ひげをはやす自由と人事考課

最近,ひげをはやすタレントやスポーツ選手がいます。

 

 

おしゃれだなと思うこともあれば,

ちょっと似合っていないなと思うこともあり,

正直おしゃれにひげをはやすのは難しいように思います。

 

 

私は,毎朝,めんどくさいなぁと思いながら,ひげをそっています。

 

 

さて,ひげについて興味深い裁判例がありますので,

紹介したいと思います。

 

 

 

大阪市(ひげ禁止)事件の大阪地裁平成31年1月16日判決

(労働法律旬報1941号53頁)です。

 

 

この事件では,大阪市交通局の地下鉄の運転手(原告)が

ひげをはやしていたところ,ひげをそって仕事をするように

という上司の指導や職務命令に従わなかったところ,

人事考課において低評価の査定を受けました。

 

 

このことについて,原告は,人格権としての

ひげをはやす自由を侵害されたとして,

大阪市に対して,損害賠償請求をしました。

 

 

大阪市や交通局の規程には,職員の身だしなみについて,

「常に清潔な身だしなみを心がけること」,

「頭髪及びひげ等の手入れを怠らないこと」,

「髭は伸ばさず綺麗に剃ること。(整えられた髭も不可)」

などの記載がありました。

 

 

 

そして,身だしなみの基準を守らない職員に対しては,

上司が指導をし,その指導に従わない場合には,

人事考課に反映され,人事考課の結果によっては,

昇給や勤勉手当の支給額,賞与の支給額に

影響がある仕組みとなっています。

 

 

そのため,ひげをそるという業務命令に従わなかった場合,

人事考課で低い評価となり,

昇給や勤勉手当に悪影響が生じるのであり,

個人の信条としてひげをはやしたい人にとっては,

ひげをそるべきかどうか葛藤が生じるようになっていました。

 

 

まず,大阪地裁は,ひげをはやすか否か,

ひげをはやすとしてどのような形状にするかは,

服装や髪型と同様に,個人が自分の外観をいかに表現するかという

個人的自由であると判断しました。

 

 

そして,ひげは,服装と違って着脱が不可能なので,

仕事におけるひげに関する規律は,私生活にも及ぶことになります。

 

 

そのため,労働者のひげに関する服務規律は,

仕事の遂行のために必要が認められ,かつ,

その具体的な制限の内容が,労働者の利益や自由を過度に侵害しない

合理的な内容の限度でしか認められないとしました。

 

 

そのうえで,地下鉄の運転手がひげをはやしていも,

地下鉄の安全な運行に支障はなく,

市民や乗客がひげを嫌悪するのは人それぞれであることから,

職務上の命令として一切のひげを禁止したり,

ひげをはやしていることを人事上不利益に扱うことは,

合理的な限度を超えていると判断されました。

 

 

ひげをはやしていることを理由として,

人事考課で低い評価をすることは,

人事考課における使用者の裁量を逸脱・濫用したものであり,

原告の人格的な利益を侵害するものとして違法であり,

慰謝料20万円が認められました。

 

 

地下鉄の運転手がひげをはやしていても,

あまりきにならないと思いますので,

ひげをはやしていることを理由に

人事考課で不利益な扱いをすることは,

行き過ぎの感がします。

 

 

 

ひげが自分のおしゃれだと思っている人にとっては,

業務命令でひげをそるように言われるのは,苦痛だと思います。

 

 

#Kutooの問題と同じように,

服装や身なりを一律に統制することは,

多様性が求められる社会では,

軋轢を生むような気がしますので,

もう少し労働者個人の自由を認めてもいいのではないかと考えます。

 

 

ひげをはやすことが個人の自由であると正面から認められた

珍しい裁判例なので,紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

支店長やマネージャーになると残業代を請求できないのか?

