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労働者の個人情報保護

懲戒処分を受けたので,前の職場を退職して,

次の就職先を探して,ようやく内定をもらいました。

 

 

ところが,内定先の企業が前の職場に問い合わせたところ,

前の職場が懲戒処分したことを回答してしまいました。

 

 

その結果,内定先の企業から内定を取り消されてしまいました。

 

 

このように,内定先の企業が就職希望者の

経歴を調査することは許されるのでしょうか,また,

前の職場が懲戒処分の情報を回答しても許されるのでしょうか。

 

 

今日は,労働者の個人情報について解説します。

 

 

まず,会社が労働者を採用するにあたり,

就職希望者の前の職場における経歴を

調査することが許されるのかについて検討します。

 

 

 

 

この論点について,三菱樹脂事件の

最高裁昭和48年12月12日判決は,

会社に対して,採用の自由を認めました。

 

 

すなわち,会社が労働者の採否決定にあたり,

労働者の思想,信条を調査することは,

採用の自由の一環として,

直ちに違法になるわけではないと判断されたのです。

 

 

この最高裁の立場を前提にすれば,

会社が労働者を採用するにあたり,

就職希望者の前の職場における経歴を

調査することは違法ではないことになります。

 

 

もっとも,この最高裁判決は昭和48年のもので古く,

その後,個人情報保護法が成立し,

個人の思想や信条という配慮が必要な情報については,

本人の同意がなければ取得できなくなりましたので,

会社の採用の自由に制限がかけられています。

 

 

 

 

そのため,会社が労働者を採用するにあたり,

労働者に関わるあらゆる事項の

調査・質問が認められるわけではなく,

労働者の職業能力・適格性に関連する事項

に限定されると考えられます。

 

 

就職希望者が懲戒処分を受けたという情報は,

労働者の職業能力・適格性に関連する事項に

該当すると考えられますので,会社が,

就職希望者の前の職場に対して,

懲戒処分について問い合わせることは

違法とはならない可能性があります。

 

 

次に,前の職場が懲戒処分の情報を

回答することが許されるのかについて検討します。

 

 

前の職場において懲戒処分を受けたという事実は,

それによって特定の個人を識別できる情報ですので,

個人情報保護法2条1項の「個人情報」に該当します。

 

 

 

 

そのため,個人情報保護法23条1項により,

前の職場は,あらかじめ本人の同意を得ない限り,

第三者に懲戒処分を受けたという

情報を提供してはならないのです。

 

 

また,懲戒処分を受けた事実は,

労働者の名誉や信用を著しく低下させる可能性のある事実であり,

労働者としてはみだりに第三者に提供されたくない

プライバシー情報ですので,より慎重な取り扱いが必要となります。

 

 

そのため,前の職場としては,再就職先の会社に対して,

その労働者が照会に回答することに同意している

ことを示す書面を提出するように求めて,

その書面によって本人の同意の存在を確認した上で,

必要な範囲で回答すべきなのです。

 

 

前の職場が労働者の同意なく,

勝手に懲戒処分の情報を再就職先の会社に回答した場合,

労働者は,前の職場に対し,

個人情報保護法違反やプライバシー侵害で

損害賠償請求をすることが考えられます。

 

 

会社は,労働者の個人情報を安易に公開するべきではないのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社のお金を着服した場合の懲戒処分

非常にローカルな話題ですが,

石川県漁業協同組合から現金合計約170万円を着服したとして,

漁協の元理事で輪島市の市議会議員が,

業務上横領の被疑事実で書類送検されました。

 

 

報道によりますと,この市議会議員は

出張旅費名目で現金を受け取りながら,

領収書を全く提出せず,

私的な飲食代とみられる請求を繰り返す,

カラ出張をしていたようです。

 

 

刑事事件に発展した今回の着服ですが,

労働者が会社のお金を着服してしまった場合,

どのような懲戒処分を受けることになるのでしょうか。

 

 

 

 

