懲戒処分を回避して辞職できた国家公務員の退職代行事件

Q 公務員です。辞職をしたいのですが、当局は、私の問題行動の調査が終わるまでは、辞職を認めないと言っています。このような場合どうすればいいのでしょうか。

 

 

A 当局の調査に誠実に対応し、当局が疑っている問題行動について、ご自身の言い分を適切に伝えるべきです。弁護士に法律相談をして、対処方法のアドバイスをもらうことが効果的です。

 

 

1 公務員は簡単に退職できない?

 

 

先日、国家公務員の依頼者から、次のような法律相談を受けました。

 

 

当局に対して、辞表を提出して、受理してもらい、当局からは、口頭で、辞職を認めると言われました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

問題なく辞職できると思っていましたが、その後、当局から、あなたの問題行動の調査が終わるまでは、辞職を認めないと言われました。

 

 

当局が指摘している私の問題行動は、次のとおりです。

 

 

①他の職員の名前を記載して、庁舎へ入退館をしたこと

 

 

②職場のパソコンから、行政文書を個人のメールアドレスへ送信したこと

 

 

③職場のパソコンから、メールで職員の個人情報や不適切な内容を発信したこと

 

 

当局が指摘している私の問題行動に対する、私の言い分は次のとおりです。

 

 

①私は、辞表が受理されて、年次有給休暇を消化している時に、庁舎で引き継ぎの作業をしたかったのですが、年次有給休暇で休んでいる私の名前で庁舎に入るのは不自然だと考えて、上司の名前を使って庁舎に入退館しました。

 

 

②今後の勉強のために、研修の時に入手した資料を自分のメールアドレスに送信しました。データは自宅で保管しており、外部に流出していません。

 

 

③私は、過去に上司からパワハラを受けていて、そのパワハラを告発するために、マスコミ等にメールを送信しました。

 

 

私は、依頼者の言い分を聞き、依頼者が懲戒処分を受けるリスクがあると考えました。

 

 

特に、③については、依頼者の手元には、パワハラを受けたことの証拠がなく、名誉毀損に該当して、懲戒処分を受けるリスクがありました。

 

 

依頼者は、早急に、辞職して、次の仕事に就くことを希望していたことから、私は、依頼者から、懲戒処分への対応と、退職の代行の依頼を受けました。

 

 

ここで、公務員の辞職について解説します。

 

 

公務員は、辞表を提出しただけでは、辞職できず、当局から、辞職の承認をしてもらわないことには、辞職できないのです。

 

 

すなわち、公務員が辞職するためには、当局の承認がなければならないのです。

 

 

そのため、公務員は、懲戒処分されそうになったので、懲戒処分よりも前に辞職しようとしても、当局が辞職を認めない場合、懲戒処分を回避できないことになります。

 

 

他方、民間企業の労働者の場合、退職届を提出してから、2週間が経過すれば、自由に退職できます。

 

 

民間企業の労働者が退職する際に、雇用主である会社の承認は不要です。

 

 

そのため、民間企業の労働者であれば、会社から懲戒処分を受けそうな場合、懲戒処分の前に退職できれば、懲戒処分を回避することができます。

 

 

このように、公務員は、民間企業の労働者と比べて、退職しにくいといえます。

 

 

2 当局の調査への立会

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、依頼を受けた私は、当局に対して、依頼者の言い分をまとめた文書を送付しました。

 

 

確かに、依頼者は、問題行動をしたものの、①引き継ぎのためにしたものであること、②研修資料であり、重要な機密情報でないこと、③当局にパワハラの是正を希望したが、当局が動いてくれなかったので、やむなく、マスコミ等に告発したこと、といった言い分を主張しました。

 

 

公務員の懲戒処分については、人事院が「懲戒処分の指針について」という通達を公表しています。

 

 

この通達には、懲戒処分の決定に当たって、考慮する事情として、動機・態様・結果がどのようなものであったか、と記載されています。

 

 

そのため、依頼者の問題行動についての動機・態様・結果について、依頼者に有利になる事情を主張しました。

 

 

また、当局が辞職を認めないことから、依頼者は、当局に出勤しないと、無断欠勤となり、別の懲戒理由が生じることになります。

 

 

そのため、当局に対して、まだ残っている年次有給休暇や特別休暇の申請をして、年次有給休暇や特別休暇が終了するまでに、辞職が認められるように動きました。

 