支店長やマネージャーという役職がつくと,

残業代が支払われないという労働相談を受けることがあります。

 

 

会社は,支店長やマネージャーは,労働基準法41条2号の

「監督若しくは管理の地位にある者」に該当することを理由に,

残業代を支払わなくても合法であると主張します。

 

 

しかし,往々にして,裁判では,このような会社の主張は

認められにくく,労働者の未払残業代請求が認められることが多いです。

 

 

その理由について,コナミスポーツクラブ事件の

東京高裁平成30年11月22日判決と

東京地裁平成29年10月6日判決(労働判例1202号70頁)

を紹介しながら解説します。

 

 

まず,労働基準法41条2号の管理監督者に該当すれば,労働者は,

労働基準法に定められている労働時間の保護規定が適用されなくなり,

どれだけ残業しても,残業代を請求できなくなってしまいます。

 

 

 

なぜこのようなことになるのかについて,裁判所は,

次のように判断しています(少し長いですが引用します)。

 

 

「管理監督者については,その職務の性質や経営上の必要から,

経営者と一体的な立場において,労働時間,休憩及び休日など

に関する規制の枠を超えて活動することが要請されるような

重要な職務と責任,権限を付与され,

実際の勤務態様も労働時間などの規制になじまない立場にある一方,

他の一般の従業員に比して賃金その他の待遇面で

その地位にふさわしい優遇措置が講じられていることや,

自己の裁量で労働時間を管理することが許容されていることなどから,

労基法の労働時間などに関する規制を及ぼさなくても

その保護に欠けるところがないと考えられることによるものである。」

 

 

そのため,管理監督者に該当するかについては,

次の3つの要件に該当するかによって判断されます。

 

 

①当該労働者が実質的に経営者と一体的な立場にあるといえるだけの

重要な職務と責任,権限を付与されているか

 

 

 ②自己の裁量で労働時間を管理することが許容されているか

 

 

 ③給与などに照らし管理監督者としての

地位や職責にふさわしい待遇がなされているか

 

 

 

本件事件では,①について,支店長には,

支店で提供するサービスの内容の決定や営業時間の変更について

決定権がなく,アルバイトの採用や販売促進活動の実施などについて

本社の決裁を経る必要があることから,

経営者と一体的な立場にはないと判断されました。

 

 

②について,支店長についてもタイムカードや週報などで

労働時間が管理されており,人員不足のために,

管理業務以外のフロント業務やインストラクター業務といった

一般従業員と同じ業務をしなければならないほど多忙で,

労働時間について裁量がなかったと判断されました。

 

 

③について,支店長には,役職手当として,

月額5~6万円が支給されていましたが,

本給の幅が16~23万円であり,管理監督者として

ふさわしい待遇があったとはいえないと判断されました。

 

 

以上より,コナミスポーツの支店長は,

管理監督者ではないとして,

未払残業代請求が認められました。

 

 

上記3つの要件のうち,特に③の要件については,

給料明細を見れば,判断することが容易であり,

低い給料で働かされていたのであれば,

管理監督者ではないと判断される可能性が高いです。

 

 

そのため,支店長やマネージャーという役職についても,

給料が低かったり,以前と働き方が変わっていないような場合には,

労働基準法の管理監督者には該当せず,

未払残業代を請求できる可能性があるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働審判で無期転換が認められたKLMオランダ航空の客室乗務員雇止め事件

KLMオランダ航空に勤務していた客室乗務員が,

無期転換逃れの雇止めにあったとして,

東京地裁に申し立てた労働審判において,

8月19日に,雇止めは無効で,

無期転換を認める審判がなされました。

 

 

https://www.bengo4.com/c_5/n_10035/

 

 

報道によると,申立人らは,契約社員として5年勤務後に,

会社に対して無期転換の申し込みをしたものの,

拒否されて雇止めにあったようです。

 

 

 

本日は,この雇止め事件をもとに無期転換ルールについて解説します。

 

 

まず,契約社員や嘱託職員のように,

労働契約の契約期間が1年間などのように定められている

労働契約を有期労働契約といいます。

 

 

有期労働契約は,契約期間が満了すれば,

労働者は退職しなければならないのですが,

会社と労働者との間で,有期労働契約を更新すれば,

労働者は,継続して働くことができます。

 

 

ここでのポイントは,会社との間で

有期労働契約の更新ができなければ,

労働者は,職を失うということです。

 

 

もっとも,有期労働契約では,労働者の雇用の安定を図れないことから,

有期労働契約から,いわゆる正社員である無期労働契約へ

転換するためのルールが労働契約法18条で定められました。

 

