深夜労働の割増賃金が支払われていない場合の対処法
昨日,次のような労働相談を受けました。
相談者は,ビル設備保守管理,運転監視業務をしていたのですが,
深夜の時間帯の割増賃金が適切に支払われていないので,
夜勤をしたときの深夜労働の割増賃金を含む
未払残業代を請求したいという相談でした。
夜勤の仕事内容は,ビルの防災センターにつめて,
監視モニターでビルを管理し,ビルを巡回警備したり,
配管の水漏れの警報が鳴れば現場にかけつけて対応し,
雷による停電があればその対応をする必要がありました。
会社の説明では,2万円ほどの特別勤務手当が残業代に相当するので,
残業代は適切に支払われているとのことです。
このように深夜労働をしていた場合,
2万円ほどの特別勤務手当を支払われているだけで,
適法な残業代の支払いがあったといえるのでしょうか。
深夜の時間帯に働く警備員,ホテルのフロント業務を担当する労働者,
マンションの住込み管理員などの労働者が,
深夜労働の割増賃金を請求する場合,
深夜に働く時間が労働時間か否かが争点となります。
深夜労働の場合,仮眠時間があったり,手待ち時間が多いなど,
日勤の仕事に比べて労働密度が薄いことから,
会社は,労働時間か否かを争ってきます。
このような労働時間か否かが争われる場合に
参考になる裁判例を紹介します。
大林ファシリティーズ事件の最高裁平成19年10月19日判決です
(労働判例946号31頁)。
この事件では,午前9時から午後6時までが(休憩1時間),
マンションの住込み管理員の所定労働時間とされていたのですが,
実際には,午前7時から午後10時までの時間帯に,
所定労働時間前後も働いていたとして,
マンションの住込み管理員が未払残業代を請求したものです。
マンションの住込み管理員の業務は,
実作業をしていない不活動時間が多かったことから,
不活動時間が労働時間か否かが争われました。
まず,不活動時間が労働時間といえるためには,
会社の指揮命令下に置かれていたと評価できるかで決まり,
不活動時間において労働契約上の仕事の提供が義務付けられている
と評価できれば,労働からの解放が保障されていないとして,
会社の指揮命令下にあると判断されます。
そして,被告会社は,原告らに対し,所定労働時間外にも,
管理員室の照明の点消灯,ゴミ置き場の扉の開閉,
テナント部分の冷暖房装置の運転の開始及び停止等
の断続的な仕事を指示し,マニュアルにも,
所定労働時間外においても,住民や外来者から宅配便の受け渡し等
の要望が出される都度,これに随時対応すべきことが記載されており,
原告らは,午前7時から午後10時までの時間帯に
事実上待機せざるを得ない状態に置かれていました。
さらに,被告会社は,原告らから管理日報等の提出を受けるなどして
定期的に業務報告を受けて,適宜業務指示をしており,
所定労働時間外の住民からの要望へ対応することについて
黙示の指示があったとされました。
その結果,平日の午前7時から午後10時までの時間について,
管理員室の隣の居室における不活動時間を含めて,
被告会社の指揮命令下に置かれていたとして,
労働時間と認められ,未払残業代請求が認められました。
このように,不活動時間については,会社が労働者に対して,
どのような業務指示をしていたのか,
マニュアルや管理日報から勤務実態や業務量はどうなっていたのか
を考慮して,労働時間か否かが判断されます。
そのため,深夜労働の割増賃金を請求する場合,
日報,報告書,マニュアルなどの証拠を集めた上で,
不活動時間における指示内容,勤務実態,業務量
を検討することが重要になります。
検討した結果,不活動時間が労働時間と判断できそうであれば,
会社に対して,未払残業代を請求していきます。
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