「副業・兼業の促進に関するガイドライン」から副業の原則解禁を解説します

1 パラレルキャリア実践における労働者の悩み

 

 

先日、片付けパパこと大村信夫氏の

「仕事の生産性向上とパラレルキャリア実践術」

というオンラインのセミナーを受講しました。

 

 

私は、事務所のデスクを整理整頓するノウハウを学びたいと思い、

受講しました。

 

 

物の住所を決める、帰宅時に片付けをするリセットタイムを設ける、

1週間に1回書類の廃棄をする、デスクには必要なもの以外出さない、

など具体的なノウハウを学ぶことができました。

 

 

 

さて、講師の大村氏は、大手家電メーカーの社員をしながら、

整理収納アドバイザーとしても活躍されており、

本業を持ちながら第二のキャリアを築く

パラレルキャリアを実践しております。

 

 

このパラレルキャリアの実践における質疑応答の中で、

会社が副業を禁止している中で、

どのようにしてパラレルキャリアを実践していくかが議論されました。

 

 

この質疑応答を聞いていて、副業が原則解禁になることの

情報が知れ渡っていないことを感じました。

 

 

そこで、本日は、副業の原則解禁について解説します。

 

 2 副業・兼業の促進に関するガイドライン

 

 

今年9月に、厚生労働省は、

「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を改訂しました。

 

 

 https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000665413.pdf

 

 

まず、このガイドラインでは、会社は、就業規則において、

原則として、労働者が副業を行うことができることとし、

例外的に次の①~④の場合には、副業を禁止または制限することができる、

とするように明示しています。

 

 

①労務提供上の支障がある場合

 

 

 ②業務上の秘密が漏洩する場合

 

 

 ③競業により自社の利益が害される場合

 

 

 ④自社の名誉や信用を損なう行為や信頼関係を破壊する行為がある場合

 

 

①の具体例としては、本業の仕事をした後に、

副業の仕事をして、副業の労働時間が長時間となり、

睡眠不足によって、本業の仕事のパファーマンスが低下する場合です。

 

 

②~④については、本業の勤務先の業務と競業となる

ライバル会社で副業をすると、

本業の会社の秘密情報がライバル会社に漏れたり、

本業の会社の顧客をライバル会社にとられたりすることから、

制限されるのです。

 

 

そのため、本業の仕事に支障がでない範囲で、

競業以外の会社や事業主のもとで副業する分には、

問題ないことになります。

 

 

 

また、仮に、会社の就業規則では、以前として、

副業が禁止になっていても、

労働者が労働時間以外の時間をどのように利用するかは、

労働者の自由なので、上記①~④の場合に該当しない限り、

職場秩序を乱したことにならず、形式的に、

就業規則に違反するとしても、

懲戒処分は認められないことになります。

 

 

さらに、労働者が、会社に対して、

副業に関する相談をしことによって、

不利益な取扱いをすることも許されません。

 

 

3 労働時間の通算

 

 

会社が副業を原則解禁するにあたり、

気をつけるべきポイントとしては、

本業における労働時間と副業における労働時間が通算されるので、

残業時間の罰則付き上限規制に抵触しないようにする必要があります。

 

 

労働基準法38条1項には、

「労働時間は、事業場をことにする場合においても、

労働時間に関する規定の適用については通算する」

と規定されており、会社は、

本業の労働時間と副業の労働時間を通算して管理する必要があるのです。

 

 

今年の4月から全ての会社において、

1ヶ月の残業時間が100時間未満、

2ヶ月から6ヶ月の各平均残業時間が80時間を超えてはならず、

これに違反した場合には、懲役6月以下または30万円以下の罰金

の刑事罰が科せられます。

 

 

そのため、会社は、本業の労働時間と副業の労働時間を把握して、

上記の残業時間の罰則付き上限規制に違反しないように、

労働時間を管理する必要があるのです。

 

 

また、会社は、労働者に対して、

労働者の生命と身体の安全を確保するために

必要な配慮をすべきという安全配慮義務を負っているので、

副業をすることによって、労働者が長時間労働に陥らないように、

労働時間を適切に管理して、

労働者の健康状態に問題が生じた場合には、

適切な措置をとらなければなりません。

 

 

まとめますと、労働者としては、上記①~④に気をつけて、

健康を害しないように、副業での労働時間を調整すれば、

パラレルキャリアを実践するための副業が可能となるわけです。

 

