「#KuToo」運動から労災とパワハラを考える

職場でヒールやパンプスを履くことを強制する風習を見直し,

ヒールやパンプスを履く履かないを選べるようにする

#KuToo」運動が盛り上がりをみせています。

 

 

男である私は,ヒールやパンプスを履いたことがないので

分からないのですが,ヒールやパンプスは見ているだけで,

きっと足が疲れるのだろうなと感じています。

 

 

 

男の感覚としては,つま先立ちで歩いているような気がして,

ふくらはぎの筋肉が疲労するのではないかと思います。

 

 

この「#KuToo」運動が盛り上がりをみせている中,

朝日新聞が,制服での接客がある業界の主たる企業に取材したところ,

服装規定やガイドラインなどの社内ルールでヒールの高さなどを

推奨している企業が多いようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASM6F6Q4MM6FULFA044.html

 

 

会社でヒールの高さの推奨例が定められていれば,

それに従わなければならないという同調圧力が生じて,

推奨例のヒールやパンプスを着用することが

事実上義務付けられているように感じます。

 

 

 

また,スニーカーやサンダルを履く場合には,

「異装届」を提出する必要がある会社もあるようです。

 

 

さて,本日は,ヒールやパンプスの着用を強制された場合の

労災やパワハラの問題について検討してみます。

 

 

まずは,ヒールやパンプスの着用を義務付けられている職場において,

ヒールやパンプスを着用して仕事をしていた女性労働者が

転倒してけがを負った場合に労災と認定されるかを検討してみましょう。

 

 

労災保険の適用を受けるためには,

「業務上の負傷」に該当する必要があり,

「業務上」とは,業務遂行性が認められることを前提に

業務起因性が認められることをいいます。

 

 

業務遂行性とは,労働者が労働契約に基づき

事業主の支配下にある状態をいいます。

 

 

職場でヒールやパンプスを着用して仕事をしていたときに

転倒したのであれば,労働契約に基づき会社の支配下にある状態で

けがをしたといえるので,業務遂行性が認められます。

 

 

次に,業務起因性とは,業務が原因となって

当該傷病が発生したことをいい,

業務に内在する危険が現実化したものによると

認められることともいいます。

 

 

職場においてヒールやパンプスの着用が義務付けられており,

床が滑りやすいにもかかわらず,会社が靴を履き替えさせないで,

女性労働者が転倒したのであれば,

業務に内在する危険が現実化したといえ,

業務起因性が認められます。

 

 

 

このように,ヒールやパンプスの着用が義務付けられている職場で,

ヒールやパンプスを着用して働いていた女性労働者が

転倒してけがをした場合には,労災と認められる可能性が高いと思います。

 

 

次に,ヒールやパンプスの着用を義務付けられて仕事をしていたところ,

外反母趾となった場合に,労災と認定されるかを検討してみましょう。

 

 

外反母趾になると,足の親指の先が人差し指のほうにくの字に曲がり,

付け根の関節の内側の突き出したところが痛くなります。

 

 

ハイヒールを履いていると外反母趾になりやすいようです。

 

 

http://www.yoshino-seikei.jp/hallux.html

 

 

外反母趾の原因の一つにハイヒールの着用があるようですが,

他にも先天的な足の形状などの原因があったり,

仕事以外のプライベートな時間においても

ハイヒールを頻繁に着用していたのであれば,

業務起因性が否定される可能性があります。

 

 

他方,仕事でのみハイヒールを着用していて,

他に先天的な足の形状に問題がないなどの場合には,

業務起因性が認められる可能性があります。

 

 

外反母趾の場合に労災を申請する場合には,

慎重に検討する必要があります。

 

 

最後に,健康上の理由などでヒールやパンプスを着用するのを

嫌がっている女性労働者に対して,

ヒールやパンプスの着用を義務付けることは

パワハラに該当するかについて検討してみましょう。

 

 

先日,法改正によって,パワハラが次のように定義付けられました。

 

 

職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,

業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

その雇用する労働者の就業環境が害されること

 

 

上司が,健康上の理由などでヒールやパンプスを着用するのを

嫌がっている女性労働者に対して,

ヒールやパンプスの着用を義務付けることは,

業務上必要かつ相当な範囲を超えた指導となり,

当該女性労働者の就業環境を害することになりますので,

パワハラに該当すると考えられます。

 

 

このように,ヒールやパンプスの着用を義務付けることは,

労災やパワハラの問題につながる可能性があります。

 

 

ヒールやパンプスについては,履きたい人は履けばいい,

履きたくない人は履かなくていい

というようになればいいのではないかと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

専門業務型裁量労働制におけるプロデューサーやディレクターの仕事とは?