 

そして、依頼者は、当局とのやりとりの中で、精神的に体調を崩してしまい、適応障害と診断されました。

 

 

依頼者の精神状態では、当局の聞き取り調査に耐えられないと考えた私は、当局に対して、依頼者の聞き取り調査に、弁護士である代理人の私を同席させることを求めました。

 

 

これに対して、当局は、私が発言しないのであれば、同席を許可すると回答しました。

 

 

その結果、依頼者の聞き取り調査に、私が同席することができました。

 

 

聞き取り調査の際には、私が発言することはほとんどありませんでしたが、依頼者が、聞き取り調査の際に、自分の言い分を適切に主張できるように、その場で依頼者にアドバイスができました。

 

 

また、依頼者は、聞き取り調査の時に、私が側にいることで心強く、安心して、自分の言い分を伝えることができたと言っていました。

 

 

3 懲戒処分ではなく訓告になる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

聞き取り調査の後、しばらくしてから、当局から文書が届きました。

 

 

その文書には、訓告と記載されていました。

 

 

訓告とは、懲戒処分ではなく、業務違反の際に、口頭又は文書で注意をする処分のことです。

 

 

依頼者の問題行動は、不適切な行為と認定されましたが、懲戒処分に該当する程度には至っていなかったと評価され、懲戒処分を回避できました。

 

 

そして、訓告書の後に、人事異動通知書が届き、辞職を承認すると記載されていました。

 

 

こうして、依頼者は、懲戒処分を回避できて、無事に辞職をすることができたのです。

 

 

懲戒処分を回避して、訓告にとどまったのは、弁護士が代理人として、当局が恣意的に懲戒処分をしないように、監視をしていたからかもしれません。

 

 

このように、懲戒処分をされそうな時に、弁護士に法律相談をすることで、効果的な対処法を見つけることができる場合があります。

 

 

また、退職したいのに、退職できない時に、弁護士に法律相談をすることで、退職できる具体的な方法を教えてもらえることがあります。

 

 

労働問題で困った時には、ぜひ弁護士にご相談ください。

 

 

You Tubeでも、労働問題に関する役立つ動画を投稿しているので、ご参照ください。

 

 

https://www.youtube.com/@user-oe2oi7pt2p

 

 

今回も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

志賀町の職員の給料5%減額の条例から登録職員団体の必要性を考える

1 志賀町で職員の給料5%減額の条例が成立しました

 

 

先日,ブログで石川県志賀町において,

新型コロナウイルス感染対策のために,

全町民に2万円を支給する原資として,

志賀町の職員の給料を6月から10ヶ月間10%減額する問題

について記載しました。

 

 

 https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/202004289245.html

 

 

この問題について,志賀町職員互助会から給料の5%減額の提案

があったようで,5月8日の町議会の臨時会が開催されて,

志賀町の職員の給料を5%減額する条例が成立しました。

 

 

 https://www.asahi.com/articles/ASN586TZWN58PISC00N.html

 

 

職員互助会の提案を受け入れたことが,

給料の5%減額の条例が成立した要因になっていそうですが,

職員互助会は,志賀町の職員の意見を代弁したのか疑問です。

 

 

本日は,地方自治体における職員の給料の決定と

登録職員団体について解説します。

 

 

2 勤務条件条例主義

 

 

まず,地方自治体の職員の給料や勤務時間などの勤務条件は,

条例で定められ(地方自治法24条5項),

条例に基づかない給料の支給はできません(地方自治法25条1項)。

 

 

これを勤務条件条例主義といいます。

 

 

条例は議会が制定します。

 

 

 

地方自治体の職員の勤務条件を住民代表の議会による民主的統制におき,

使用者である当局の恣意を排除して,職員の身分と生活を保障するのです。

 

 

とはいえ,議会は,地方自治体の労使関係の現場の状況を

熟知しているわけではありません。

 

 

そのため,使用者である当局と職員団体との団体交渉で

具体化した結果を,首長が議会に提案し,

議会は,労使交渉の結果をできるだけ尊重して,

合理的な範囲内で修正して,議決することになります。

 

 

議会は,労使交渉を尊重することになるので,

当局と職員団体の団体交渉が重要になります。

 

 

3 地方自治体の職員団体

 

 

ここで,地方自治体の職員団体について説明します。

 

 

