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会社内での不倫を理由に解雇されてしまうのか

1 会社内での不倫を理由とする解雇の問題

 

 

近藤真彦氏が25歳年下の女性社長と不倫をした

ということが話題になっています。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/12f2ac499088809a9efb3a3c5ba344be42859751

 

 

テレビのワイドショーをみていますと、

有名人の不倫に関する報道がよく流れてきます。

 

 

また、弁護士の仕事をしていますと、

妻または夫が不倫をしているので、

損害賠償請求をしたいという法律相談を受けることは多いです。

 

 

 

こういった不倫について、労働問題になることもあります。

 

 

会社内での不倫が発覚して、解雇されたという労働問題です。

 

 

本日は、会社内の不倫を理由に解雇されることが

認めらるのかについて検討します。

 

 

結論としては、よほどの特殊事情がない限り、

会社内の不倫を理由とする解雇は無効となります。

 

 

具体的な事例で見てみましょう。

 

 

2 会社内の不倫を理由とする解雇が無効とされた事例

 

 

まず、1つ目の事例は、繁機工設備事件の

旭川地裁平成元年12月27日判決です(労働判例554号17頁)。

 

 

この事件では、バツイチ子持ちの女性社員が、

妻子ある男性従業員と不倫関係になったことが、

「素行不良で職場の風紀・秩序を乱した」

という懲戒事由に該当するとして、懲戒解雇されました。

 

 

この事件の男女の恋愛関係は、会社内の従業員だけでなく、

取引先でも取り沙汰されるようになっていたようです。

 

 

とはいえ、「職場の風紀・秩序を乱した」とは、

会社の企業運営に具体的な影響を与えるものに限定されるとして、

裁判所は、この事件では、会社の企業運営に

具体的な影響を与えていないとして、懲戒解雇は無効としました。

 

 

会社内外で男女の恋愛関係が取り沙汰されるという程度では、

会社に何も影響がないので、

「職場の風紀・秩序を乱した」ことにならないわけです。

 

 

ましてや、不倫関係は、通常、隠密に行われることが多いので、

会社内外の人に気づかれることがほとんどなく、

ひょんなことで会社に発覚しても、

会社の企業運営に具体的な影響を与えていないので、

解雇できないことになります。

 

 

 

3 会社内の不倫を理由とする解雇が有効とされた事例

 

 

次に、2つ目の事例は、長野電鉄事件の

東京高裁昭和41年7月30日判決です(労働判例25号6頁)。

 

 

この事件は、妻子あるバス運転手が、

18歳の女子車掌と不倫をして、

その女子車掌を妊娠させてしまい、

女子車掌は、中絶手術をして、退職したことについて、

著しく風紀・秩序を乱したとして、解雇されました。

 

 

この事件では、次の事情が考慮されて、解雇が有効とされました。

 

 

①バス運転手と車掌は、長時間一緒に勤務し、

宿泊を共にする特殊な職場環境のため、

女子従業員に対する不安動揺が生じたこと。

 

 

②当該女子車掌が退職したこと。

 

 

③当時、この会社では、地元の中学校や高校から

求人を募集していたところ、地元の中学校や高校の関係職員に

会社従業員の風紀に対する不信感を与え、

会社の求人に支障を及ぼすことになったこと。

 

 

その結果、会社の業務の正常な運営を阻害して、

会社に損害を与えたとして、解雇が有効となりました。

 

 

もっとも、長野電鉄事件は、昭和41年の判決ですので、

当時の貞操観念も考慮されていたり、

上記のような特殊事情があることは少なくなってきているので、

長野電鉄事件のように、会社内の不倫を理由とする解雇が

有効になる余地は少ないと考えます。

 

 

プライベートな領域の男女関係に、

会社が解雇や懲戒というかたちで介入するのではなく、

会社は、当事者の問題であるとして、介入せず、

遠くから見守るのがよいのではないかと思います。

 

 

まとめますと、会社内の不倫を理由とする解雇は、

会社の風紀や秩序が具体的に乱された事実があり、

会社に損害が発生しているといった特殊事情がない限り、

無効となると考えられます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

不当解雇を争うときに別の会社に再就職していても問題はないのか

1 クルーズ船会社における整理解雇事件

 

 

新型コロナウイルスの集団感染が発生した

クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の運行会社の

日本法人カーニバル・ジャパンの従業員が整理解雇されたのですが、

元従業員3名が、解雇は無効であるとして、訴訟を提起しました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN876D7PN87ULFA033.html

 

 

報道によりますと、原告らは、カーニバル・ジャパンが

雇用調整助成金を活用しておらず、

解雇回避努力を尽くしていないとして、

整理解雇は無効であると主張しているようです。

 

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大を理由とする整理解雇の事件では、

会社が雇用調整助成金を活用したかがポイントになりますので、

原告らの勝訴判決を期待したいです。

 

 

2 解雇を争うときには就労の意思を明確にする

 

