労働者とはどのような人なのか
自分は労働者だと思って働いていたけど,会社と結んだ契約書には,請負契約,委任契約などと記載されていて,一方的に契約を解除されてしまい,仕事を失ったという労働相談がよくあります。
労働基準法の「労働者」であれば,会社は,労働者を簡単に解雇できず,労働者は手厚く保護されていますが,請負契約や委任契約の場合,会社は,仕事がなくなれば,契約書に何も制約がなければ基本的には契約を打ち切ることができ,仕事を請け負った人や委任を受けた人は仕事を失ってしまうリスクがあります。
そして,会社は,実質は労働者であるにもかかわらず,形式的に請負契約や委任契約とすることがあります。それはなぜかといいますと,会社は,労働者を簡単に解雇してはいけないという規制や労働時間の規制を免れたいという事情や社会保険料の会社負担を免れたいという事情があるからです。会社は,契約相手が労働者でないなら,簡単に契約を打ち切ることができますし,社会保険料の負担をしなくてよいので,会社にとって都合がいいのです。
そこで,労働基準法の「労働者」かどうかが裁判の争点になることがあります。生命保険勧誘員,電気の検針集金員,バイク便の配達員,デザイナー,カメラマン,雑誌の記者や編集者などで問題になりました。
それでは,労働基準法の「労働者」とはどのような人をいうのでしょうか。労働基準法9条には,「この法律で,『労働者』とは,職業の種類を問わず,事業又は事務所に使用される者で,賃金を支払われる者をいう。」と記載されています。
しかし,この条文を読んだだけでは,「労働者」かどうかは分かりにくいため,昭和60年12月19日,労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」という文書において,労働者かどうかを判断するための基準が詳細に記載されています。
その基準は,①業務諾否の自由の有無,②業務遂行における使用者の指示の程度,③時間的・場所的拘束性,④労務提供の代替性,⑤報酬の労務対償性,⑥事業者性の有無,⑦専属性,⑧その他の事情というものです。
①会社からの仕事の依頼や指示に対して,応じることも断ることも自由にできれば,労働者ではない方向に傾き,そのような自由がないのであれば,労働者である方向に傾きます。
②会社からの具体的な指示があれば,労働者である方向に傾き,具体的な指示がなければ,労働者ではない方向に傾きます。
③勤務場所や勤務時間が指定されて管理されていれば,労働者である方向に傾き,勤務場所や勤務時間の指定がなく,自分で自由に決めていたのであれば,労働者ではない方向に傾きます。
④自分に代わって他の人が働くことが認められていたり,自分の判断で補助者を使うことが認められていれば,労働者ではない方向に傾き,そのような代替性が認められていなければ,労働者である方向に傾きます。
⑤会社からの報酬の性格が指揮監督下に一定時間労働していることに対する対価とされているのであれば,労働者である方向に傾き,労働とは関係なく報酬が支払われるのであれば,労働者ではない方向に傾きます。
⑥高価な機械や器具を自分で用意し,報酬が高額であれば,労働者ではない方向に傾き,機械や器具は会社が準備し,報酬が平均的なものであれば,労働者である方向に傾きます。
⑦他の会社の仕事をすることが制約されており,報酬に固定給部分があれば,労働者である方向に傾き,他の会社の仕事ができて,報酬が歩合給であれば,労働者ではない方向に傾きます。
⑧報酬について給与所得としての源泉徴収がされていたり,労働保険の適用があれば,労働者である方向に傾き,源泉徴収がなく,労働保険の適用がないのであれば,労働者ではない方向に傾きます。
①~⑤が主要な要素となり,⑥~⑧が補強要素となり,①~⑧を総合考慮して労働基準法の「労働者」かどうかが判断されます。最終的には総合考慮なので,ケースバイケースで判断されるので,会社から労働者かどうかを争われた場合,労働者は,弁護士に相談して,自分がどのように働いてきたのかを具体的に説明し,①~⑧の基準にあてはめてもらい,アドバイスをもらうといいでしょう。
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