民間企業における労働組合が,

地方自治体の場合,職員団体といいます。

 

 

職員団体は,人事委員会または公平委員会に対して

登録を申請することができて(地方自治法53条1項),

登録を受けた職員団体のみが団体交渉権を付与されるのです

(地方自治法55条1項)。

 

 

そのため,登録を受けた職員団体は,

地方自治体の当局を交渉に応ずべき地位に立たせることができるのです。

 

 

団体交渉とは,労働組合または労働者の集団が,

代表者を通じて,使用者と,労働者の待遇または

労使関係上のルールについて行う交渉のことです。

 

 

 

使用者との関係では,労働者1人1人の立場は弱いのですが,

1人1人の労働者が団体として結集すれば,

交渉力が強化され,使用者と実質的に対等な立場に立つことができて,

労働条件の維持,改善を図ることができるのです。

 

 

団体交渉は,労使双方が利害の対立を前提としつつも,

勤務条件について一致点を見出すべく模索する過程なのです。

 

 

職員団体と地方自治体の当局との団体交渉の結果を,

書面による協定にまとめることもできます(地方自治法55条9項)。

 

 

地方自治体の当局が合理的理由もなく団体交渉を拒否した場合には,

団結権及び団体交渉権を侵害するとして,

不法行為に基づく損害賠償請求をすることができます。

 

 

そのため,地方自治体の当局が職員の給料を減額しようとする場合,

登録職員団体と誠実に団体交渉をする必要があります。

 

 

しかし,志賀町には登録された職員団体がなく,

職員互助会は,志賀町当局と団体交渉ができません。

 

 

職員の給料を減額するのですから,

職員の意見を代弁する機会である団体交渉が実施されるべきなのですが,

残念ながら,団体交渉はされず,職員互助会の提案では,

職員の意見が代弁されたとはいえないと考えます。

 

 

給料が減額されることで,職員の士気は下がらないのか,

2万円の現金を給付することで,

どれだけ町民の生活にメリットがあるのか,

などの職員の意見が反映される機会がなかったのが残念です。

 

 

地方自治体においても,労働者である公務員の意見を代弁する

登録職員団体の存在が必要であることを考えさせられたニュースでした。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

志賀町の職員の給与10ヶ月減額は認められるのか

1 志賀町における職員の給与減額のニュース

 

 

石川県志賀町では,国が全国民に一律10万円を給付することに加えて,

独自に全町民に2万円を上乗せして支給することにしたようです。

 

 

https://www.chunichi.co.jp/hokuriku/article/news/CK2020042502100011.html

 

 

しかし,全町民に2万円を上乗せして支給するための財源を,

志賀町の特別職や職員の給与を10ヶ月減給して

捻出することにしたようです。

 

 

志賀町の一般の職員の減給は10%で,

毎月3万円ほどの減給になるようです。

 

 

 

今年5月の町議会の臨時会で関連条例が提出される見込みです。

 

 

町長や議員が給料を減額することには誰も反対しないのですが,

一般の地方公務員の給料まで減額するのはやりすぎではないかと思います。

 

 

そこで,本日は,地方公務員の給料について説明します。

 

 

2 地方公務員の給与の原則

 

 

地方公務員の給料は,民間の労働者とは異なる原則が適用されます。

 

 

地方公務員の給与決定の原則として,

職務給の原則,均衡の原則,給与条例主義があります。

 

 

職務給の原則とは,地方公務員の給与は,

その職務と責任に応ずるものでなければならないとする考え方です

(地方公務員法24条1項)。

 

 

均衡の原則とは,地方公務員の給与は,

生計費並びに国および他の地方公共団体の職員の給与並びに

民間事業に従事する者の給与その他の事情を考慮して

決定しなければならないとするものです(地方公務員法24条2項)。

 

 

この原則は,①給与には生活給の要素があること,

②行政につき民間準拠による給与決定原則をとること,

③公務員相互間においても均衡のとれたものでなければならないこと,

を明らかにしたものです。

 

 

地方公務員の給与,勤務時間その他の勤務条件は条例で定める

とされており(地方公務員法24条5項),

これに基づかない支給はできません(地方公務員法25条1項)。

 

 

これを給与条例主義といいます。

 

 

給与条例主義の趣旨は,地方公務員の給与の原資は

地方公共団体の財政に依拠していることから,

住民代表の議会による民主的統制のもとにおくとともに,

条例という法規範で客観的に定めることによって,

地方公共団体の恣意を排除し,

地方公務員の身分と生活を保障しようしたものとされています。

 