 

具体的には,有期労働契約が1回以上更新されており,

有期労働契約のトータルの契約期間が5年を超えた場合,

有期労働契約の契約期間が満了するまでの間に

労働者が会社に対して,無期労働契約の締結の申込みをすれば,

有期労働契約から無期労働契約へ転換されます。

 

 

有期労働契約から無期労働契約へ転換された場合,

契約期間以外の労働条件は,従前の有期労働契約と同じになるのが

原則なので,正社員と同じ労働条件になるわけではない

ことに注意が必要です。

 

 

さて,有期労働契約を締結している労働者が

無期転換の権利を行使してきたときに,会社としては,

無期転換されることを嫌い,有期労働契約の契約期間の満了で

雇止めをしてくることがあります。

 

 

 

会社が,無期転換権行使を免れるために雇止めをしてきたときには,

労働者は,労働契約法19条に基づき,雇止めが無効であり,

無期転換されたことを主張していきます。

 

 

会社としては,本音は,無期転換を免れるための

雇止めであったとしても,会社の業績が悪化しているや,

労働者の勤務成績が悪いという建前の主張

をしてくることがありますので,労働者としては,

建前としての雇止めの理由の虚構性を暴き,

本音の雇止めの理由が無期転換逃れにあることを

主張立証していくことが重要となります。

 

 

おそらく,KLMオランダ航空の雇止め事件では,

本音の雇止めの理由が無期転換逃れにあることが認められて,

無期転換が労働審判で認められたのだと思います。

 

 

労働審判では,会社と労働者との間で,

会社が労働者に金銭を支払って,

労働契約が終了するという話し合いがまとまることが多いのですが,

無期転換が認められたのが画期的です。

 

 

もっとも,労働審判に対して,会社が異議を出せば,

通常の裁判に移行することになります。

 

 

そのため,KLMオランダ航空が労働審判に対して異議を出せば,

通常の裁判で引き続き争っていくことになりますが,

労働審判で労働者に有利な判断がでているので,

通常の裁判においても,労働者に有利な判断が

維持される可能性が高いと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

学び効率が最大化するインプット大全3~情報収集と人から学ぶ方法~

樺沢紫苑先生の「学び効率が最大化するインプット大全

を読み進めて気づいたことをアウトプットします。

 

 

 

情報と知識のバランスを整えることの重要性が記載されています。

 

 

情報とは,データを整理して意味づけたものであり,

時間が経過すれば劣化します。

 

 

知識とは,情報をまとめて体系化したもの,

情報を分析,解釈して得られるものであり,

時間が経過してもそれほど劣化しません。

 

 

ネットや新聞から得られるものは主に情報であり,

本や人から得られるものは主に知識です。

 

 

樺沢紫苑先生は,情報対知識の比率を

3対7以下にすべきとおっしゃっています。

 

 

私は,これまで,時間をかけて新聞を細かく読んでいたのですが,

新聞に記載されているのは情報であり,

自分に必要な記事だけ読んで,他は流し読みをして,

新聞を読む時間を削減しました。

 

 

そうすることで,情報収集の時間を削減できました。

 

 

情報爆発の時代,どうしても情報を集めることに時間をとられてしまい,

肝心な知識を習得する時間が削られてしまうので,

意識して,知識を習得する時間を増やす必要があります。

 

 

 

情報収集の時間を短縮するための具体的なノウハウとして,

グーグルアラートやRSSリーダーを利用することで,

自分にとって必要な情報だけを自動で受け取れるようになります。

 

 

自分に必要な情報を自動で受け取り,

その情報をPDFで保存しておけば,

ブログのネタを探すのに重宝します。

 

 

本に記載されているノウハウを素直に実践してみると,

やはり役立ちます。

 

 

自分にとって必要なければ,やめればいいだけですので,

本に記載されているノウハウをとりあえず,

実践してみるのは重要だと思います。

 

 

次に,樺沢紫苑先生は,人と会うことの重要性について解説しています。

 

 

人と出会い,関係性を築き,いろいろなことを教えてもらい,

また自分も教えて,お互いに気づきを得ながら,

共に自己成長していくのが,究極のインプットです。

 

 

