自分を仕事にする生き方2~自信と成長~

昨日に引き続き,はあちゅう氏の「自分を仕事にする生き方

という本のアウトプットを行います。

 

 

 

はあちゅう氏は,この本の中で,

自信について,次のように記載しています。

 

 

「自信があればあるで,なければないで叩かれる世の中。・・・

大事なのは完全無欠の自分になることではなくて,

不完全な自分のまま理想に向かって努力すること」

 

 

仕事も家庭生活も全てがうまくいっている人は,

なかなかいないと思います。

 

 

そういう世の中において,不完全な自分を受け入れ,

理想の自分に近づくために努力することが

自信につながるのだと思います。

 

 

 

不完全さは伸びしろなわけです。

 

 

はあちゅう氏は,自信をつけるための

3つの方法を提唱しています。

 

 

1つ目は,よく寝て食べること。

 

 

人間は,健康でないと,何をするにしても

悲観的になってしまうので,まずは,よく寝て食べて,

自分のコンディションを整えるのが重要になります。

 

 

2つ目は,自信のある人を周りに置くこと。

 

 

朱に交われば赤くなるように,

自信のある人と交流していると,

自分に根拠のない自信が生まれてくるわけです。

 

 

自分が成長していくためには,

どのような環境に身を置き,

どのような人と交流していくのかを考えることが重要ですね。

 

 

 3つ目は,常に新しいことに挑戦すること。

 

 

自信は,今までできなかったことが

自然にできたときに湧いてくるので,

いろいろなことに挑戦している人は,

自信がついていくのです。

 

 

 

次に,はあちゅう氏は,いろいろな自分を使い分ける

ことについて説いています。

 

 

仕事における自分と家族の一員としての自分は,

役割が異なっていることもあり,別の自分であります。

 

 

でも,それは普通のことであり,

誰の前でも同じ自分であれば,

相手に不快感を与えることがあると思います。

 

 

「自分は常に更新され,新しい仕事や新しい人間関係の中では

新しい自分に出会うことになる」

 

 

そう考えると,自分とは何かについて深く悩む必要はなく,

理想の自分」を意識して立ち振る舞えばいいのです。

 

 

そして,はあちゅう氏は,自分のレベルを上げるためには,

物事を深く考える以外に方法はないと説いています。

 

 

物事を深く考えるためには,「考えるきっかけ

にたくさん出会うことが大切です。

 

 

「考えるきっかけ」をくれるのは,本や人など,

これまでに触れたことがないものです。

 

 

 

本を読むと,著者の考えを必死に理解しようとして考えます。

 

 

人と会うと,会話をするので,

どのような話をすれば,相手が喜んだり,

自分が欲しい情報を教えてくれるのかと,考えます。

 

 

人との出会いや本との出会いが,

人を成長させるのだと思います。

 

 

多数の執筆活動から生まれてきたのであろう,

はあちゅう氏の言葉の結晶は,

読者の心に深く染み込んでいきます。

 

 

私がこれまで読んできたジャンルとは,

異なるジャンルの本であり,

課題図書に指定されていなかったら,

出会っていなかった本だと思います。

 

 

素敵な本を課題図書に指定してくれた,

立花Beブログ塾の主催者の立花岳志先生に感謝です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

自分を仕事にする生き方

立花Beブログ塾の課題図書である,

はあちゅう氏の「自分を仕事にする生き方

という本を読みましたので,アウトプットします。

 

 

 

 

「自分を仕事にする」というタイトルに惹かれて,

いったいどういうことなのだろうと思いながら,読み進めました。

 

 

はあちゅう氏は,読者に対して,

これまでの人生でつくり上げてきた『自分』という武器があります

と説いています。

 

 

「自分という最大の資産をもっと有効活用して,

より楽しく,より豊かに生きていく」

 

 

これが「自分を仕事にする生き方」だというのです。

 

 

自分とは何か,自分の強みは何かを分析し,

自分の強みを掛け合わせて,世の中に役立てて収入を得て,

自分の好きなことをして豊かに生きていく,

という意味だと私は解釈しました。

 

 