本日は,出張旅費の不正受給を懲戒理由とする

停職処分の効力が争われた森町・町長ほか事件を紹介します

(函館地裁平成30年2月2日判決・労働判例1187号54頁)。

 

 

この事件の原告は,地方公共団体の職員であり,

課長の地位にありました。

 

 

原告は,中学校野球部の父母会の会計を担当していたときに,

不適切な会計処理を行い,合計7万9774円を着服しました。

 

 

次に,原告は,東京で開催された火山防災会議に

参加するために必要な旅費を,地方公共団体から

概算払で受け取っていたにもかかわらず,

火山防災会議を開催していた団体から

交通費及び謝金を受け取りました。

 

 

しかし,原告は,出張後に旅費の清算をしなければならない

にもかかわらず,7万1880円を着服しました。

 

 

これらの着服行為が発覚して,原告は,

着服したお金を返金しましたが,

地方公務員法29条1項3号の

全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合

に該当するとして,父母会の着服を理由として,

6ヶ月の停職処分を受け,出張旅費の着服を理由として,

さらに6ヶ月の停職処分を受けました。

 

 

裁判では,出張旅費の着服の停職処分の効力が争われました。

 

 

まず,懲戒処分が有効となるためには,

懲戒理由が存在する必要があります。

 

 

原告が火山防災会議を開催していた団体から

交通費及び謝金が支給されたことを隠して,

意図的に旅費の清算をしなかったことから,

懲戒理由が認められました。

 

 

次に,その懲戒理由に対して,その懲戒処分は

重すぎないかという相当性が検討されます。

 

 

原告が所属していた地方公共団体では,

管理職の地位にある者の懲戒処分については,

一段階重い懲戒処分を行うことができると定められており,

原告が課長であったこと,

父母会の着服行為を理由として懲戒処分を受けていることも考慮して,

6ヶ月の停職処分は相当であると判断されました。

 

 

金銭的な不正行為の事例では,金額の多い少ないを問わず,

懲戒解雇のような重大な処分であっても有効とされる傾向にあります。

 

 

 

 

そのため,着服した金額が少なかったとしても,

過去に同じようなことをしていたり,

役職が高かった場合には,6ヶ月の停職処分や懲戒解雇であっても

有効と判断される可能性があります。

 

 

そう考えると,石川県漁協の事件では,

着服金額も大きく,理事という役職に就いていたこともあり,

懲戒解雇されても有効と判断される可能性が高いです。

 

 

くれぐれも,会社のお金には手を出さないでくださいね。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

懲戒解雇される前に会社を自己都合退職できるのか?

会社のお金を横領してしまったという不祥事や,

会社の外で万引きをして逮捕勾留されて,

長期間会社を欠勤してしまったといった場合,

労働者は,会社から懲戒解雇されてしまう危険があります。

 

 

 

会社から懲戒解雇されそうな場合,

労働者は,懲戒解雇される前に,

会社を自己都合退職することができるのでしょうか。

 

 

懲戒解雇されてしまうと,自分の経歴に

大きなきずがついてしまうので,労働者としては,

懲戒解雇を避けて,自分から会社を辞めたいと考えるものです。

 

 

本日は,懲戒解雇と自己都合退職について検討します。

 

 

何回かブログで解説してきましたが,

正社員であれば,退職届を提出してから,

2週間が経過すれば,辞める理由に関係なく,

会社を退職することができます。

 

 

さらに,年次有給休暇が残っている場合には,

退職届を提出した後に,年次有給休暇を取得して

会社を休めば,2週間会社に出勤することなく,

退職することができるのです。

 

 

このように,労働者が会社に退職届を提出してから

2週間が経過すれば,退職の効力が生じて,

労働契約は終了します。

 

 

そのため,労働者に,懲戒解雇に該当する懲戒事由が

存在する場合であっても,労働者がすでに

自己都合退職していて,労働契約が終了している場合には,

会社は,重ねて,懲戒解雇という労働契約の終了を

内容とする処分をすることができないのです。

 

 

 

 