新型コロナウイルスの問題が勃発してから、

解雇に関する法律相談が増えています。

 

 

不当解雇を争うときには、労働者は、会社に対して、

解雇が無効であるので、会社で働かせるように求めていきます。

 

 

解雇が無効になると、労働者は、会社に対して、

解雇されていた期間の未払賃金を請求できます。

 

 

この未払賃金を請求する前提として、労働者には、

就労の意思と能力が必要になります。

 

 

労働者の就労の意思を明確にするために、労働者は、

不当解雇を争う際には、会社に対して、

働かせるように請求するのです。

 

 

3 再就職しても就労の意思は認められる

 

 

とはいえ、解雇された労働者は、収入がなくなりますので、

通常でしたら、別の会社に再就職することがほとんどです。

 

 

 

すると、別の会社に再就職しているのに、

解雇された会社に対して、働かせるように請求するのは

矛盾するのではないかという問題が生じます。

 

 

ようするに、別の会社に再就職すると、

解雇された会社に対する就労の意思が失われてしまい、

解雇された会社に対して、

未払賃金を請求できないのではないかという問題です。

 

 

結論から言うと、労働者が解雇後に別の会社で働いてるというだけでは、

就労の意思を失ったことにはなりません。

 

 

すなわち、労働者が別の会社で働いていても、

解雇が無効であるとして、労働者の地位の確認を求めて交渉したり、

裁判をしている場合には、就労の意思があることが明らかとなるからです。

 

 

また、解雇されて賃金の支払を受けられなくなった

労働者が生活のために、別の会社で働いて

賃金を得るのはやむを得ないことだからです。

 

 

別の会社への再就職と就労の意思について、

参考になる裁判例を紹介します。

 

 

みんなで伊勢を良くし本気で日本と世界を変える人達が集まる事件の

名古屋高裁令和元年10月25日判決(労働判例1222号71頁)です。

 

 

この事件では、解雇された原告が新たに就労して

収入を得ていたのですが、新しい就職先での収入は、

解雇された会社における賃金額には及んでおらず、

新しい就労形態も、解雇された会社との間の

労働契約上の地位が確認された場合には、

離職して就労に復帰することが可能なので、

就労の意思が認められると判断されました。

 

 

この事件の原告らは、解雇された会社に勤務していたときの住居から

転居していましたが、それは新しい就労の都合上のものなので、

転居しているからといって、

就労の意思がなくなることにはならないと判断されました。

 

 

このように、不当解雇を争う場合には、

未払賃金を請求するために、

就労の意思を明確にする必要があるのですが、

別の会社に就職しても、

就労の意思が否定されることはないことになります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

業務命令違反による解雇の有効性

1 解雇の効力はケースバイケースで判断するしかない

 

 

解雇を争う事件では、解雇が有効になるか無効になるかの

判断の見通しがたてにくいことがあります。

 

 

解雇は、労働契約法16条で、客観的合理的な理由を欠き、

社会通念上相当であると認められない場合には、

無効となると規定されています。

 

 

この要件が抽象的であり、

どのような場合に客観的合理的な理由があると言えるのか、

どのような場合に社会通念上相当であると言えるのか、

についてケースバイケースで判断していくしかないので、

解雇が有効か無効かの見通しがたてにくいのです。

 

 

 

解雇事件で見通しをたてるためには、

具体的な事件で裁判所はどのような判断をしたのかを

検討するのが効果的です。

 

 

2 業務命令違反による解雇の事件

 

そこで、本日は、業務命令違反による解雇が争われた、

東芝総合人材開発事件の東京高裁令和元年10月2日判決

(労働判例1219号21頁)を検討します。

 

 

この事件では、原告が、会社内部における自分の意見や不満を、

外部の派遣元関係者に対して、ぶちまける内容のメールを

送信したことについて、会社が、原告に対して、

反省文の作成を指示し、研修業務から部品の仕訳業務をするように

指示したものの、原告は会社の業務命令に従いませんでした。

 

 

原告が会社の業務命令に従わないでいたところ、会社から、

譴責の懲戒処分と、出勤停止1日の懲戒処分を受けたのですが、

それでも、原告は、会社の業務命令に従わなかったために、

解雇されました。

 

 

原告としては、懲罰目的またはいじめ・嫌がらせ目的の業務指示に

従わなかっただけであると主張して、解雇を争いました。

 

 

業務命令違反の解雇の場合、

まず業務命令の効力が判断され、

業務命令が有効とされた場合でも、

労働者に業務命令に服しないことにつき

やむを得ない事由があるかどうかが審査されます。

 

 

 そして、労働者に対して、注意・指導や懲戒処分を行っても

勤務態度を改めず、反抗的姿勢を取り続けるなど、

業務命令拒否が固執的・反復継続的で改善の見込みがなく、

会社において、労働契約の継続を期待しがたい事情が認められて初めて、

解雇の有効性が認められるのです。

 

 

 

