勤務間インターバル制度の努力義務が始まります

先日,東京で高校時代の同級生と同窓会を開催しました。

 

 

皆さん,それぞれの職場で活躍しているようで,

大変よい刺激を受けました。

 

 

この同窓会で,働き方改革が話題になりました。

 

 

働き方改革関連法には,高度プロフェッショナル制度

という悪法も含まれてはいるものの,

働き方改革」というキーワードが世の中に浸透し,

自分の働き方を見直し,よりよい生活を実現していこう

と考える人が増えていくことは良いことだなぁと感じました。

 

 

 

 

他方,残念なニュースもあります。

 

 

JAXA筑波宇宙センターで人工衛星の管制業務をしていた男性が,

約16時間連続勤務を含む深夜労働が常態化していた等として,

過労自殺が労災認定されました。

 

 

また,東京都福生市の男性消防士が過重労働が原因で自殺したとして,

地方公務員災害補償基金の公務災害とは認定しなかった

行政処分が取り消された判決が出たり,

北海道の民間シンクタンクの男性研究員が過重労働でうつ病を

発症したとして,損害賠償請求が認められる判決が出されています。

 

 

働き方改革が叫ばれている現状においても,過重労働によって,

過労死や過労自殺に追い込まれる労働者があとを絶ちません。

 

 

 

 

このような過労死や過労自殺対策の切り札

と言われているのが,勤務間インターバル制度です。

 

 

勤務間インターバル制度とは,勤務終了後,

一定時間以上の休息時間を設けて,

労働者の生活時間や睡眠時間を確保するという制度です。

 

 

勤務と勤務の間に十分な休息時間がなければ,

適切な睡眠時間が確保できずに疲労が蓄積したり,

家族との団らんの時間がとれなくなって人生の質がおちる

などの弊害が生じます。

 

 

一定の休息時間を確保することで,労働者が

十分な生活時間や睡眠時間を確保できて,

ワークライフバランスを保ちながら働き続けることができるのです。

 

 

例えば,所定労働時間の始業時刻が8時30分で

終業時刻が17時30分の会社で働く労働者が,

残業によって終業時刻が22時となった場合で考えてみます。

 

 

通常であれば,前日の終業時刻が何時であっても,

翌日は決められた所定労働時間の始業時刻である

8時30分に出勤しなければならないのですが,

11時間の勤務間インターバル制度が導入されれば,

翌日の始業時刻は9時からとなります。

 

 

今回の働き方改革関連法の中では,

労働時間等の設定の改善に関する特別措置法」が改正されて,事業主は,

健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定

を講じるように努めなければならないと規定されました。

 

 

 

 

これは,努力義務というもので,事業主は,

勤務間インターバル制度を導入しなくても

法律違反に問われることはなく,あくまでも,

勤務間インターバル制度を導入するように

努力していきましょうというものです。

 

 

この他にも,事業主は,他の事業主との取引を行う場合において,

著しく短い期限の設定及び発注の内容の頻繁な変更を行わない

ように必要な配慮をするように努めなければならないとされました。

 

 

取引先の労働時間の改善に協力して,

社会全体で働き方を見直していこうというものです。

 

 

もっとも,勤務間インターバル制度の導入は,

努力義務とされているので,厚生労働省の

平成29年就労条件総合調査では,

勤務間インターバル制度を導入していると回答した

企業の割合は1.4%と,まだまだ低調です。

 

 

勤務間インターバル制度の努力義務は,

2019年4月1日から施行されましたので,

過労死や過労自殺を防止し,

ワークライフバランスを実現していくためにも,

勤務間インターバル制度は効果的ですので,

導入する企業が増えていくことを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

小さな習慣2

立花Be塾の課題図書「小さな習慣

のアウトプットの続きをします。

 

 

 

小さすぎて失敗するはずがない行動を毎日繰り返す。

 

 

これが小さな習慣の真髄です。

 

 