例えば,不正経理の疑いが生じた労働者に対して,

会社が事実関係を調査している最中に,

労働者が退職届を提出して,2週間が経過してしまえば,

調査の結果,懲戒解雇に該当する懲戒事由が認められて,

懲戒解雇をしたとしても,自己都合退職の効力が

有効に発生した以上は,懲戒解雇は無効になります。

 

 

もし,労働者に,懲戒解雇されてもやむを得ない

行為をしたという心当たりがあり,

会社から懲戒解雇されそうになったのであれば,

懲戒解雇されてしまう前に,

さっさと退職届を会社に提出すればいいのです。

 

 

そして,運良く,退職届提出から2週間以内に

懲戒解雇されなければ,自己都合退職できて,

懲戒解雇を免れることになります。

 

 

もっとも,就業規則に,懲戒解雇事由が認められる場合には,

退職金を減額または不支給にするという規定が存在すれば,

自己都合退職したとしても,退職金を減額されたり,

不支給とされる可能性があることを知っておいてください。

 

 

 

 

懲戒解雇事由で退職金が減額されるだけであれば,

減額されることを承知で退職金を請求してみる

のも一つの手ではあります。

 

 

懲戒解雇されるか,自己都合退職できるかで

精神的に追い詰められるのは健全なことではありませんので,

労働者は,くれぐれも悪いことはしないようにしてくださいね。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

15歳の女子生徒と恋に落ちた中学校の男性教師の末路とは・・・

昨日は,TBSのドラマ「中学聖日記」と似たような事件で,

懲戒免職処分を受けた中学校の男性教師の

裁判の続きについて書きます。

 

 

この裁判では,原告の中学校の男性教師には,

懲戒理由が認められるのですが,懲戒処分の中で

一番重たい懲戒免職処分を課してもいいのかが争点となりました。

 

 

公務員に対する懲戒処分の審査は,

民間企業の場合とやや異なる点がありますので,説明します。

 

 

民間企業の場合,労働者と会社が,双方合意の上で

労働契約を締結して,労働者は,会社に

労務を提供する代わりに賃金を支払ってもらう

という法律関係が始まります。

 

 

他方,地方公務員の場合,労働契約と異なり,

地方公共団体の任命権者から特定の職につけられる

任用という行政行為によって,法律関係が始まります。

 

 

 

 

行政行為とは,行政庁が法律に基づき,

公権力の行使として,直接・具体的に

国民の権利義務を規律する行為です。

 

 

契約は,対等な人同士が自由に決めて合意するのですが,

行政行為は,行政庁が一方的に決めたことに拘束されるというものです。

 

 

公務員の労働関係は,このような任用という行政行為

で成り立っているので,公務員の懲戒処分の審査基準も,

民間企業と比べると,やや異なっています。

 

 

公務員の懲戒処分の審査基準として,

神戸税関事件の最高裁昭和52年12月20日判決が有名です。

 

 

この最高裁判決では,公務員に対して

どのような懲戒処分を行うかは,

任命権者の裁量に委ねられていますが,

懲戒処分が社会観念上著しく妥当性を欠き,

裁量権を付与した目的を逸脱した場合には,

裁量権を濫用したものとして違法になります。

 

 

ようするに,地方公共団体などに懲戒処分の

裁量が認められているけれども,

懲戒処分が重すぎたり,不当な目的で

懲戒処分をした場合には違法になるということです。

 

 

もっとも,この審査基準は抽象的ですので,

問題行為の動機,態様,結果,

故意または過失の程度,

職員の職責,

他の職員及び社会に与える影響,

過去の問題行為の有無,

日頃の勤務態度,

問題行為後の対応

などを総合考慮して,この審査基準にあてはまるかを検討します。

 

 

本件事件では,15歳の女子生徒が交際を

積極的に望んでおり,原告の男性教師は,

真剣に交際しており,自分の性的欲求を

満たすために問題行為をしたわけではないと認定されました。

 

 

 

 