まず,会社の業務命令が有効か無効かについて、裁判所は、

原告は、外部に問題メールを送信して、会社の信用を揺るがした上に、

反省文を作成せずに、会社を批判し続けたことから、

元の業務に戻さずに、代わりに必要な業務指示をし、

部品の仕訳業務は、精神的苦痛を生じさせない相当なものであることから、

業務命令は有効と判断されました。

 

 

次に、原告は、1年以上も業務命令に従っていないので、

会社における企業秩序が乱されており、

会社は、解雇の前に譴責と出勤停止の2回の懲戒処分をして

解雇回避努力を尽くしていることから、

有効な業務命令に従わないことを理由になされた

解雇は有効と判断されました。

 

 

業務命令が、原告を退職に追い込むことを目的としたものとは

判断されなかったので、1年以上も業務命令違反をしたなら、

解雇が有効になるのはやむを得ないことです。

 

 

また、解雇の前に軽微な懲戒処分がなされて、

労働者の改善を求めていることも、

解雇を有効にする方向にはたらきました。

 

 

解雇の効力を検討する上で参考になる裁判例として紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

整理解雇の事件で労働審判前に解決金302万円を支払ってもらうことで示談が成立したケース

1 不倫を理由に解雇?

 

 

最近、私が担当した事件で、

うまく解決できたケースがありますので、紹介します。

 

 

そのケースは、整理解雇の事案だったので、

今、新型コロナウイルスの感染拡大による

業績悪化を理由とする整理解雇が増えている状況において、

参考になると思います。

 

 

私のクライアントは、石川県内の葬儀会社に勤務していたところ、

代表者から、あらぬ疑いをかけられて、突然解雇させられてしまいました。

 

 

あらぬ疑いとは、クライアントが不倫をしているというものでした。

 

 

 

クライアントは、不倫をしておらず、抗議しましたが、

代表者は、クライアントの言い分に耳を傾けることなく、

解雇を断行したのでした。

 

 

この解雇に納得のいかないクライアントは、会社に対して、

解雇理由を明らかにするために、解雇理由証明書の交付を求めました。

 

 

2 解雇理由証明書の交付を求める

 

 

会社は、労働者から、解雇理由証明書の交付を求められた場合、

遅滞なくこれを交付しなければならず(労働基準法22条1項)、

往々にして、会社は解雇理由を明らかにしていないことが多いので、

労働者が解雇された場合には、会社に対して、

解雇理由証明書の交付を求めていきます。

 

 

解雇の裁判では、会社が主張している解雇理由について、

労働者が、一つ一つ反論していくことになり、

反論の対象を限定されるためにも、

解雇理由証明書を交付させることは重要です。

 

 

相手方の会社から交付された解雇理由証明書には、

「会社業績不振のため、人件費削減の措置のため」と記載されており、

クライアントが会社から口頭で聞かされた、

不倫をしているという解雇理由とは異なるものでした。

 

 

会社から、口頭で聞いていたのとは異なる解雇理由が主張され、

クライアントは、ますます納得がいかなくなり、

私に法律相談をされました。

 

 

このように、会社の真の解雇理由と、

実際に解雇理由証明書に記載される解雇理由が異なることは、

実務上よくあります。

 

 

すなわち、会社が真の解雇理由を正直に記載すれば、

解雇が無効になるケースでは、会社は真の解雇理由を隠して、

もっともらしい解雇理由をとりつくろうとするのです。

 

 

このようなケースでは、会社が主張する解雇理由が争点になるのですが、

労働者としては、会社が主張する解雇理由が無効であると主張しつつ、

真の解雇理由についても主張していきます。

 

3 整理解雇の4要件(要素)を検討する

 

 

さて、クライアントが不倫をしていたことを理由とする解雇は

当然に無効になりますが、会社が主張してきた、

業績不振を理由とする解雇は、

簡単に無効になるとは限りません。

 

 

業績不振を理由とする解雇は、整理解雇といい、

整理解雇は、①人員削減の必要性、②解雇回避努力、

③人選の合理性、④手続の相当性の4つの要件(要素)を総合考慮して、

無効となるかが判断されます。

 

 

クライアントが解雇された時期が、ちょうど、

新型コロナウイルスの感染が拡大していた時期なので、

三密を避けるために葬儀が減り、

葬儀会社の売上が減少していることが予想されました。

 

 

 

また、会社から開示された決算書を見ると、

新型コロナウイルスの感染拡大の前から、

会社の売上が落ちており、さらに、新型コロナウイルスの感染拡大が、

売上の減少に追い打ちをかける状況でした。

 

 

そのため、①人員削減の必要性は認められそうでした。

 

 

もっとも、相手方の会社の決算書を税理士に分析してもらったところ、

外注費と接待交際費を削減できる余地があることがわかりました。

 

 

また、相手方の会社では、希望退職の募集がされておらず、

雇用調整助成金を利用していませんでした。

 

 