毎日小さな習慣を100%達成することで,

達成感を得られ,達成感が高い自己肯定感を導きます。

 

 

毎日,小さな習慣を達成するという成功を体験していくので,

成功が情熱を生み,行動の原動力になります。

 

 

成功が成功を生む」という好循環を作り出せるわけです。

 

 

 

 

逆に,最初から大きな課題を設定すると,

たいていは挫折してしまいます。

 

 

人間の脳は,素早い変化に適応できないようになっているので,

大きすぎる課題を自分に課すと脳が抵抗して,

三日坊主で終わってしまうのです。

 

 

この脳の特性を逆に利用すればいいのです。

 

 

変化を急ぐことなく,少しずつ少しずつ

小さな習慣を積み重ねることで,自分の脳を

変化になじませていけばいいのです。

 

 

もう一つ,面白い気づきがありました。

 

 

それは,自分の脳にご褒美を与えるということです。

 

 

 

新しく行動を開始した後に,

自分に何かしらの報酬を与えるわけです。

 

 

自分に報酬を与えることで,自分の意志の力を

回復させることができて,小さな習慣を継続することに役立つのです。

 

 

私は,毎日ブログを更新していますが,

ブログを投稿し終わった後に,

今日も1日ブログを更新できたという安堵感と共に,

1つのブログを書き上げた自分に対して,「今日もがんばったな」と

自分で褒めていることに気づきました。

 

 

だから,今日まで毎日ブログを更新することが

できたのだと納得できました。

 

 

毎日,がんばっている自分自身を自分で褒めることは,

小さな習慣を続けていくためには重要なことだと認識できました。

 

 

私は,これまで,毎日ブログを更新してきましたが,

仕事が忙しかったり,家族の時間を優先しなければいけないときには,

なかなか筆が進みませんでした。

 

 

しかし,「小さな習慣」の本を読んで,ブログの内容の出来や

長さはどうであれ,とりあえず毎日ブログを更新すればよく,

自分に対して,よいブログを書かなければならないという

プレッシャーを与えない方がいいことに気づきました。

 

 

ブログの質や量にこだわると,疲労が溜まっていたり,

気分がのらないときに,ブログを更新することができなくなる

リスクがあることから,小さな習慣を継続するためにも,

自分に課すハードルを下げてもいいことに気づき,

なぜだかホッとしました。

 

 

人間の脳の特性を理解して,それを習慣化するために,

どう活用するかが分かりやすく学べる名著ですので,

何かを継続していきたい人にぜひ読んでもらいたい一冊です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

小さな習慣

立花Be塾の課題図書「小さな習慣」(スティーヴン・ガイズ著)

を読んだので,アウトプットします。

 

 

 

早寝早起き,読書,運動など,毎日これらを実践していけば,

圧倒的に自己成長できるはずです。

 

 

しかし,毎日これらのことを実践するのは,

難しいのが現実で,たいていは三日坊主で終わります。

 

 

私も,ご多分に漏れず,樺沢紫苑先生が推奨している

3行ポジティブ日記を毎日,夜寝る前に書いていたのですが,

2人目の子供が生まれてからは,仕事と子育てで疲れて,

3行の日記を書くことができなくなってしまいました。

 

 

このように,毎日継続していくことは,なかなか大変なことです。

 

 

しかし,この本を読むと,小さな習慣を積み重ねていくことで,

大きな目標を達成できることが,よくわかります。

 

 

小さな習慣とは,毎日これだけはやると決めて必ず実行する,

本当にちょっとしたポジティブな行動です。

 

 

 

 

「こんなに簡単でいいの?」と思えるくらいの課題を自分に与えて,

それをほんのわずかな意志の力を使って実行していくというものです。

 

 

この本の著者は,腕立て伏せを1日1回実施することを

小さな習慣として実践しました。

 

 

腕立て伏せを毎日50回という実践だと,

普段筋トレをしていない人はすぐに挫折するでしょうが,

1日1回の腕立て伏せであれば,なんとか毎日継続できそうです。

 

