1 雇止めの現実
新型コロナウイルスの第3波が猛威を振るうなか、年末をむかえました。
厚生労働省が12月18日に公表した、
解雇等見込み労働者数は、77,739人に達し、
職を失う人が増加傾向にあります。

リーマンショックのときには、年越し派遣村において、
非正規雇用労働者の雇用の不安定さがあぶり出されましたが、
同じことが、コロナ禍でも繰り返されています。
非正規雇用労働者の雇用が不安定な理由は、
契約期間が区切られているからです。
すなわち、正社員は、労働契約の契約期間が区切られていないので、
解雇されない限り、また、自分から辞めない限り、
定年まで働き続けることができますが、非正規雇用労働者は、
労働契約で定められた契約期間が満了すると、
原則として、労働契約が終了するのです。
契約期間の満了で、労働契約が終了することを雇止めといいます。
非正規雇用労働者は、原則として、
労働契約で定められた契約期間が満了すると労働契約が終了し、
例外的に、会社が労働契約を更新してくれれば、労働契約が継続します。
会社が、主として、非正規雇用労働者の更新の決定権を有しており、
非正規雇用労働者には、更新の決定権がないので、
会社の判断に左右される点において、雇用が不安定なのです。
そのため、非正規雇用労働者は、雇用の調整弁にされるのです。

2 契約継続を期待する合理的な理由
もっとも、労働契約法19条によって、非正規雇用労働者が、
労働契約が更新されるものと期待することについて、
合理的な理由がある場合には、雇止めが無効になる場合があります。
この労働契約が更新されるものと期待することについて、
合理的な理由があると認められるためには、
契約更新の回数や契約期間、会社の雇用を継続させる言動、
非正規雇用労働者の業務内容などを総合考慮して決めます。
この点について、注目すべき裁判例がありましたので、紹介します。
地方独立行政法人山口県立病院機構事件の
山口地裁令和2年2月19日判決です(労働判例1225号91頁)。
この事件は、7年間に合計7回も有期労働契約が更新されてきた看護師が、
雇止めにあったので、雇止めは無効であるとして、訴訟を提起しました。
この事件では、就業規則が途中で変更されて、
有期常勤職員の通算雇用期間は、
理事長が特に必要と認めたときを除いて5年間を超えない範囲とする
との更新上限条項が設定されました。
そして、原告の最後の更新の際に、労働契約書には、
更新しないと記載されていましたか、原告は、
更新されないことには納得していないと契約書に記載しました。
3 有期労働契約が更新されていた途中で設定された更新上限条項
このように、有期労働契約が更新されていた途中で、
これ以上の更新はしないという更新上限条項が設けられた場合に、
有期労働契約が更新されるものと期待することについて、
合理的な理由があると認められるかが争点となりました。
裁判所は、原告は、反復継続して有期労働契約が更新されており、
更新手続は形式的であり、正社員の看護師と同じ業務内容であったことから、
有期労働契約が更新されるものと期待することについて、
合理的な理由があると判断しました。
そして、途中で就業規則が変更されて
更新上限条項が設けられた点については、
すでに発生した合理的期待が消滅することにはならないと判断されました。
ようするに、雇用の継続について、合理的な期待が生じた後に、
更新上限条項を設けても、合理的な期待には影響がないというわけです。
そして、被告は、雇用継続審査において、
原告の面接試験の評価を低くして、雇止めをしましたが、
この面接試験について、合理的な評価基準の定めや
評価の公正さを担保できる仕組みが存在せず、
雇用継続審査における判断過程は合理性に欠けるとして、
雇止めは無効となりました。
ある程度の期間と回数において、有期労働契約を更新していた途中で、
更新上限条項が設定されても、争う余地があることが明らかになった点で、
活用できそうな裁判例です。
本日もお読みいただき、ありがとうございます。