人と1回会うだけでは意味がなく,関係性を深めるためには,

これはと思う人と何度も会うようにすべきです。

 

 

 

また,人と交流する際には,受け取るのではなく,

自分から相手に対して,情報や知識を与えることを

意識する必要があります。

 

 

自分が相手に与えなければ,相手から与えられませんし,

与えることができる人は,他者貢献の精神をもった人と

つながることができるのです。

 

 

そして,できれば1対1で会うのがいいです。

 

 

グループで会うと,どうしても,

自分が話したいことや聞きたいこととずれてしまうので,

人間関係を深めるためには,1対1で会うのが大切です。

 

 

1対1で会い,相手から教えてもらったことを,

次に会うときまでに実践し,感謝を伝えると,

その相手と親密になることができます。

 

 

情報収集や人から学ぶときに大切なことが

体系的にまとめられている貴重な本です。

 

 

時間をおいて読み返すと新たな発見がみつかりそうな本です。

 

 

多くの方々に読んでもらいたい1冊です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社におけるいじめ防止義務とは?

子供の世界でも大人の世界でも,残念ながら,

いじめというものはなかなかなくならないです。

 

 

都道府県の労働局で実施されている総合労働相談において,

平成30年度における職場におけるいじめや嫌がらせに関する相談が

全国で82,797件となり,増加の一途をたどっています。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/content/11201250/000521619.pdf

 

 

職場におけるいじめや嫌がらせに関する

相談の増加は今後も続きそうです。

 

 

 

では,労働者が,職場でいじめにあった場合,

会社に対して,いじめを防止するための対策をとるように

要求することはできるのでしょうか。

 

 

本日は,使用者がとるべき職場いじめ防止義務について解説します。

 

 

まず,使用者は,労働者が労働するにあたり,

労働者の生命や身体の安全の確保をするように

配慮すべき義務を負っています(労働契約法5条)。

 

 

これを安全配慮義務といいます。

 

 

この安全配慮義務の具体的内容として,使用者には,

職場の上司や同僚からのいじめ行為を防止する,

いじめ防止義務を負っているといわれています。

 

 

このいじめ防止義務の具体的な内容について,

判断した裁判例を紹介します。

 

 

川崎市水道局(いじめ自殺)事件の

横浜地裁川崎支部平成14年6月27日判決

(労働判例833号61頁)です。

 

 

この事件では,上司が部下に対して,

「なんであんなのがここに来たんだよ。」,

「なんであんなのがA評価なんだよ。」などと嫌味をいい,

「経験のために風俗店に連れて行ってやれ。」などとからかい,

オウム真理教の麻原彰晃に似ているとして

「むくみ麻原」,「ハルマゲドンが来た」などと嘲笑していました。

 

 

 

また,団体旅行の際に,上司が部下に対して,

果物ナイフを示して「今日こそは刺してやる」

などと脅かすようなことを言いました。

 

 

このような酷いいじめが執拗に繰り返されて,部下は,

精神的に追い詰められ,欠勤しがちになり,その後,

精神分裂病を発症し,自殺してしまいました。

 

 

この部下の遺族が,いじめをした上司とその使用者である

川崎市に対して,損害賠償請求をしました。

 

 

裁判所は,川崎市の責任者には,いじめの有無を積極的に調査し,

速やかに善後策(防止策,加害者など関係者に対する適切な措置,

配転など)を講じるべきだったのに,これを怠り,

いじめを防止するための職場環境の調整をしなかったとして,

川崎市の安全配慮義務違反を認めて,

遺族の損害賠償請求を認めました。

 

 

この裁判例からは,使用者がとるべき職場のいじめ防止義務の

具体的な内容としては,

①いじめの事実の有無・内容についての迅速かつ積極的な調査,

②いじめの制止などの防止策,

③被害者への謝罪,

④異動などの加害者関係者に対する適切な措置

などが考えられます。

 

 

使用者が,職場のいじめを知ったにもかからわず,

上記の適切な措置をとらなかった場合,

いじめ防止義務に違反したとして,

損害賠償請求をされるリスクがあります。

 

 

