ひげをはやす自由と人事考課
最近,ひげをはやすタレントやスポーツ選手がいます。
おしゃれだなと思うこともあれば,
ちょっと似合っていないなと思うこともあり,
正直おしゃれにひげをはやすのは難しいように思います。
私は,毎朝,めんどくさいなぁと思いながら,ひげをそっています。
さて,ひげについて興味深い裁判例がありますので,
紹介したいと思います。
大阪市(ひげ禁止)事件の大阪地裁平成31年1月16日判決
(労働法律旬報1941号53頁)です。
この事件では,大阪市交通局の地下鉄の運転手(原告)が
ひげをはやしていたところ,ひげをそって仕事をするように
という上司の指導や職務命令に従わなかったところ,
人事考課において低評価の査定を受けました。
このことについて,原告は,人格権としての
ひげをはやす自由を侵害されたとして,
大阪市に対して,損害賠償請求をしました。
大阪市や交通局の規程には,職員の身だしなみについて,
「常に清潔な身だしなみを心がけること」,
「頭髪及びひげ等の手入れを怠らないこと」,
「髭は伸ばさず綺麗に剃ること。(整えられた髭も不可)」
などの記載がありました。
そして,身だしなみの基準を守らない職員に対しては,
上司が指導をし,その指導に従わない場合には,
人事考課に反映され,人事考課の結果によっては,
昇給や勤勉手当の支給額,賞与の支給額に
影響がある仕組みとなっています。
そのため,ひげをそるという業務命令に従わなかった場合,
人事考課で低い評価となり,
昇給や勤勉手当に悪影響が生じるのであり,
個人の信条としてひげをはやしたい人にとっては,
ひげをそるべきかどうか葛藤が生じるようになっていました。
まず,大阪地裁は,ひげをはやすか否か,
ひげをはやすとしてどのような形状にするかは,
服装や髪型と同様に,個人が自分の外観をいかに表現するかという
個人的自由であると判断しました。
そして,ひげは,服装と違って着脱が不可能なので,
仕事におけるひげに関する規律は,私生活にも及ぶことになります。
そのため,労働者のひげに関する服務規律は,
仕事の遂行のために必要が認められ,かつ,
その具体的な制限の内容が,労働者の利益や自由を過度に侵害しない
合理的な内容の限度でしか認められないとしました。
そのうえで,地下鉄の運転手がひげをはやしていも,
地下鉄の安全な運行に支障はなく,
市民や乗客がひげを嫌悪するのは人それぞれであることから,
職務上の命令として一切のひげを禁止したり,
ひげをはやしていることを人事上不利益に扱うことは,
合理的な限度を超えていると判断されました。
ひげをはやしていることを理由として,
人事考課で低い評価をすることは,
人事考課における使用者の裁量を逸脱・濫用したものであり,
原告の人格的な利益を侵害するものとして違法であり,
慰謝料20万円が認められました。
地下鉄の運転手がひげをはやしていても,
あまりきにならないと思いますので,
ひげをはやしていることを理由に
人事考課で不利益な扱いをすることは,
行き過ぎの感がします。
ひげが自分のおしゃれだと思っている人にとっては,
業務命令でひげをそるように言われるのは,苦痛だと思います。
#Kutooの問題と同じように,
服装や身なりを一律に統制することは,
多様性が求められる社会では,
軋轢を生むような気がしますので,
もう少し労働者個人の自由を認めてもいいのではないかと考えます。
ひげをはやすことが個人の自由であると正面から認められた
珍しい裁判例なので,紹介させていただきました。
本日もお読みいただきありがとうございます。