非常勤公務員の労災制度

北九州市の非常勤職員として,

区役所の子供・家庭相談コーナーの相談員をしていた女性公務員が,

上司によるパワハラが原因でうつ病を発症し,

その後大量の薬を飲んで死亡したことについて,

遺族が労災を申請しました。

 

 

しかし,北九州市は,条例で定める規則に

非常勤職員やその遺族からの労災申請は認められないとして,

労災申請を却下しました。

 

 

そのため,遺族は,北九州市が条例で

遺族の労災申請を認めていないのは違法であるとして,

裁判を提起しました。

 

 

なぜ,このような不平等な取扱となっているのでしょうか。

 

 

それは,地方公務員の労災の制度が複雑で,

非常勤職員の労災制度に不備があったからなのです。

 

 

まず,公務員は,民間企業と異なり,

さまざまな種類があり,適用される法律が異なります。

 

 

 

一般地方公務員の場合,

現業職員である地方公営企業職員(水道事業や鉄道事業などの職員),

特定地方独立行政法人職員,

単純労務職員(学校給食調理員や学校用務員などの現業職員),

それ以外の非現業職員(県庁や市役所で働く公務員)に分かれます。

 

 

現業職員と非現業職員に分かれる以外に,

常勤職員と非常勤職員に分かれます。

 

 

地方公務員の非常勤職員は,特別職非常勤職員と一般職非常勤職員にわかれ,

通常,任用期間は1年以内とされています。

 

 

そして,地方公務員の労災について,

①現業の常勤職員には,地方公務員災害補償法が適用され,

②現業の非常勤職員には,民間企業の労働者と同じ労災保険法が適用され,

③非現業の常勤職員には,地方公務員災害補償法が適用され,

④非現業の非常勤職員には,地方公共団体の補償条例が適用されます。

 

 

北九州市の事件は,④非現業の非常勤職員に適用される

補償条例が問題となりました。

 

 

地方公務員災害補償法69条には,

「地方公共団体は、条例で、職員以外の地方公務員

(特定地方独立行政法人の役員を除く。)のうち法律

(労働基準法を除く。)による公務上の災害

又は通勤による災害に対する補償の制度が定められていないもの

に対する補償の制度を定めなければならない。」と定められています。

 

 

この法律に基づき,地方公共団体は,

補償条例を制定しているのですが,

以前の補償条例では,非常勤職員や遺族の

労災申請が認められていませんでした。

 

 

 

 

北九州市の労災申請問題で,

非常勤職員や遺族の労災申請が認められないのはおかしい

ということになり,総務省が

「議員・非常勤職員の公務災害補償条例施行規則(案)」

に関する通知を出して,補償条例や規則が改正されて,

非常勤職員や遺族の労災申請が認められることになりました。

 

 

補償条例や規則が改正されて,

非常勤職員や遺族の労災申請が認められるようになり,

不平等な取扱は解消されましたが,

北九州市の遺族の労災申請は,

補償条例が改正される前なので,

依然として北九州市は,遺族の労災申請を拒んでいるようです。

 

 

来年,判決がくだされるようですので,

遺族の労災申請が認められることを期待したいです。

 

 

このように,非常勤職員の労災申請について道が開けたものの,

非正規公務員には,雇用の不安定さや

正規職員との給料の格差といった問題がありますので,

これらを改善していく必要があります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

自治労職員の配転問題

弁護士ドットコムニュースによりますと,

全日本自治団体労働組合(自治労といいます)の

新潟県本部に勤務する男性労働者が,

東京へ転勤を命じられたのは不当配転であるとして,

労働審判を申し立てたようです。

 

 

自治労とは,全国の地方公共団体などの労働組合が

結集された労働組合で,2017年1月時点で

約81万人の組合員が加入しています。

 

 

申立人の男性は,勤務地を新潟に限定することで

入社したにもかかわらず,東京への配転は

無効であると主張しているようです。

 