いきものがかりが所属する芸能事務所キューブにおいて,

裁量労働制が適用されていたのですが,

業務遂行に裁量が認められておらず,

裁量労働制は無効であるとして,

渋谷労働基準監督署が是正勧告をしました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASM2G5QBMM2GULFA021.html

 

 

マスコミの報道によりますと,20代男性労働者は,

音楽アーティストのアシスタントマネージャーとして,

ライブやラジオ収録に同行し,

打ち合わせの同席やSNSでの情報発信,

衣装の用意や買い出しなどの補助業務をしていたものの,

アーティストの活動方針やスケジュールは上司が決定し,

集合や解散の時間,業務の進め方も上司の指示に従っていたようです。

 

 

芸能事務所は,この20代男性労働者が

専門業務型裁量労働制の「プロデューサー」,「ディレクター」

の対象業務に従事しているとして,裁量労働制を適用していました。

 

 

 

また,6月16日のブログで紹介しましたが,

スポーツ動画配信サービス「DAZN」を運営する

Perform Investment Japanが,

動画編集担当をしていた従業員に対して,

専門業務型裁量労働制を違法に適用したとして,

三田労働基準監督署から是正勧告を受けました。

 

 

https://mainichi.jp/articles/20190604/k00/00m/040/225000c

 

 

おそらく,動画編集の仕事が,

「プロデューサー」や「ディレクター」に該当するとして,

専門業務型裁量労働制が違法に適用されていたのだと思います。

 

 

本日は,専門業務型裁量労働制における

プロデューサーやディレクターの業務

について説明したいと思います。

 

 

専門業務型裁量労働制とは,

労働基準法38条の3に基づく制度であり,

業務の性質上,業務遂行の方法,時間配分等を大幅に

労働者の裁量にゆだねる必要がある業務として,

法令等により定められた19業務の中から,

対象となる業務を労使協定で定めて,

労働者を実際にその業務に就かせた場合,

労使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなす制度です。

 

 

この専門業務型裁量労働制が適用されると,

労使協定でみなし時間が8時間に設定されていれば,

実際に1日11時間労働したとしても,

8時間だけ労働したものとみなされて,

8時間を超える3時間分の残業代を

請求することができなくなるのです。

 

 

専門業務型裁量労働制が適用される業務は,

労働基準法施行規則24条の2の2第2項に記載されており,

その5号に「放送番組,映画等の制作の事業における

プロデューサー又はディレクターの業務

が対象業務として記載されています。

 

 

 

この条文だけでは,どのような業務が対象となるか分からないので,

行政解釈を見てみると,次のように記載されています。

 

 

「『放送番組,映画等の制作』には,

ビデオ,レコード,音楽テープ等の制作及び

演劇,コンサート,ショー等の興行等が含まれるものであること」

 

 

「『プロデューサーの業務』とは,

制作全般について責任を持ち,

企画の決定,対外折衝,スタッフの選定,

予算の管理等を統括して行うことをいうものであること」

 

 

「『ディレクターの業務』とは,

スタッフを統率し,指揮し,

現場の制作作業の統括を行うことをいうものであること」

 

 

この行政解釈を読むと,テレビ局の放送番組や映画会社の映画の

制作の仕事が対象になることは分かるのですが,

プロデューサーやディレクターが抽象的に記載されているため,

どのような仕事が対象になるのかわかりにくいです。

 

 

 

 

私は,プロデューサーと言われて思い浮かべるのは,

小室哲哉氏や秋元康氏で,当然,

このクラスの方々が会社に勤務していたら,

専門業務型裁量労働制が適用されても納得できるのですが,

他のプロデューサーが専門業務型裁量労働制の対象になるか,

と言われると正直よくわからないです。

 

 

よくわからないということは,制度を悪用されやすいわけです。

 

 

実際に,芸能事務所キューブやDAZNの運営会社でも,

仕事内容は,若手社員が上司から指示されて,

よくやるような雑多な仕事だったにもかかわらず,

プロデューサーやディレクターと称して,

専門業務型裁量労働制を違法に適用していたのだと思います。

 

 

労働者も,会社から「君には専門業務型裁量労働制が適用されるので,

残業代はでないんだよ」と説明されても,

「ふーん,そうなんだ」と言って,

素直に受け入れている可能性があります。

 

 

そもそも,専門業務型裁量労働制は,

適用対象となる労働者に業務の遂行方法について

裁量が認められていなければ,適用できないのですが,

会社が残業代を支払いたくないために,

形式的にプロデューサーやディレクターと称して,

裁量のない仕事をさせている実態がありそうです。

 

 

もし,プロデューサーやディレクターであるとして,

専門業務型裁量労働制が適用されていた場合,

自分の仕事は,本当に裁量があるのかを見直してみて,

残業代を請求できないか検討してみるのもいいと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

残業証拠レコーダーで労働時間を認定した事例~派遣型風俗店の店長の未払残業代請求事件~

6月16日のブログで紹介しましたが,

武田薬品工業が残業代の未払いなどで,

労働基準監督署から是正勧告を受け,

健康経営優良法人の認定を自主返納しました。

 

 

https://mainichi.jp/articles/20190608/ddm/041/020/141000c

 

 

このように,武田薬品工業のような大企業であっても,

残業代が労働基準法に従って支払われていないという実態があります。

 

 

地方の中小企業ですと,なおさら,

残業代が未払いなのだと思います。

 

 

とはいえ,労働者は,在職中に,

会社に対して,未払残業代を請求しようとは思いません。

 

 

 

 