これまでのブログに記載していますが、

新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、

雇用調整助成金が拡充されており、業績が悪化しても、

会社は、労働者を解雇するのではなく、休業手当を支払って、

休業させて、雇用を維持することが求められているのです。

 

 

そのため、相手方の会社は、

②解雇回避努力を尽くしていなかったのです。

 

 

また、クライアントは、相手方の会社が資金繰りに苦しんでいた時に、

一時的に自分の預金をおろして、会社に貸付をして、

会社の資金ショートを防ぐなどの貢献をしており、

クライアントを人員削減の対象とすることに

合理な理由はありませんでした(③の要件を満たさない)。

 

 

そして、解雇理由が途中で変わるなど、相手方会社は、

解雇の理由について、充分な説明をしていませんでした

(④の要件を満たさない)。

 

 

そのため、相手方の会社は、①の要件を満たすものの、

②~④の要件を満たさないので、整理解雇は無効になると考えました。

 

 

そこで、労働審判を申し立てたところ、相手方は、

期日の1週間前に解決金を支払うので、

裁判を終わりにしたいと白旗を挙げてきました。

 

 

クライアントの1年分の賃金から、退職金と解雇予告手当をひいた、

302万円を相手方会社に支払ってもらうことで示談が成立しました。

 

 

整理解雇の事案では、会社の決算書をていねいに分析して、

労働者に有利に使えるところを

ピックアップしていくことが重要になります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

コロナ解雇を争うときは会社が雇用調整助成金を活用したかをチェックする

1 コロナ解雇が無効と判断された仙台地裁の決定

 

 

昨日のブログで紹介した、整理解雇の仮処分の続きを記載します。

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化を理由に

整理解雇されたタクシー会社の運転手が、

労働者としての仮の地位の確認と賃金の仮払いを請求した、

仮処分の手続において、仙台地裁は、2020年8月21日、

整理解雇は無効であるとして、

休業手当相当額の一部の支払いを会社に命じる決定をだしました。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/771b4ea2d7714f4ab2fd38067732d7d67ab05a13

 

 

整理解雇が無効となった理由の一つに、会社は、

雇用調整助成金を申請すれば、タクシー運転手を

休ませた際に支払う休業手当の大半を補填できたと指摘して、

解雇回避努力を尽くしていなかったということが挙げられます。

 

 

すなわち、新型コロナウイルスの感染拡大による

業績悪化を理由とする整理解雇では、

雇用調整助成金を活用して、休業手当を支払って休業させて

雇用を維持したかが重要なポイントになるのです。

 

 

 

本日は、整理解雇の4要件(4要素)の1つである

解雇回避努力について解説します。

 

 

2 整理解雇の4要件(4要素)

 

 

まず、整理解雇とは、会社の業績悪化を理由とする解雇のことで、

いわゆるリストラのことです。

 

 

会社の業績が悪化するのは、経営者の経営手法に問題があったり、

新型コロナウイルスのように会社の外部要因に原因があったりするもので、

労働者に会社の業績悪化の責任があることは、基本的にありません。

 

 

労働者に責任がないのに、解雇されるわけですから、

整理解雇は、厳格に審査される必要があり、

以下の4つの要件(要素)を満たす必要があるのです。

 

 

①人員削減の必要性

 

 

 ②解雇回避努力

 

 

 ③人選の合理性

 

 

 ④手続の相当性

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化を理由とする

整理解雇の場合、会社の売上が減り、

利益も減少していることがほとんどですので、

①の人員削減の必要性が認められることが多く、

労働者は、この点は争いにくいです。

 

 

 

3 解雇回避努力

 

 

次に、会社は、解雇を回避するための努力を

尽くさなければならないところ、具体的な措置としては、

以下のものがあります。

 

 

・広告費,交通費、交際費等の経費削減

 

 

・役員報酬の削減

 

 

・残業の削減

 

 

・中途採用、再雇用の停止

 

 

・新規採用の停止、縮小

 

 

・配転、出向、転籍の実施

 

 

・非正規雇用労働者との労働契約の解消

 

 

・希望退職の募集

 

 

新型コロナウイルス感染拡大の前であれば、これらの中で、

希望退職の募集が、解雇回避努力として重視されていました。

 

 

新型コロナウイルス感染拡大の後では、

仙台地裁の決定でも指摘されているように、

解雇回避努力として、雇用調整助成金を活用して、

労働者を休業させて休業手当を支払って雇用を維持したかが、

重視されます。

 

 

現時点において、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、

人の動きが鈍くなっている関係で、仕事がないため、

休業する場合、雇用調整助成金を活用すれば、

労働者に支払う休業手当の大半が国から支給されます。

 

 

政府は、雇用を守ることを最優先に考えており、

雇用調整助成金を拡充して、会社が労働者を解雇せずに、

休業しても、休業手当を支払って雇用を維持させようとしています。

 

 

雇用調整助成金は、やや手続が煩雑な点は否めませんが、

厚生労働省のホームページを参考にして申請すれば、国から支給されます。

 

