここで、会社が労働者に対して未払残業代を支払わないことが、

役員等の会社に対する任務懈怠に該当するかが問題となります。

 

 

まず、時間外労働に対して残業代を支払うことは、

労働基準法37条で定められた、

会社の労働者に対する基本的な法的義務であり、

会社がこれに違反した場合には、会社は、

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金刑に処せられます

(労働基準法119条1号)。

 

 

そのため、会社の役員等は、会社に対する善管注意義務として、

会社に労働基準法37条を遵守させて、

労働者に対して残業代を支払わせる義務を負っているのです。

 

 

そして、会社が労働者に対して意図的に残業代を支払わない

という事態は、既にそれ自体として、善管注意義務に違反しており、

任務懈怠となります。

 

 

この点については、昭和観光(代表取締役ら割増賃金支払義務)事件の

大阪地裁平成21年1月15日判決(労働判例979号16頁)と、

ブライダル関連会社元経営者ら事件の鳥取地裁平成28年2月19日判決

(労働判例1147号83頁)の裁判例が参考になります。

 

 

次に、②役員等は、残業代を未払であることを認識しているので、

悪意または重過失が認められ、

③労働者に未払残業代が支払われていないという損害が発生しており、

④役員等の任務懈怠と損害の発生との間に

相当因果関係があることになります。

 

 

その結果、労働者は、役員等に対して、

未払残業代相当の損害賠償請求ができることになります。

 

 

会社に財産がなくても、代表取締役などの役員等が財産を持っていれば、

役員等の財産から未払残業代を回収することができるのです。

 

 

回収の場面では、あらゆる方法を考えて実践することが重要になります。

 

 

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