パワハラ行為と自殺との因果関係
今年はスポーツの世界でパワハラがよく問題になっています。
レスリング,体操,駅伝など,多くのスポーツで,
パワハラ問題がマスコミで報道されています。
(https://dot.asahi.com/aera/2018090300059.htmlから抜粋)
このパワハラですが,労働の世界では,
もっと悲惨な結果が発生しているのです。
上司のパワハラを苦に自殺してしまう事件が後を絶たないのです。
パワハラを苦に自殺した事件では,
パワハラ行為と自殺との間に因果関係があるのか
ということが争点になります。
本日は,パワハラを苦に自殺した労働者の遺族が,
会社と上司に損害賠償請求の裁判を起こした事件の裁判例を紹介します
(名古屋高裁平成29年11月30日判決・判例時報2374号78頁)。
青果物の仲卸業の会社に勤務していた女性労働者が,
上司から「てめえ。」,「あんた,同じミスばかりして。」,
「親に出てきてもらうくらいなら,社会人としての自覚を持って
自分自身もミスのないようにしっかりしてほしい。」
などと厳しい口調で叱責されていました。
女性労働者が配置転換となった後にも,
この上司から頻繁に呼び出しがあり,叱責されていました。
このような上司の一方的に威圧感や恐怖感を与える叱責は,
女性労働者にとって大きな心理的負荷となり,
配置転換後の業務過剰とあいまって,
心理的負荷の程度は全体として「強」に相当すると判断されました。
また,女性労働者の配置転換後の時間外労働が増加していたこと,
身なりにかまわなくなったこと,
食欲が減退し,趣味に関するツイート数が大幅に減少し,
上司から叱責されて落ち込んでいたことから,
女性労働者はうつ病に罹患していたと判断されました。
自殺した労働者は,生前に精神科へ通院していないことも多いのですが,
そのような場合でも,生前の労働者の行動から,
うつ病に罹患していたと判断されることがあります。
その上で,女性労働者の心理的負荷は,
うつ病を発症させる程度に荷重なものとなっていたことから,
会社が上司のパワハラ行為について適切な対応をとらずに
業務内容の見直しをしなかったことと,
女性労働者がうつ病を発症して自殺したこと
との間に因果関係が認められました。
他方,上司のパワハラのみでは,
うつ病を発症させる程度に荷重であったとはいえず,
上司のパワハラ行為とうつ病発症による自殺との間に
因果関係は認められませんでした。
その結果,会社に対しては,女性労働者の死亡による損害が認められ,
パワハラをした上司に対しては,慰謝料50万円が認められました。
会社に対する多額の損害賠償請求が認められたので,
パワハラをした上司個人に対しても多額の損害賠償請求を認めるのは
酷だと裁判所が判断したのかもしれません。
上司のパワハラ行為とうつ病発症による自殺との
因果関係は否定されましたが,
会社が上司のパワハラ行為を止めずに,かつ,
業務内容の見直しをしなかったことで,
会社の安全配慮義務違反とうつ病発症による自殺との
因果関係が認められたのです。
このように,パワハラ行為以外の出来事と全体評価することで,
うつ病発症による自殺との因果関係が認められることがあります。
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