「#KuToo」運動から労災とパワハラを考える
職場でヒールやパンプスを履くことを強制する風習を見直し,
ヒールやパンプスを履く履かないを選べるようにする
「#KuToo」運動が盛り上がりをみせています。
男である私は,ヒールやパンプスを履いたことがないので
分からないのですが,ヒールやパンプスは見ているだけで,
きっと足が疲れるのだろうなと感じています。
男の感覚としては,つま先立ちで歩いているような気がして,
ふくらはぎの筋肉が疲労するのではないかと思います。
この「#KuToo」運動が盛り上がりをみせている中,
朝日新聞が,制服での接客がある業界の主たる企業に取材したところ,
服装規定やガイドラインなどの社内ルールでヒールの高さなどを
推奨している企業が多いようです。
https://www.asahi.com/articles/ASM6F6Q4MM6FULFA044.html
会社でヒールの高さの推奨例が定められていれば,
それに従わなければならないという同調圧力が生じて,
推奨例のヒールやパンプスを着用することが
事実上義務付けられているように感じます。
また,スニーカーやサンダルを履く場合には,
「異装届」を提出する必要がある会社もあるようです。
さて,本日は,ヒールやパンプスの着用を強制された場合の
労災やパワハラの問題について検討してみます。
まずは,ヒールやパンプスの着用を義務付けられている職場において,
ヒールやパンプスを着用して仕事をしていた女性労働者が
転倒してけがを負った場合に労災と認定されるかを検討してみましょう。
労災保険の適用を受けるためには,
「業務上の負傷」に該当する必要があり,
「業務上」とは,業務遂行性が認められることを前提に
業務起因性が認められることをいいます。
業務遂行性とは,労働者が労働契約に基づき
事業主の支配下にある状態をいいます。
職場でヒールやパンプスを着用して仕事をしていたときに
転倒したのであれば,労働契約に基づき会社の支配下にある状態で
けがをしたといえるので,業務遂行性が認められます。
次に,業務起因性とは,業務が原因となって
当該傷病が発生したことをいい,
業務に内在する危険が現実化したものによると
認められることともいいます。
職場においてヒールやパンプスの着用が義務付けられており,
床が滑りやすいにもかかわらず,会社が靴を履き替えさせないで,
女性労働者が転倒したのであれば,
業務に内在する危険が現実化したといえ,
業務起因性が認められます。
このように,ヒールやパンプスの着用が義務付けられている職場で,
ヒールやパンプスを着用して働いていた女性労働者が
転倒してけがをした場合には,労災と認められる可能性が高いと思います。
次に,ヒールやパンプスの着用を義務付けられて仕事をしていたところ,
外反母趾となった場合に,労災と認定されるかを検討してみましょう。
外反母趾になると,足の親指の先が人差し指のほうにくの字に曲がり,
付け根の関節の内側の突き出したところが痛くなります。
ハイヒールを履いていると外反母趾になりやすいようです。
http://www.yoshino-seikei.jp/hallux.html
外反母趾の原因の一つにハイヒールの着用があるようですが,
他にも先天的な足の形状などの原因があったり,
仕事以外のプライベートな時間においても
ハイヒールを頻繁に着用していたのであれば,
業務起因性が否定される可能性があります。
他方,仕事でのみハイヒールを着用していて,
他に先天的な足の形状に問題がないなどの場合には,
業務起因性が認められる可能性があります。
外反母趾の場合に労災を申請する場合には,
慎重に検討する必要があります。
最後に,健康上の理由などでヒールやパンプスを着用するのを
嫌がっている女性労働者に対して,
ヒールやパンプスの着用を義務付けることは
パワハラに該当するかについて検討してみましょう。
先日,法改正によって,パワハラが次のように定義付けられました。
「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,
業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより
その雇用する労働者の就業環境が害されること」
上司が,健康上の理由などでヒールやパンプスを着用するのを
嫌がっている女性労働者に対して,
ヒールやパンプスの着用を義務付けることは,
業務上必要かつ相当な範囲を超えた指導となり,
当該女性労働者の就業環境を害することになりますので,
パワハラに該当すると考えられます。
このように,ヒールやパンプスの着用を義務付けることは,
労災やパワハラの問題につながる可能性があります。
ヒールやパンプスについては,履きたい人は履けばいい,
履きたくない人は履かなくていい
というようになればいいのではないかと思います。
本日もお読みいただきありがとうございます。