「出来ることと好きなことをうまく掛け合わせて,

誰かに感謝してもらえることになれば,

それをお金にする手段というのは必ず誰か,

それが得意な人が考えて準備してくれます。

そのために必要なのは,

自分の出来ることと好きなことを正しく理解し,

発信する力なのです。」と,はあちゅう氏は説いています。

 

 

 

なるほど,自分が好きなことや得意なことを発信していると,

誰かが自分のことをみつけてくれて,評価してくれて,

そこから新しい仕事が生まれていくわけです。

 

 

私は,1年間,ブログで,自分の得意分野である労働事件について

情報発信していたところ,最近,

専門誌で事件の執筆の依頼を受けたり,

セミナー講師の依頼を受けたり,

ネット記事の原稿の依頼を受けたりと,

新しい仕事が飛び込んでくるようになりました。

 

 

だから,はあちゅう氏がおっしゃることがよくわかります。

 

 

自分の得意なことを毎日ブログで情報発信しているだけなのに,

世の中が自分のことを評価してくれて,

新しい仕事が舞い込んでくるのです。

 

 

不思議なことなのですが,現実として起きているのです。

 

 

そして,私が,ここでポイントだと思ったのは,

「自分のどんな要素がどう人の役に立つかは,誰かが決めてくれる」

ということです。

 

 

自分が当たり前にできていることは,案外,

他の人にとってすごいことだというのはよくあります。

 

 

しかし,自分にとって当たり前すぎるので,

自分では自分のすごさに気づけないものです。

 

 

自分の「人と違う部分」

他人に指摘されないと気づけないわけです。

 

 

そのため,自分の好きなこと,得意なことを発信していれば,

誰かが勝手に自分を見つけてくれて,自分を評価して,

仕事を依頼してくれるのです。

 

 

 

そして,自分の好きや得意をお金に換えるためには,

お金に換えてくれる人とつながるために,

自分を人前にさらすことが重要になります。

 

 

勇気をもって,自分の好きや得意を情報発信して,

自分を人前にさらすのです。

 

 

私も,2年前に初めてブログを開設したとき,

弁護士がブログ書いて,クレームが来たらどうしようと,

心配していたことがありましたが,

それは単なる自意識過剰で,最初は,誰も見てくれません。

 

 

毎日ブログを更新するようになって,

自分のブログが人の役に立っていると分かってから,

自分を人前にさらけ出すことが怖くなくなりました。

 

 

何かをするとき誰もが不安になるのですが,

最初の一歩を踏み出すと,

意外となんてことはないことが多いのだと思います。

 

 

ブログを毎日更新できている今読むと,

この本に書いてあることにすごく共感できます。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

日本相撲協会の危機管理政策顧問・常任特別顧問は労働者か?

2019年の大相撲の夏場所において,

富山県出身の朝乃山関が優勝しました。

 

 

北陸出身の力士が本場所で優勝したニュースに,

同じ北陸出身の者として勇気をもらいました。

 

 

さて,私の手元に届く判例集を見ていると,日本相撲協会との間で,

労働契約が成立していたかが争われた事件の裁判例が掲載されていたので,

紹介したいと思います

(東京地裁平成30年8月28日判決・判例時報2393・2394合併号)

 

 

 

この事件では,日本相撲協会との間で,

事務局全般の助言と指導,理事長の特命業務,

危機管理に関する業務を委託する業務委託契約を

締結した会社の代表者が(原告),

危機管理政策顧問や常任特別顧問という役職で活動していましたが,

日本相撲協会に雇用されていたのに解雇されたとして,

労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めました。

 

 

労働契約上の権利を有する地位が認められるためには,

ある団体とある人物との間で,

労働契約が成立していることが必要になります。

 

 

労働契約の成立について,労働契約法6条では,

「労働契約は,労働者が使用者に使用されて労働し,

使用者がこれに対して賃金を支払うことについて,

労働者及び使用者が合意することによって成立する」

と規定されています。

 

 

そのため,就労時間やそれに対する賃金額及びその支払方法などの

具体的な労働条件が労働契約の内容として,

労働者と使用者が合意することで,

労働契約が成立するのです。

 

 