なぜならば,在職中に,会社に対して,

本気で未払残業代を請求すると,

会社にケンカをうることになるので,

会社内で居場所がなくなったり,

のけものにされるリスクがあるので,

残業代を請求することは正当な権利行使ではあるものの,

未払残業代を請求しないことがほとんどだからです。

 

 

そのため,労働者が未払残業代を請求するのは,

会社を辞めるときがほとんどです。

 

 

会社を辞めるとき,会社がタイムカードで

労働時間を管理してくれていれば,

代理人の弁護士が会社に対して,

タイムカードの開示を求めれば,会社は,

タイムカードを開示してくれることが多く,

タイムカードをもとに労働時間を証明できます。

 

 

しかし,タイムカードがなく,

ほかに労働時間を証明できる証拠がない場合には,

裁判では労働時間を労働者が証明しなければならないところ,

この証明ができないので,

未払残業代請求を諦めなければならないときがあります。

 

 

そうならないためにも,タイムカードがない職場では,

いざというときのために,自分で労働時間を記録しておくといいです。

 

 

そして,労働時間を記録するためのツールとして,

残業証拠レコーダーというアプリがあります。

 

 

 

 

詳細は,こちらのサイトをご覧ください。

 

 

https://zanreko.com/

 

 

本日は,残業証拠レコーダーというアプリを利用して

労働時間を立証した裁判例を発見しましたので,紹介します。

 

 

派遣型風俗店の店長の未払残業代が争われた

令和元年6月7日名古屋地裁判決です。

 

 

この事件では,お店にタイムカードがなく,

雇用主は,店長の労働時間を管理していなかったのですが,

店長は,自身のタブレット端末に,

残業証拠レコーダーのアプリをインストールして,

労働時間を記録していました。

 

 

店長は,タブレット端末を持ち出さずに,

店舗の外に出ることがあったので,

タブレット端末がお店にあったからといって,

店長がお店にいた事実までは認定できないとされました。

 

 

しかし,店舗の営業時間が9時から翌5時までとする広告があり,

店長が電話対応や女性キャストの送迎をしていたこと,

雇用主が店長が主張している各日の労働時間

について個別の積極的反論をしていないこと,

店長が未払残業代を請求する意図を持って,

残業証拠レコーダーによる労働時間の記録をしていたことから,

残業証拠レコーダーに記録された

始業時刻と終業時刻が労働時間と認定されました。

 

 

未払残業代を請求するときの証拠は,次の4つの類型に別れます。

 

 

 

 

①機械的正確性があり,成立に使用者が関与していて

業務関連性も明白な証拠(タイムカード,タコグラフ)

 

 

②成立に使用者が関与して業務関連性は明白であるが,

機械的正確性がないもの(日報など)

 

 

③機械的正確性はあるが業務関連性が明白ではない証拠

(パソコンのログイン・ログアウト時刻,

メールの送受信記録,入退館記録のセキュリティー記録など)

 

 

④機械的正確性がなく,業務関連性も明白でない証拠(メモ,手帳など)

 

 

そして,証拠の証明力の関係は次のようになると考えます。

 

 

 ①>②≒③>④

 

 

①が最も証明力が強く,その次が②と③で

(②と③のどちらが証明力が強いかはよくわからないです),

④が最も証明力が弱いです。

 

 

残業証拠レコーダーの記録は,

③の類型に該当し,機械的正確性が認められるので,

実際の仕事内容などを労働者の証言などで業務関連性を補強すれば,

労働時間と認定されるのではないかと考えます。

 

 

タイムカードがない会社に勤務している労働者は,

残業証拠レコーダーなどで,労働時間を記録しましょう。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ものくろキャンプと立花Beブログ塾レベル1第4講での気付き

昨日午前,ものくろさんこと大東信仁さんが主催する

ものくろキャンプに参加してきました。

 

 

 

昨日のものくろキャンプは,

ワードプレスでブログを書いている人が,

日々疑問に思っていることや悩みをものくろさんに質問して,

解決策を助言してもらうというものでした。

 

 

ものくろさんは,SEO(検索エンジン最適化)について,

SEOをしないでくださいと意味深な回答をされました。

 

 

小手先のSEO対策では意味がなく,

読者のベネフィットを考えたブログ記事を

書くことが重要ということです。

 

 

 

そもそも,読者は,自分の悩みを解決したくて,

検索窓に検索キーワードを入力するのですが,

自分の悩みを言語化できていないことがあります。

 

 

読者は,検索キーワードを的確に入力していなくても,

読者の困ったを解決するサイトが上位に表示されれば,

読者は,そのサイトを閲覧して,自分の悩みを解決できます。

 

 

そのため,SEO対策としては,

世界平和の心で,世の中のことに関心を持ち,

読者の困ったを解決する記事を

ブログに記載することが重要となります。

 

 

また,ものくろさんから,グーグルアナリティクス

の見方を教わりました。

 

 

グーグルアナリティクスは,1ヶ月に1回くらい,

月間のページビュー(PV,アクセス数)や,

自分のブログの中で読まれているブログ記事は何かを

調べる程度でよく,一喜一憂しないのが重要と教わりました。

 

 

私のブログは,月間3万PVを超えていたのですが,

直帰率が高かったので,直帰率を85%くらいに

できるように改善していきたいと思います。

 