 

くれぐれも、本業と副業とで働き過ぎになって、

健康を害さないようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

コロナ禍による休業期間中に無許可で副業したら懲戒処分を課せられるのか

1 休業手当では生活が苦しいので副業をしたい

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大が収束しない地域では,

5月末まで,休業要請が延長される方向となりました。

 

 

都道府県知事からの休業要請の多くは,

新型コロナウイルス特措法24条9項に基づくものであり,

これに応じるかどうかは,事業主の任意の判断に委ねられています。

 

 

 

そのため,事業主が,新型コロナウイルス特措法24条9項による

休業要請に応じたとしても,それは事業主側の経営判断

によるものであるので,休業したとしても,事業主は,

労働者に対して,賃金の全額か,若しくは,

平均賃金の6割以上の休業手当を支払わなければなりません。

 

 

体力のない中小企業では,賃金の全額が支払えないとして,

賃金の6割の休業手当を支払い,休業している期間に,

副業を解禁して,残り4割の賃金分を

副業先で稼いでもらっているところもあるようです。

 

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200415/k10012388421000.html

 

 

一方で,休業手当が賃金の6割しか支払われない場合,

労働者の生活が苦しくなるので,会社が休業している期間に限定して,

労働者が会社に対して,副業の許可を求めても,

会社から許可してもらえないケースがあるようです。

 

 

コロナ禍で休業している期間であっても,

副業をしてもいけないのでしょうか。

 

 

2 無許可の副業が禁止される場合

 

 

会社の許可なく副業した場合に,

会社から懲戒処分をされるリスクがありますので,

この懲戒処分のリスクがなければ,

コロナ禍で休業している期間に副業をしても,

労働者としては不利益は生じないことになります。

 

 

そこで,どのような場合に,

無許可副業で懲戒処分されるのかをみてみましょう。

 

 

古い裁判例ですが,橋元運輸事件の

名古屋地裁昭和47年4月28日判決

(判例タイムズ280号294頁)は,

形式的に無許可副業に該当していても,

企業秩序に影響がなく,労務の提供に格別の支障がない場合には,

懲戒処分を課すことはできないと判断しました。

 

 

企業秩序に影響が生じる場合とは,同業他社への二重就職など,

会社への背信性が認められる場合をいいます。

 

 

同業他社で副業すると,本業の会社の情報やノウハウが

同業他社に横流しされたり,顧客を奪われたりして,

本業会社の収益が悪化するリスクがあります。

 

 

また,本業の仕事をした後に,

副業の仕事を夜遅くまでしていたのでは,

十分な休息がとれなくて,疲労が回復せず,

本業の仕事に支障がでてしまいます。

 

 

 

そのため,同業他社で副業するなど企業秩序に影響がある場合と,

夜遅くまで副業先で働くことで,本業での労務提供に支障がある場合には,

無許可副業をすれば,懲戒処分されるリスクがあります。

 

 

逆に言えば,同業他社ではない副業先で,

それほど長くない時間働くのであれば,

無許可で副業をしても,懲戒該当事由がないことになります。

 

 

加えて,会社が,労働者が副業をしていることを知っていながら,

何も注意や処分をしていなかった場合には,

黙示の副業の承認があると判断されて,

副業禁止違反を理由とする懲戒処分が認められないことがあります

(長崎県公立大学法人事件・長崎地裁平成23年11月30日判決・

労働判例1044号39頁)。

 

 

3 コロナ禍の休業期間中に同業他社以外の副業先で働いても懲戒該当事由にはあたらない

 

 

コロナ禍の休業期間にあてはめてみますと,そもそも,

本業が休業しているので,本業での労務提供の支障は生じません。

 

 

そのため,副業先を同業他社にさえしなければ,休業期間中に,

会社から支給される休業手当では生活が厳しいことを理由に,

無許可で副業をしても,問題ないと考えます。

 

 

仮に,会社から無許可副業を理由に,懲戒処分を課されたならば,

その懲戒処分は無効になる可能性があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

警察官の無許可原稿執筆問題から公務員の兼業・副業を考える

警察官の昇任試験対策問題集の原稿執筆にあたり,

適正な手続をとらずに出版社から多額の報酬を受け取ったことが,

公務員法が禁じる兼業に該当するとして,

警視正や警視の階級にある警察官が

懲戒処分とされる見通しとなりました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASM7D5G06M7DPTIL02S.html