本件事件では,日本相撲協会と原告との間で,

労働条件を記載した労働契約書は取り交わされておらず,

賃金や所定労働時間などの労働条件が特定されておらず,

就業規則で定められた職員採用の手続きもとられていないことから,

明示的に具体的な労働条件を定めた労働契約は

締結されていないと判断されました。

 

 

賃金や労働時間といった重要な労働条件が何も決まっていないと,

労働契約とは認められないということです。

 

 

また,前述した労働契約法6条の条文の規定から,

労働者といえるためには,

①使用者の指揮監督下において労務の提供をし,

②労務提供に対する対償を支払われる者という

「使用従属性の要件」を満たす必要があります。

 

 

原告は,①日本相撲協会の意向に沿わない活動をしたりしていたので,

日本相撲協会の指揮監督の下に置かれておらず,

②報酬が月額144万円と日本相撲協会の理事長と

同じ金額を受け取っているものの,

労務提供に対する対償として高額であることから,

日本相撲協会の指揮命令下において仕事をしているものではなく,

労働者と認められませんでした。

 

 

自分の好き勝手に働いていたのでは,

使用者の指揮監督に応じていない,

独立した個人事業主といえますし,

報酬が通常の労働者と比較して高額すぎると,

個人事業主と判断されやすくなります。

 

 

労働契約が成立する際の考慮要素や,

労働者と認められるための基本的な要素について,

学べる事案だと思い,紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

プログラマーに専門業務型裁量労働制が適用されるのか?

昨日,建築士の資格を持たずに,

建築士の仕事の補助をしている労働者には,

専門業務型裁量労働制が適用されないことの解説をしました。

 

 

本日は,プログラマーに専門業務型裁量労働制が

適用されるのかが争われたエーディーディー事件を紹介します

(京都地裁平成23年10月31日判決・労働判例1041号49頁)。

 

 

この事件は,2019年6月4日のブログで紹介した,

会社の労働者に対する損害賠償請求が否定された事件と同じです。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201906048131.html

 

 

専門業務型裁量労働制の対象業務は,

労働基準法38条の3第1項1号で,

「業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する

労働者の裁量にゆだねる必要があるため,

当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し

使用者が具体的な指示をすることが困難なものとして

厚生労働省令で定める業務」と規定されています。

 

 

 

 

そして,この「厚生労働省令で定める業務」が

労働基準法施行規則24条の2の2の第2項で規定されています。

 

 

労働基準法施行規則24条の2の2の第2項には,

専門業務型裁量労働制の対象業務が記載されており,

その2号において,「情報システム

(電子計算機を使用して行う情報処理を目的として

複数の要素が組み合わされた体系であって

プログラムの設計の基本となるものをいう。)

の分析又は設計の業務」が挙げられています。

 

 

ただ,この条文を読んだだけでは,

情報システムの分析又は設計の業務」とは,

具体的にどのような業務なのかがよくわかりません。

 

 

東京労働局が作成した「専門業務型裁量労働制の適正な導入のために

というパンフレットに,「情報システムの分析又は設計の業務」

の具体的な内容が記載されています。

 

 

 

 

まず,「情報システム」とは,

「情報の整理,加工,蓄積,検索等の処理を目的として,

コンピュータのハードウェア,ソフトウェア,

通信ネットワーク,データを処理するプログラム等が

構成要素として組み合わされた体系をいうものであること」,

と記載されています。

 

 

次に,「情報処理システムの分析又は設計の業務」は,

「①ニーズの把握,ユーザーの業務分析等に基づいた

最適な業務処理方法の決定及びその方法に適合する機種の選定,

②入出力設計,処理手順の設計等アプリケーション・システムの設計,

機械構成の細部の決定,ソフトウェアの決定等,

③システム稼働後のシステムの評価,問題点の発見,

その解決のための改善等の業務をいうものであること」,

と記載されています。

 

 

そして,「プログラムの設計又は作成を行うプログラマーは

含まれないものであること」と記載されています。

 

 

正直,この定義を読んだだけでは,どのような業務が

「情報処理システムの分析又は設計の業務」

に該当するのかよくわかりませんが,単なるプログラマーには,

専門業務型裁量労働制が適用されないことだけはわかります。

 

 

 

 