 

労働者としては,勤務地が限定されているから

入社したにもかかわらず,後から別の勤務地で

働くように命令されても,なかなか納得できません。

 

 

それでは,どのような場合に,労働者は,

勤務地限定の合意があったとして,

配転を拒めるのでしょうか。

 

 

そもそも,配転とは,同一企業内における労働者の

職種,職務内容,勤務場所のいずれかを

長期間にわたって変更する企業内人事異動の一つです。

 

 

 

会社が労働者に対して,配転を命令できるのは,

労働契約や就業規則に配転命令の根拠規定があり,

配転が労働契約の内容になっているからなのです。

 

 

一般的には,就業規則に「業務上の都合により,

出張,配置転換,転勤を命ずることがある」という規定が

設けられていることが多く,このような規定があれば,

会社は,裁量で,労働者に配転を命令することができるのです。

 

 

もっとも,転勤を伴う配転は,

労働者の生活環境が大きく変わり,

労働者の家族にも多大な影響が生じることから,

会社は,無制限に配転を命令できるわけではありません。

 

 

労働契約において,職種や仕事内容,勤務地を

限定する合意がされていれば,会社は,

その合意の範囲を超えて配転を命令することはできません。

 

 

ここで,労働契約を締結するときに,

会社が労働者に交付した労働条件通知書に記載されていた

勤務地が必ずしも勤務地限定の合意になるとは限らないのです。

 

 

労働契約書に勤務地を限定する規定が明確に記載されていたり,

面接の際に,労働者が家族や病気の関係で

他の地域に転勤することはできないことを採用担当者に伝えて,

会社側もこれを了承していた場合に,

勤務地限定の合意が認められるのです。

 

 

 

 

配転命令が争われた裁判例を検討すると,

①労働者に固定された生活の本拠があることが前提とされていること,

②求人票に勤務場所を特定する記載があること,

③同様の配転実績が乏しいこと等が,

勤務地限定の合意を肯定する事情となります。

 

 

逆に,①就業規則の配転条項の適用があること,

②会社において長期的にキャリアを発展させることが予定されていること,

③同様の配転実績があること等は,

勤務地限定の合意を否定する事情となります。

 

 

勤務地限定の合意が否定されたとしても,

配転について,業務上の必要性があったのか,

不当な動機・目的で配転命令がされていないか,

配転によって労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を被るか,

という要件を検討して,配転が有効か否かが判断されます。

 

 

さて,自治労は,労働者の権利と生活を守る

活動をしている団体ですので,今回,

新潟から東京の配転によって,

一人の労働者の権利と生活が不利益を被ろうとしており,

労働審判において,早期に解決されることを願いたいです。

 

 

サラリーマンには,転勤は宿命的なものでありますが,

理不尽な転勤については,争う余地がありますので,

転勤に納得できないときには,

弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

試用期間中の解雇

入社後の一定期間を試用期間や見習期間として,

その間に労働者を評価して本採用するかどうかを

決めることがよくあります。

 

 

 

会社にとっても労働者にとっても,

入社面接をしただけでは,

お互いに合う合わないがわかりませんので,

試用期間中に,お互いをよく知るというのは合理的だと思います。

 

 

ところが,試用期間の途中で突然,

会社から解雇を告げられてしまうと,今後も,

会社で働き続けたいと考えていた労働者としては,

途方に暮れてしまいます。

 

 

本日は,試用期間中の解雇はどのようなときに

認められるのかについて説明します。

 

 

そもそも,労働契約において試用期間が設定される趣旨は,

採用決定の当初ですと,労働者の資質・性格・能力などの

適格性の有無に関連する事項について

資料を十分に収集することができないので,

後日における調査や観察に基づく

最終決定を留保することにあります。

 

 

そのため,会社には,労働契約の解約権が留保されています。

 

 

試用期間の会社の解約権は,本採用後の解雇と比べて

緩やかに判断される可能性があります。

 