 

 

本日は,公務員の兼業・副業について解説します。

 

 

地方公務員の場合,地方公務員法38条により,

任命権者の許可を得なければ,

①営利目的の会社などの役員の地位を兼ねること,

②自ら営利目的の会社を営むこと,

③報酬を得ていかなる事業もしくは事務に従事すること

ができません。

 

 

 

 

国家公務員の場合,国家公務員法103条と104条により,

地方公務員と同じように,上記①~③について,

所轄庁の長の許可を得なければ,できません。

 

 

これは,公務員は,全体の奉仕者として公共の利益のために勤務し,

全力をあげて自分の職務に専念しなければならず

(地方公務員法30条,35条,国家公務員法96条,101条),

兼業や副業をすれば,本業である公務員の職務が

疎かになってしまうおそれがあったからだと考えられます。

 

 

また,公務員が兼業や副業をすれば,公務員の権限を利用して,

私企業に便宜を図るおそれがあることから,

公務員の信用失墜を防止するために,

公務員の兼業や副業を許可制として,

チェックしていく必要があるからなのでしょう。

 

 

この公務員の兼業や副業の許可については,

①職務遂行上の能率の低下をきたすおそれの有無,

②当該営利企業と当該行政庁や当該自治体の

利益相反関係や職務の公正を妨げるおそれの有無,

③職員及び職務の品位を損ねるおそれの有無

の3点から判断されるようです。

 

 

例えば,公務員が実家の農業を手伝う場合,

無償で農作業の協力をしている程度であれば,

許可は不要ですが,

報酬を得ていると評価されたり,

自分で農業を営んでいると評価される場合には,

許可が必要になります。

 

 

さて,今回の警察官の場合,出版社からの依頼に応じて,

問題集の問題や回答の原稿を執筆して,

原稿料を受け取ったようですが,

上記の兼業や副業の許可をとっていなかったようです。

 

 

 

 

本来,許可を得ていれば,原稿料を受け取って

問題集の原稿を執筆しても問題はなかったので,

とるべき手続をとっていなかったことが問題となったのです。

 

 

そのため,行為そのものが問題ではなく,

手続違反が問題となったので,

多額の原稿料を受け取っていた警察官は

3ヶ月間給料のうち10分の1が減額される減給処分となり,

その他の警察官は戒告となる見込みです。

 

 

過去に懲戒処分歴がないと思われるので,

手続違反の場合には,比較的軽い懲戒処分がなされるべきですので,

今回の懲戒処分は妥当なものだと考えます。

 

 

民間企業の場合,政府は,副業や兼業を

積極的に推進していこうとしていますが,公務員にも,

副業や兼業が推進されていくのは,

まだまだ先の話しになりそうですね。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

副業禁止に違反したら懲戒処分になるのか?

近年,政府は,副業を推進する方向に動いています。

 

 

副業は,新たな技術の開発,起業の手段,

第2の人生の準備として有効であるとして,

政府は,副業をすすめています。

 

 

おそらく,今後AIが進化して,人間の仕事が減少した時に,

企業が労働者を雇用し続けることが困難になることをみすえて,

今のうちから,副業を解禁して,

来るべきときに備えさせようとしているのかもしれません。

 

 

 

 

また,労働者としても,副業をすることで,

複数の収入源を確保することができ,

人間関係が悪化して本業の会社に居づらくなったときに,

本業をやめて,副業で生活できれば,

本業に縛られることなく,自由になり,

解雇や退職のリスクを回避することができます。

 

 

複数の収入源をもつことで,会社に依存せず,

自分が本当にやりたいことを実現できるかもしれないのです。

 

 

これから副業が推進されていくということは,

これまでは,企業で副業が禁止されていたわけですし,

現在においても,約85%の企業は,副業を禁止しています。

 

 

企業が副業を禁止する理由は,

本業がおろそかになる,情報漏えいのリスク,

人材流出のリスクなどがあり,多くの企業が就業規則において,

副業を禁止しており,労働者が会社に無断で副業をした場合,

労働者が懲戒処分を受けるリスクがあります。

 

 

それでは,就業規則の副業禁止に違反して,

懲戒処分を課された場合,労働者は,

その懲戒処分が無効であるとして,争うことができるのでしょうか。

 

 

