上原浩治投手の引退から70歳までの雇用を考える
5月20日,日米で通算134勝をあげた
巨人の上原浩治投手が,シーズン途中での引退を表明しました。
報道によりますと,上原投手は,
高校までは控えの投手だったものの,雑草魂を胸に成長し,
やがては大リーグのレッドソックスの抑え投手として
ワールドシリーズ優勝に貢献したようです。
プロの世界で44歳まで活躍されたことは,
本当に素晴らしいことだと思います。
さて,プロの選手が引退するニュースが流れる一方,
労働者の定年を延長するニュースが流れています。
5月15日,政府は,未来投資会議において,
希望する人が70歳まで働き続けられるように,企業に対して,
高齢者の雇用機会をつくるよう努力義務を課す方針を明らかにしました。
https://mainichi.jp/articles/20190516/ddm/001/020/155000c
人生100年時代に突入したので,
労働者が65歳で引退するのはまだ速く,
働けるのであれば,70歳まで働きましょうということです。
本日は,70歳までの雇用確保について説明します。
まず,現行の高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)8条で,
60歳を下回る定年を定めることが禁止されています。
高年法9条では,企業に対して,65歳までの雇用確保措置として,
①定年の引上げ,②継続雇用制度の導入,③定年制の廃止
のいずれかを講ずることを義務付けています。
今回,政府は,65歳までの①~③の雇用確保措置を講ずることの
義務を維持したまま,65歳を過ぎて70歳まで働きたい人のために,
①~③に加えて,次の新たな④~⑦の4つの案を示しました。
④他の企業(子会社・関連会社以外の企業)への再就職の実現
⑤個人とのフリーランス契約への資金提供
⑥個人の起業支援
⑦個人の社会貢献活動参加への資金提供
65歳から70歳まで働くにあたり,労働者は,
①~⑦の選択肢の中からどれを選ぶかを会社と協議して決めます。
2020年の通常国会で高年法を改正して,
65歳から70歳の雇用確保措置を講ずることを
企業の努力義務とする方向のようです。
人生100年時代に突入しているので,
まだまだ自分の能力を発揮して自己成長していきたいと
願う労働者にとっては朗報といえるでしょう。
また,企業にとっても,高齢の人材を活用することで
人手不足を解消できる可能性がありますし,
都会の大企業で働いていた高齢の労働者が,
地方の中小企業で再び活躍できれば,
地方に人材を呼び寄せることができるかもしれません。
他方,低賃金で70歳まで働かされる懸念があります。
日本の企業は,年功序列の賃金体系がまだ多く,
高い賃金のまま長く雇用すれば,
人件費が増加してしまいます。
また,高齢の労働者が企業に残っていれば,若者の昇進が遅れ,
若者のモチベーションが低下するおそれもあります。
そのため,現段階で,多くの企業は,①~③のうちの
②契約社員などで再雇用する継続雇用制度で対応しています。
契約社員として,再雇用で働くと,低賃金となり,
低賃金で70歳まで働かないといけなくなる可能性があります。
低賃金であっても,仕事の量や質が下がっていれば,
労働者としてはあまり文句はないでしょうが,
仕事の量や質が同じままで,賃金だけが下がるのでは,
労働者としては,納得できないでしょう。
そのため,②継続雇用制度においては,賃金を下げるのであれば,
同時に仕事の負担も軽減することが重要になると思います。
また,新しく加わった④~⑦ですが,
企業がどれだけの金銭的負担を負ってくれるかによって,
労働者がとるべき対応が変わってくると思います。
企業が高齢者の起業支援に多額のお金を出してくれるのであれば,
労働者が④~⑦の選択肢を選ぶかもしれませんが,現実的に,
企業がそれほど多額のお金を会社を引退する労働者に
出してくれるとは思えないので,
②継続雇用制度を70歳まで延期することが
多くなることが予想されます。
もっとも,労働者には,選択肢が増えましたので,
これを前向きにとらえて,定年後にどのように働くかを意識して,
現役時代からスキルを高め,人脈を構築しておくべきだと考えます。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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