医師の自己研鑽は労働時間なのか?
現在,厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」
という組織において,医師の長時間労働などを
どのように改善していくべきかが議論されています。
医師の労働には,次のような特殊性があります。
病気の発生や症状の変化が予測不可能であり,
治療効果が不確実である一方,
国民の生命と健康を預かるため,
医療安全の確保が必要不可欠です。
医療の不確実性を重視すれば,
突発的な事態に対応するために,医師は,
長時間労働をせざるをえなくなります。
他方,医師が働きすぎると,疲労が蓄積し,
医師の過労死や医療事故といった最悪の事態に発展し,
医療の公共性を確保できなくなります。
平成30年度の過労死白書をみても,
救急や入院患者の緊急対応,診断書やカルテの書類作成などが
,医師の時間外労働の原因として挙げられています。
このように,医療の不確実性と公共性を両立させる観点から,
医師の働き方をどのように改善していくのかが議論されているのです。
この検討会で,注目される判断がされました。
それは,医師の自己研鑽が労働時間に該当するのかという点です。
医師は,高度な専門知識を取得して,
医療水準を維持・向上させるために,
自己研鑽が欠かせない職業です。
この自己研鑽が,労働に該当すれば,
病院としては,医師に賃金を支払わなければなりませんし,
適切に労働時間を管理して,
医師の疲労が蓄積しないようにしなければなりません。
他方,自己研鑽が労働でないのであれば,
病院は,医師に賃金を支払う必要はなく,
医師の純粋なスキルアップのために,
医師の責任で行うものになります。
このように,自己研鑽が労働時間に該当するか否かは,
医師と病院にとって気になるところですが,
これまで明確な指針がありませんでした。
そもそも,労働時間とは,会社の指揮命令下に置かれている時間,
会社の明示または黙示の指示により働く時間といわれており,
労働から離れることが保障されていることが必要です。
しかし,この基準だけでは,いまいちよく分からず,
個々の事件で,具体的な事実を検討して,
労働時間に該当するかが判断されています。
今回,厚生労働省は,医師の自己研鑽が労働時間に該当する例を
具体的に提示したので,かなりわかりやすくなりました。
診療ガイドラインについての勉強,
新しい治療法や新薬についての勉強,
自らが術者である手術や処置についての予習や振り返りは,
診療の準備行為または診療後の後処理として,
基本的に労働時間に該当します。
学会や外部の勉強会への参加や発表準備,
院内勉強会への参加や発表準備,
本来業務とは区別された臨床研究にかかる診療データの整理,
症例報告の作成,論文執筆,
大学院の受験勉強,
専門医の取得・更新にかかる症例報告作成,講習会受講は,
自由な意思に基づき,業務上必須でない行為を所定労働時間外に,
上司の指示なく行う場合は,労働時間には該当しません。
もっとも,実施しない場合には制裁などの不利益が課されて,
実施が余儀なくされている場合,
業務上必須である場合,
業務上必須でなくても上司が指示して行わせる場合
は労働時間に該当します。
おおむね,今の裁判例の見解をもとに,
自己研鑽が労働時間にあたる場合とあたらない場合を,
具体的に明確化した点が評価できます。
とてもわかりやすくなりました。
病院の経営者や管理職には,上記の見解をもとに,
医師の自己研鑽の時間を把握していくのは大変だと思いますが,
医師の働き過ぎを防止して,
国民が安心して医療を受けられる体制を維持するためにも,
少しずつでもいいので検討していってもらいたいです。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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