さて,この事件の判決では,「情報処理システムの分析又は設計の業務」

が専門業務型裁量労働制の対象業務となっている趣旨として,

システム設計というものが,システム全体を設計する技術者にとって,

どこから手をつけ,どのように進行させるのかにつき

裁量性が認められるからであることを挙げています。

 

 

ところが,この事件の労働者は,

下請会社でシステム設計の一部を担当し,

かなりタイトな納期を設定されていたことから,

専門業務型裁量労働制が適用されるべき

業務遂行の裁量性がかなりなくなっていたとして,

この事件の労働者の業務は,

「情報処理システムの分析又は設計の業務」とはいえず,

専門業務型裁量労働制の要件を満たしていないと判断されて,

約567万円もの未払残業代の請求が認められたのです。

 

 

そもそも,プログラミングについては,

その性質上,裁量性の高い業務ではないので,

専門業務型裁量労働制の対象業務に含まれないと解されています。

 

 

このように,専門業務型裁量労働制の対象業務ではない

業務に従事しているにもかかわらず,

違法に専門業務型裁量労働制が適用されているケースがありますので,

専門業務型裁量労働制が適用されている場合には,

自分の業務が本当に対象業務なのかを

チェックすることが重要だと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

専門業務型裁量労働制における定額働かせ放題の危険性

昨日の続きで,本日は,専門業務型裁量労働制について解説します。

 

 

専門業務型裁量労働制とは,

労働基準法38条の3に基づく制度であり,

業務の性質上,業務遂行の方法,時間配分等を大幅に

労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として,

法令等により定められた19業務の中から,

対象となる業務を労使協定で定めて,

労働者を実際にその業務に就かせた場合,

労使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。

 

 

 

 

具体例で説明しますと,専門業務型裁量労働制が適用されると,

労使協定でみなし時間が8時間に設定されていれば,

実際に1日11時間労働したとしても,

8時間だけ労働したものとみなされて,

8時間を超える3時間分の残業代を

請求することができなくなるのです。

 

 

昨日紹介した朝日新聞の記事に掲載されていた,

建築設計事務所で働いていた女性労働者も,

一定額の時間外手当が支給されているだけで,

定額で働かされ放題にされてしまったようです。

 

 

しかし,専門業務型裁量労働制を適用するためには,

法律で定められている厳格な要件を満たす必要があるのですが,

この女性労働者が勤務していた建築設計事務所は,

専門業務型裁量労働制の要件を満たしていませんでした。

 

 

まず,専門業務型裁量労働制が適用される労働者は,

法令で定められた19の対象業務に限定されます。

 

 

この女性労働者の場合,

建築士(一級建築士,二級建築士及び木造建築士)の業務

に該当するとして,専門業務型裁量労働制が適用されていましたが,

「建築士の業務」とは資格を持った建築士に適用されるものであり,

建築士の指示に基づいて専ら製図を行うなど

補助的業務を行う者は含まれませんので,

建築士の資格がないこの女性労働者には,

専門業務型裁量労働制を適用できないのです。

 

 

 

 

次に,労働基準法38条の3第1項1号に

業務の性質上その遂行の方法を大幅に当該業務に従事する

労働者の裁量にゆだねる必要があるため,

当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し

使用者が具体的な指示をすることが困難なもの

が対象業務になると規定されているのですが,

この女性労働者は新入社員であり,

上司との打ち合わせや意見をもとに動くしかないので,

裁量が認められておらず,この要件を満たさないことになります。

 

 

結果として,この女性労働者は,裁量労働制ユニオンに加入し,

会社と団体交渉を行い,未払残業代の支払いをしてもらったようです。

 

 

http://bku.jp/sairyo/(裁量労働制ユニオンのホームページ)

 

 

 

このように,専門業務型裁量労働制は,

定額働かせ放題になる危険をはらんだ制度なのです。

 

 

そのような危険な制度であるがゆえに,

専門業務型裁量労働制を適用するためには,

労働基準法で定められた厳格な要件を全て満たす必要があるのですが,

大企業であっても,要件を満たさずに,

専門業務型裁量労働制を適用していることがあります。

 

 

もし,専門業務型裁量労働制が適用されている場合,

労働基準法の要件を全て満たしているのかをよくチェックして,

不当に残業代が支払われていない状態になっていないか

について検討することをおすすめします。

 