 

というわけで,腕立て伏せを1回すると,もう1回できるな,

となっておまけで何回も腕立て伏せをしてしまいます。

 

 

1日1回というハードルの低さから,毎日続けることができ,

結果として1日1回以上の腕立て伏せをしてしまうので,

腕の筋肉が鍛えられていくわけです。

 

 

習慣になれば,自動的によい行動(腕立て伏せなどの筋トレ)

をするので,健康的になり,自己成長できるわけです。

 

 

私達の普段の行動の約45%は習慣で成り立っているので,

自分にとってよりよい習慣を取り入れていくことが,

自分が成長するための鍵になりそうです。

 

 

小さな習慣を導入するためには,

脳の2つの部分が重要な役割を担います。

 

 

それは,大脳基底核と前頭前野です。

 

 

大脳基底核は,特定のパターンを認識し,

それを繰り返す機能をもっています。

 

 

前頭前野は,何かをしたときの結果や

長期的な利益を理解できる脳の司令塔です。

 

 

前頭前野は,潜在意識の自動的な繰り返しの機能を管理し,

もっとよい方法があるとわかったときには,

自動化された動きを止めて,別の行動をとらせます。

 

 

そのため,前頭前野に,運動や読書が自分にとって

大変価値のあるものであると理解させれば,

適切に大脳基底核をコントロールして,

よい習慣を実践できます。

 

 

しかし,前頭前野は,簡単にエネルギーを使い果たす

という弱みがあり,疲れていると,

大脳基底核をコントロールできなくなります。

 

 

 

 

大脳基底核は,同じことを自動的に繰り返し,

エネルギーを効率的に使うのが得意なので,

前頭前野が大脳基底核をコントロールできなくても,

大脳基底核に自動的に好ましい行動をとるように教え込めば,

勝手に自己成長できます。

 

 

小さな習慣であれば,わずかな意志の力でできるので,

エネルギーを消費せずに,前頭前野に好ましい行動をとるように

司令を出させて,あとは,大脳基底核に好ましい行動をとるように

教え込んで,小さな習慣を自動的に継続できるというわけです。

 

 

小さな習慣という最初の一歩を踏み出せば,

あとは自然に動き出していき,

徐々にコンフォートゾーンを抜けていくわけです。

 

 

イチロー選手が語った

小さいことを積み重ねることがとんでもないところにいくただ一つの道

という言葉の意味が科学的に理解できました。

 

 

この本を読み,滞っていた3行ポジティブ日記を再開してみます。

 

 

夜だと,日記を書けないので,朝,

3行ポジティブ日記を書くように,

ハードルを下げて実践してみます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労働条件を変更するための合意とは3~契約期間の変更~

会社から詳しい説明がないまま,

会社から提示された書面にサインしないと,

解雇されると思い,サインしたところ,

正社員から契約期間の区切られた

非正規雇用労働者に変更させられてしまいました。

 

 

 

このようなケースの場合,労働者は,

正社員である無期労働契約から,

非正規雇用労働者である有期労働契約へ

変更することについて,合意があったと

認められるのでしょうか。

 

 

本日は,無期労働契約から有期労働契約に

労働条件を不利益に変更されたことについての

労働者の合意について判断された

社会福祉法人佳徳会事件を紹介します

(熊本地裁平成30年2月20日判決・

労働判例1193号52頁)。

 

 

この事件では,争点がたくさんあるのですが,

労働条件の変更の合意について解説します。

 

 

労働契約法8条により,労働者の合意があれば,

労働条件を変更することができます。

 

 

しかし,労働者は,会社の指揮命令に服する立場にあるので,

会社から労働条件の変更の提案を受けても拒否しにくいのです。

 

 

また,会社から労働条件を変更する理由の説明を受けても,

会社が情報を一方的ににぎっていることが多く,労働者は,

自分の力で情報収集するのにも限界があり,

適切な判断をしにくい状況にあります。

 