 

次に,昨日午後は,立花Beブログ塾レベル1の最終講でした。

 

 

 

シャドウの投影について学びました。

 

 

シャドウの投影とは,あってはいけないと封印している自分の姿が

他人の形をして現れ,その他人であるシャドウが

自分のことを悩ませてくるということです。

 

 

例えば,パワハラにあった人が別の部署に異動しても

再びパワハラにあってしまったり,

だめな男に毎回ひっかかってしまう女性などの場合,

シャドウの投影が影響している可能性があります。

 

 

このシャドウの投影ですが,他人が自分のことを邪魔してくる

と思いがちなのですが,自分の内面を見直しなさいというサインなのです。

 

 

自分の中にある否定的な面が他人の形をして,

自分に何かを問いかけてくるのです。

 

 

シャドウが出てくるときは,自分の中に火種があり,

自分の中に何か許せないものがあるのです。

 

 

 

 

シャドウが出てきたときには,

自分の中にある否定的な自分を認めて統合していくと,

シャドウは消えていくのです。

 

 

何か問題があったとき,相手が悪いと,

相手を責めるのではなく,相手が悪いのではなく,

自分に原因があると,自分で気づいて改善すればいいのです。

 

 

このシャドウの投影という考え方は,

私が所属している倫理法人会の「万人幸福の栞」の

「人は鏡,万象はわが師」という考え方や,

以前読んだ「自分が源泉」という本の考え方

と同じであると気付きました。

 

 

全ての結果は自分が創り出しているという立場に立てば,

相手に対するマイナスな感情は消え,

自分を改めるために思考が動き出します。

 

 

ただ,相手からマイナスなことをされたときに,

自分に原因があると受け止めるのには,

訓練が必要であると考えます。

 

 

そこで,私は,自分以外の人からマイナスなことをされたときには,

これはシャドウの投影であると自分に言い聞かせて,

自分の内面を見つめ直す機会であると前向きに捉えていきたいです。

 

 

心理学について学ぶことは,

人間関係を円滑にしていくために

重要なことであると強く感じました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

最近の違法残業のケースと未払残業代などの労働債権の消滅時効の延長

報道によりますと,未払残業代などの労働債権の消滅時効が

2年から延長される方向性になったようです。

 

https://www.asahi.com/articles/DA3S14055128.html

 

 

本日は,最近の違法残業のケースを紹介した上で,

未払残業代などの労働債権の消滅時効の延長について説明します。

 

 

まず,私が最近把握した違法残業のケースは次のとおりです。

 

 

 

 

1 サザンオールスターズが所属する

大手芸能事務所アミューズについて,

36協定を届け出ずに,従業員に残業させたり,

1ヶ月に1日も休まずに働かせた従業員がいたとして,

渋谷労基署が是正勧告しました。

 

 

2 吉本興業と子会社について,

過労死ラインである1ヶ月100時間

を超える残業をした従業員がいたり,

休日勤務の割増賃金が十分に支払われていなかったとして,

新宿労基署が是正勧告しました。

 

 

3 LDH JAPANという会社について,

EXILEメンバーのマネージャーを中心とする

複数の従業員の労働時間が1ヶ月400~500時間に及び,

マネージャーの残業時間が36協定で定められた

上限を超えていたとして,品川労基署が是正勧告しました。

 

 

4 三重交通が路線バスの運転手に,

休日出勤の割増賃金を支払っていなかったとして,

四日市労基署から是正勧告を受け,

総額3億円の割増賃金を支払ったようです。

 

 

5 サマーウォーズなどの作品で知られる

アニメ制作会社マッドハウスが,

労使協定で定められた上限を超える違法な時間外労働と,

割増賃金の未払いがあったとして,

新宿労基署から是正勧告を受けたようです。

 

 

6 スポーツ動画配信サービス「DAZN」を運営する

Perform Investment Japanが,

動画編集担当をしていた従業員に対して,

専門業務型裁量労働制と管理監督者を違法に適用したとして,

三田労基署から是正勧告を受けました。

 

 

7 武田薬品工業は,36協定の上限を超える長時間労働,

時間外労働の申告漏れ,残業代の未払いなどで

労基署から複数回,是正勧告を受けて,

健康経営優良法人の認定を自主返納したようです。

 

 

芸能事務所やアニメ制作会社,動画配信の会社など,

クリエイティブな仕事をする業界での違法残業が多い印象を持ちました。

 

 

 

仕事内容を想像すると,確かに残業が多そうです。

 

 

また,三重交通や武田薬品工業などの大企業でも

違法残業で労基署から是正勧告を受けています。

 

 

大企業であっても,労働基準法を遵守できていない

実態が明らかとなりました。

 

 

このように,違法残業により,残業代の未払いがあれば,

労働者は,未払残業代を請求できるのですが,

現時点では,労働基準法115条により,

未払残業代の消滅時効が2年になっているので,

例えば,会社を退職してから,未払残業代を請求しようとすると,

退職した月から2年前までの未払残業代しか請求できません。

 

 

ところが,2020年4月に改正民法が施行されるのですが,

その改正民法において,金銭の請求権の消滅時効が5年に統一されました。

 