結論としては,形式的に,副業禁止規定に違反しても,

企業秩序に影響がなく,本業の仕事に支障がないのであれば,

懲戒処分が無効になる可能性があります。

 

 

副業が深夜におよび,日中眠くて,本業の仕事に支障が出ていたり,

ライバル会社に二重就職しており,労働者の背信性が強く,

企業情報の漏洩のリスクなどがある場合に限って,

懲戒処分は有効になります。

 

 

また,会社が副業を知りながら何も注意してこなかった場合には,

会社による黙示の承認があったと判断されて,

副業禁止違反を理由とする懲戒処分は認められません。

 

 

このように,仮に現行の副業禁止規定に違反しても,

本業に支障がなかったり,副業先が競合他社でないのであれば,

懲戒処分が無効になる可能性があります。

 

 

とはいえ,会社とは,もめないほうがいいので,

会社に副業の届出をして,副業による長時間労働で

本業に支障がないように,自分で労働時間と健康管理をしっかりとして,

副業をするようにしてください。

 

 

 

 

今後,副業を認めるように,就業規則を改訂していく

企業が増えていくことが予想されますので,

本業の会社との信頼関係を維持しながら,

副業によって自分の才能を開花させていく

労働者が増えていくことを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

副業の労働時間管理

近年,副業を希望する労働者が増えています。

 

 

労働者には,離職しなくても別の仕事に就くことができて,

副業先でスキルや経験を得ることで,

主体的にキャリアを形成できたり,本業を続けつつ,

よりリスクの小さい形で将来の起業・転職に向けた準備ができる

というメリットがあります。

 

 

 

 

また,企業には,労働者が社外から新たな知識・情報や

人脈を入れることで,事業機会の拡大につながる

というメリットがあります。

 

 

このように副業には,労働者にも企業にも

メリットがあるのですが,様々な制度上の問題があります。

 

 

本日は,副業における労働時間の管理について説明します。

 

 

例えば,本業のA会社で1日5時間働き,

その後,副業のB会社で1日4時間働いた場合,

A会社とB会社のどちらが労働者に残業代を

支払わなければならないのでしょうか。

 

 

結論を先に述べますと,後から働く副業先のB会社が

1時間分の残業代を支払わなければなりません

 

 

労働基準法32条で,会社は,労働者を1日8時間,

1週間40時間を超えて働かせてはならないと定められています。

 

 

もっとも,36協定が締結されていれば,

1日8時間,1週間40時間を超えて労働者を働かせても

問題ないのですが,会社は,1日8時間,1週間40時間

を超えて働かせた場合,労働者に対して,

1時間当たり1.25倍の残業代を支払わなければなりません。

 

 

そして,労働基準法38条には,「労働時間は,

事業場を異にする場合においても,

労働時間に関する規定の適用については通算する。

と規定されています。

 

 

その結果,本業のA会社で1日5時間働き,

その後,副業のB会社で1日4時間働いた場合,

1日の労働時間が通算9時間となり,

1時間残業していることになり,

後から働く副業先のB会社が1時間分の残業代

を支払わなければならないのです。

 

 

 

これは,後から労働契約を締結した会社は,

労働契約の締結にあたって,

その労働者が他の会社で労働していることを確認した上で

労働契約を締結すべきという考え方が前提にあるからです。

 

 

他方,本業のA会社で,労働契約で定められた

勤務時間が4時間で,副業先のB会社で,

労働契約で定められた勤務時間が4時間であった場合,

A会社で5時間働き,その後B会社で4時間働いた場合はどうでしょうか。

 

 

この場合,A会社が1時間分の残業代を支払わなければならないのです。

 

 

このように,副業をする際には,本業と副業とで

労働時間がどれだけかを把握する必要があります

 

 

本業で8時間働いた後に,副業で4時間働いた場合,

副業の4時間全てについて,1.25倍の残業代を

請求できることになるので,労働者は,

副業先の給料をよく確認すべきです。

 

 

他方,企業は,副業で労働者を雇う場合,

労働者が働いた時間が全て残業になって,

人件費が高くなるリスクを意識する必要があると思います。

 

 

副業すれば,複数の収入源を確保できて,

収入が増加するので,今後,

副業が増加していくことが考えられますが,

労働者の労働時間が長くなるので,労働者は,

自分の労働時間をしっかりとコントロールして,

過労に陥らないように気をつける必要があります。