 

そのため,労働者が形式的に労働条件の変更に合意していても,

労働条件の変更が賃金や退職金に関するものである場合には,

労働者の合意は慎重に判断されます。

 

 

山梨県民信用組合事件の平成28年2月19日判決は,

当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度,

労働者により当該行為がされるに至った経緯及び態様,

当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして,

当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる

合理的な理由が客観的に存在するか否か

という観点からも,判断されるべき」としました。

 

 

 

 

そして,期間の定めのない無期労働契約であれば,

労働者は解雇されない限り,雇用が維持されるのに対し,

期間の定めのある有期労働契約であれば,

原則として期間満了で労働契約が終了し,

例外的に労働契約法19条の要件を満たす場合に,

契約が更新される可能性があるという相違があり,

契約の安定性に大きな相違があります。

 

 

そのため,無期労働契約から有期労働契約へ

労働条件を変更する場合にも,

山梨県民信用組合事件の最高裁判決が示した

上記の基準に従って判断することになります。

 

 

本件事件では,原告の労働者は,期間の定めのある

労働条件通知書にサインをしていましたが,

個別面談における説明が極めて短時間であり,

不利益の内容についての説明が十分に行われていないこと,

原告の労働者がサインしなければ解雇されると思ったので,

サインしたと認められることから,自由な意思に基づいて

されたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在しない

として,無期労働契約から有期労働契約へ労働条件を

変更することについて原告の合意はなかったと認定されました。

 

 

その結果,原告は,正社員のままとなり,

原告に対する解雇は無効となりました。

 

 

さらに,本件事件では,原告が体調不良で自宅で休んでいたときに,

被告の代表者が自宅を訪問して,解雇を通告し,

原告は保育士であったのですが,園児や保護者の

目に触れる場所である保育園の玄関に貼ってる

職員一覧に原告が解雇されたと記載していたことから,

解雇の態様が悪質であると判断されました。

 

 

 

 

原告は,被告の行為により,本件保育園で保育士として

勤務する希望を絶たれ,長期間不安定な地位に置かれていたことから,

慰謝料30万円が認められました。

 

 

解雇が無効となり,未払賃金が支払われることになれば,

解雇を理由とする慰謝料請求は認められない傾向にあるのですが,

解雇の態様が悪質な場合には,慰謝料請求も認められる余地があるのです。

 

 

労働契約の期間を無期から有期に変更する場合の

労働者の合意を慎重に判断することは,

労働者にとって有利な判断ですので,紹介しました。

 

 

労働条件の変更に納得がいない場合には,

弁護士に早目に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

上司の叱責はどのような場合に違法なパワハラとなるのか?

パワハラに関する法律相談を受けますと,

次のことに頭を悩まされます。

 

 

どのような言動が違法なパワハラと認定されるのか。

 

 

先日,閣議決定された,パワハラを禁止する法案では,

パワハラの定義を,「職場において行われる優越的な関係を背景とした

言動であって,業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

その雇用する労働者の就業環境が害されること」としています。

 

 

 

 

法律である以上,文言がある程度抽象的にならざるをえず,

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」とは,

具体的にどのような言動が,これにあたるのかについて,

ケースバイケースで判断していくしかないのです。

 

 

「給料泥棒」など人格を否定する暴言は,

違法なパワハラにあたることで問題ないのですが,

部下のミスに対して上司が厳しく叱責した場合に,

違法なパワハラにあたるかは,判断に悩むことが多いです。

 

 

本日は,上司の部下に対する叱責が違法なパワハラにあたるかが

争われたゆうちょ銀行パワハラ自殺事件を紹介します

(徳島地裁平成30年7月9日判決・労働判例1194号49頁)。

 

 

この事件では,労働者が上司からパワハラを受けて自殺したとして,

遺族が会社に対して,損害賠償請求をしました。

 

 