 

このように、国が解雇回避のための政策を実施していて、

それが活用できるのに、雇用調整助成金を活用せすに、

解雇した場合には、解雇回避努力を尽くしていないと判断されるわけです。

 

 

そのため、コロナ解雇された労働者は、

会社が雇用調整助成金を活用したのかを

チェックするようにしてください。

 

 

なお、仙台地裁の決定では、休業手当相当額の一部を支払う形で

賃金の仮払いを認めたようですが、これは、

会社の業績が悪化しているので、

会社の支払能力が考慮されたのかもしれません。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

コロナ解雇で活用される賃金仮払いの仮処分の手続とは

1 コロナ解雇で賃金仮払いの仮処分が認められる

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大の影響で

業績が悪化したことを理由に解雇されたタクシー運転手が、

会社に対して、労働者としての仮の地位の確認と、

賃金の仮払いを求めた仮処分手続において、8月21日、

仙台地裁は、解雇を無効として、

休業手当相当額の一部を支払うように決定をしたようです。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/771b4ea2d7714f4ab2fd38067732d7d67ab05a13

 

 

もっとも、労働者としての仮の地位の確認の請求は

認められなかったようです。

 

 

報道によりますと、裁判所は、雇用調整助成金を利用すれば、

運転手を休ませた際に支払う休業手当の大半が補填できたとして、

解雇回避努力を尽くしていないことから、

解雇は無効と判断したようです。

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化により、

労働者が解雇されるケースが増えてくることが予想される中、

解雇が無効と判断されてよかったです。

 

 

 

本日は、仮処分の手続について解説します。

 

 

2 仮処分とは

 

 

まず、仙台地裁の事件では、仮処分という手続が利用されました。

 

 

通常の裁判は、提訴してから判決まで至るのに、

1年以上の時間がかかります。

 

 

1年以上時間をかけて、勝訴判決がでれば、

金銭の支払いを受けられますが、判決がでるまでは、

何の支払いもありません。

 

 

特に、解雇事件では、労働者は、仕事を失い、

収入が絶たれるので、再就職ができなければ、

勝訴判決がでるまで、生活できなくなります。

 

 

そうなれば、裁判を続けることができずに、

泣き寝入りをさせられる労働者が増えてしまいます。

 

 

このような事態を避けるために、判決が出るまでの期間、

会社から、労働者に対して、仮に賃金を支払わせれば、

労働者は、日々の生活をやりくりできて、

裁判を続けることができます。

 

 

そのため、通常の裁判手続で判決がでるまでの期間、暫定的に、

会社に賃金を支払わせるのが、賃金仮払いの仮処分という手続なのです。

 

 

この仮処分の手続ですが、仮とはいいながらも、

実際には、事件が最終的に解決するインパクトがあります。

 

 

基本的に、仮処分手続でくだされた決定は、

通常の裁判手続の判決でも同じような結論になることが多く、

裁判所のくだした決定に従って、事件が解決することがあります。

 

 

また、仮処分手続の中で、和解が試みられて、

事件が解決することもあります。

 

 

そして、仮処分の手続は、申し立てをしてから、

最初の裁判期日が指定されるのが早く、

手続が早く進行しますので、事件が迅速に解決します。

 

 

そのため、新型コロナウイルスの感染拡大の影響で裁判所が、

なかなか裁判期日を指定しない場合でも、

比較的早くに手続が進むので、

新型コロナウイルスの感染拡大の状況において、

仮処分の手続は利用されました。

 

 

3 保全の必要性

 

 

もっとも、仮処分の手続で、賃金の仮払いが認められれて、

会社から労働者に賃金が支払われた場合、

労働者は、その賃金を生活費として使ってしまうので、

もし、仮処分の手続の後の通常の裁判手続で、

労働者が敗訴してしまったら、労働者は、

会社から支払いを受けた賃金を返還しなければならないのですが、

賃金を使ってしまっているので、返還できません。

 

 

このような観点から、仮処分の手続では、

保全の必要性という要件を満たす必要があるのです。

 

 

法律上は、保全の必要性について、

労働者に生ずる著しい損害又は急迫の危険を避けるため、

と規定されています。

 

 

具体的には、仮処分がないまま

通常の裁判手続の判決を待っていたのでは、

労働者やその家族の生活が危機におちいることを言います。

 

 

 

労働者は、この保全の必要性について、

労働者に貯金などの資産があるか、

同居家族の収入があるか、

家計の状況などをもとに、

疎明しなければならないのです。

 

 

疎明とは、裁判官に対して、

一応確からしいという推測を得させる程度の証拠をあげることを言います。

 

 

この保全の必要性の疎明のハードルが高く、

貯金がたくさんあったり、

夫婦で共働きをしていたりしていた場合には、

保全の必要性は認められにくいです。

 

 

