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配転命令に対する対処の仕方(労働審判前の措置の申立)

会社に対して,未払残業代を請求したところ,

社長が激怒し,遠くの勤務地へ配転させられてしまいました。

 

 

 

 

労働者としては,このような報復人事には当然納得できません。

 

 

とはいえ,会社の配転命令は業務命令ですので,

配転命令に従わなければ,業務命令違反として,

懲戒処分をされてしまうリスクがあります。

 

 

このように,納得のいかない配転命令を受けた場合に,

労働者は,どのように対処すればいいのでしょうか。

 

 

本日は,配転命令に対する対処の仕方について説明します。

 

 

まずは,就業規則に配転命令の根拠規定があるかをチェックします。

 

 

 

 

就業規則に「会社は業務上の必要がある場合,

配置転換を命じることができる」などの

配転命令の根拠規定がなければ,それだけで,

配転命令が無効になる可能性があります。

 

 

次に,労働契約において勤務地限定特約があるかをチェックします。

 

 

労働契約において,例えば,

勤務地が石川県に限定されているのであれば,

会社の配転命令は石川県に限定されるので,

石川県以外の都道府県への配転命令は無効になります。

 

 

そして,配転命令が権利の濫用にあたるかをチェックします。

 

 

具体的には,①人員配置の変更を行う業務上の必要性があるのか,

②不当な動機や目的があるのか,

③労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益が生じるか否か,

という要件を検討します。

 

 

以上をチェックして,配転命令が無効になる可能性があれば,

会社に対して,配転命令を出さないことや撤回を求めます。

 

 

それでも,会社が配転命令を強行してきそうな場合,

労働審判を申し立てた上で,労働審判法29条,民事調停法12条

に基づき,審判前の措置を求める方法があります。

 

 

 

 

労働審判前の措置を求める申立とは,

労働審判のために特に必要であると認めるときに,

当事者の申立てにより,労働審判前の措置として,

「現状の変更の排除を命じることができる」との措置のことです。

 

 

例えば,営業部から総務部への配転を争う場合,

裁判所は,「相手方は,労働審判事件の終了に至るまで,

申立人を相手方の営業部に配属する旨の配転命令を留保し,

従前通り申立人を総務部で勤務させなければならない。」

という措置命令を出してくれることがあります。

 

 

会社がこの措置命令に従わない場合,

10万円以下の過料の制裁があります(労働審判法32条)。

 

 

裁判所の命令に従わない会社はほとんどないので,

このような措置命令が出れば,配転命令が留保されて,

労働者は,労働審判手続の間は,

以前の職場で働き続けることができ,

労働審判手続で配転命令の有効性について争うことができるのです。

 

 

労働審判前の措置という手段は,

配転命令を争う方法としては,

有効性の高い手段といえそうです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

就業規則に配転命令の根拠規定がない場合,配転命令を拒否できるのか?

池井戸潤氏の半沢直樹シリーズの小説

「オレたちバブル入行組」,

「オレたち花のバブル組」,

「ロスジェネの逆襲」を読むと,

サラリーマンは,辞令という紙切れ一枚で,

配転や出向を命じられ,それに従わざるをえない

理不尽さが痛切に記載されています。

 

 

 

会社が,労働者に人事異動を命じることができるのは,

就業規則に人事異動に関する規定が定められており,

その人事異動の規定が労働契約の内容となっているからなのです。

 

 

通常,会社の就業規則には「業務上の都合により

出張,配置転換,転勤を命ずることがある」という規定があり,

この規定を根拠として配転命令がくだされるのです。

 

 

それでは,就業規則に配転に関する規定がない場合,

会社は,労働者に対して配転を命じることができるのでしょうか。

 

 

本日は,この点が争われた学校法人大手門学院(大手門学院大学)事件

を紹介します(大阪地裁平成27年11月18日判決・

労働判例1134号33頁)。

 

 

この事件では,学長を辞任した大学教授が,

以前の大学の学部の教授から

被告の学校法人の教育研究所へ配転させられました。

 