また,原告の男性教師は,15歳の女子生徒を

自宅アパートに泊めるなどして,

保護者の監護権を侵害したのですが,

アパートに宿泊させた日以外は女子生徒を

遅くない時間に帰宅させていました。

 

 

原告の男性教師は,キスや抱擁以外の

性的な行為に及んでいないので,

わいせつ性は低く,

問題行為の態様が著しく悪質ではないと認定されました。

 

 

そのため,女子生徒が原告の男性教師によって

健全な育成を妨げられるような

心身の傷を負ったことにはならないと判断されました。

 

 

加えて,原告の男性教師の勤務態度が誠実であり,

問題行為が発覚後に,原告の男性教師が

保護者に誠意をもって謝罪し,

女子生徒と一切連絡をとっていないことから,

真摯に反省していると認定されました。

 

 

 

 

以上より,原告の男性教師に対する懲戒免職処分は,

社会観念上著しく妥当性を欠き,埼玉県教育委員会は,

裁量権の範囲を逸脱して,これを濫用したと判断され,

懲戒免職処分が取り消されました。

 

 

原告の男性教師が,新米教師ではなく,中間管理職であったり,

女子生徒と性行為に及んでいれば,結論は異なった可能性があります。

 

 

原告の男性教師と15歳の女子生徒の純粋な恋愛だったことから,

裁判所は,懲戒免職処分は重すぎると判断したのかもしれません。

 

 

このように,懲戒処分は,重すぎた場合に,

無効になる可能性があるので,懲戒処分を受けた労働者は,

懲戒処分が重すぎないか検討する必要があります。

 

 

ドラマ「中学聖日記」でも裁判に発展していくのでしょうか。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

リアル中学聖日記~恋に落ちた男性教師の懲戒免職処分取消訴訟~

現在,TBSで,毎週火曜日に「中学聖日記

というドラマが放送されています。

 

 

私は,普段テレビを見ないため,

実際にこのドラマを見ていないのですが,

新聞のテレビ欄などに目をとおしていると,

だいたいのあらすじがなんとなくわかります。

 

 

新聞のテレビ欄を見ている限り,

このドラマは,中学校の女性教師と男子中学生が

恋に落ちるというストーリーなのだと理解しています。

 

 

TBSの公式サイトには,次のようにストーリーが紹介されています。

 

 

物語の舞台は片田舎の中学校。

自分を大切に想ってくれる年上の婚約者がいながらも、

勤務先の学校で出会った不思議な魅力を持つ

10歳年下の中学生・黒岩晶に心惹かれていく

女教師・末永聖の“禁断の恋”を、

儚くも美しく描くヒューマンラブストーリーだ。

中学聖日記公式サイトより)

 

 

「本当に,こんな話あるんかな~」

 

 

そう思っていたら,実際に似たような話がありました。

 

 

しかも,「判例時報」という法律関係者しか読まない判例雑誌に(笑)

 

 

(判例時報)

 

 

判例時報とは,B4サイズの紙面に4段に分かれて

細かく裁判例が紹介されている雑誌でして,

一般の方が見ることはまずないです。

 

 

(判例時報の中はこんな感じになっています)

 

 

そのような判例雑誌に,中学校の男性教師が

15歳の女子生徒と交際していたことを理由に

懲戒免職処分をされたのですが,

この男性教師が懲戒免職処分を不服として争ったところ,

懲戒免職処分が取り消されたという

裁判例が紹介されていたのです。

 

 

「中学聖日記」とは,先生と生徒で性別が逆になっていたり,

15歳の女子生徒が直接の教え子ではないという

相違点があるものの,中学校の先生が未成年の生徒と

恋に落ちるという点では共通しています。

 

 

それでは,男性教師の懲戒免職処分が取り消された,

さいたま地裁平成29年11月24日判決

(判例時報2373号29頁)

について解説していきます。

 

 

原告の男性教師は,大学を卒業後,

大学時代に講師としてアルバイトをしていた

学習塾の教え子の15歳の女子生徒と交際を開始しました。

 

 

 

 

15歳の女子生徒から,原告の男性教師に交際を申し込んできました。

 