会社ではいじめが生じないように,

職場環境を整備していく必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

森友学園の決裁文書改ざんの強要による自殺と公務災害

学校法人森友学園への国有地売却をめぐり,

決裁文書改ざんを強要されたというメモを残して自殺した

近畿財務局の男性職員について,公務災害が認定されました。

 

 

https://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2019080802000058.html

 

 

財務省理財局は,近畿財務局に指示をして,

決裁文書から安倍昭恵氏に関する記述や

政治家秘書らのはたらきかけについての部分を削除したのですが,

自殺した男性職員は,担当の部署に所属しており,

毎月100時間に及ぶ残業をしていたようです。

 

 

本日は,森友学園の決裁文書の改ざんに関する

公務災害について説明します。

 

 

まず,公務員には,労災保険法の適用はありませんが,

その代わりに,国家公務員には国家公務員災害補償法,

地方公務員には地方公務員災害補償法に,

それぞれ基づいた公務員災害補償制度が設けられています。

 

 

国家公務員の場合,人事院が指定する補償実施機関が

公務災害の認定手続の事務を取り扱っており,

被災した公務員や遺族は,補償実施機関の中に置かれている

補償事務主任者に対して,公務災害による補償の請求を行います。

 

 

国家公務員が精神障害を発症して自殺した場合,

「精神疾患等の公務上災害の認定について」

(平成20年4月1日職補―114)という認定基準に基づいて,

公務災害か否かが認定されます。

 

 

https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000wipv-att/2r9852000000wj02.pdf

 

 

この認定基準では,次の要件を満たせば,公務災害と認定されます。

 

 

 

 

①精神疾患の発症前おおむね6ヶ月の間に,

医学経験則に照らし,当該疾患の発症原因とするに足る

強度の精神的又は肉体的負荷を業務(一般的には業務上の諸事象が重積)

により受けたことが認められること

 

 

②個体的な要因,私的な要因により

発症したものとは認められないこと

 

 

この①の強度の精神的又は肉体的負荷を受けたかについて,

「公務に関連する負荷の分析表」という資料があり,

そこに記載されている具体的な出来事にあてはめて,

業務負荷の程度を検討します。

 

 

森友学園の決裁文書の改ざんについては,

「社会問題化した事態に対応した」,

「行政上の不手際が発覚し,責任を追及された」,

「責任者として事態の収拾に当たった」

という出来事に当てはまりそうです。

 

 

また,民間労働者に適用される

「心理的負荷による精神障害の認定基準」には,

さらに具体的に出来事が記載されています。

 

 

そこには,「業務に関連し,違法行為を強要された」

という具体的出来事が記載されており,

「業務に関連し,重大な違法行為(人の生命に関わる違法行為,

発覚した場合に会社の信用を著しく傷つける違法行為)を命じられた」,

「業務に関連し,強要された違法行為が発覚し,

事後対応に多大な労力を費やした(重いペナルティを課された等を含む)」

場合には,心理的負荷が「強」と認定されます。

 

 

森友学園のケースにあてはめてみると,

自殺した男性職員は,決裁文書の改ざんという

発覚した場合に財務省の信用を著しく傷つける違法行為を命じられて,

さらにそれが発覚して,1ヶ月100時間ほどの残業をしていた

のでありますから,心理的負荷は「強」と認定されると思います。

 

 

優秀な国家公務員が,決裁文書の改ざんという

違法行為を指示されれば,

上からの業務命令に服従すべきか,

違法行為を是正すべきかという葛藤が生じて,

精神的な負荷は相当に強かったと考えられます。

 

 

 

そのため,決裁文書の改ざんという違法行為の強要に加えて,

1ヶ月100時間ほどの残業があれば,

自殺が公務災害と認定されるのは妥当な結論だと考えます。

 

 

違法行為の強要によって自殺者が出るという

悲劇は二度と起きてほしくないです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

未払残業代請求事件におけるタイムカードの開示義務

未払残業代請求事件では,未払残業代を請求する労働者が,

各労働日ごとに,何時から何時まで働いたのかを,

証拠に基づいて証明しなければなりません。

 

 

そのため,私は,未払残業代事件の法律相談を受ける場合には,

労働時間を証明するための証拠としてどのようなものがあるのかを,

相談者の方に確認します。

 

 