 

専門業務型裁量労働制が労働基準法の要件を満たしていない場合,

専門業務型裁量労働制は無効となり,

労働基準法で計算した未払残業代を請求することができます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

 

建築設計事務所における過酷な長時間労働

5月27日の朝日新聞に「裁量労働制 定額働かせ放題の闇

という大変興味深い記事がありましたので紹介します。

 

 

https://www.asahi.com/articles/DA3S14031264.html

 

 

この記事によると,大学と大学院で建築を学んだ20代女性が

東京都内の建築設計事務所に入社したところ,

過酷な長時間労働を強いられて,

適応障害を発症して労災と認定されたようです。

 

 

 

 

過酷な長時間労働とは,記事によると次のようなものでした。

 

 

①26日間連続勤務

 ②1日22時間30分勤務(休憩2時間)

 ③9ヶ月連続で1ヶ月の残業が100時間超

 ④1ヶ月の残業が180時間

 ⑤帰宅なしで2日間で30時間勤務

 

 

精神障害の労災認定基準である「心理的負荷による精神障害の認定基準」

の別表1の「業務による心理的負荷評価表」には,

具体的な出来事ごとに労働者が受けるであろう

心理的負荷の強度が記載されており,

上記①~⑤をあてはめると次のようになります。

 

 

①26日間連続勤務→

2週間以上にわたって連続勤務を行ったに該当し,

心理的負荷の強度は「中」となります。

 

 

連続勤務が1ヶ月以上になると心理的負荷の強度は「強」となります。

 

 

そもそも,労働基準法35条において,会社は,労働者に対して,

1週間に1回休日を与えなければならないので,

①26日間連続勤務は,明らかに労働基準法違反となります。

 

 

②1日22時間30分勤務(休憩2時間),

⑤帰宅なしで2日間で30時間勤務→

労災認定基準は,1ヶ月の労働時間で評価するので,

これだけで心理的負荷の強度は判断されませんが,

1日8時間労働が原則であり,それを大幅に超えるものであり,

過酷な長時間労働を物語っています。

 

 

 

 

③9ヶ月連続で1ヶ月の残業が100時間超→

発症直前の連続した3ヶ月間に,

1月当たりおおむね100時間以上の時間外労働を行い,

その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであれば,

心理的負荷の強度は「強」となります。

 

 

④1ヶ月の残業が180時間→

発症直前の1ヶ月におおむね160時間を超えるような

時間外労働を行った場合,「極度の長時間労働」

として心理的負荷の強度は「強」となります。

 

 

このように,①~⑤の労働実態であれば,労災と認定されるのです。

 

 

では,なぜ,このような過酷な長時間労働が

許されてしまったのでしょうか。

 

 

それは,この女性労働者に

専門業務型裁量労働制が適用されていたからです。

 

 

 

 

長くなりますので,専門業務型裁量労働制

についての解説は,明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社から労働者に対する損害賠償請求が否定される場合とは?

労働者が仕事でミスをして会社から損害賠償請求された場合,

損害賠償請求を免れることはできるのでしょうか。

 

 

本日は,会社の労働者に対する損害賠償請求が否定された

エーディーディー事件を紹介します

(京都地裁平成23年10月31日判決・労働判例1041号49頁)。

 

 

この事件では,被告労働者のミスなどによって,

カスタマイズ業務に不具合が生じることが多くなり,

その不具合を通知することを被告労働者が失念したりしました。

 

 

 

 

その結果,原告会社の発注量が減少し,売上が低下しました。

 

 

被告労働者は,売上の低下やノルマ未達成について,

上司から叱責されて,自責の念に駆られて,

うつ病に罹患し,労災と認められました。

 

 

原告会社は,被告労働者に対して,

業務の不適切実施,業務未達などを根拠に,

約2034万円の損害賠償請求をしました。

 

 

さて,会社から労働者に対する損害賠償請求ですが,

そう簡単に全額の損害賠償請求が認められるわけではなく,

請求が否定されたり,減額されることがあります。

 

 

その理由の1つとして,労働者のミスはもともと

会社経営の運営自体に付随,内在化するものである

という報償責任が挙げられます。

 

 

