労働条件を変更するための合意とは2~山梨県民信用組合事件~

会社から,賃金や退職金などの重要な労働条件を,

労働者にとって不利益に変更することに合意を求められた場合,

労働者はどうすればいいのでしょうか。

 

 

労働契約法8条により,労働条件を変更するためには,

労働者と会社の合意が必要になりますので,

労働条件の変更に納得できないのであれば,

労働者は,合意しなければいいのです。

 

 

しかし,会社から合意を求められて,これを拒否し続けると,

会社から冷遇されるのではないかと恐れてしまい,

労働者が合意しないというのは,なかなか大変なことです。

 

 

 

また,会社から,きちんとした説明がなく,

なんとなく合意してしまうというケースもあると思います。

 

 

労働者が自分に不利益な労働条件の変更に合意してしまった場合,

この合意を争うことはできないのでしょうか。

 

 

本日は,合意による労働条件の変更が争われた,

山梨県民信用組合事件を紹介します

(最高裁平成28年2月19日判決・労働判例1136号6頁)。

 

 

この事件では,信用組合の合併に際して,

退職金が大幅に削減されたのですが,労働者は,

退職金の大幅な削減に合意したのかが争点となりました。

 

 

事案が複雑なので,簡単に説明しますと,

信用組合の合併により,退職金の総額を従前の2分の1以下として,

さらに,退職金総額から厚生年金給付額及び企業年金還付額が

控除されることとなり,結果として退職金額が

0円となってしまったのです。

 

 

 

 

通常であれば,退職金が0円になるのであれば,

労働者は,そのような不利益な変更に合意しないのですが,

本件事件では,会社側から,退職金の変更に合意しないと,

合併を実現することができないなどと説明を受けていたため,

原告ら労働者は,同意書に署名押印してしまいました。

 

 

その後,原告ら労働者は,合併前の退職金規程に基づく

退職金の支払いを求めて裁判を起こしました。

 

 

最高裁は,労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合,

労働者が変更を受け入れる行為をしていても,

労働者が会社から使用されて指揮命令に服すべき立場に置かれており,

自らの意思決定の基礎となる情報を収集する能力にも限界があることから,

直ちに労働者の合意があったとみるのではなく,

労働者の合意については慎重に判断するべきであるとしました。

 

 

そして,「当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,

労働者により当該行為がされるに至った経緯及び態様,

当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,

当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる

合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも,

判断されるべき」としました。

 

 

ようするに,労働者は,会社に比べて立場が弱く,

情報量が少ないので,労働者が自分にとって

不利益な労働条件の変更に合意していても,

その合意が有効となるかは,

慎重に判断されるということです。

 

 

 

本件事件では,合併による退職金の変更により,

自己都合退職の場合には退職金が0円になる可能性が高くなる

といった具体的な不利益の内容や程度について,

会社からの情報提供や説明が不十分であったとして,

最高裁は,高裁に審理を差し戻しました。

 

 

賃金や退職金が労働者に不利益に変更される場合で,

会社から,どれだけの金額が削減されるのかといった説明が

なされないまま,労働者が,不利益な労働条件の変更に合意しても,

その合意は成立していないと判断される可能性があります。

 

 

そのため,労働条件の不利益変更に合意してしまっても,

納得できない場合には,会社からの説明の状況や不利益の大きさ

を検討して,まだ争うことができるかを見極める必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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