 

原告の男性教師は,中学校の教員になった後も,

15歳の女子生徒の保護者に承諾を得ないまま,

交際を継続し,自分のアパートや

2人ででかけた先でキスや抱擁をし,

女子生徒をアパートに宿泊させて同じベッドで寝るなどしました。

 

 

ただし,原告の男性教師は,15歳の女子生徒と

性行為はしていませんでした。

 

 

この女子生徒との交際が女子生徒の保護者に発覚し,

原告の男性教師は,保護者に謝罪し,

女子生徒との交際を解消しました。

 

 

以上の原告の男性教師の行為が,

地方公務員法33条の信用失墜行為の禁止に違反し,

地方公務員法29条1項1号の地方公務員法違反と

同3号の「全体の奉仕者たるにふさわしくない非行のあった場合」

に該当するとして,懲戒免職処分を受けました。

 

 

埼玉県青少年健全育成条例では,

「何人も,青少年に対し,淫らな性行為又は

わいせつな行為をしてはならない」と規定されており,

これに違反した者は,1年以下の懲役または

50万円以下の罰金に処せられます。

 

 

埼玉県教育委員会作成の懲戒処分の基準には,

「18歳未満の者に対して,みだらな性行為又は

わいせつな行為をした職員は,免職又は定職とする」

と規定されています。

 

 

これらの法律関係からすれば,原告の男性教師には

懲戒理由があることになります。

 

 

しかし,原告の男性教師に懲戒理由があるからといって,

いきなり,公務員の懲戒処分の中で最も重たい処分である

懲戒免職処分を課してもいいのかという問題があります。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降掲載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働者は自分にとって不利益な情報を会社に告知しなければならないのか?

転職活動をしている労働者が,採用面接の際,

自分の病歴や前科前歴などの自分にとって不利益な情報を

会社に対して,告知しなければならないのでしょうか。

 

 

 

 

転職活動をしている労働者としては,

自分にとって不利益な情報を開示すれば,

その不利益な情報を理由に採用を

拒否されるのではないかと思い,不安になります。

 

 

他方,持病があるのに,健康ですと答えると嘘になり,

後から嘘がバレたときにどのような処分が

されるのかと考えると,不安になります。

 

 

このように,労働者にとって不利益な情報を

会社に告知するか否かは,とても迷いますよね。

 

 

まず,採用面接の際に,質問に対して

真実を回答する義務があるのかについて検討します。

 

 

この点,面接で学歴を問われたことに対して,

大学中退の事実を隠していたことを理由とする

懲戒解雇が有効となった裁判例があります

(炭研精工事件・東京高裁平成3年2月20日判決・

労働判例592号77頁)。

 

 

この裁判では,会社が「企業秩序維持に関係する事項について

必要かつ合理的な範囲内で申告を求めた場合」には,

労働者は真実を告知すべき義務を負っていると判断されました。

 

 

労働者は,面接の質問には誠実に回答しなければならず,

虚偽回答をして,それが会社との信頼関係を破壊するものであれば,

そのことを根拠とする解雇は有効となる可能性があります。

 

 

面接のときに,病歴などをあからさまに質問されることは

ほとんどないと思いますが,もし仮に質問された場合には,

正直に病気のことを話した方がいいと考えます。

 

 

そして,病歴があるけれでも,今は回復していて

十分に働けることをアピールした方がよく,

嘘をつくのはよくないと考えます。

 

 

嘘がバレて,会社の信頼を失う方が,後から大変です。

 

 

 

 

それでも,採用されなかったのであれば,

縁がなかったと気持ちを切り替えて,

別の会社に応募すればいいのです。

 

 

次に,面接で質問がなかったことについて,

自分から自発的に告知する義務があるのかについて検討します。

 

 

これについては,面接で質問されていないことについて,

自分から不利益な情報を告知する必要は全くありません。

 

 

この点について,前の職場でセクハラやパワハラを

問題にされたことを告知しなかったケースや,

数ヶ月間風俗店に勤務していた職歴を申告しなかったケースにおいて,

解雇は無効と判断された裁判例があります。

 