 

このように,地方公務員の給与については,

職務給の原則と均衡の原則をふまえたうえで,

条例で決める必要があるので,

地方公共団体の長の一存で勝手に決めれるものではありません。

 

 

3 団体交渉をするべき

 

 

とくに,地方公務員の給与を減額するとなれば,

人事委員会の勧告をふまえて(地方公務員法26条),

誠実な団体交渉を尽くした上でなければ,認められないと考えます。

 

 

地方公務員法55条1項において,地方公務員の給与について,

登録を受けた職員団体から団体交渉の申し入れがあった場合には,

地方公共団体の当局はこれに応じる義務があります。

 

 

 

地方公務員の給与については,地方公共団体の当局と

職員団体との間における誠実な団体交渉を経た上で決定されるべきです。

 

 

地方議会は,この団体交渉の結果を尊重して,

条例を可決する必要があります。

 

 

そのため,労使の団体交渉をしていないのに,

給与を10%も削減するのは認められるべきではありません。

 

 

それに,給与を10%も削減すれば,

地方公務員の士気が下がる上に,

2万円の支給が上乗せされても,消費にあまり影響はなく,

かえって,志賀町に住む職員の給与が減って,

消費に悪影響がでる可能性もあります。

 

 

そのため,志賀町の職員が,今回の給与の減額に

疑問を抱いたのであれば,給与の減額をしないように,

志賀町当局と団体交渉して,撤回させたり,

条例案が可決されないように,

議案の撤回を議会に働きかけていく必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

神戸市の給与停止の条例改正案を考える

1 教員間のいじめ問題をきっかけに給与停止の条例改正案が可決されました

 

 

神戸市の東須磨小学校の教員間のいじめ問題において,

加害者教員が年次有給休暇を取得していることに批判が集まり,

神戸市議会は,懲戒処分の決定前でも給与の支払いを停止できる

条例改正案を可決しました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASMBY4GJKMBYPIHB00N.html

 

 

地方公務員法28条2項において,地方公務員に対して,

休職処分を命じることができるのは,

①心身の故障のため,長期の休養を要する場合,

②刑事事件で起訴された場合に限定されています。

 

 

神戸市の条例改正案では,この休職処分の対象を拡大し,

重大な非違行為で起訴されるおそれがあり,

職務を続けると公務の円滑な遂行に重大な支障を生む可能性がある場合にも,

休職処分を命じることができるようになるようです。

 

 

そして,新しい休職処分の場合には,

休職期間中,給与の支払いを停止できるようです。

 

 

本日は,この神戸市の条例改正について検討してみます。

 

 

 

2 年次有給休暇

 

 

まず,加害者の教員は,いじめ問題が発覚後,

学校へ出勤していないと思いますが,

年次有給休暇を取得して休んでいるはずです。

 

 

公務員には,原則として1年間に20日の年次有給休暇が

与えられますし,未消化の年次有給休暇を翌年に繰り越すことができます。

 

 

 

そのため,加害者の教員が年次有給休暇をあまり取得しておらず,

年次有給休暇がたまっていたのであれば,まずは,

年次有給休暇を消化して休むことができます。

 

 

年次有給休暇を消化して休んだ場合,

その休んだ期間,給料が支払われます。

 

 

3 病気休暇

 

 

次に,加害者の教員が,これだけ世間からバッシングを受けて,

精神を病んでしまい,治療が必要になった場合,病気休暇を取得できます。

 

 

病気休暇については,各自治体の条例で定められており,

自治体職員が負傷または病気を療養するために

必要とされる期間について認められます。

 

 

 

通常,自治体の病気休暇の場合,

最大90日程度までは給与は全額支給されます。

 

 

4 病気休職

 

 

そして,90日を超えても,治療のため休む必要がある場合には,

病気休職となります。

 

 

病気休職については,多くの自治体では,

休職期間は3年を超えない範囲とされており,

そのうち1年間は給与の8割が支給されます。

 

 

病気休職期間が1年を超えると無給になりますが,

共済組合から傷病手当金が1年6ヶ月間支給されます。

 

 

このように,地方公務員は,年次有給休暇→病気休暇→病気休職

を利用することで,給与の支給を受けながら,休むことができるのです。

 