 

本来,労働基準法は,労働者を保護するため法律なのに,

未払残業代などの労働債権が他の金銭の請求権の消滅時効より短いのでは,

労働者保護にならないということから,

未払残業代などの労働債権の消滅時効を

延長すべきという議論がされてきました。

 

 

 

そして,6月13日に,残業代などの労働債権の消滅時効が

2年から延長される方向に決まりました。

 

 

未払残業代などの労働債権の消滅時効が延長されれば,

労働者が請求できる未払残業代の金額が大きくなり,

労働者にとって朗報です。

 

 

消滅時効の期間が2年からどれだけ延長されるのかは,

今後,労働政策審議会で議論がされていきますが,

改正民法で消滅時効が5年に統一されるのですから,当然,

未払残業代などの労働債権の消滅時効も5年に延長されるべきと考えます。

 

 

今後の議論に注目していきたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ジャパンディスプレイの希望退職の募集から整理解雇を考える

経営再建中の液晶パネル大手の株式会社ジャパンディスプレイは,

6月12日,国内の従業員の約25%にあたる

1200人の希望退職を募ることを発表し,

石川県にある白山工場を7月から9月まで停止するようです。

 

 

以前,金沢から福井方面へ北陸自動車道を走行していると,

強大な工場を建設している風景が見え,

気づけば,工場が完成して,2016年12月から,

ジャパンディスプレイの白山工場として稼働していました。

 

 

 

石川県民としては,地元に強大な工場が完成して,

雇用が創出されると喜んでいただけに,

わずか約2年半で工場の稼働がストップすることに

ショックを受けました。

 

 

さて,会社が希望退職を募集したときに,

労働者はどのように対処したらいいのでしょうか。

 

 

まず,当事者が契約を締結するためには,

契約をしたい人が契約の申込をして,

その相手方が承諾をすることが必要になります。

 

 

例えば,売買の場合,

売り主が「これ買いませんか?」と申込をして,

買い主が「では買いましょう」と承諾をすることで,

売買契約が成立するのです。

 

 

会社の希望退職の募集は,法律的には,

労働契約を合意解約するための申込の誘引となります。

 

 

この会社からの申込の誘引に対して,

労働者が申込を行い,会社が承諾をすることで,

労働者と会社との間で締結されていた労働契約が

合意解約されるのです。

 

 

そのため,会社が希望退職の募集をしても,

労働者がそのまま会社で働きたいのであれば,

希望退職に応募せず,そのままにしておけば,

会社で働くことができます。

 

 

それでは,会社は,なぜ希望退職を募集するのでしょうか。

 

 

理由の1つ目は,人員を削減して,利益を出したいからです。

 

 

 

 

会社が労働者をたくさん雇用すると,

労働者に支払う給料が多くなり,人件費が高くなり,

売上があがっても,会社に利益が残らなくなります。

 

 

会社の経費のうち人件費が占める割合が多いと,

人件費を削減しないと,会社が黒字にならない可能性があります。

 

 

とはいえ,解雇はそんなに簡単にできないので,

会社は,業績が悪化してきたら,退職金を割増するなどして,

今退職すれば有利ですよと労働者に伝えて,

労働者から退職してもらい,人件費を削減するのです。

 

 

理由の2つ目は,会社が整理解雇を実施するための準備です。

 

 

整理解雇とは,会社側の経営事情により生じた

人員削減の必要性に基づき労働者を解雇することで,

いわゆるリストラのことです。

 

 

 

この整理解雇が認められるためには,

①人員削減の必要性,

②解雇回避努力が尽くされたこと,

③人選基準とその適用が合理的であること,

④労働組合若しくは被解雇者と十分協議したこと,

という4つの要素を総合考慮する必要があります。

 

 

このうち,希望退職の募集は,

②解雇回避努力の一手段として実施されます。

 

 

整理解雇は,労働者に落ち度がないにもかかわらず,

会社の事情で解雇されるのだから,会社は,

解雇を回避するために,努力しなければならず,

その一環として,整理解雇の前に希望退職の募集をするのです。

 

 

希望退職の募集は,判例上,労働者の意思を尊重しつつ

人員整理を図るうえで極めて有効な手段と評価されており,

希望退職の募集をせずに,いきなり整理解雇した場合には,

解雇回避努力を尽くしてないとして,無効になる可能性が高いです。

 

 

そのため,希望退職の募集が実施され,

ある程度の労働者が応募して退職したとしても,

会社の業績が回復しない場合には,次は,

整理解雇が実施されるリスクがあるということです。

 

 

労働者としては,会社が希望退職を募集してきた場合,

この会社に未来がないと思えば,

退職金の割増など優遇措置が受けられるうちに,

退職して新しい職場で活躍した方がいいのかもしれません。

 

 

他方,次の就職先がみつかるか不安で,

今の会社にいたいのであれば,希望退職に応募せず,

そのまま働けばいいのですが,

場合によってはリストラされるリスクがあります。

 

 

そう考えると,労働者は,いつでも次の仕事がみつけられるように,

自分の能力を磨き続ける必要があるのでしょうね。

 

 