 

会社としては,労働者の能力と適性の判断や

企業秩序の維持に必要なことであれば,

積極的に質問すればいいので,労働者には,

不利益な情報を自発的に申告しなければならない義務はないのです。

 

 

労働者が自分にとって不利益な情報を積極的に

告知しなかったこを理由に,経歴詐称や病歴詐称で

解雇することは困難だといえます。

 

 

さらに,労働者が申告しなかった病歴が,

仕事を進めていくうえで何も影響がない場合には,

病歴の不申告が病歴詐称になることはありません。

 

 

まとめますと,労働者は,会社から質問された場合には,

誠実に回答すればよく,会社から質問されないことについては,

自分にとって不利益な情報を告知する義務はないので,

何も回答しなくても大丈夫なのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働者のプライバシー

労働者が会社から貸与されていたパソコンで

私用メールをしていたところ,会社が労働者の承諾なく,

労働者の私用メールを閲覧することは認められるのでしょうか。

 

 

労働者としては,パソコンにパスワードをかけていたのに,

会社から私用メールをのぞき見されるのは気持ち悪く,

プライバシーが侵害されていると思います。

 

 

 

 

本日は,労働者の私用メールとプライバシー侵害について解説します。

 

 

パソコンへのアクセスが個人設定のパスワードによるなど,

パソコンが個人使用を前提として貸与されていたり,

私用メールが黙認,許容されている場合には,

私用メールの内容にもプライバシーの保護が及ぶと考えられます。

 

 

労働者にプライバシーの保護が及ぶ場合であっても,

会社が労働者の不正を調査するために,

労働者のプライバシーが制限されることがあります。

 

 

例えば,電子メールの利用状況について調査する旨の就業規則

の規定があり,それが周知徹底されているような場合,

就業規則の定めに従って調査が行われる限り,

会社が労働者の私用メールを閲覧しても

プライバシー侵害には該当しにくいです。

 

 

もっとも,私用メールの調査は労働者の個人情報の取得につながるので,

会社は個人情報保護法を守らなければなりません。

 

 

 

 

会社は,調査により取得する情報の利用目的を就業規則において特定し,

これを公表,通知しなければなりません。

 

 

情報の利用目的の特定とは,営業秘密の漏洩防止や

私用メールの濫用防止など,何の目的で個人情報を利用するのかを

明確にしなければならないことです。

 

 

また,会社は,労働者の同意を得ないで,

取得した個人情報を目的外に利用したり,

第三者に提供してはいけません。

 

 

このように,個人情報保護法に基づいた,

私用メールの調査に関する就業規則にしたがって

調査が行われるのであれば,会社が私用メールを閲覧しても,

労働者のプライバシー侵害にはならないと考えられます。

 

 

他方,私用メールの調査に関する就業規則がない場合,

電子メールを通じて信用毀損や営業秘密の流出などの

会社の利益を損なう行為が行われている蓋然性が高く,

他の手段では事実確認ができないような場合に限ってのみ,

会社は,メールを閲覧できると考えられます。

 

 

 

 

それ以外の場合には,労働者のプライバシーを侵害することになり,

会社によるメールの閲覧は認められないと考えられます。

 

 

また,特定労働者を処分する口実を見つけるために,

特定労働者のメールを洗いざらい閲覧し,

そのなかから処分理由になりそうなものを見つけ出し,

これを理由として処分することは,許されないと考えられます。

 

 

まとめますと,メールを調査する就業規則があり,

それにしたがって調査がされたのであれば,

プライバシー侵害はありませんが,

そのような就業規則がなく,特別の理由もないのに,

会社が労働者のメールを閲覧することはプライバシー侵害になります。

 

 

最近は,個人情報の保護が強化される傾向にありますので,

労働者としては,根拠のない会社のメールの調査には

異議を述べるべきだと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

仕事中にアダルトサイトを閲覧していると懲戒処分されるのか?