 

 

 

もっとも,会社が採用決定後における調査の結果により,

または試用期間中の勤務状況などにより当初知ることができず,

また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合に,

その労働者を引き続き会社で雇用することが適当ではないときに,

会社は,留保されている解約権を行使することができるのです。

 

 

この判断枠組みは,試用期間満了時点での本採用拒否と,

試用期間の途中での解雇とでは,それほど変わらないといわれています。

 

 

裁判例の中には,試用期間の途中の解雇の場合,

残りの試用期間を勤務することによって会社の要求する

水準に達する可能性があったので,

解雇する時期の選択を誤ったとして,

本採用拒否の場合よりも厳格に判断されるとしたものもあります

(医療法人財団健和会事件・

東京地裁平成21年10月15日判決・

労働判例999号54頁)

 

 

まとめますと,試用期間中の解雇は,

本採用拒否の場合よりも厳格に判断される可能性はありますが,

本採用後の解雇と比較すると緩やかに判断される可能性

があるということになります。

 

 

それでも,試用期間中の解雇は,

採用段階では分からなかった労働者の不適格性について,

引き続き会社で雇用することが不適当であると,

客観的に相当である場合にしかできず,

試用期間中の解雇を争うことは十分可能ですので,

解雇に身に覚えがない労働者は,

弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社から休業を命じられた場合に賃金を請求できるのか?

働いている工場の製品の売れ行きが悪いことから,

休業になり,いきなり2週間も自宅待機をさせられました。

 

 

しかも,会社からは,休業期間の給料はゼロと言われました。

 

 

 

労働者には何の落ち度もないのに,

給料がもらえないのでは,

労働者の生活は困難になってしまいます。

 

 

このように,会社の落ち度によって,

休業することになった場合,労働者は,

賃金を請求できないのでしょうか。

 

 

本日は,休業手当について解説します。

 

 

休業とは,労働契約によって,

労働者に労働義務がある時間について,

労働者が労働をなしえなくなることをいいます。

 

 

休業の場合,労働者が会社に賃金を請求できるかは,

休業の原因が労働者と会社のいずれにあるかによって決まります。

 

 

休業の原因が労働者にある場合,

労働者が自分の落ち度で労働義務を履行できなくなったので,

賃金を請求することはできません。

 

 

次に,地震や台風などの自然災害によって,

工場が壊れてしまい,休業することになった場合,

休業の原因が会社にも労働者にもありません。

 

 

 

 

このような不可抗力で休業することになった場合,

労働者は,会社に対して,賃金を請求できません(民法536条1項)。

 

 

ただし,就業規則などに,不可抗力で

休業することになった場合にも賃金が支払われることが

記載されていれば,賃金を請求することができます。

 

 

休業の原因が会社にある場合,労働者は,

原則として,賃金全額を請求することができます。

 

 

社長の怠慢による営業活動の不振で製品が売れなくなり,

会社が労働者を休業させたような場合には,

労働者は,賃金全額を請求できるのです(民法536条2項)。

 

 

もっとも,社長が営業活動をしっかりやったものの,

製品の売れ行きが悪くて自宅待機をさせられたり,

取引先の落ち度によって原材料不足となり,

会社を休業することになった場合など,

労働者が働いていないのに,会社が賃金全額を

支払わなければならないのが酷な場合もあります。

 

 

 

 

しかし,会社側に明確な落ち度がなかったり,

防止が難しかったものであっても,

会社側の領域で生じた休業の場合,

労働者は,会社に対して,平均賃金の6割以上の

休業手当を請求することができます。

 

 

労働基準法26条では,休業手当を請求できるのは,

使用者の責めに帰すべき事由」があるときと定められています。

 

 

給料は労働者の生活の糧であり,休業手当は,

労働者の生活保障のために定められたものであるため,

「使用者の責めに帰すべき事由」は広く捉えられており,

会社側の経営,管理上の領域の問題で休業することになった場合,

労働者は,会社に対して,休業手当を請求できるのです。

 