裁判所は,自殺した労働者は,上司から日常的に強い口調で

叱責を繰り返し受けており,名前を呼び捨てで呼ばれるなど

されていたことから,部下に対する指導として

相当性には疑問があるとしました。

 

 

しかし,部下の書類作成のミスを指摘して改善を求めることは

会社のルールとされており,上司としての業務であり,

実際,自殺した労働者は頻繁に書類作成のミスをしていたことから,

日常的に叱責が継続したのであり,上司が何ら理由なく,

自殺した労働者を叱責したことはないと判断されました。

 

 

 

 

また,上司の叱責の具体的な発言内容は,

自殺した労働者の人格的非難に及ぶものではなかったと判断されました。

 

 

そのため,本件事件では,上司の叱責が

違法なパワハラとは認定されませんでした。

 

 

何の理由もないのに部下を叱責したり,

「バカ」,「アホ」,「まぬけ」などの人格を否定する発言があった場合には,

違法なパワハラと認定されやすいのですが,

労働者にミスがあり,それが原因で叱責され,

人格を否定する発言がないのであれば,

上司の叱責は,必要かつ相当な範囲内と評価されて,

違法なパワハラとはならないと考えられます。

 

 

もっとも,会社には,労働者が生命や身体の安全を確保しつつ,

働くことができるように配慮する義務を負っています。

 

 

これを安全配慮義務違反といいます。

 

 

もう少し具体的にすると,会社は,

労働者の業務を管理するに際し,

業務遂行に伴う疲労や心理的負荷が過度に蓄積して

その心身の健康を損なうことがないように

注意すべき義務があるということです。

 

 

本件事件では,自殺した労働者は,

わずか数ヶ月で異動の希望をして,

その後も継続して異動を希望しており,

2年間で体重が15キロも減少するほど,

体調不良の状態が明らかであり,

体調不良や自殺願望の原因が上司との

人間関係に原因があることは容易に

想定できたと判断されました。

 

 

そして,会社は,自殺した労働者の執務状態を改善し,

心身に過度の負担が生じないように異動を含めて

検討すべきであったにもかかわらず,

担当業務を軽減させただけで,

他に何の対応もしなかったとして,

安全配慮義務違反が認められました。

 

 

 

 

ここでのポイントは,自殺した労働者は,

外部通報や内部告発をしていなかったのですが,

会社には,自殺した労働者が何らかの

人間関係のトラブルを抱えていたことを

容易にわかったはずであるとして,

安全配慮義務違反を認めたことです。

 

 

労働者が会社内部の相談担当部署に相談にいっていなくても,

異動の希望を出していたり,客観的に体調不良がわかれば,

会社には,労働者が人間関係でトラブルを抱えていたと

予見が可能であったと判断される余地があるということです。

 

 

どのような場合に,違法なパワハラと評価されるのか,

違法なパワハラがなかったとしても,

会社に安全配慮義務違反が認められるかについて,

検討するにあたり参考になる裁判例ですので,紹介しました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

残業時間の罰則付き上限規制が始まります2

昨日に引き続き,残業時間の罰則付き上限規制について解説します。

 

 

昨日の復習になりますが,1日8時間を超えて

労働時間を延長する場合,36協定による原則的な

時間外労働の限度時間は1ヶ月45時間,

1年に360時間までとなっています。

 

 

そして,例外として,「通常予見することのできない業務量の

大幅な増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合」

には,1年のうち6ヶ月に限り,1ヶ月45時間,

1年360時間を超えて残業させることが可能ですが,

1ヶ月の時間外労働と休日労働の合計が100時間を超えると,

会社に,6ヶ月以下の罰金若しくは30万円以下罰金が科せられます。

 

 

 

 

あくまで原則として残業の上限は1ヶ月45時間なので,

36協定には,臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合を

できる限り具体的に定める必要があり,

「業務上やむを得ない場合」などの抽象的な文言では,

恒常的な長時間労働をまねくおそれがあることから,

このような表現は避けるべきです。

 

 