石川県民としては,ジャパンディスプレイの業績が回復して,

白山工場が再稼働することを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

高血圧や高脂血症の基礎疾患を有する労働者の脳梗塞発症の因果関係~自動車販売店の店長の労災事件~

平成26年に過労死防止対策推進法が成立してから,

約5年が経過するのですが,過労死はなくなっていません。

 

 

最近では,長崎で,過重労働によって医師が過労死したことについて,

病院に対する損害賠償請求が認められ,

大阪では,フランス料理店の調理師が過重労働で過労死したことについて,

労災が認定されました。

 

 

 

 

これらの過労死に関連して,本日は,

過重労働によって脳梗塞を発症して,

体に麻痺が残る後遺障害の認定を受けた労働者が,

会社に対して,安全配慮義務違反の損害賠償請求をした

フルカワほか事件を紹介します

(福岡地裁平成30年11月30日判決・労働判例1196号5頁)。

 

 

この事件では,中古車販売店で働いていた労働者が,

1ヶ月平均174時間もの時間外労働をして,脳梗塞を発症しました。

 

 

本件の労働者は,もともと,

高血圧及び高脂血症の診断を受けており,

体重92kgの肥満体でした。

 

 

本件の労働者の脳梗塞は,アテローム血栓性脳梗塞というもので,

動脈硬化により狭くなった脳の太い血管に血栓ができることで,

血管がつまって起こるもので,動脈硬化を発症させる

高血圧及び高脂血症が主な原因と言われています。

 

 

 

 

そのため,本件の労働者の脳梗塞が,

過重労働が原因で発症したのか,

基礎疾患である高血圧及び高脂血症が原因で発症したのか,

という因果関係が争点となりました。

 

 

この点,裁判所は,本件の労働者の生活習慣や基礎疾患が

脳梗塞の発症に一定程度影響したといえるものの,

本件の労働者の年齢が38歳とまだ若かったこともあり,

基礎疾患が他の原因なくして自然に増悪したとはいえず,

過重労働による負荷が原因で脳梗塞を発症したと判断しました。

 

 

また,本件事件では,長時間労働以外に,

仕事内容が相応の精神的緊張を伴う業務であったことも,

因果関係を肯定する要因とされました。

 

 

本件の労働者は,店舗の店長であったのですが,

店長には,行動目標が設定されており,

目標を達成できなかったときには,

対策を会議で問われるなど,

精神的緊張を伴う業務をしていました。

 

 

精神的緊張と脳血管疾患の発症との関連性については,

医学的に十分解明されていないものの,

精神的緊張によるストレスは,

脳梗塞の発症の要因となりえると判断されました。

 

 

 

そして,会社には,本件の労働者の健康状態及び労働時間

その他の勤務条件を的確に把握した上で,

本件の労働者に過度な負担が生じないように,

本件の労働者の業務の量または内容を調整する措置を講ずるべき

注意義務を負っていたにもかかわらず,これに違反したとして,

安全配慮義務違反が認められました。

 

 

さらに,本件事件では,会社の代表取締役に対する

損害賠償請求も認められたのが特徴的です。

 

 

会社法429条1項により,取締役の任務懈怠によって

株式会社が第三者に損害を与えた場合,

その第三者を保護するために,

取締役が損害賠償義務を負うことになります。

 

 

そして,労使関係は企業経営について不可欠なものであり,

株式会社の取締役は,会社が安全配慮義務違反を遵守する

体制を整備するべき義務を負っていると認められました。

 

 

その上で,本件事件の代表取締役は,

従業員の過重労働を防止するための

適切な労務管理ができる体制を何ら整備していなかったとして,

代表取締役に対する損害賠償請求が認められたのです。

 

 

労働者に,高血圧や高脂血症という基礎疾患があっても,

過重労働と脳血管疾患の発症との因果関係が

認められる可能性があるわけです。

 

 

なお,2019年6月15日土曜日10時~15時まで,

全国一斉の「過労死・パワハラ・働き方改革110番

の電話相談が金沢で実施されます。

 

 

当事務所が当日の連絡先になりますので,

過労死・過労自殺・パワハラ・働き方改革に関して相談したいときには,

2019年6月15日土曜日10時~15時の間に,

076-221-4111へお電話ください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

証券会社の外務員に対する損害賠償請求が否定された事例

会社を退職したにもかかわらず,

在職中の仕事のミスを理由に,

会社から損害賠償請求をされたという法律相談を受けました。

 

 

くら寿司,セブンイレブン,大戸屋などで

アルバイトが不適切動画を投稿したバイトテロなどを契機に,

会社が労働者に対して,損害賠償請求をする風潮があるのかもしれません。

 

 

 

労働者側の弁護士としては,労働者が会社から

損害賠償請求をされた場合に,

どのような対応ができるかを検討する必要がありますので,

裁判例を調べていたところ,

労働者にとって有利な裁判例を見つけましたので紹介します。

 

 

つばさ証券事件の東京高裁平成14年5月23日判決です

(労働判例834号56頁)。

 

 