 

もともと,被告の学校法人の就業規則には,

大学教授についての配転に関する規定が存在せず,

原告が配転させられるころに,就業規則の服務規律の章に

「業務上の都合により,職務の変更を命ぜられた場合は,

旧職務を引き継いだ上,新職務に専念する」

という規定が新設されました。

 

 

裁判では,この規定が配転命令権の根拠となるのかが争われました。

 

 

裁判所は,この規定について,

職務の変更を命ぜられる原因となる事由について

何も記載されていないこと,

この規定が人事の章ではなく,

服務規律の章に定められていることから,

この規定は,職務変更がなされた後の服務規律に関する規定であり,

配転命令権の根拠になるものではないと判断しました。

 

 

また,被告は,本件配転は,労働契約に内在する

人事権を行使して行ったものであると主張しました。

 

 

 

 

しかし,裁判所は,配転命令権は労働契約により

その範囲が画されており,配転命令権の根拠となる

具体的な規定がないことから,被告は,

原告の同意をえることなく,

配転を命じることはできないとしました。

 

 

裁判所が,就業規則に配転の規定がなくても,

労働契約に内在する人事権を根拠に

配転ができるとしなかったことは重要です。

 

 

これが認められると,会社は労働者に対して,

広い配転命令権をもってしまう危険があり,

会社の配転命令権に一定の歯止めをかける必要があるからです。

 

 

本件事件では,原告が大学教授のという

専門性の高い職種であり,過去に専門の学部以外への

配転が行われていなかったという特殊事情があったものの,

就業規則に配転命令の根拠規定が全くない場合に,

配転が無効になると判断されたことは,

労働者に有利に活用できます。

 

 

労働者は,配転を命令された場合,

まずは,就業規則を確認して,

就業規則に配転命令の根拠規定があるのかを

チェックしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

自治労職員の配転問題

弁護士ドットコムニュースによりますと,

全日本自治団体労働組合(自治労といいます)の

新潟県本部に勤務する男性労働者が,

東京へ転勤を命じられたのは不当配転であるとして,

労働審判を申し立てたようです。

 

 

自治労とは,全国の地方公共団体などの労働組合が

結集された労働組合で,2017年1月時点で

約81万人の組合員が加入しています。

 

 

申立人の男性は,勤務地を新潟に限定することで

入社したにもかかわらず,東京への配転は

無効であると主張しているようです。

 

 

労働者としては,勤務地が限定されているから

入社したにもかかわらず,後から別の勤務地で

働くように命令されても,なかなか納得できません。

 

 

それでは,どのような場合に,労働者は,

勤務地限定の合意があったとして,

配転を拒めるのでしょうか。

 

 

そもそも,配転とは,同一企業内における労働者の

職種,職務内容,勤務場所のいずれかを

長期間にわたって変更する企業内人事異動の一つです。

 

 

 

会社が労働者に対して,配転を命令できるのは,

労働契約や就業規則に配転命令の根拠規定があり,

配転が労働契約の内容になっているからなのです。

 

 

一般的には,就業規則に「業務上の都合により,

出張,配置転換,転勤を命ずることがある」という規定が

設けられていることが多く,このような規定があれば,

会社は,裁量で,労働者に配転を命令することができるのです。

 

 

もっとも,転勤を伴う配転は,

労働者の生活環境が大きく変わり,

労働者の家族にも多大な影響が生じることから,

会社は,無制限に配転を命令できるわけではありません。

 

 

労働契約において,職種や仕事内容,勤務地を

限定する合意がされていれば,会社は,

その合意の範囲を超えて配転を命令することはできません。

 

 

ここで,労働契約を締結するときに,

会社が労働者に交付した労働条件通知書に記載されていた

勤務地が必ずしも勤務地限定の合意になるとは限らないのです。

 

 