また,限度時間を超えて労働させられる上限時間についても,

1ヶ月100時間に近づけるのではなく,

1ヶ月45時間に限りなく近づける必要があります。

 

 

そのため,労働者は,今後,36協定が改定される際に,

1ヶ月45時間を超えて働かされる場合はどのような時か,

1ヶ月45時間を超える上限時間は何時間かについて,

チェックして,なるべく原則どおり1ヶ月45時間となるように

会社にはたらきかけるようにしましょう。

 

 

さて,この残業時間の罰則付き上限時間が

適用されない業種があります。

 

 

それは,専門的,科学的な知識,技術を有する者が

従事する新技術,新商品等の研究開発業務です。

 

 

 

そのため,新技術・新商品等の研究開発業務については,

残業時間の上限規制がなく,事実上,

長時間労働が是認されてしまいます。

 

 

また,他にも,残業時間の罰則付き上限規制の

適用が猶予される業種があります。

 

 

建設事業については,5年間,

残業時間の罰則付き上限規制の適用が猶予されます。

 

 

もっとも,災害時の復旧及び復興の事業については,

1ヶ月100時間未満,2~6ヶ月平均で80時間以内の

上限規制は適用されません。

 

 

自動車の運転業務については,5年間,

残業時間の罰則付き上限規制の適用が猶予され,

5年後に1年間960時間以内の上限規制が導入される予定です。

 

 

医師については,5年間,

残業時間の罰則付き上限規制が猶予されました。

 

 

医師の残業時間規制については,先日,

報告書が発表されましたので,

別の機会にブログで紹介します。

 

 

実は,4月1日から施行された残業時間の罰則付き上限規制は,

中小企業については,適用が1年間猶予されていて,

来年の4月1日から導入されます。

 

 

ここでいう中小企業とは,資本金の額又は出資の総額が3億円以下

(小売業又はサービス業については5千万円以下,

卸売業については1億円以下),及び,

常時使用する労働者の数が300人以下

(小売業については50人以下,

卸売業又はサービス業については100人以下)の会社のことです。

 

 

そのため,多くの中小企業では,

来年4月1日から残業時間の罰則付き上限規制が導入されます。

 

 

しかし,大企業であっても,ここまで説明してきた

残業時間の上限時間を守れているのか疑問です。

 

 

 

 

日立製作所の小会社日立プラントサービスでは

1ヶ月の時間外労働が100時間を超えていたのに,

残業代が未払であったとして,

富山労働基準監督署から是正勧告を受けていました。

 

 

日産自動車では,管理監督者の労働者に対して

350万円余りの未払残業代を支払うよう命じた判決がでました。

 

 

KDDIでは,1ヶ月90時間を超える時間外労働をした

労働者の過労自殺がきっかけで,

労働基準監督署から是正勧告を受けて,

社内調査をした結果,4600人の労働者に対して,

合計6億7千万円の未払残業代があったようです。

 

 

このように著名な大企業であっても,

労働基準法を守っていなかったのです。

 

 

残業時間の罰則付き上限規制が導入されると,会社は,

労働者の労働時間をしっかりと管理し,

適切に残業代を支払わないと,

手痛いしっぺ返しをくらうおそれがあります。

 

 

また,1ヶ月45時間を超える固定残業代も違法になる可能性がでてきます。

 

 

4月1日から導入された残業時間の罰則付き上限規制を契機に,

長時間労働が是正されていくことを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

残業時間の罰則付き上限規制が始まります

2019年4月1日,新元号「令和」が発表され,

日本全体が新時代の幕開けを予感させる高揚感に包まれました。

 

 

 

 

季節は春で,新生活がスタートすることもあり,

昨日はわくわくする気分になりました

(石川県では雪が降りましたが・・・)。

 

 

新元号の発表と共に,昨日,重要な法令が施行されました。

 

 

昨年6月に成立した働き方改革関連法のうち

残業時間の罰則付き上限規制が,昨日施行されました。

 