保全の必要性のハードルが高いので、

労働事件において仮処分手続は、

あまり多く利用されてはいませんでした。

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大による業績悪化を原因とする、

タクシー会社の整理解雇の場合、タクシー運転手は高齢で、

貯蓄もなく、賃金仮払いがないと、

生活が困窮する方が多いことが予想され、

保全の必要性を疎明できる可能性があったため、

仮処分の手続が利用されたと考えられます。

 

 

そして、仙台地裁で実際に、一部ではありますが、

賃金の仮払いの仮処分が認められてよたったです。

 

 

長くなりましたので、続きは明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

早く労働事件が解決できる労働審判の手続

1 労働事件における裁判手続

 

 

労働者側の弁護士が労働事件を受任した場合,

まずは,会社側と交渉を行います。

 

 

会社側に弁護士が就くことも多く,会社側の弁護士と交渉して,

話し合いで事件が解決することもよくあります。

 

 

もっとも,交渉では話し合いがまとまらないときには,

裁判手続に移行します。

 

 

 

労働事件以外の民事事件では,

訴訟や民事調停という手続を選択することになりますが,

労働事件では,労働審判という手続を選択することが可能です。

 

 

そして,労働審判には,訴訟にはないメリットがあり,

私は,労働事件を解決するに当たり,労働審判をよく利用します。

 

 

本日は,労働審判のメリットについて解説します。

 

 

2 労働審判とは

 

 

労働審判とは,①個別労働関係民事紛争について,

②裁判官と労使の専門委員で構成される労働審判委員会が,

③事件の審理(争点整理,証拠調べ等)を行うとともに,

④調停(話し合いによる紛争解決)を試み,

⑤調停が成立しない場合には,労働審判委員会が「労働審判」

(通常の訴訟における判決に相当するもの)を出す裁判手続です。

 

 

訴訟では,裁判官が審理しますが,労働審判では,裁判官の他に,

労働者側から選任された労働審判員と

使用者側から選任された労働審判員が

審理に加わる点に大きな特徴があります。

 

 

裁判官ではない労使から選任された労働審判員が手続に関与するのは,

労使関係や労働現場の実情について十分な知識,経験を有する者を

審理に参加させることで,紛争の実情に即した適正な解決を図るためです。

 

 

私がこれまで経験した労働審判では,

労働審判員の方々は,真摯に事件に取り組み,

事件を解決しようという熱意を持って,担当していました。

 

 

私の個人的な印象ですが,

労働者側の労働審判員の方は,労働者にやや厳しく,

使用者側の労働審判員の方は,使用者にやや厳しい気がします。

 

 

3 労働審判では早く事件が解決する

 

 

労働審判の最大のメリットは,早く事件が解決することです。

 

 

労働審判は,申し立てをしてから概ね40日以内に

第1回の期日が指定され,申し立てから概ね3ヶ月程度の間に

3回の期日が設けられます。

 

 

労働審判は,3回以内の期日で審理を

終結させなければならないので,手続が迅速に進みます。

 

 

第1回の期日までに,必要な証拠は概ね提出され,

第1回の期日で,労働審判委員会は,

労働者側と使用者側に事実の聴取を行い,

おおよその心証を固めます。

 

 

そして,第2回以降に調停が試みられて,

どのような条件であれば,調停がまとまるかについて,

交渉が実施されます。

 

 

 

調停については,会社から労働者に対して,

いくらの金銭を支払えば,調停がまとまるかが大きなポイントになり,

金額の交渉が中心となります。

 

 

最近,私が担当した2つの労働審判の手続の状況について紹介します。

 

 

1つの事件は,5月中旬に申し立てをして,

第1回期日が6月下旬,第2回期日が7月上旬,

第3回期日が7月下旬に実施されて,

第3回期日で調停が成立しました。

 

 

申し立てから約2ヶ月で解決しました。

 

 

もう1つの事件は,4月下旬に申し立てをして,

第1回期日が6月中旬,第2回期日が7月中旬,

第3回期日が8月中旬に実施されて,

第3回期日で調停が成立しました。

 

 

申し立てから約4ヶ月で解決しました。

 

 

この2つの事件では,会社が労働者に対して,

労働者が納得できる水準の解決金を支払うことで解決しました。

 

 

通常の訴訟ですと,提訴してから解決までに

1年以上かかることが多いことを考えると,

早く解決できる労働審判には,大きなメリットがあります。

 

 

労働者としては,以前の会社との揉め事を

いつまでも引きずりたくないので,労働事件では,

早く決着を付けたいというニーズが強く,

このニーズに応えることのできる労働審判は,

使い勝手がいい手続なのです。

 

 

解雇や未払残業代請求の事件で,労働審判を活用することが多いです。

 

 

労働審判を利用したい場合には,弁護士にご相談ください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

就業時間中に私用メールをしたら解雇されてしまうのか

1 私用メールを原因とする解雇

 

 

昨日に引き続き,労働者が勤務時間中に私用メールや

パソコンの私的利用をしたことが問題となった裁判例を紹介します。

 

 