 

そのため,加害者の教員に対して,

停職処分や免職処分といった懲戒処分が科されるまでは,

給与が支給されることになります。

 

 

5 私見

 

 

とはいえ,あれだけひどいいじめを教員がしていたことが

大問題となっており,加害者の教員に対して,

休んでいるのに給与が支払われるのに納得できない人が大勢いるのも,

理解できます。

 

 

また,地方公務員法24条5項において,

「職員の給与,勤務時間その他の勤務条件は,条例で定める」

と規定されているので,条例で新たな休職事由を規定することも可能です。

 

 

ただ,既に権利として与えられていた給与を停止させるのは,

過剰な不利益を加害者の教員に突如として与えることになり,

公務員の身分保障の観点からも,行き過ぎの感を否めません。

 

 

私としては,加害者の教員に対しては,

早急に調査を行い,速やかに懲戒処分をくだし,

懲戒処分までの間は,従来どおり給与を支給するのは

やむを得ないことだと考えます。

 

 

今後,この改正された条例が,恣意的な運用がされないように

チェックしていくことが重要になりそうです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

非正規公務員の雇止め問題

公務員の労働問題は,民間企業の場合と

異なることが多々あります。

 

 

 

公務員の労働条件は,法律や条例で定められるのに対して,

民間企業の労働条件は,労働契約書や就業規則で定められます。

 

 

また,公務員の採用や退職といった身分関係の変動が

全て行政行為に基づいている点に特色があります。

 

 

行政行為とは,行政庁が,法律に基づき,

公権力の行使として,直接・具体的に

国民の権利義務を規律する行為をいいます。

 

 

そのため,公務員の身分関係の変動を争う場合には,

行政庁の判断に裁量の逸脱や濫用があったかが争点になります。

 

 

このように,公務員の労働問題は,

民間企業とは異なる特殊性があるのですが,

本日は,非正規公務員の雇止めの問題について解説します。

 

 

労働契約法19条によって,民間企業の非正規雇用労働者は,

有期労働契約が更新されるものと期待することについて

合理的な理由がある場合には,雇止めが無効になって,

有期労働契約が更新されることがあります。

 

 

しかし,非正規公務員の場合,労働契約法21条によって,

労働契約法が適用されないため,

今後も雇用が継続すると期待することについて

合理的な理由があっても,雇止めは有効となります。

 

 

民間企業の非正規雇用労働者であれば,

雇用が継続される場合であっても,

非正規公務員の場合は,行政庁が更新を認めない限り,

雇用が継続されることはないのです。

 

 

これは,公務員の採用である任用は,

行政庁の行政行為があって初めて勤務関係が成り立つのであって,

民間企業のように,労働者と会社の合意だけで

勤務関係が成立しないことに原因があります。

 

 

すなわち,法令に則った任用や任用更新手続が行われる

非正規公務員の再任用拒否については,

民間企業の場合と異なり,当事者の合理的意思解釈

によって任用関係の内容が変更されることは

認められていないので,再任用への期待が

直ちに合理的な期待として法的保護が与えられないからなのです。

 

 

それでは,任用更新ができないのであれば,

非正規公務員は,どのように争えばいいのでしょうか。

 

 

 

 

非正規公務員が,任命権者から,

任用予定期間満了後の任用継続を確約ないし保障するなど,

期間満了後の任用継続を期待しても無理もない行為を受けた

といった特別の事情がある場合に限り,国家賠償法に基づき,

損害賠償請求が認められる余地があります。

 

 

この特別の事情を判断する際に,

長期間にわたる任用継続,

更新手続の形骸化,

任用時の説明,

非正規公務員の職務内容,

行政庁の説明内容

といった事情が総合考慮されます。

 

 

25回任用が繰り返され,25年にわたり,

吹田市に勤務していた非常勤の公務員の裁判において,

損害賠償請求が認められませんでした

(吹田市事件・大阪高裁平成29年8月22日判決・

労働判例1186号66頁)。

 

 

このように,単に任用が継続しただけでは,

再任用拒否の違法性は認められないため,

非正規公務員の雇止めを争うのは極めて困難なのが現状なのです。

 

 

民間企業の非正規雇用労働者と比べて,

非正規公務員の勤務関係はさらに不安定でありますので,

非正規公務員の雇用を継続させる法律を制定するなどして,

解決すべきと考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。