 

本日は,残業時間の罰則付き上限規制について解説します。

 

 

まず,昨日よりも以前は,残業時間に上限はないに等しかったのです。

 

 

労働基準法32条では,1日8時間,1週間で40時間を超えて

労働させてはならないと規定されていますが,

36協定が締結されていれば,労働時間を延長し,

休日労働をさせることができます。

 

 

平成10年12月28日労働省告示第154号の基準において,

1ヶ月の時間外労働の限度を45時間,

1年の時間外労働の限度を360時間とすることが

定められていたのですが,この限度時間を超えて

労働時間を延長しなければならない特別の事情

(臨時的なものに限ります)が生じたときには,

限度時間を超えて時間外労働をさせてもよいことになっていました。

 

 

そして,特別の事情がなくても,1ヶ月45時間を超える

時間外労働が常態化しており,臨時的ではない恒常的な業務を

残業でこなしている実情があり,この基準がほとんど

守られていませんでした。

 

 

 

 

また,特別の事情の場合に限度時間を超えて

時間外労働をさせる場合の上限が定められておらず,

残業時間は青天井となっていたのです。

 

 

その結果,長時間労働が是正されないまま,

過労死や過労自殺に至る悲惨な事件があとを絶たず,

電通の過労自殺事件が大々的に報道され,

青天井の残業時間に規制をかけなければならない

ということになり,残業時間の罰則付き上限規制が導入されたのです。

 

 

長時間労働は,健康の確保だけでなく,

仕事と家庭生活の両立を困難にし,少子化の原因や,

女性のキャリア形成を阻む原因,

男性の過程参加を阻む原因となっており,

これを是正することで,ワークライフバランスを改善させ,

女性が仕事に就きやすくなることを目的としているのです。

 

 

 

 

具体的には,労働基準法36条が改正されて,

36協定による原則的な時間外労働の限度時間は

1ヶ月45時間,1年に360時間までと定められました

 

 

これは,上記の告示の基準を法律に格上げしたものです。

 

 

 

確認しておきたいのは,あくまで残業時間の限度は

1ヶ月で45時間,1年で360時間が原則であるということです。

 

 

もっとも,原則には例外があるものでして,

改正労働基準法36条5項において,

通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い

臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合

において,次の例外が認められます。

 

 

①1ヶ月の時間外労働と休日労働の

合計の時間数の上限を100時間未満とする

 ②連続する2ヶ月,3ヶ月,4ヶ月,5月及び6ヶ月の

それぞれについて,1ヶ月当たりの時間外労働と休日労働の

合計の時間数の上限を80時間以内とする

 ③1年の時間外労働の時間数の上限を720時間以内とする

 

 

そして,①と②の基準を超過すると,

会社に対して6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金

が科せられることになります。

 

 

 

 

また,1ヶ月45時間を超えて時間外労働をさせることができる

月数は,1年について6ヶ月以内とすることも

労働基準法に定められました(改正労働基準法36条5項)。

 

 

気をつけなければならないのは,

③の基準には,休日労働が規制の対象外となっており,

違反しても罰則がないことです。

 

 

そのため,ブラック企業が,休日労働を増やして規制を免れる

危険がありますので,労働者は,休日労働によって,

過労がたまらないように気をつける必要があります。

 

 

③の基準に休日労働を含めた上で,罰則で規制した方が,

わかりやすいのですが,なぜ,このように区別したのかはなぞです。

 

 

罰則が科される上限時間が100時間という

過労死ラインに設定されていたり,

③の基準に休日労働が含まれていないなど,

不十分な点もありますが,残業について初めて

罰則付きで規制されることになりますので,今後は,

長時間労働が是正されていく方向に進んでいくことになると思います。

 

 

長くなりましたので,続きは明日以降記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラを巡る内紛を理由とする懲戒解雇

先日,ブログで紹介しましたが,パワハラを防止するための法律案

が閣議決定され,今後,会社は,パワハラを防止するための

措置を講じる必要がでてきます。

 