労働契約書に勤務地を限定する規定が明確に記載されていたり,

面接の際に,労働者が家族や病気の関係で

他の地域に転勤することはできないことを採用担当者に伝えて,

会社側もこれを了承していた場合に,

勤務地限定の合意が認められるのです。

 

 

 

 

配転命令が争われた裁判例を検討すると,

①労働者に固定された生活の本拠があることが前提とされていること,

②求人票に勤務場所を特定する記載があること,

③同様の配転実績が乏しいこと等が,

勤務地限定の合意を肯定する事情となります。

 

 

逆に,①就業規則の配転条項の適用があること,

②会社において長期的にキャリアを発展させることが予定されていること,

③同様の配転実績があること等は,

勤務地限定の合意を否定する事情となります。

 

 

勤務地限定の合意が否定されたとしても,

配転について,業務上の必要性があったのか,

不当な動機・目的で配転命令がされていないか,

配転によって労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を被るか,

という要件を検討して,配転が有効か否かが判断されます。

 

 

さて,自治労は,労働者の権利と生活を守る

活動をしている団体ですので,今回,

新潟から東京の配転によって,

一人の労働者の権利と生活が不利益を被ろうとしており,

労働審判において,早期に解決されることを願いたいです。

 

 

サラリーマンには,転勤は宿命的なものでありますが,

理不尽な転勤については,争う余地がありますので,

転勤に納得できないときには,

弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

配置転換が有効かを判断するためのメルクマールとは

会社から,勤務場所を変更する転勤をすすめられましたが,

親の介護を理由に辞退したところ,同じ勤務場所において,

事務職から力仕事を必要とする業務に配置転換されました。

 

 

事務職から力仕事を必要とする業務への配置転換が

有効か否かについて解説します。

 

 

会社が労働者を配置転換するには,

次の3つの要件を満たす必要があります。

 

 

 

 

 ①労働契約上,配置転換の根拠があり,その範囲内であること

 ②法令違反がないこと

 ③権利濫用ではないこと

 

 

まず,①労働契約上,配置転換の根拠があり,

当該配置転換がその配置転換の範囲内であることが必要です。

 

 

通常,会社の就業規則には,

会社は業務上の必要がある場合,配置転換を命じることができる

と規定されていることが多く,この規定を根拠に

配置転換がなされるのであれば,①の要件は満たされます。

 

 

他方,会社の就業規則に,配置転換の根拠規定が全くない場合には,

そもそも配置転換について,労働契約上の

根拠がないとして無効となります。

 

 

また,労働契約において,仕事内容が限定されていたり,

働く場所が限定されている場合(職種・勤務地限定契約といいます),

その限定された仕事内容や働く場所が配置転換の範囲となり,

会社は,限定された仕事内容や働く場所の範囲を超えて,

労働者を配置転換できないことになります。

 

 

 

 

労働者としては,まずは会社の就業規則をチェックして,

配置転換についての規定がないか,

配置転換の規定があっても,

労働契約で職種・勤務地が限定されていないかをチェックするべきです。

 

 

会社の就業規則に配置転換の規定があり,

職種・勤務地限定がない場合,

次に②当該配置転換が法令に違反していないかを検討します。

 

 

法令違反の配置転換とは,具体的に,

配置転換が組合活動の妨害を目的としていたり,

男女差別に基づく配置転換などの場合です。

 

 

もっとも,このような露骨な法令違反の配置転換はあまりありません。

 

 

最後に,③当該配置転換が権利濫用ではないことが必要となります。

 

 

権利の濫用となる配置転換は無効となります(労働契約法3条5項)。

 

 

どのような場合に,配置転換が権利の濫用になるかは,

次の5つのメルクマールを総合判断して決められます。

 

 

 ア 当該人員配置の変更を行う業務上の必要性

 イ 人員選択の合理性

 ウ 配置転換が他の不当な動機・目的をもってなされているか否か

 エ 当該配置転換が労働者に通常甘受すべき程度を

    著しく超える不利益を負わせるものか否か

 オ 配置転換についての説明や誠実な対応がなされたか

 

 