 

そのため,製品の売れ行きが悪くて

自宅待機を命じられた場合でも,

労働者は,会社に対して,

賃金全額若しくは平均賃金の6割以上の休業手当を

請求することができるのです。

 

 

会社から休業期間中は,給料はでないと言われても,

それを鵜呑みにせずに,しっかりと賃金を請求するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

休職から復職するには

うつ病や適応障害を発症して,

会社を長期間休職していましたが,

体調が回復し,主治医から復職しても

問題ないとの意見をもらったものの,

会社から復職はさせられないと言われたとします。

 

 

 

 

主治医は復職してもいいと言っているのに,

会社の対応には納得できません。

 

 

このような場合,労働者は復職できないのでしょうか。

 

 

本日は,休職からの復職について説明します。

 

 

そもそも,休職とは,労働者に仕事をさせることが

不能または不適当な事由が生じた場合に,

会社が労働者に対して,労働契約関係そのものは維持させながら,

仕事を免除または禁止することをいいます。

 

 

休職の中で一番多いのが私傷病休職です。

 

 

私傷病休職とは,仕事が原因ではない

ケガや病気を理由とする休職です。

 

 

例えば,プライベートの時間に負ったケガや

仕事との関連性のない病気などを理由とする休職です。

 

 

 

 

民間企業の場合,休職についての法律の規定がなく,

就業規則に休職の規定がある場合に認められる任意の制度なのです。

 

 

そのため,どのような場合に休職できるのか,

休職期間中の賃金の扱い,

休職期間満了時の効果(自然退職か解雇か),

休職と復職の手続などについては,

就業規則の規定をよく検討する必要があります。

 

 

労働者が休職からの復職を希望する場合には,

就業規則の中から復職に関する規定を検討するべきです。

 

 

さて,就業規則に「休職を命じられた職員の

休職事由が消滅したときは復職させるものとする。

ただし,休職期間が満了しても復職できないときは,退職とする。」

と規定されていた場合,労働者は,

主治医が復職を認めていることを根拠に,

復職ができるのでしょうか。

 

 

ここで,会社から休職期間満了の時点で復職不可と判断されて,

退職扱いされた労働者が,退職扱いは無効であると争った

神奈川SR経営労務センター事件の裁判例を紹介します

(横浜地裁平成30年5月10日・労働判例1187号39頁)。

 

 

この事件では,上記就業規則の「休職事由が消滅した」とは,

従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復した場合

をいうと判断されました。

 

 

そして,会社の産業医が復職に否定的な意見を示していましたが,

原告の主治医がうつ状態の病状改善により

復職可能という診断書を作成していることから,

従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復している

と判断されて,復職が認められました。

 

 

 

 

復職が争われる場合,主治医の意見だけでなく,

会社の産業医の意見も重視されますが,そもそも,

主治医が復職を認めてくれないことには,復職はできません。

 

 

そこで,復職を希望する労働者は,主治医とよく相談して,

復職ができるかどうかを入念に判断してもらい,

復職可能という診断書を作ってもらい,

復職の手続をとるようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラは許されません!

長崎市の広告代理店に勤務していた男性労働者が,

パワハラや長時間労働で適応障害になり,

休職に追い込まれたとして,

会社に対して損害賠償請求の裁判を提起し,

合計2000万円の損害賠償請求が認められました。

 

 

原告の男性労働者は,「おまえはクビだ」などと

何度も叱責を受けたいたようで,

業務上の指導を逸脱した執拗ないじめ行為

があったと認定されました。

 

 

https://mainichi.jp/articles/20181207/k00/00m/040/225000c

 

 

このようなパワハラの被害が頻繁に起きています。

 

 

 

 

全国の労働局で実施されている労働相談で一番多いのは,

「いじめ・嫌がらせ」の相談で約7万2000件と

15年連続で増加しています。

 