グレイワールドワイド事件の東京地裁平成15年9月22日判決

(労働判例870号83頁)です。

 

 

この事件では,原告労働者が,就業時間中の私用メール,

上司への批判や誹謗中傷などを理由に解雇されました。

 

 

 

まず,就業時間中の私用メールについて,

労働者は会社の指揮命令に服しつつ

職務を誠実に遂行すべき義務を負い,

就業時間中は職務に専念し

他の私的活動を差し控えるべき義務を負っています。

 

 

そのため,就業時間中の私用メールは,

この職務専念義務に違反するリスクがあるのです。

 

 

もっとも,労働者といえども個人として社会生活を送っている以上,

就業時間中に外部と連絡をとることが一切許されないわけではなく,

就業規則に特段の定めがない限り,職務遂行の支障とならず,

会社に過度の経済的負担をかけないなど,

社会通念上相当と認められる限度で

会社のパソコンを利用して私用メールを送受信しても,

職務専念義務に違反することにはなりません。

 

 

この事件では,被告会社は,就業時間中の私用メールを

明確には禁止しておらず,就業時間中に原告労働者が

送受信したメールは1日あたり2通程度であり,

それによって原告労働者が職務遂行に支障をきたしたとか

被告会社に過度の経済的負担をかけたとは認められず,

社会通念上相当な範囲内にとどまるので,

職務専念義務違反は認められませんでした。

 

 

メールの回数頻度や,どのような内容のメールであったか,

会社に私用メールを禁止する就業規則があるか,

といった事情を検討することになります。

 

 

2 解雇を争うポイント

 

 

次に,解雇については,最後手段の原則や将来予測の原則を検討します。

 

 

 

最後手段の原則とは,労働者に落ち度があったとしても,

警告・指導,教育訓練,職種や配置の転換,休職など,

解雇を回避するための措置を講じても,

なお労働者の落ち度が改善されない場合に,

初めて解雇が有効になるということです。

 

 

将来予測の原則とは,労働者の落ち度が将来にわたって

反復継続すると予測されることが必要であるということです。

 

 

要するに,労働者の落ち度が労働契約関係を終了させても

やむを得ない程度に達していることが必要なのです。

 

 

そして,労働者の反省の有無,その他の情状,

他の労働者に対する処分との均衡などの事情を総合考慮して,

解雇という手段を選択することが

社会通念上相当といえるかを判断します。

 

 

この事件では,原告労働者の上司に対する批判は,

会社の対外的信用を害するものとして,

誠実義務の観点から不適切であるものの,

原告労働者は,約22年にわたり被告会社で勤務して,

その間,なにも問題行動をしておらず,

良好な勤務実績をあげて被告会社に貢献してきたことから,

本件解雇は,客観的合理性と社会的相当性がないとして,

無効となりました。

 

 

解雇が有効になるか無効になるかについては,

判断に迷うことが多いのですが,

最後手段の原則,将来予測の原則,社会的相当性を主張して,

解雇が無効になることもあります。

 

 

解雇された場合には,一度,弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

復職時の労働条件の引下げを拒否しても不就労期間の未払賃金が認められることがあります

1 方便的解雇の撤回の問題

 

 

労働者が解雇を争う場合,解雇が無効であるとして,

労働者としての地位があることの確認の請求と,

解雇期間中の未払賃金の請求をすることがほとんどです。

 

 

労働者のこの請求が認められるためには,労働者に,

解雇された会社で就労する意思が認められる必要があります。

 

 

そこで,解雇された労働者は,解雇した会社に対して,

解雇は無効なので,働かせるように求めていきます。

 

 

本音では解雇された会社で働きたいと考える労働者は少ないのですが,

建前として,働かせるように求めるのです。

 

 

 

通常の会社であれば,解雇は有効なので,

戻ってくるなと主張してきます。

 

 

こういう会社であれば,労働者側弁護士としては争いやすいです。

 

 

ただ,中には嫌らしい会社もあり,解雇を撤回するので,

戻ってくるように主張してくる会社もあります。

 

 

解雇が無効になるかもしれないので,

とりあえず解雇を撤回して,

解雇した労働者を会社に戻して,

戦略的にパワハラをして自己都合退職に追い込もうとするのです。

 

 

これを方便的解雇撤回といいます。

 

 

方便的解雇撤回については,労働者側弁護士は争いにくくなので,

どのように対処すべきかについて頭を悩ませます。

 

 

本日は,方便的解雇に対処するにあたり,

参考になる裁判例を見つけたので,紹介します。

 

 

2 休職から復職するときの労働条件引下げを拒否して未払賃金請求が認めれた事例

 

 

一心屋事件の東京地裁平成30年7月27日判決

(労働判例1213号72頁)です。

 

 

この事件は,解雇ではないのですが,

労災事故にあい,休職していた原告の労働者が,

職場復帰する際に,会社から,従前の労働条件から

不利益に変更する内容の労働条件の提示を受けて,

それを拒んだ際に,従前の労働条件をもとに

未払賃金の請求ができるかが争われました。

 