裁判例では,アの業務上の必要性は容易に認められる傾向にあり,

業務上の必要性が認められれば,

イの人員選択の合理性も認められやすいです。

 

 

ウの他の不当な動機・目的については,

それほど露骨な嫌がらせ目的で配置転換がされることは多くありません。

 

 

そこで,裁判で主戦場になるのは,エとオになります。

 

 

最近は,介護離職が社会問題になっていることもあり,

ワークライフバランスの観点から,

転居を伴う遠隔地への転勤などは,厳しく判断されます

 

 

 

 

また,最近の裁判例では,配置転換の理由の説明や

配置転換に伴う利害得失を判断するために,

会社が労働者に必要な情報を提供するなど

適正な手続きをとることを求めています。

 

 

さて,介護を理由に転勤がなくなり,

同じ職場で事務職から力仕事に配置転換された場合,

職種限定がないのであれば,

その配置転換に応じざるをえないと考えられます。

 

 

そして,力仕事の人員が不足しているなどの業務上の必要性があり,

嫌がらせ目的がなく,同じ職場内で労働者に不利益があまりない

のであれば,配置転換は有効と判断される可能性が高いです。

 

 

本日も,ブログをお読みいただき,ありがとうございます。

会社が違法な配転命令を撤回してきたときの対処法

会社が違法な配転命令をして,労働者がこの配転命令が

違法であると争いだしたら,会社がその配転命令を形式的に撤回して,

就労を命じてきた場合,労働者は,

就労命令に従わなければならないのでしょうか。

 

 

会社がこのような違法な配転命令を発令したことによって

破壊された労働契約上の信頼関係が回復したとは

認められない場合には,労働者は,就労命令に従わなくても,

会社に対して賃金請求できると判断された裁判例を紹介します

(ナカヤマ事件・福井地裁平成28年1月15日・

労働判例1132号5頁)。

 

 

原告の労働者は,被告である住宅リフォーム会社

の福井支店の営業マンでした。

 

 

被告会社は,賞罰規定を定めました。

 

 

賞罰規定には,月間受注ノルマを200万円とし,

ノルマを達成できなかった労働者に対しては,

被告会社が決定する支店へ異動させるか,

固定給を10万円下げる降格をすると定めれていました。

 

 

原告の労働者は,このノルマ200万円を達成できませんでした。

 

 

 

もっとも,福井支店では,受注100万円

を達成できた人すらいませんでした。

 

 

被告会社は,原告の労働者に対して,

ノルマ200万円を達成できなかったことから,

固定給を10万円下げる降格か,

自主退職をするかのどちらしかないと主張して,

労働契約の内容を変更する書面にサインすることを求めてきました。

 

 

原告の労働者がサインを拒んでいたところ,被告会社は,

原告の労働者に対して,福井支店から長野支店への配転を命じ,

これに応じられないのであれば,自主退職するしかないと主張しました。

 

 

原告の労働者が,この配転命令に応じられないと回答したところ,

被告会社の福井支店に原告の労働者の席がなくなり,

長野支店への転勤か自主退職かの選択を迫られたことから,

原告の労働者は,被告会社に出勤しなくなりました。

 

 

 

 

原告の労働者が,被告会社に対して,裁判を起こして,

争っている途中に,被告会社は,長野支店への配転命令を撤回して,

福井支店での就労を命じてきました。

 

 

これに対して,原告の労働者は,

被告会社が本件配転命令の違法性を争っており,

被告会社との労働契約における信頼関係が確立されていないことから,

一度福井支店に配属されたとしても,再び不当に配転されないという

保証がないとして,この就労命令に応じませんでした。

 

 

判決では,被告会社の賞罰規定は,地域的特性を考慮することなく,

困難な売上高の達成を求める一方,達成できなかった場合には,

直ちに,固定給を10万円減額するか,

他の支店に異動させる制裁を課すものであり,

著しく過酷に過ぎ,不合理であると判断されました。。

 

 