この事件は,証券会社の外務員が,顧客に対して,

ワラント(新株引受権の授権証券)取引について,

説明義務,補足説明義務を怠ったとして,

顧客が証券会社に損害賠償請求訴訟を起こし,

裁判で顧客の損害賠償請求が認められたので,

証券会社が,説明義務,補足説明義務を怠った外務員に対して,

損害賠償請求をしたというものです。

 

 

ここで,ワラントとは,その価格が

株価変動率を超えて上下する特徴があり,

また新株引受の権利行使期間満了前に価格が下落し,

期間経過後は無価値になることから,

ハイリスクハイリターンな商品とされています。

 

 

この証券会社の就業規則には,

「職員は,故意または重大な過失によって会社に損害を与えたときは,

会社はこれを弁償させる」と規定されており,

証券会社は,この就業規則の規定に基づいて,

外務員に損害賠償請求をしているので,

外務員に「重大な過失」があったかが争点となりました。

 

 

まず,外務員の説明義務違反について,

別件の顧客と証券会社の訴訟において,

これが認められていることもあり,

外務員には,顧客に対して,

リスクを説明すべき義務を怠ったことが認められました。

 

 

 

もっとも,証券会社は,外務員に対して,

ワラント取引を行うに当たり,

顧客に対して行うべき説明について

研修や指導を格別していませんでした。

 

 

また,顧客に損害が発生したのは,

株価の暴落とその後の下落傾向によるものであり,

外務員には予測し得なかったものでした。

 

 

これらの事情から,外務員には説明義務違反が認められるものの,

会社に対する重大な過失はないと判断されました。

 

 

次に,補足説明義務違反について,外務員には,

顧客に対して,ワラントの商品特性について説明して,

ワラントの処理をどうするかについての

判断材料を提供すべき補足説明義務違反が認められました。

 

 

もっとも,当時は株式相場を予測することは困難な状況にあり,

ワラントの売付時期の判断が難しく,実際,証券会社は,

外務員に対して,相場の回復が見込めないことから,

ワラントの売付をするように指示や示唆をしていませんでした。

 

 

 

 

これらの事情から,外務員には,

補足説明義務違反が認められるものの,

会社に対する重大な過失はないと判断されました。

 

 

歩合給が大きく独立性が高い証券会社の外務員であっても,

会社に労働力を提供しても,全収益を取得できるわけでもない以上,

損害賠償責任の負担においては,その義務を軽減すべきです。

 

 

加えて,株式市場の予測は困難なことから,

証券会社に発生した損害の全てを外務員に被らせるのも酷なことです。

 

 

そのため,重大な過失という要件に該当するかについて,

外務員に有利な事情を考慮した東京高裁の裁判例は妥当だと思います。

 

 

労働者は,会社から損害賠償請求されても,

場合によっては請求を免れたり,

減額できる余地がありますので,

早急に弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

勤務時間外の準備体操,朝礼,掃除は労働時間になるのか?~駅務員の未払賃金請求事件~

会社において,始業時刻前に準備体操や朝礼が行われたり,

終業時刻後に掃除をすることがあります。

 

 

このような勤務時間外の準備体操,朝礼,掃除の時間は,

労働時間にあたるのでしょうか。

 

 

 

本日は,労働時間とはどのような時間かについて説明します。

 

 

三菱重工業長崎造船所事件の最高裁平成12年3月9日判決では,

労働時間とは,「労働者が使用者の指揮監督下に置かれている時間

をいうとされました。

 

 

その上で,「働者が就業を命じられた業務の準備行為等を

事業場内において行うことを使用者から義務付けられ,

又はこれを余儀なくされたときは,

当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても,

当該行為は,特段の事情のない限り,

使用者の指揮監督下に置かれたものと評価することができ,

当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められるものに限り,

労基法上の労働時間に該当する」という判断基準を定立しました。

 

 

ようするに,仕事の準備行為を会社内で行うことを

義務付けられていれば,労働時間にあたることになります。

 

 

ここで,もう一つ,東京急行電鉄事件の

東京地裁平成14年2月28日判決を紹介します

(労働判例824号5頁)。

 

 

この事件では,駅務員の始業前点呼,点呼後の勤務場所までの移動,

退社前の点呼の時間が労働時間にあたるかが争われました。

 

 

この事件の駅務員は,始業の5分前くらいに駅内の所定の場所へ行き,

監督者の前で,本人の担当当番,始業時刻,励行事項,

心身状態,待遇行動目標やスローガンを申告し,

監督者から注意事項の伝達を受けて,

15~100メートル離れた担当業務場所に

始業時刻までに移動していました。

 

 

 

また,駅務員は,勤務時間終了後に,

監督者の前で当日の状況,翌日の担当交番,

始業開始時刻を申告して退社していました。

 

 

このような点呼は,駅務員と監督者とが当日の勤務内容,

心身の異常の有無を確認し,勤務につく心構えを整えるために行われ,

また,交替勤務の導入により,

駅務員の勤務時間がまちまちとなったことに伴い,

勤務の交代に確実を期すために行われるようになったことから,

就業を命じられた業務の遂行に必要な準備行為であると判断されました。

 

 

そして,会社から駅長に対して,

駅務員の点呼を実施するように指示があり,

点呼の方法は,監督者に配布された鉄道駅務掛作業基準や

接遇向上マニュアルに記載されて,指導教育が行われており,

点呼を行わなかった労働者は不昇格とされていました。

 