 

被告の会社は,休職から復職するにあたり,

原告の労働者に対して,管理職から平社員とするので,

これまで支給していた様々な手当を支給しないようになるので,

概ね9万円の賃金を減額することを復職の条件として提示しました。

 

 

 

これに対して,原告の労働者は,

被告の会社の復職条件には応じず,

休職前の労働条件での復職を希望しました。

 

 

裁判所は,被告の会社の提案は,

人事権行使の裁量の範囲に留まらない賃金減額を含むもので,

原告の労働者の同意なく一方的に決定できないとしました。

 

 

そして,被告の会社は,

労働条件の不利益変更に関する同意書に署名しない限り,

原告の労働者の就労を受け入れない

との態度を示していたものと評価できるので,

被告の会社には,原告の不就労について,

責めに帰すべき事由があるとして,

原告の労働者の休職前の賃金の金額での

未払賃金の請求が認められました。

 

 

方便的解雇の撤回の場合,会社は,復職の条件として,

労働条件を引下げてくることがありますので,そのような場合には,

会社に責めに帰すべき事由があるとして,復職を拒否しても,

解雇前の賃金の金額での未払賃金の請求が認められることがあるのです。

 

 

実務で問題となる方便的解雇の撤回について,

対応方法を考えるに際して参考になる裁判例でするので,紹介しました。

 

 

新型コロナウイルスの感染が拡大してきたので,今後,

解雇の相談が増えるかもしれないので,参考になると思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

客室乗務員に対する整理解雇が有効となった事例

1 整理解雇が増加しそうです

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の停滞などの影響により,

今年の5月から6月にかけて,解雇や雇止めが増加しています。

 

 

会社の業績悪化を理由とする解雇を整理解雇といい,

今後も,整理解雇が増えていくことが予想されます。

 

 

 

整理解雇に関する労働相談のニーズが増えていくので,

どのような場合に,整理解雇が無効になるのかを

知っておくことが重要になります。

 

 

2 整理解雇の4要件(4要素)

 

 

整理解雇は,会社の経営事情によってされる解雇であり,

労働者には落ち度がないので,整理解雇が有効になるかについては,

次の4要件(4要素)を総合考慮して,厳格に判断されます。

 

 

①人員削減の必要性

 

 

 ②解雇回避努力を尽くしたこと

 

 

 ③人選の合理性

 

 

 ④労働者や労働組合に対する説明・協議

 

 

裁判では,この4つの要件(要素)について,

どのような事実をどのように評価してあてはめるのかが

重要になりますので,裁判例を検討することが有意義となります。

 

 

3 客室乗務員の整理解雇事件

 

 

そこで,本日は,最近の整理解雇の事案である

ユナイテッド・エアーラインズ事件の

東京地裁平成31年3月28日判決

(労働判例1213号31頁)を紹介します。

 

 

この事件は,グアムに本社がある航空会社の

成田ベースで勤務していた客室乗務員が,

成田ベースが閉鎖されることに伴い整理解雇されました

(子会社が親会社に吸収合併される過程で,

成田ベースが閉鎖となりました)。

 

 

 

整理解雇の4要件(要素)の①について,

グアムと成田の路線の旅客数が減少し続けており,

客室乗務員の業務量が減少していたこと,

成田ベースの客室乗務員の業務を

グアムベースの客室乗務員に担当させることで,

約10万ドルを超えるコスト削減が可能であったこと,

から人員削減の高度の必要性があったと判断されました。

 

 

②について,被告会社は,客室乗務員の年収と同じ水準で

地上職のポストを選択肢として示していたこと,

退職金に加えて20ヶ月分の特別退職金を加算して

支払うという早期退職の提案をしていたとして,

相当に手厚い解雇回避努力を尽くしていたと判断されました。

 

 

③について,希望退職や地上職への配置転換に応じない,

成田ベースの客室乗務員が全員,整理解雇の対象になっているので,

人選に不合理な点は見当たらないと判断されました。

 

 

④について,労働組合との交渉経過や

原告らに対する説明を踏まえても,

被告会社の交渉態度に不誠実な点は見当たらず,

説明が不相当であったこともないと判断されました。

 

 

結果として,整理解雇は有効と判断されました。

 

 

会社の経営状態がどこまで悪化していたのかについて,

もう少し検討する必要があったのではないかと考えますが,

成田ベースを閉鎖する経営判断が不合理とはいえず,

退職金を優遇する希望退職などの解雇回避努力がなされていることから,

総合判断として,整理解雇が有効になりました。

 

 

解雇回避努力として,退職金を優遇する希望退職

がとられたかは一つのポイントになります。

 

 

また,事業所が閉鎖されて,事業所にいた

労働者全員を整理解雇する場合には,

人選の合理性が問題となりにくいようです。

 

 

解雇事件については,裁判所のあてはめを知る必要がありますので,

紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。