もう1つの理由として,労働者に対する業務命令内容は

会社が決定するものであり,その業務命令の履行に際し

発生するであろうミスは,業務命令内容自体に内在するものとして

会社がリスクを負うべきという危険責任が挙げられます。

 

 

 

この報償責任と危険責任を根拠に,最高裁は,

その事業の性格,規模,施設の状況,

労働者の業務の内容,労働条件,勤務態度,

加害行為の態様,加害行為の予防若しくは

損害の分散についての使用者の配慮の程度

その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担

という見地から信義則上相当と認められる限度において」,

会社の労働者に対する損害賠償請求を制限できるとしました。

 

 

本件事件において,被告労働者にミスがあり売上は減少したものの,

被告労働者に故意や重過失は認められませんでした。

 

 

また,会社としては,売上減少やノルマ未達などは,

ある程度予想できることであり,これらは,

本来的には会社が負担するべきリスクであるとされました。

 

 

そして,原告会社が主張する損害額は2000万円を超えるものであり,

被告労働者が受領してきた賃金額に比較してあまりに高額であり,

労働者が負担すべきものとは考えられないと判断されました。

 

 

その結果,原告会社が主張する損害は,

取引関係にある企業同士で通常あり得るトラブルであり,

それを労働者個人に負担させることは相当でないとして,

原告会社の損害賠償請求は認められませんでした。

 

 

この判決の背景には,被告労働者が過酷な状況下で働かされた上に,

うつ病に罹患し,さらに,多額の損害賠償請求をされたことについて,

あまりにも被告労働者が不憫であり,

このような損害賠償請求は認められるべきではないという

裁判官の価値判断がはたらいたと考えられます。

 

 

 

 

この判決からは,労働者のミスについて,

故意や重過失がない,単なる過失の場合には,

会社の損害が売上減少などであり,

労働者が過酷な労働条件で働かされていたなどの事情があれば,

会社からの損害賠償請求が否定される可能性があることがわかります。

 

 

会社から損害賠償請求された場合,損害賠償請求が否定されたり,

減額されることがありえますので,

早目に弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

 

労働安全衛生法等から安全配慮義務違反の内容を特定する

本日は,昨日紹介した化学メーカーC社事件の

安全配慮義務違反について説明します。

(東京地裁平成30年7月2日判決・労働判例1195号64頁)。

 

 

労災の損害賠償請求において,

会社には安全配慮義務違反が認められるのかが

大きな争点となります。

 

 

安全配慮義務違反とは,会社は,

自己が使用する労働者の生命・健康を危険から

保護するように配慮する義務を負っているところ,

その義務に違反することです(労働契約法5条)。

 

 

 

この安全配慮義務は,抽象的な概念であり,

当該事件において,会社は,どのような安全配慮義務を

負っていたのかについて,労働者は,

安全配慮義務の内容を具体的に特定して,

その義務違反に該当する事実を,

主張立証していかなければなりません。

 

 

安全配慮義務の内容を具体的に特定する際に

役立つのが労働安全衛生法という法律です。

 

 

労働安全衛生法には,労働者が安全と健康を確保して,

快適な職場環境で働けるために,国が会社に対して,

様々な遵守事項を定めています。

 

 

そのため,会社が労働安全衛生法で示された基準を遵守せず,

あるいは違反している事実がある場合には,

規制の趣旨や具体的な状況下において,

安全配慮義務違反が認められる傾向にあります。

 

 

 

 

化学メーカーC社事件においては,

次の3つの安全配慮義務違反が認められました。

 

 

1つ目は,局所排気装置等設置義務違反です。

 

 

労働安全衛生法22条及び有機溶剤中毒予防規則5条により,

会社には,原告労働者が検査分析業務を行っていた研究室に,

局所排気装置を設置する義務を負っていたのですが,

局所排気装置は設置されず,会社はその状態を放置していました。

 

 

この法令の趣旨は,労働者の健康被害を防止する点にあること,

有機溶剤の毒性が人体に致命的に作用することがあることから,

会社には,安全配慮義務として,

局所排気装置等設置義務違反を負い,

その違反が認められました。

 

 

 

2つ目は,保護具支給義務違反です。

 

 