タイムカードによって,労働時間の管理が行われているようであれば,

タイムカードに打刻された時刻によって,

労働時間が認定されることがほとんどですので,

労働者側の弁護士としては,

タイムカードをどうやって入手するかを考えます。

 

 

 

弁護士が労働者の代理人として,会社に対して,

タイムカードの開示を要求すれば,

会社側にも弁護士の代理人がついて,

タイムカードを開示してくることが多いです。

 

 

私は,これまで未払残業代を請求してきて,

タイムカードの開示を拒否されたことはありません。

 

 

しかし,労働者個人が会社に対して

タイムカードの開示を求めたとしても,

会社がタイムカードの開示に応じなかった場合,

労働者は,どうすればいいのでしょうか。

 

 

労働者が個人で会社に対して,タイムカードの開示を求めても,

会社がタイムカードの開示を拒否してくることがあると思いますので,

本日は,タイムカードの開示について解説します。

 

 

タイムカードの開示については,

医療法人大生会事件の大阪地裁平成22年7月15日判決

(労働判例1014号35頁)が参考になります。

 

 

この事件では,被告会社が何の説明もなく,

原告労働者がタイムカードを打刻できない状態にし,

原告労働者が被告会社に対して,タイムカードの開示を要求しても,

被告会社はこれに応じず,裁判になっても,

被告会社は,タイムカードを紛失したとして,

裁判が終わるまで,タイムカードを開示しませんでした

(ちなみに,会社は,労働基準法109条により,

タイムカードを3年間保管しなければなりません)。

 

 

裁判所は,会社には,労働基準法の規制を受ける労働契約の

付随義務として,信義則上,労働者にタイムカード等の

打刻を適正に行わせる義務を負っているだけではなく,

労働者からタイムカードの開示を求められた場合には,

その開示の要求が濫用にわたると認められるなど

特段の事情のない限り,保存しているタイムカード等を

開示すべき義務を負うと判断しました。

 

 

 

そして,会社が,この義務に違反して,

特段の事情なくタイムカード等の開示を拒否した場合,

その行為は違法性を有し,不法行為に該当します。

 

 

結果として,この事件では,タイムカードの開示拒否によって,

原告労働者は一定の精神的苦痛を受けたとして,

慰謝料10万円が認められました。

 

 

会社がタイムカードで労働時間を管理している場合に,

特段の事情がないかぎりタイムカードの開示を拒否することが

不法行為になるとすれば,タイムカードの開示を

間接的に強制できることになるので,画期的な判決です。

 

 

さらに,労働安全衛生法が改正されて,会社は,

労働者の労働時間を把握する義務を負うことが

法律に明文化されたので,労働時間の把握義務との関連でも,

会社は,タイムカードの開示を拒否できなくなると思います。

 

 

労働者としては,医療法人大生会事件の大阪地裁の裁判例と,

労働時間の把握義務を根拠に,会社に対して,

タイムカードの開示を要求していけばいいのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

退職金の放棄が認められる場合とは?

労働者が不祥事を起こしてしまい,

会社からその不祥事を不問にするので,自己都合退職として,

退職金を受け取らないという文書を提出するように言われて,

そのとおりにしてしまいました。

 

 

このように,退職金の請求を放棄する文書を提出してしまった労働者は,

退職金を請求することができないのでしょうか。

 

 

本日は,退職金の放棄について解説します。

 

 

 

まず,退職金は,就業規則などに

支給基準が明確に定められている場合には,

会社は,支払義務を負うものとして,賃金に該当し,

労働基準法24条1項の賃金全額払の原則が適用されます。

 

 

退職金には,賃金全額払の原則が適用されるので,

退職金を放棄することは,賃金全額払の原則に

違反するのではないかが問題となりますが,通説は,

賃金全額払の原則は,退職金の放棄を禁止していないと解しています。

 

 

とはいえ,労働者が,退職金を放棄することは

通常の場合に予測できないことから,

退職金を放棄する意思表示をした労働者の

真意や自由意思を慎重に判断する必要があります。

 

 

それでは,どのような場合に,退職金の放棄が,

労働者の真意や自由意思でなされたと判断されるのでしょうか。

 

 