 

そのため,駅務員の点呼は,就業を命じられた業務の準備行為であり,

これを事業所内で行うことを会社から義務付けられた行為であり,

点呼及び点呼場所から勤務場所までの移動は,

使用者の指揮命令下に置かれたものといえ,

労働時間と判断されました。

 

 

会社から明示的または黙示的に指示命令があったり,

会社の規則やマニュアルがあって,そのとおりに実施されていたり,

労働者が従わなかったときにペナルティがある場合には,

会社の指揮命令下に置かれていたといえます。

 

 

勤務時間外の準備体操,朝礼,掃除については,

会社からの指示があったり,

会社の規則やマニュアルで定められていて,

参加や実施が義務付けられていれば労働時間となります。

 

 

 

 

労働時間となれば,その時間に働いた分の賃金を請求でき,

1日8時間を超えていれば残業代を請求できます。

 

 

他方,勤務時間外の準備体操,朝礼,掃除について,

労働者が自発的,任意的に行っている場合には,

労働時間といえなくなります。

 

 

勤務時間外の準備体操,朝礼,掃除については,

労働時間になる可能性がありますので,

疑問に思った場合には,弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

募集や採用における男女差別

ある酒屋さんに,「男子学生のバイト募集」という

バイト募集の張り紙が貼ってありました。

 

 

 

 

酒屋さんですと,ビール瓶や日本酒瓶を運ぶのに,

力がいりますので,男子学生を募集したいのでしょう。

 

 

しかし,このようなバイトの募集に問題はないのでしょうか。

 

 

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律

(以下,「男女雇用機会均等法」といいます)第5条において,

事業主は,労働者の募集及び採用について,

その性別にかかわりなく均等な機会を与えなければならない

と規定されています。

 

 

上記のアルバイト募集のように,男性だけを対象として,

女性を排除するような募集の場合,

男女雇用機会均等法5条に違反すると考えられます。

 

 

それでは,男女雇用機会均等法5条に違反しないで,

性別を限定して,募集できる場合はあるのでしょうか。

 

 

「労働者に対する性別を理由とする差別の禁止等に関する規定

に定める事項に関し,事業主が適切に対処するための指針」

(平成18年厚生労働省告示第614号,以下「指針」といいます)

の第2の14(2)に具体例が記載されています。

 

 

イ 次に掲げる職種に従事する労働者

① 芸術・芸能の分野における表現の真実性等の要請から

男女のいずれかのみに従事させることが必要である職務

② 守衛,警備等のうち防犯上の要請から

男性に従事させることが必要である職務

③ ①及び②に掲げるもののほか,宗教上,風紀上,

スポーツにおける競技の性質上その他の業務の性質上

男女のいずれかのみに従事させることについて

これらと同程度の必要性があると認められる職務

 

 

ロ 労働基準法第61条1項,第64条の2若しくは

第64条の3の規定により女性を就業させることができず,

又は保健師助産師看護師法第3条の規定により

男性を就業させることができないことから,

通常の業務を遂行するために,

労働者の性別にかかわりなく均等な機会を与え

又は均等な取扱いをすることが困難であると認められる場合

 

 

ハ 風俗,風習等の相違により男女のいずれかが能力を発揮し難い

海外での勤務が必要な場合その他特別の事情により

労働者の性別にかかわりなく,

均等な機会を与え又は均等な取扱いをすることが

困難であると認められる場合

 

 

上記の指針の記載だけですと,まだ分かりにくいのですが,

例えば,警備会社が男性警備員を募集したいときに,男

性限定で募集しても,上記の指針のイ②に該当するので,

問題ないことになります。

 

 

 

 

また,助産師については,法律で女性に限定されているので,

女性限定で募集しても,上記の指針ロに該当するので,

問題ないことになります。

 

 

この他に,女性が男性と比較して相当少ない職種を

募集または採用する際に,男性よりも女性を有利に取り扱っても,

問題ないことになります。

 

 

これをポジティブアクションといいます。

 

 

それでは,「男子学生募集」では,

男女雇用機会均等法5条に違反するので,

冒頭の酒屋さんが,性別に中立的なように

「力持ち募集」とすることは問題ないのでしょうか。

 

 

「力持ち募集」とした場合,男女雇用機会均等法7条の

間接差別に該当する可能性があります。

 

 

間接差別とは,一見性別が関係ないように見える取扱いであっても,

運用した結果どちらかの性別が不利益になってしまうことをいいます。

 

 

男女雇用機会均等法施行規則2条1号において,

労働者の体力を要件とする募集は,

間接差別になるおそれがあると定められています。

 

 

力持ちは,体力を要件とする募集に該当して,

間接差別になるおそれがあります。

 

 

そのため,酒屋さんとしては,

「アルバイト募集」に張り紙を変更して,

女性が応募してきても,

「うちは力仕事がありますが,大丈夫ですか」と確認して,

女性がそれでも大丈夫ですと答えたのであれば,

女性であることを理由に採用を拒否してはいけないのです。

 

 

 

 

ようするに,募集や採用について,

男女差別があってはいけないのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。