 

また,パワハラを受けて精神障害を発症して

労災認定される件数も年々増えています。

 

 

職場のパワハラは,労働者の尊厳や人格を傷つける

許されない行為であるにもかかわらず,

パワハラを防止するための法律は今までありませんでした。

 

 

そこで,職場のパワハラ防止は喫緊の課題であり,

対策を抜本的に強化することが社会的に求められていることから,

パワハラを防止するための法律を制定する動きがでています。

 

 

12月14日に,労働政策審議会が,

職場でのパワハラ防止策に取り組むように

企業に義務付けるための報告書をまとめました。

 

 

報告書では,職場のパワハラの定義について,

以下の3つの要素を満たすものとしました。

 

 

①優越的な関係に基づく

 ②業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により

 ③労働者の就業環境を害すること

(身体的若しくは精神的な苦痛を与えること)

 

 

 

このように定義されたパワハラについて,

会社は,次のような,パワハラを防止するための

雇用管理上の措置を講じることを法律で義務付けられます。

 

 

①職場のパワハラがあってはならない旨の方針の明確化や,

パワハラが確認された場合には厳正に対処する旨の方針や

その対処の内容について就業規則へ規定し,

それを周知・啓発すること

 

 

②パワハラの相談に適切に対応するために

必要な体制の整備をすること

 

 

③パワハラの相談を受けた後の迅速,適切な対応

(相談者からの丁寧な事実確認など)

 

 

④相談者のプライバシーを保護する措置

 

 

その他にも,職場のパワハラに関する紛争解決のための調停制度や,

行政機関による助言や指導などについても法律で規定されます。

 

 

パワハラ行為そのものを処罰したり,

損害賠償請求するための根拠規定は見送られましたが,

パワハラは許されないものであると法律で明示されることで,

パワハラが抑止されることが期待できますので,一歩前進です。

 

 

 

 

パワハラを防止するための法律ができることで,

会社がパワハラを防止するための

雇用管理上の措置義務を怠ったとして,会社に対して,

損害賠償請求をしやすくなると考えます。

 

 

今後は,パワハラの定義に該当するか否かを

明確にするための具体例が指針で明記されますので,

一般の人に,どこまでいけばパワハラになるのかが

理解されやすくなる可能性があります。

 

 

パワハラを防止するための法律が成立して,

パワハラで苦しむ労働者が少なくなることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

ブラックな就業規則の条項

先日,未払い残業代の法律相談を受けたところ,

次のような就業規則の条文について,相談がありました。

 

 

「従業員が会社の許可なく時間外労働・休日労働に出勤するも,

労働の事実の確認(黙示も含む)をすることができない場合は,

当該勤務に該当する部分の通常賃金および割増賃金は支払わない。

 

 

相談者は,就業規則にこの条文があるので,

残業をするのに会社の許可をもらっていないので,

会社が残業を認めてくれないと,

残業代を請求できないのではないでしょうか,

という心配をされていました。

 

 

 

 

就業規則に「割増賃金は支払わない」と規定されているだけで,

労働者は,残業代を請求できないと思いこんでしまうのです。

 

 

それでは,就業規則に上記の条文があり,

労働者が会社の許可をえずに残業した場合,労働者は,

会社に残業代を請求できないのでしょうか。

 

 

本日は,就業規則の効力について,解説していきます。

 

 

就業規則とは,労働者が職場で守るべきルールと

労働者の労働条件について定められた規則のことです。

 

 

 

 

就業規則が効力を生じるためには,

就業規則の内容が合理的であることと,

就業規則が周知されていることが必要になります(労働契約法7条)。

 

 

就業規則の合理性は,会社の人事管理上の必要性があり,

労働者の権利・利益を不相当に制限していなければ認められます。

 

 