退職金の放棄について判断した裁判例として,

シンガーソーイングメシーンカンパニー事件の

最高裁昭和48年1月19日判決

(判例タイムズ289号203頁)があります。

 

 

この事件において,最高裁は,退職金の放棄が,

自由な意思に基づくものであると認めるに足る

合理的な理由が客観的に存在していたものということができる」場合に,

退職金の放棄が有効になると判断しました。

 

 

 

そのうえで,この事件において,

原告労働者が退職後直ちに競合他社に

就職することが判明していること,

原告労働者が在職中に旅費等の経費について

不正をしていたようで,その損害の一部を補填する趣旨で,

退職金を放棄する旨の文書に署名したことから,

原告労働者の退職金の放棄は,

自由な意思に基づくものであると判断されました。

 

 

私としては,これらの事実関係で,

退職金の放棄について自由な意思があったと

認定することには疑問を持っています。

 

 

退職金には,賃金の後払い的性格があり,退職金の放棄は,

その後払いの賃金を全ていらないということになるので,

やはり,労働者の真意を慎重に判断すべきと思います。

 

 

とはいえ,退職金の放棄は,

「自由な意思に基づくものであると認めるに足る

合理的な理由が客観的に存在していた」場合に限って,

認められますので,労働者の不利益の内容及び程度,

労働者が退職金を放棄するに至った経緯や態様,

会社から労働者に対する情報提供や説明の内容

などを考慮して,慎重に判断されるべきです。

 

 

もし,労働者が不本意ながら,

退職金を放棄する文書を提出してしまっても,

退職金の放棄が真意でないのであれば,

事情によっては,退職金を請求できる可能性がありますので,

弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

懲戒処分の会社外への通知と名誉毀損

昨日は,不祥事を起こした労働者に対する

懲戒処分を会社内で公表することと名誉毀損について解説しました。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201908208468.html

 

 

本日は,不祥事を起こした労働者に対する懲戒処分を

会社外に通知することと名誉毀損について解説します。

 

 

懲戒処分を受けたという事実は,当該労働者にとって,

社会的評価を低下させることであり,

会社外に通知する場合には,

会社内での公表における他の従業員を戒めて,

同様の不祥事を防止するという抑止効果には

直接結びつかないことから,会社は,

慎重に対応する必要があります。

 

 

 

もっとも,当該労働者の不祥事によって

取引先に迷惑をかけた場合や,

懲戒処分の後に取引先に働きかけて

会社に不利益を与えているような場合には,

当該労働者を懲戒処分したことを

取引先に通知する必要があると考えられます。

 

 

そのため,どのような場合に,どのような態様で

会社外に通知すれば名誉毀損とならないのかが問題となるわけです。

 

 

懲戒処分の会社外への通知と名誉毀損について判断した,

日本非破壊検査事件の東京地裁昭和55年4月28日判決

(労働判例341号61頁)を紹介します。

 

 

この事件では,原告労働者が会社のお金を着服したという

横領の被疑事実に基づき懲戒解雇されたのですが,

懲戒解雇後に,原告労働者が,取引先や金融機関に対して,

被告会社がつぶれることを言いふらしていたことから,

被告会社は,取引先や金融機関に対して,

原告労働者を懲戒解雇したので,

被告会社と関係がないことをはがきで通知しました。

 

 

このはがきでの通知が名誉毀損に該当するかが争点となりましたが,

東京地裁は,原告労働者が被告会社を誹謗中傷する言動に

対応する必要があったこと,はがきの内容が真実に合致していること,

表現が不穏当ではないこと,

葉書の送付先が取引先以外の第三者に発送されていないこと

を総合考慮して,名誉毀損に該当しないと判断しました。

 

 

他方,懲戒処分の会社外への通知が名誉毀損に該当すると

判断した東京貨物社事件の東京地裁平成12年11月10日判決

(労働判例807号69頁)があります。

 

 

この事件では,原告労働者が被告会社と競合する事業を営み,

受注の横流しをしたことを理由に,自宅待機を経て解雇されたところ,

被告会社がその事実を取引先に文書で通知しました。

 

 