有機溶剤中毒予防規則32条2号,33条1項1号において,

会社は,労働者に対して,送気マスク又は

有機ガス用防毒マスクを使用させる義務を負っています。

 

 

この趣旨は,労働者の健康被害を防止すること,

有機溶剤の毒性が人体に致命的に作用することがあることから,

送気マスク又は有機ガス用防毒マスクを使用させるという

保護具支給義務は,安全配慮義務の内容となり,

その義務違反が認められました。

 

 

3つ目は,作業環境測定義務です。

 

 

労働安全衛生法65条,労働安全衛生法施行令21条10号,有

機溶剤中毒予防規則28条により,会社は,

有機溶剤業務を行う屋内作業場において,

6ヶ月以内ごとに1回,定期に,

有機溶剤の濃度を測定し,

測定結果を3年間保存する義務を負っています。

 

 

この作業環境測定は,作業環境の現状を認識し,

作業環境を改善する端緒になるとともに,

作業環境の改善のためにとられた措置の効果を

確認する機能を有するので,

作業環境測定義務も安全配慮義務の内容となり,

その義務違反が認められました。

 

 

以上の3つの安全配慮義務違反が認められて,

合計1995万円の損害賠償請求が認められました。

 

 

このように,労災の損害賠償請求においては,

会社の安全配慮義務違反を検討する際に,

労働安全衛生法や会社が遵守すべき労働法の規制を調査して,

安全配慮義務の内容を具体的に特定することが重要になります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

化学メーカーにおける検査分析業務と化学物質過敏症の因果関係

化学メーカーに勤務する労働者が,仕事上,

大量の化学物質に曝露して,体調を悪化させてしまった場合,

労働者は,会社に対して,どのような請求ができるのでしょうか。

 

 

本日は,有機溶剤や有害化学物質が発散する劣悪な労働環境で

検査分析業務を強いられたことで,

有機溶剤中毒及び化学物質過敏症に罹患したとして,

会社に対して,安全配慮義務違反を理由とする損害賠償請求をした

化学メーカーC社事件を紹介します

(東京地裁平成30年7月2日判決・労働判例1195号64頁)。

 

 

この事件の原告労働者は,石けん,シャンプー,化粧品,洗剤

などの油脂加工製品の製造販売をする化学メーカーに勤務していたときに,

工場の研究棟において,検査分析業務を行う際に,

試料の前処理や機材の洗浄のために,

クロロホルムやメタノールなどの有機溶剤や化学物質を使用していました。

 

 

 

 

原告労働者が働いていた研究室には,

局所排気装置が設置されていなかったり,

有機ガス用防毒マスクが支給されていませんでした。

 

 

そのような状況において,原告労働者は,

有機溶剤や化学物質を使用する検査分析業務に

約8年間従事していたところ,

頭痛,微熱,嘔吐,咳,蕁麻疹,下痢,全身の倦怠

などの症状が発症しました。

 

 

医師からは,有機溶剤中毒及び化学物質過敏症

に罹患しているという診断が出されました。

 

 

化学物質過敏症とは,過去に大量の化学物質を一度に曝露された後,

または長期間慢性的に化学物質に再接触した際にみられる

不快な臨床症状のことのようで,

発症メカニズムの解明には至っておらず,

決め手となる診断手法も決まっていないようです。

 

 

有機溶剤中毒とは,有機溶剤が人体の特定の器官に蓄積して,

中枢神経障害,末梢神経障害,自律神経障害が発症することのようです。

 

 

この事件では,原告労働者が,検査分析業務に従事していたことで,

化学物質過敏症及び有機溶剤中毒に罹患したといえるのかという

因果関係が争点になりました。

 

 

この争点について,判決では,原告労働者の検査分析業務において,

クロロホルムやノルマルヘキサンなどの有機溶剤が大量に使用されており,

再現実験の結果から,有機溶剤の管理濃度が

許容限度を超えていたことから,原告労働者は,長期間にわたって,

相当多量の有機溶剤に曝露されていたと認定されました。

 

 

 

そして,化学物質過敏症の病態が未だに完全に解明されていないものの,

原告労働者の症状が化学物質過敏症の症状と合致しており,

複数の医師の診断があることから,原告労働者は,

検査分析業務に従事する過程で大量の化学物質の曝露を受けて,

有機溶剤中毒及び化学物質過敏症に罹患したと判断されました。

 

 

この事件では,原告労働者の作業環境における

有機溶剤の濃度を測定するために,再現実験が実施され,

そこでの結果が,因果関係の判断に大きな影響を与えたと考えられます。

 

 

このような化学物質に関する再現実験は,専門性も高く,

費用も高額になりそうなので,どのようにして実施したのかが

大変興味深いです。

 

 

長くなってしまったので,安全配慮義務違反については,

明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラを規制する法改正が実現しました!