また,会社は,作成した就業規則について,

①常時各作業場の見やすい場所に掲示,備え付けておく,

②就業規則を労働者に直接交付する,

③従業員がいつでもアクセスできるネット上にアップしておく,

などの方法で労働者に周知しなければなりません(労働基準法106条)。

 

 

もっとも,就業規則を労働者が知りうる状況にしておけばよく,

労働者が実際に就業規則の内容を知ることまでは必要ないのです。

 

 

さらに,就業規則は,法令や労働協約に

違反してはならず(労働基準法92条),違反する部分については,

労働者に適用されません(労働契約法13条)。

 

 

さて,以上を前提に,先ほどの就業規則の条文を検討してみます。

 

 

まず,「労働の事実の確認(黙示も含む)

をすることができない場合は,割増賃金を支払わない」

という部分について,労働者が残業をしても,

会社が残業の事実を確認できなかったと言えば,

残業代を請求できないとなると,

労働者の権利・利益を不相当に制限することになるので,

合理性が認められません。

 

 

次に,「割増賃金を支払わない」とありますが,

労働基準法37条には,労働者が残業した場合には,

割増賃金を「支払わなければならない」と規定されています。

 

 

会社が労働基準法37条に違反した場合には,

労働基準法119条1号により

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金

が科せられることがあります。

 

 

そのため,上記の就業規則の条文は,

労働基準法37条の内容に違反しているので,

無効になるといえます。

 

 

よって,上記の就業規則の条文があり,

会社の許可なく残業をして,会社が残業を認識していなくても,

労働者は,会社に対して,未払い残業代を請求できるのです。

 

 

 

 

労働者が残業をしているのを会社が黙認している場合や,

残業しなければできない業務を指示していた場合には,

会社が後から裁判になって,残業を禁止していた,

残業の許可をしていなかったと主張してきても,到底認められません。

 

 

会社は,上記のようなブラックな就業規則の条項を

作成していることがありますので,労働者は,

就業規則の内容をよく確認することが重要です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社のお金を着服した場合の懲戒処分

非常にローカルな話題ですが,

石川県漁業協同組合から現金合計約170万円を着服したとして,

漁協の元理事で輪島市の市議会議員が,

業務上横領の被疑事実で書類送検されました。

 

 

報道によりますと,この市議会議員は

出張旅費名目で現金を受け取りながら,

領収書を全く提出せず,

私的な飲食代とみられる請求を繰り返す,

カラ出張をしていたようです。

 

 

刑事事件に発展した今回の着服ですが,

労働者が会社のお金を着服してしまった場合,

どのような懲戒処分を受けることになるのでしょうか。

 

 

 

 

本日は,出張旅費の不正受給を懲戒理由とする

停職処分の効力が争われた森町・町長ほか事件を紹介します

(函館地裁平成30年2月2日判決・労働判例1187号54頁)。

 

 

この事件の原告は,地方公共団体の職員であり,

課長の地位にありました。

 

 

原告は,中学校野球部の父母会の会計を担当していたときに,

不適切な会計処理を行い,合計7万9774円を着服しました。

 

 

次に,原告は,東京で開催された火山防災会議に

参加するために必要な旅費を,地方公共団体から

概算払で受け取っていたにもかかわらず,

火山防災会議を開催していた団体から

交通費及び謝金を受け取りました。

 

 

しかし,原告は,出張後に旅費の清算をしなければならない

にもかかわらず,7万1880円を着服しました。

 

 

これらの着服行為が発覚して,原告は,

着服したお金を返金しましたが,

地方公務員法29条1項3号の

全体の奉仕者たるにふさわしくない非行があった場合

に該当するとして,父母会の着服を理由として,

6ヶ月の停職処分を受け,出張旅費の着服を理由として,

さらに6ヶ月の停職処分を受けました。

 

 

裁判では,出張旅費の着服の停職処分の効力が争われました。

 

 

まず,懲戒処分が有効となるためには,

懲戒理由が存在する必要があります。

 

 