東京地裁は,取引先に自宅待機や解雇の事実を通知すれば,

取引先は,原告労働者がなにか責められる事情があって

解雇されたと考え,原告労働者に対する信用が失われて,

被告会社やその取引先の業界で事業を行うことが

困難となる不利益がある一方,被告会社にとっては,

取引先に担当者が変更になった通知をする必要はあっても,

取引先に原告労働者を解雇したことを通知する必要性がないとして,

名誉毀損の成立を認めました。

 

 

 

2つの事件で結論が分かれたのは,

会社外に懲戒処分の事実を通知する必要性があったかという点です。

 

 

会社外に懲戒処分の事実を通知する必要性がないのにもかかわらず,

会社外に懲戒処分の事実を通知した場合,

名誉毀損になる可能性があります。

 

 

また,会社外に懲戒処分の事実を通知する必要性があっても,

通知の内容が当該労働者に配慮した

必要最小限のものでなければなりません。

 

 

会社外に懲戒処分の通知がなされた場合,

会社内での公表に比べて厳格に名誉毀損となるかが判断されるので,

会社外に懲戒処分の通知をされた労働者は,

名誉毀損に該当するかを検討してみてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

懲戒処分の会社内での公表と名誉毀損

労働者が不祥事を起こしてしまい,懲戒処分をされてしまいました。

 

 

この懲戒処分をされたことが,

会社内において公表されてしまった場合,

名誉毀損にならないのでしょうか。

 

 

本日は,懲戒処分の会社内での公表と名誉毀損について解説します。

 

 

労働者が不祥事を起こして会社が当該労働者に対して

懲戒処分を科す場合,他の労働者を戒めて,

同じような不祥事を防止するという抑止効果の観点から,

懲戒処分を行った事実を会社内に公表することがあります。

 

 

 

 

しかし,懲戒処分を受けた労働者からすれば,

懲戒処分を受けた事実が会社内で公表されれば,

当該労働者の社会的評価が低下するので,

全く無制限に許されるわけではありません。

 

 

ここで,懲戒処分の会社内での公表が問題となった裁判例を紹介します。

 

 

東京地裁平成19年4月27日判決です。

 

 

この事件は,原告労働者が,仕事の過程で

知り合った女子大生に対して,私的に連絡をとりあっていたところ,

トラブルとなり,女子大生に対して多大な迷惑と不快感を

与えたことを理由に懲戒休職6ヶ月の懲戒処分を受けて,

この懲戒処分が記載された書面が

社内掲示板に掲示されたという事件です。

 

 

東京地裁は,懲戒処分の会社内での公表について,

次のように判断しました。

 

 

「懲戒処分は,不都合な行為があった場合にこれを戒め,

再発なきを期するものであることを考えると,

そのような処分が行われたことを広く社内に知らしめ,

注意を喚起することは,著しく不相当な方法によるのでない限り

何ら不当なものとはいえない」

 

 

そして,この事件では,会社内の掲示板に,

原告労働者に交付された通知書と同一の文書を張り出す形で行われ,

掲示の期間は発令の当日のみであったことから,

懲戒処分の公表方法として,

著しく不相当な方法であったとはいえないとして,

名誉毀損にはあたらないと判断されました。

 

 

 

もう一つ,懲戒処分の社内での公表が争われた

泉屋東京店事件の東京地裁昭和52年12月19日判決

(労働判例304号71頁)を紹介します。

 

 

この事件では,懲戒解雇をした理由を説明した文書を

会社の従業員の給料袋に同封し,会社の出入り口に掲示し,

さらに,管理職が立ち会いのもと,就業時間中の作業を中断して,

その文書を配布して,全員が読み上げるまで

監視ししていたというものでした。

 

 

さすがに,このような懲戒処分の公表方法は,

著しく不相当であるとして,

労働者に対する名誉毀損が成立し,

慰謝料請求が認められました。

 

 

懲戒処分の公表方法が著しく不相当か否かについては,

会社にとって公表することが必要やむを得ないといえるか,

必要最小限の表現であるか,

懲戒処分を受けた労働者の名誉や信用に

可能な限り尊重した方法となっているかなどを検討して決められます。

 

 

もし,懲戒処分を受けた労働者が,

会社内での公表方法に疑問を抱いたのであれば,

上記の観点から,懲戒処分の公表方法が

著しく不相当か否かを検討してみてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。