10月2日,神戸大学が,40代の男性事務職員に対して,

停職6ヶ月の懲戒処分を行いました。

 

 

http://www.kobe-u.ac.jp/NEWS/info/2018_10_02_01.html

 

 

懲戒処分の理由は,男性事務職員が,

約2年の期間中に労働時間の内外合わせて約1,220時間,

そのうち,労働時間内は約730時間にわたり,

業務用に貸与されているパソコン及び情報ネットワークを使用して,

アダルトサイト等を閲覧していたというものです。

 

 

 

 

大学としては,仕事中に長時間アダルトサイトを

閲覧していたのであれば,懲戒解雇したいと考えるかもしれませんが,

今回は停職6ヶ月の懲戒処分となりました。

 

 

仕事用のパソコンで長時間アダルトサイトを閲覧したことで,

会社は,労働者を懲戒解雇できるのでしょうか。

 

 

本日は,パソコンの私的利用と懲戒処分について解説します。

 

 

まず,労働者は,労働契約に基づき,

その職務を誠実に行わなければならないという

職務専念義務を負っています。

 

 

また,会社の施設,設備には会社の施設管理権が及びますので,

就業時間外であっても,労働者は当然に会社設備を自由に,

私的に利用できるわけではありません。

 

 

もっとも,多くの会社では,就業時間内であっても,

私的な会話や私用の電話,私的なメールが許容されています。

 

 

そのため,就業時間内に私的な行動が認められないと,

労働者はとても働きにくくなります。

 

 

パソコンの私的利用については,

会社がどのような方針をとり,労働者にそれを徹底していたかが

重要な判断要素になります。

 

 

会社がパソコンの私的利用を禁止する規定をつくって,

労働者に周知させていたのであれば,

原則として,パソコンの私的利用は禁止されます。

 

 

 

 

他方,そのような禁止規定がなかったり,

パソコンの私的利用が社会通念上許容される限度で黙認されている

場合には,許容されると考えられます。

 

 

神戸大学の事件では,大学から貸与されていたパソコンを利用して,

労働時間に約730時間もアダルトサイトの閲覧をしていたのですから,

社会通念上許容される限度を超えています。

 

 

その結果,神戸大学の就業規則のうち,

正当な理由なく,勤務を怠ったこと,

大学の設備,物品等を私的に利用したことに該当し,

懲戒事由が認められます。

 

 

懲戒処分は,懲戒事由があるだけで有効になるわけではなく,

他の労働者との平等取扱や,懲戒処分の重さとの関係も考慮されます。

 

 

例えば,他の労働者も同じように勤務時間にアダルトサイトを

閲覧していたのに,1人の労働者だけが懲戒処分を受けるのでは,

平等取扱に違反して,懲戒処分が無効になる可能性があります。

 

 

また,ある懲戒事由に対して,懲戒処分が重すぎる場合にも,

懲戒処分が無効になる場合があります

 

 

懲戒処分は,通常,戒告・譴責→減給→停職→諭旨解雇→懲戒解雇

という順番で重くなっていますが,

それほど重大ではない懲戒事由に対して重い懲戒処分を課すと,

懲戒処分が重すぎて相当ではなく,無効になる可能性があります。

 

 

懲戒処分を争う裁判では,この処分の相当性で,

労働者が勝つことがあります。

 

 

神戸大学の事件では,労働時間に約730時間アダルトサイトを

閲覧していましたが,その労働者が,

アダルトサイトを閲覧している以外は真面目に仕事をしていて,

成果を出していたり,また,過去に懲戒処分を受けたことがない

のであれば,いきなり懲戒解雇をすることは重すぎると,

裁判で判断される可能性があります。

 

 

懲戒解雇は,労働者に対する死刑宣告に近い,

最も重い処分ですので,アダルトサイトを閲覧して,

ウイルスに感染するなどして,大学に実害が生じていないのであれば,

神戸大学の事件で懲戒解雇が選択されなかったのは

妥当なことだと考えます。

 

 

 

 

