指導係のパワハラでうつ病悪化・自殺に対する損害賠償請求が認められた事件

指導係の上司から,暴行を受けるなどのパワハラを受け続けたため,労働者のうつ病が悪化して自殺したとして,労働者の遺族が職場であるさいたま市に対して,損害賠償請求の裁判を起こした事件を紹介します(東京高裁平成29年10月26日判決・さいたま市環境局職員事件・労働判例1172号・26頁)。

 

本件労働者は,もともと,うつ病,適応障害の病名で89日間の病気休暇を取得していました。その後,職場復帰してから,問題の指導係のもとに配属されました。この指導係は,言葉づかいが乱暴で,上司にも暴言をはき,職場の中には,この指導係の言動に苦労させられて,心療内科にかよう人物がいるくらい問題のある人物でした。

 

案の定,この指導係は,本件労働者に対して,暴行をおこないました。本件労働者は,暴行を受けてあざができたので,あざの写真を証拠として残していました。他にも,本件労働者は,この指導係から言葉の暴力を受けたことを文書に残し,警察にパワハラの相談をした際に録音をしていました。本件労働者は,この指導係のパワハラを苦に休職しましたが,自殺してしまいました。

 

さて,雇用主である市には,職員が生命,身体の安全を確保しつつ業務をすることができるよう,必要な配慮をする義務を負っています。これを安全配慮義務といいます。この安全配慮義務には,精神疾患で休職した職員に対し,病気休職中の配慮,職場復帰の判断,職場復帰の支援,職場復帰後のフォローアップを行う義務が含まれます。

 

さらに,市は,安全配慮義務のひとつである職場環境調整義務として,職場におけるパワハラを防止する義務を負い,パワハラの訴えがあった場合には,その事実を調査して,調査結果に基づき,加害者に対する指導,配置換えなどの適切な措置を講じる義務を負います。

 

そして,裁判所は,市の幹部が本件労働者からのパワハラの訴えに適切な対応をしておらず,本件労働者の主治医に意見を求めたり,市の産業医に相談するなど適切な対処をしなかったとして,市の安全配慮義務違反を認めました。

 

もっとも,本件労働者が自殺に至ったのには,もともとのうつ病の既往症が大きく影響しており,同居していた親にも主治医と連携して本件労働者のうつ病が悪化しないように配慮する義務があったとして,損害額の7割が減額されて,合計959万9000円の損害賠償が認められました。

 

パワハラの事件では,パワハラがあったことを証明するための証拠がなくて,会社に対する損害賠償請求をするまでに至らないことが多いのですが,本件では,あざの写真,パワハラを記録した文書,警察とのやりとりの録音があったため,パワハラの事実を証明できたのだと思います。労働者は,パワハラを受けた場合,自分の身を守るためにも,録音したり,文書にまとめるなどして証拠を残しておくことが重要です。

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