5月29日,職場でのパワハラを防止するために,

企業に相談窓口の設置などの防止策を義務づける

改正労働施策総合推進法が成立しました。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/content/000486035.pdf

(改正法の条文はこちらのURLにアップロードされています)

 

 

ようやく,パワハラを規制する法律が成立し,

今後,パワハラを抑制していく機運が高まっていきそうです。

 

 

本日は,5月29日に成立したパワハラを規制する

法改正について説明します。

 

 

改正労働施策総合推進法の30条の2第1項において,

パワハラの定義が「職場において行われる優越的な関係を背景とした

言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

その雇用する労働者の就業環境が害されること」と定められました。

 

 

 

 

これまでは,仕事上の指導との線引が難しいとして,

パワハラの定義が定められていなかったのですが,ようやく,

パワハラの定義が法律で定められたのです。

 

 

今後は,職場におけるある言動が,

①優越的な関係を背景とするもの,

②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの,

③就業環境を害すること,

の3つの要件を満たすかについて,

ケースバイケースで判断していくことになります。

 

 

企業は,パワハラについて,労働者からの相談に応じ,

適切に対応するために必要な体制の整備

その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならなくなります。

 

 

また,企業は,パワハラの相談をした労働者に対して,

解雇その他不利益な取扱をしてはならず,

パワハラについての研修をするように努めなければなりません。

 

 

もっとも,企業が講じなければならない措置の具体的な内容については,

法律に詳細は記載されておらず,今後は,労働政策審議会において,

必要な指針がまとめられていく予定です。

 

 

おそらく,相談窓口の設置,

パワハラ加害者に対する懲戒規定の策定,

パワハラ被害が発生した場合の社内調査体制の整備,

当事者のプライバシーの保護対策など

が指針に記載されることが予想されます。

 

 

 

今回の法改正では,企業に対して,

パワハラを防止するための措置義務を定めているものの,

パワハラ行為そのものを罰則などで直接禁止することはされていません。

 

 

この点について,参議院の附帯決議において,

ハラスメントの根絶に向けて,損害賠償請求の根拠となり得る

ハラスメント行為そのものを禁止する規定の法制化の必要性を含め

検討すること」と記載されたので,今後は,

パワハラを直接規制する法改正が実現することを期待したいです。

 

 

その他にも,参議院の附帯決議では,

取引先や顧客からのカスタマーハラスメントや,

就職活動中の学生に対するセクハラなど,

あらゆるハラスメントに対応することが必要であることが

記載されており,参考になります。

 

 

https://www.rengo-news-agency.com/2019/05/17/%E4%BB%98%E5%B8%AF%E6%B1%BA%E8%AD%B0%E3%81%AE%E5%86%85%E5%AE%B9%E3%81%A7%E4%BF%AE%E6%AD%A3%E3%82%92-%E9%9B%87%E7%94%A8%E5%85%B1%E5%90%8C%E3%82%A2%E3%82%AF%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3-%E3%83%8F%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88%E9%96%A2%E9%80%A3%E6%B3%95%E6%A1%88%E3%81%AB%E6%B3%A8%E6%96%87/

 

 

今回法改正で実現した企業に対するパワハラの防止措置義務は,

大企業は2020年4月から,

中小企業は2022年4月から課されますので,

今後は,パワハラ予防のために研修を実施していく企業が増えていきます。

 

 

私も,パワハラ防止に向けて,

パワハラ予防の研修を実施していきたいと思います。

 

 

 

パワハラを規制する法律がようやく成立しましたので,

これを機にパワハラ予防に取り組む企業が

増えていくことを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。