 

https://www.kanazawagoudoulaw.com/tokuda_blog/201903257760.html

 

 

そのため,会社は,労働者からパワハラの相談を受けて,

調査をした結果,パワハラの事実があると判断すれば,

パワハラをした労働者に対して懲戒処分を

科すことを検討することになります。

 

 

しかし,この懲戒処分を適切に科さないと,

懲戒処分を受けた労働者から,懲戒処分の無効を主張されて,

裁判に発展していくこともあります。

 

 

本日は,パワハラを巡る内紛を理由になされた,

幼稚園の園長に対する懲戒解雇の効力が争われた,

学校法人名古屋カトリック学園事件を紹介します

(名古屋地裁岡崎支部平成30年3月13日判決・

労働判例1191号64頁)。

 

 

原告の園長は,ある職員に対して,送迎バスの添乗時に

保護者や園児に不遜な態度をとるなど,

振る舞いや勤務態度を問題視していました。

 

 

 

 

他方,ある職員は,原告の園長に対して,

幼稚園の運営が強引で独善的であるとか,

職員に対する原告の言葉の暴力がひどすぎると感じ,

原告に対して,批判的・反抗的な態度を示して,

原告と対立していました。

 

 

そのような対立状況の中,ある職員は,

幼稚園の経営者に対して,原告の園長から,

「給料泥棒」などの暴言を浴びせられたので,

園長を交代させてほしいという嘆願書を提出しました。

 

 

幼稚園の経営者は,原告を呼び出し,

嘆願書について説明を求め,原告に対して,

事態を収拾するように説得し,原告は,

これに応じて,職員に謝罪しました。

 

 

しかし,その後も原告の振る舞いが変わらないとして,

再度,園長交代の嘆願書が提出され,幼稚園の経営者は,

原告が嘆願書に記載された言動をしたと判断して,

原告を懲戒解雇しました。

 

 

 

 

懲戒解雇の理由は,

①幼稚園又は他の職員の名誉又は信用を傷つけること,

②いたずらに感情に走り,他の者を誹謗したり,排斥すること,

③職務の遂行が越権専断的となること,

に該当するということです。

 

 

裁判所は,①と②の懲戒理由について,被告は,

職員の嘆願書を根拠に,嘆願書記載の原告の言動があった

と判断しましたが,それを裏付ける客観的な証拠がないことから,

たやすく嘆願書記載の原告の言動があったとは認定できないとしました。

 

 

また,③の懲戒理由について,原告が職員に謝罪をして

事態の収拾が図られていたとして,

情状が極めて重いとはいえないとしました。

 

 

その結果,原告には,懲戒解雇に該当する行為をしたとはいえず,

懲戒解雇は無効となりました。

 

 

そして,原告の雇用期間があと2年間残っていたことから,

2年分の未払賃金の請求が認められました。

 

 

他方,原告は,懲戒解雇による精神的苦痛を被ったとして,

慰謝料の損害賠償請求をしていましたが,

裁判所は,解雇が無効であると判断されて,

未払賃金の支払いを受けることができるようになるので,

なお償われない精神的苦痛が残るとは認められないとして,

慰謝料請求は認められませんでした。

 

 

解雇事件において,未払賃金請求と一緒に

慰謝料の損害賠償請求をしても,

なかなか認められないのが現状です。

 

 

本件事件では,被告が,原告の園長のパワハラの有無を,

丁寧に調査せずに,一方当事者の主張のみを理由に

懲戒解雇をしてしまったがゆえに,裁判になって,

懲戒該当理由がなかったと判断されました。

 

 

今後,パワハラを巡る労使紛争が増加していくことが予想されますが,

会社は,パワハラの事実があったかなかったかについては,

入念に調査した上で,懲戒処分をくだしていく必要があります。

 

 

 

 

特に,懲戒解雇をする場合には,より慎重な調査が求められます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。