原告が火山防災会議を開催していた団体から

交通費及び謝金が支給されたことを隠して,

意図的に旅費の清算をしなかったことから,

懲戒理由が認められました。

 

 

次に,その懲戒理由に対して,その懲戒処分は

重すぎないかという相当性が検討されます。

 

 

原告が所属していた地方公共団体では,

管理職の地位にある者の懲戒処分については,

一段階重い懲戒処分を行うことができると定められており,

原告が課長であったこと,

父母会の着服行為を理由として懲戒処分を受けていることも考慮して,

6ヶ月の停職処分は相当であると判断されました。

 

 

金銭的な不正行為の事例では,金額の多い少ないを問わず,

懲戒解雇のような重大な処分であっても有効とされる傾向にあります。

 

 

 

 

そのため,着服した金額が少なかったとしても,

過去に同じようなことをしていたり,

役職が高かった場合には,6ヶ月の停職処分や懲戒解雇であっても

有効と判断される可能性があります。

 

 

そう考えると,石川県漁協の事件では,

着服金額も大きく,理事という役職に就いていたこともあり,

懲戒解雇されても有効と判断される可能性が高いです。

 

 

くれぐれも,会社のお金には手を出さないでくださいね。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

労災認定までに時間がかかるときには傷病手当金を受給する

仕事中にけがをして長期間,

会社を休まなければならなくなったとしたら,どうしましょう。

 

 

 

労働者としては,休んでいる期間の

治療費の負担はどうなるのだろうか,

休んでいる期間の給料はどうなるのだろうか,

と不安になりますよね。

 

 

仕事中に労働者がけがをしたときに,

労働者を守ってくれるのが労災保険制度です。

 

 

労災保険を利用すれば,けがの治療費は

労災保険から支給されますし,

会社を休んでいる期間について,

給料の8割程度の休業補償が受けられます。

 

 

さらに,労働者が仕事中に負傷して,

治療のために休んでいる期間は,会社は,

労働者を解雇することができません。

 

 

労働者は,労災保険を利用して休んでいる限り,

安心して治療に専念することができるのです。

 

 

 

もっとも,精神障害などの労災認定の場合,

労働基準監督署の調査に時間がかかり,

労災の給付が開始されるのに時間がかかる場合があります。

 

 

労災と認定されるまでの間,何も手当がなければ,

労働者の生活は困窮してしまいます。

 

 

そこで,労災申請して,労災と認定されるまでに

時間がかかる場合には,健康保険の傷病手当金

の支給を受けることを検討します。

 

 

傷病手当金は,仕事以外の原因で負傷して,

それによって働けなくなった場合に,休んでいた期間のうち,

賃金が支払われなかった期間について,支給されるものです。

 

 

傷病手当金の金額は,おおむね給料の3分の2相当額であり,

支給開始から最長で1年6ヶ月の期間支給されます。

 

 

傷病手当金は仕事以外の原因で負傷した場合に支給され,

労災の補償は仕事が原因で負傷した場合に支給されるので,

2つの制度は両立しません。

 

 

そのため,労災と認定されるまでの期間,

傷病手当金の支給を受けた後に,

労災認定された場合には,

既に支払われた傷病手当金を返還しなければなりません

 

 

 

 

この場合,労災と認定されるまでに休業していた期間について,

さかのぼって労災の休業補償給付が支給されるので,

これを傷病手当金の返還に充てることができます。

 

 

したがって,労災の申請をしても,

労災と認定されるまでに時間がかかるときには,

傷病手当金を利用して生活を維持することを検討すべきです。

 

 

ただ,傷病手当金を受給する上で注意する点があります。

 

 

それは,傷病手当金を受給するためには,

傷病手当金の申請書に必ず会社の証明が

必要になるということです。

 

 

会社が申請書に証明してくれないと,

労働者は,傷病手当金を受給できないのです。

 

 

(傷病手当金の申請書についてはこちらのサイトをご参照ください)

https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g2/cat230/r124

 