さらに,原告の労働者は,50年以上福井市内で暮らし,

配転命令当時は妻子と同居していたので,

内示もないまま突如として長野支店へ異動を命じられることは,

原告の家族にとっても生活上著しい不利益となると判断されました。

 

 

その結果,長野支店への配転命令は違法無効となりました。

 

 

また,被告会社が配転命令を撤回しても,

本件配転命令で破壊された原告の労働者と被告会社の

労働契約上の信頼関係は回復しておらず,

原告の労働者が配転命令撤回後も出勤していないのは,

被告会社の責任であることから,原告の労働者は,

被告会社に対して,本件配転命令撤回後も

賃金請求ができると判断されました。

 

 

労働者と会社の力関係の差を考えれば,

会社が形式的に配転命令を撤回しただけでは,

復職後の不利益な取扱の可能性が残ったままとなり,

労働者は,安心して復職できません。

 

 

本判決は,このことを適切にとらえて,

違法無効は配転命令をおこなった会社が労働契約上の

信頼関係を回復しない限り,就労していない期間についても

賃金請求ができることを明確にした点で画期的です。

 

 

会社が,解雇や配転命令を形式的に撤回したとしても,

信頼関係の回復がないのであれば,労働者は,

無理に就労する必要はなく,賃金請求ができるのです。

女性事務職員に対する転居を伴う配転命令が違法とされた事例

会社から,遠くの地方へ転勤を命じられたとしたら,

これを受け入れますか,それとも拒否しますか?

 

 

総合職の労働者であれば,いつ会社から,

転勤を命じられるか分かりません。

 

 

介護を必要としている親がいたり,

まだ小さい子供がいると,家族を残して

単身赴任するのはためらわれます。

 

 

 

 

今回は,会社から受け入れがたい

人事異動をさせられたときに,労働者が

どのように対応すべきかについての

ヒントとなる裁判例を紹介します。

 

 

全国に営業拠点のある一般財団法人の

複数名の女性の事務職員が,それぞれ,

東京から仙台,

横浜から金沢,

さいたまから北海道

へ配置転換する命令を受けました。

 

 

 

そこで,配転命令を受けた女性事務職員らが,

本件配転命令は違法であるとして,

精神的苦痛を受けたことの慰謝料を求める

損害賠償請求をしました

(東京地裁平成30年2月26日判決・

一般財団法人あんしん財団事件・

労働判例1177号29頁)。

 

 

原告の女性事務職員らは,独身であったものの,

それぞれ,体が不自由であったり,

介護を必要とする家族がいました。

 

 

また,原告の女性事務職員らは,

本件配転命令を受けるまでは,

転居を伴う広域の異動をしたことがなく,

被告の一般財団法人においても,

女性職員に対して転居を伴う

配転命令はありませんでした。

 

 

そのため,原告の女性事務職員らが独身であろうとも,

介護などを必要とする家族がいることや,

これまで転居を伴う配転命令がなかったことを考慮すると,

原告の女性事務職員らに対する転居を伴う広域の異動は,

相当程度に大きな負担を生じさせます。

 

 

そうであるならば,被告の一般財団法人としては,

本件配転命令をするにあたり,

原告の女性事務職員らの個別具体的な状況に十分に配慮して,

事前に希望を聞いたうえで,

本件配転命令の業務上の必要性や目的を丁寧に説明して,

その理解を得るように努力するべきであったのに,

これをしませんでした。

 

 

その結果,本件配転命令は,

人事権の濫用にあたり,違法であると判断されました。

 

 

他方,支局長や課長といった男性職員については,

支援を必要とする家族がいても,職責が高いため,

業務上の必要性が高くなり,結果として

家庭生活上の不利益を受け入れなければならないとして,

支局長と課長に対する配転命令は

違法ではないと判断されました。

 

 

このように,これまで広域の人事異動がされていなかった職種や,

実際に人事異動の経験がない労働者に対する配転命令については,

慎重に判断される傾向にあります。

 

 

