求人票の労働条件と実際の労働条件が異なる場合の対処法

求人票に記載されている情報を見て,応募したら,

めでたく採用されて,実際に働き出したところ,

実際の労働条件は,求人票に記載されていた

労働条件と異なっていました。

 

 

 

 

労働者としては,だまされた感じがして,

不満に思いますが,せっかく採用されたので,

このまま働き続けようか迷ってしまいます。

 

 

本日は,求人票の労働条件と実際の労働条件が異なる場合,

労働者としては,どのように対処すべきかについて解説します。

 

 

まず,会社が労働者の募集を行う場合,募集にあたって,

仕事の内容,賃金,労働時間その他の労働条件を

明示しなければなりません(職業安定法5条の3第1項)。

 

 

当たり前ですが,会社は,正確な労働条件を

明示しなければなりません。

 

 

会社が最初に明示した労働条件と,

実際に労働契約を締結する際の労働条件に変更がある場合,

会社は,その変更した労働条件を,

労働者に明示しなければなりません(職業安定法5条の3第3項)。

 

 

会社が,虚偽の求人広告をし,

虚偽の労働条件を提示して,

労働者の募集をおこなった場合には,

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。

 

 

求人票の労働条件と実際の労働条件が異なる場合,

ハローワークへ相談すれば,ハローワークが,会社に対して,

是正指導してくれる可能性があります。

 

 

 

 

次に,求人票の労働条件と実際の労働条件が異なる場合,

求人票の労働条件で労働契約が成立したといえるのでしょうか。

 

 

千代田工業事件の大阪高裁平成2年3月8日判決は,

この点について,重要な判断を示しました(労働判例575号59頁)。

 

 

求人票に真実の労働条件を提示させることで,

労働者は,様々な会社の求人を比較して,

どの会社に応募するかの選択の機会が与えられます。

 

 

また,求人票に真実の労働条件が記載されれば,

会社が現実の労働条件とは異なる好条件を餌にして

労働契約を締結して,それを信じた労働者が予期に反する

悪条件で労働を強いられることを防止することができます。

 

 

そのため,求職者は当然求人票記載の労働条件が

労働契約の内容であると考えますし,

会社も求人票に記載した労働条件が

労働契約の内容になることを前提としていることから,

求人票記載の労働条件は,当事者間においてこれと異なる

別段の合意をするなど特段の事情がない限り,

労働契約の内容になると判断されました。

 

 

 

したがって,求人票の労働条件と

実際の労働条件が異なる場合,労働者は,

会社に対して,求人票の労働条件が

労働契約の内容になっていることを主張できるのです。

 

 

例えば,求人票には退職金有りと記載されていたのに,

実際には退職金が支給されていなかった場合,

労働者が退職金請求をすれば,認められる可能性があるのです。

 

 

さらに,求人票の労働条件と実際の労働条件が異なっていたので,

このような会社では働きたくないと思ったのであれば,

労働者は,即時に,労働契約を解約することができます

(労働基準法15条2項)。

 

 

このように,求人票の労働条件と実際の労働条件が異なる場合,

労働者が取りうる手段がいろいろありますので,

弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

求人票と異なる労働条件

ハローワークの求人票には,契約期間の定め無し,定年制無しと記載されていたにもかかわらず,入社時点の労働条件通知書には,契約期間を1年間の有期労働契約とし,65歳の定年制とされていたのに,原告が,これに署名押印し,1年が経過した時に,被告から,労働契約が終了したとされたので,原告が労働契約上の地位確認を求めた事件において,労働者側に有利な判決がなされました。

 

以前,ブログで紹介した,京都の弁護士中村和雄先生が担当された福祉事業者A苑事件です(京都地裁平成29年3月30日判決・労働判例1164号44頁)。

 

まず,求人票について,「求人票は,求人者が労働条件を明示した上で求職者の雇用契約締結の申込を誘引するもので,求職者は,当然に求人票記載の労働条件が雇用契約の内容となることを前提に雇用契約締結の申込をするのであるから,求人票記載の労働条件は,当事者間においてこれと異なる別段の合意をする等の特段の事情のない限り,雇用契約の内容となる」と判断されました。

 

要するに,よほどのことがない限り,求人票記載の労働条件が労働契約の内容になるということです。

 

本件では,求人票の記載と異なり,定年制があることを明確にしないまま,被告は,原告に対して,採用を通知したため,定年制のない労働契約が成立したと判断されました。

 

そして,定年制について原告が同意したかのような労働条件通知書について,原告の自由な意思に基いてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとは認められないから,定年制がないことから定年制があることに労働条件を変更することについて,原告の同意はなかったと判断されました。

 

要するに,労働者の同意があれば労働条件の変更は可能ですが,重要な労働条件を変更する際の労働者の同意について,慎重に判断されなければならないということです。

 

求人票の記載が労働条件の決定に重要になりますので,労働者は,自分の求人票を保存しておくべきです。また,労働者の同意を慎重に判断する点において,重要な判例ですので紹介しました。

求人詐欺事件

 京都の弁護士中村和雄先生が担当したA福祉施設求人詐欺事件・京都地裁平成29年3月30日判決を紹介します。

 

 原告は,64歳の男性で,被告のハローワークの求人票をみて,被告に就職しました。被告のハローワークの求人票には,「雇用形態:正社員」,「雇用期間:期間の定めなし」,「定年制なし」と記載されていました。面接時には,定年制についてはまだ決められておらず,労働契約期間について特にやりとりはありませんでした。

 

 しかし,被告から原告に交付された労働条件通知書には,「契約期間:期間の定めあり 更新する場合があり得る」,「定年制:有(満65歳)」と記載されており,原告は,この労働条件通知書に署名押印しました。求人票と労働条件通知書の労働条件が全く異なっていたのです。

 

 その後,被告は,期間が満了したとして,原告を雇止めしたので,原告は,本契約は期間の定めのない労働契約であり,解雇は無効であるとして,提訴しました。

 

 判決は,「求人票記載の労働条件は当事者間においてこれと異なる別段の合意をするなどの特段の事情のない限り,雇用契約の内容になる」として,原告と被告との間に,期間の定めのない労働契約が成立したことを認めました。

 

 また,定年制については,「定年制は,その旨の合意をしない限り労働契約の内容とはならないのであるから,求人票の記載と異なり定年制があることを明確にしないまま採用を通知した以上,定年制のない労働契約が成立したと認めるのが相当」としました。

 

 そして,労働条件通知書への原告の署名押印については,期間の定めの有無は契約の安定性に大きな違いが生じることから重要な労働条件であり,定年制の有無は当時64歳の原告にとっては重要な労働条件であり,原告が自由な意思に基づいて同意していないとされました。

 

 その結果,本契約は期間の定めのない労働契約であり,解雇は無効とされました。

 

 求人票と採用段階での労働条件が異なる場合がありますので,労働者は,求人票を保管しておき,採用段階での労働条件をしっかり確認して,求人票と違う点があれば指摘しておくべきです。労働条件通知書の署名押印があっても勝訴できた点が画期的です。本判決は,労働者の自由な意思に基づく同意の有無について判断しており,実務の参考になるので,紹介させていただきます。