正社員の労働条件を引き下げることで正社員と非正規雇用労働者の待遇差を是正すべきではない

1 正社員の労働条件の引き下げが懸念される

 

 

10月13日と10月15日に、

正社員と非正規雇用労働者の待遇差に関する最高裁判決がでて、

正社員と非正規雇用の待遇差に注目が集まっています。

 

 

退職金と賞与については、待遇差は不合理ではないとされましたが、

手当や休暇については、待遇差は不合理と判断されました。

 

 

この最高裁判決を受けて、企業は、手当や休暇における、

正社員と非正規雇用労働者の待遇差を見直す可能性があります。

 

 

ここで、気をつけるべき点があります。

 

 

それは、正社員の労働条件を引き下げて、

正社員と非正規雇用労働者の待遇差を是正することです。

 

 

 

すなわち、正社員に対してだけ

扶養手当や特別な休暇が与えられている場合に、

正社員の扶養手当を削除し、特別な休暇を廃止して、

正社員の労働条件を引き下げて、

非正規雇用労働者の労働条件に合わせるということです。

 

 

これでは、正社員の労働条件が引き下げられることで、

モチベーションが下がりますし、非正規雇用労働者にとっては、

何も労働条件が改善されないままとなり、

全ての労働者に不満が残る結果になります。

 

 

もともと、正社員と非正規雇用労働者の待遇差を解消することによって、

非正規雇用労働者の処遇を改善し、賃金の上昇、需要の拡大を通じて、

経済成長を図ることが目的とされていたので、

非正規雇用労働者の低い労働条件に合わせるように、

正社員の労働条件を引き下げたのでは、

この目的の意味がなくなってしまいます。

 

 

そのため、会社は、不利益を受けている非正規雇用労働者の

待遇を引き上げることで、待遇差を改善すべきなのです。

 

 

2 労働条件の引き下げについて同意しない

 

 

とはいえ、会社の経営が厳しい場合には、会社は、

正社員にだけ支給している手当などを廃止して、

正社員の労働条件を非正規雇用労働者の低い水準に

引き下げてくることが考えられます。

 

 

この場合、正社員としては、手当の廃止などの

労働条件の不利益な変更に同意してはいけません。

 

 

労働者の個別の合意がない限り、原則として、

労働条件を不利益に変更することはできないのです。

 

 

仮に、労働者が不利益な労働条件の変更に同意してしまった場合、

その同意が、労働者の自由な意思に基づくものでない場合には、

その同意が無効になる可能性があります。

 

3 就業規則の不利益変更

 

 

次に、正社員が手当の廃止などの労働条件の不利益な変更に同意せずに、

反対していると、会社は、賃金規程などの就業規則を変更して、

手当を廃止するなどの対応をしてくる可能性があります。

 

 

 

このように、会社が労働者にとって不利益となる

就業規則の変更を行う場合には、労働契約法10条に規定されている、

以下の事情が総合判断されます。

 

 

①労働者の受ける不利益の程度

 

 

②労働条件の変更の必要性

 

 

③変更後の就業規則の内容の相当性

 

 

④労働組合等との交渉の状況

 

 

⑤その他の就業規則の変更に係る事情

 

 

正社員と非正規雇用労働者の待遇差を是正するために、

正社員の労働条件を就業規則の不利益変更で引き下げることは、

③や⑤の事情として、マイナスに考慮されます。

 

 

さらに、正社員に支給されている手当を廃止する場合、

正社員の賃金が減額されますので、

②労働条件の変更の必要性については、

高度のものが求められます。

 

 

そのため、正社員と非正規雇用労働者の待遇差を是正するために、

正社員の手当などを廃止することを、

就業規則の変更で実施する場合には、

労働契約法10条の事情に照らして、不合理であるとして、

無効になる可能性があります。

 

 

今後、正社員の労働条件の引き下げによって、

正社員と非正規雇用労働者の待遇差の是正がなされる

動きがでてくるかもしれませんが、労働者としては、

断固反対して、非正規雇用労働者の処遇の改善を求めていくべきです。

 

 

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