もっとも,懲戒処分された男性事務職員の過去の懲戒処分履歴や,

他の労働者への処分がわからないため,なんとも言えませんが,

停職6ヶ月はやや重いと感じます。

 

 

停職処分期間中,労働者は給料をもらえませんので,

6ヶ月の停職は長くて重い気がします。

 

 

通信技術が発達しているので,会社は,

労働者をモニタリングしている可能性があるので,

会社から貸与されているパソコンを私的に利用するには,

くれぐれも気をつけるべきです。

 

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

財務省の決裁文書改ざん問題から考える退職のタイミング

財務省は,6月4日,

森友学園と国有地取引に関する決済文書の改ざん問題で,

佐川前理財局長が改ざんや交渉記録の廃棄の方向性を決定づけたとして,

「停職3ヶ月相当」の処分として,

退職金から約500万円を減額することを発表しました。

 

 

私が気になったのは,「停職3ヶ月相当

の処分の「相当」という部分です。

 

 

佐川前理財局長は,6月4日の処分発表前に,財務省を既に退職しています。

 

 

 

退職した労働者に対して,懲戒処分ができるのかと疑問に思ったのです。

 

 

この疑問を考えるにあたり,退職した労働者に対して,

懲戒解雇ができるのかという論点を検討してみます。

 

 

懲戒解雇とは,会社のルール違反に対する制裁罰である

懲戒処分として行われる解雇のことで,ようするに,

労働者が会社から受ける処分の中で最も重いものです。

 

 

懲戒解雇されると,経歴に大きな傷がついて,

次の就職が困難になったり,退職金が減額されるなど,

労働者にとってかなりのダメージとなります。

 

 

そのため,よほど労働者がひどいこと

をしない限り,懲戒解雇まではされません。

 

 

さて,労働者に,懲戒解雇に相当する違反があったとしても,

その労働者が既に退職していたなら,その労働者との労働契約は

既に終了しているので,懲戒解雇をすることができません。

 

 

懲戒解雇とパラレルに考えるなら,

既に財務省を退職している佐川前理財局長に対して,

停職処分をすることはできないのです。

 

 

停職処分とは,労働契約を存続させつつ,

労働者が働くことを一定期間禁止し,停職期間は無給とする懲戒処分であり,

佐川前理財局長は,既に退職しているので,停職処分にはできないのです。

 

 

そのため,「停職3ヶ月」ではなく「停職3ヶ月相当」となったのだと思います。

 

 

次に,退職金から約500万円を減額した点について検討します。

 

 

懲戒解雇の場合,労働者が退職後に,

懲戒解雇に相当する違反をしていたことが判明した場合,

就業規則などに,当該違反の事実をもって退職金を減額できる

規定があれば,退職金を減額することができます。

 

 

財務省の退職金の規定がどうなっているのか分かりませんが,

仮に,停職処分に該当する違反行為があった場合に,

退職金を減額できるという規定があれば,

退職後に停職処分に相当する違反をしていたことが判明すれば,

退職金を減額できることになります。

 

 

そこで,財務省は,佐川前理財局長が退職しているので,

停職処分にはできないけれども,「停職3ヶ月相当」として,

退職金を約500万円減額したのだと考えられます。

 

 

なお,佐川前理財局長については,

懲戒免職で退職金を全額返上させるべきだという意見もあるようですが,

過去に懲戒処分歴がなければ,いきなり懲戒免職とすると,

裁判で争われた場合,裁判所は,処分としては重すぎると判断する

場合がありますので,これだけ大問題になってはいますが,

過去の功績を考慮すると,停職3ヶ月は相当なのだと思います。

 

 

また,懲戒免職でないので,停職処分で退職金を大幅に

減額することは困難であるので,約500万円の減額に,

多くの国民は納得しないかもしれませんが,

労働法的には妥当なラインだと思います。

 

 

佐川前理財局長の事例から言えることは,

労働者は,ルール違反をしてしまって,懲戒処分をされそうであれば,

早目に自分から退職することを検討したほうがいいでしょう。