また,支援を必要とする家族の状況

なども重要な判断要素となります。

 

 

今後は,介護離職が問題になりそうですので,

納得いかない配転命令を受けた場合には,

過去の人事異動の状況を把握した上で,

家族の状況を会社に丁寧に説明して,

配転命令には応じがたいことを伝えてみましょう。

 

 

それでも,会社が取り合ってくれなかった場合には,

専門家へご相談ください。

妻の病気を理由に人事異動を拒否できるのか

ある日突然,会社から県外の別会社への

出向を命じれられてしまいました。

 

 

 

共働きの妻がいて,小さい子供もいます。

 

 

また,両親と同居していて,両親の介護もしないといけない。

 

 

家族のことを考えると県外への転勤は

とても受け入れがたいけれども,

会社の業務命令に逆らうとどうなるのか,とても不安です。

 

 

さて,このような場合,労働者はどうすればいいのでしょうか。

 

 

このような人事異動のトラブルについて,

労働者に有利な判決がだされたので紹介します。

 

 

妻の病気を理由に人事異動を拒否した

労働者に対する懲戒解雇が無効とされた

大阪地裁平成30年3月7日判決です。

(国立研究開発法人国立循環器研究センター事件

・労働判例1177号5頁)

 

 

原告の労働者は,被告である国立循環器研究センター

に勤務していたところ,独立行政法人国立病院機構

の傘下にある病院へ異動するように命令されました。

 

 

原告の妻は,強迫性障害,パニック障害,うつ状態であり,

原告の支援がなければ,抑うつ状態が悪化して,

自殺にいたる危険がありました。

 

 

そこで,原告は,この人事異動命令を拒否したところ,

業務命令違反として懲戒解雇されました。

 

 

原告は,この懲戒解雇が無効であるとして,裁判を起こしました。

 

 

裁判では,国立病院機構への異動が

転籍出向であると判断されました。

 

 

出向には,在籍出向と転籍出向があります。

 

 

在籍出向は,もとの雇用先の会社の従業員

としての地位を残したまま,別会社で長期間働きますが,

出向期間が経過すれば,もとの雇用先の会社に

戻ってくることができる人事異動です

(一般的な出向のことです)。

 

 

他方,転籍出向は,もとの雇用先の会社との

労働契約を終了させて,別会社との間で新たに

労働契約を結ぶ人事異動で,もとの雇用先の会社に

戻ってくることができません

(一般的な転籍のことです)。

 

 

本件の人事異動は,被告である国立循環器研究センター

との労働契約を解消して,国立病院機構と新たに労

働契約を締結することになっているので,

転籍出向であると判断されたのです。

 

 

転籍出向が有効になるためには,

労働者の個別の同意が必要になります。

 

 

転籍出向は,もとの雇用先の会社との労働契約上

の権利を放棄するという重大な効果を伴うものであり,

会社が一方的に行うべきではなく,

労働者自身の意思が尊重される必要があるからです。

 

 

そして,本件では,原告の個別の同意がないため,

転籍出向を命じる人事異動は無効となります。

 

 

さらに,原告の妻の病状が相当深刻であり,

原告の妻は,本件人事異動を聞いてパニックになり,

自殺未遂を起こしており,原告の不利益が大きすぎるため,

転籍出向を命じる人事異動は

権限を濫用したものであると判断されました。

 

 

人事異動が無効になり,その結果,懲戒解雇も無効になりました。

 

 

会社には,人事について広い裁量が認められていますが,

人事異動は,労働者の生活を大幅に変えるものであり,

労働者の子育てや介護の必要性も考慮されなければなりません。

 

 

1億総活躍社会ということで,

様々な立場の人達が働くのであれば,

労働者の子育てや介護の観点から,

人事異動の効力を見直す必要がでてくると考えられます。

 

 

半沢直樹のように,人事異動を恐れることなく

自分を貫き通すことは難しいかもしれませんが,

子育てや介護の観点から,人事異動に納得いかないときには,

専門家へご相談することをおすすめします。