 

労災申請の場合,会社が労災の申請書に証明をしてくれなくても,

そのことを説明して労働基準監督署に申請書を提出すれば

受け付けてくれるのですが,傷病手当金の場合,

会社の証明がないと,申請書を受け付けてくれないのです。

 

 

ここが,傷病手当金のおかしな点なので,

改善すべきと思うのですが,実務がそうなっているので,

なんとか会社に証明してもらうしかないのです。

 

 

弁護士が傷病手当金の申請書の証明を求めると,

会社が警戒して,証明をしてくれないことがあるので,

労働者が直接,証明を求めたほうが手続がスムーズにいくことがあります。

 

 

仕事以外のけがで会社を長期間休んだり,

労災の認定がされるまで時間がかかるときには,

傷病手当金を受給するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社内における壮絶ないじめや嫌がらせ

今から8年ほど前に,榮倉奈々主演のフジテレビのドラマ

泣かないと決めた日」が話題になっていました。

 

 

主人公のOL榮倉奈々が,会社内で壮絶ないじめの

体験にあうというドラマです。

 

 

8年前の私は,弁護士になる前の司法修習生でしたので,

まだ労働事件の現場を知らなかったために,このドラマを見て,

本当にこんなにひどいいじめが会社で行われているのだろうか

と疑問に思っていました。

 

 

しかし,弁護士になって,労働事件の法律相談を受けていると,

会社で隔離されている,

同僚から陰湿な悪口を言われている

などのいじめやパワハラの法律相談が多いことを痛感しました。

 

 

本日は,いじめや嫌がらせが労災と認定された

国・京都下労基署長(富士通)事件を紹介します

(大阪地裁平成22年6月23日判決・労働判例1019号75頁)。

 

 

この事件の原告は,2年以上にわたり,

複数の女性社員から,次のような執拗ないじめや嫌がらせを

受けていたと認定されました。

 

 

 

 

①同僚の女性社員からパソコン操作について質問を受け,

教えた際,同女から御礼としてケーキをもらったことについて,

女性社員4名から「あほちゃう」,

「あれケーキ食べたいから手伝ったんやで」

などと執拗な陰口を受けた。

 

 

②原告に対するいじめの中心人物を含む女性社員4名から

勤務時間中にIPメッセンジャーを使用して毎日のように

同期らに原告に対する悪口を送信された。

 

 

③コピー作業をしていた際,女性社員2名から目の前で

「私らと同じコピーの仕事をしていて,高い給料をもらっている」

などと言われた。

 

 

④加害者の席が異動により原告の席の近くになった際,

加害者を含む女性社員3名から

「これから本格的にいじめてやる」などと言われた。

 

 

⑤女性社員1名から,原告の目の前で他の社員に対して,

「幸薄い顔して」,「オオカミ少年とみんなが言っている」

などと悪口を言われた。

 

 

これらのいじめや嫌がらせは,

集団でなされたものであって,

長期間継続してされたものであり,

その陰湿さや執拗さの程度において,

常軌を逸した悪質なひどいいじめや嫌がらせ

であると判断されました。

 

 

 

さらに,原告が上司にいじめや嫌がらせの相談をしても,

会社は何らかの防止策をとったわけではなく,

原告は失望感を深めました。

 

 

その結果,いじめや嫌がらせと原告の精神障害発症との間に

因果関係が認められるとして,労災が認められました。

 

 

いじめや嫌がらせは,録音をしていないと証明が難しいのですが,

本件事件では,原告が医師やカウンセラーに

いじめや嫌がらせのことを話していたので,

カルテなどにいじめや嫌がらせのことが詳細に記載されていて,

立証がうまくいったのだと思います。

 

 

会社で,いじめや嫌がらせを受けた場合,

まずは録音する等の記録に残し,

精神的にしんどいときには,無理せず,

年次有給休暇を使って会社を休み,

心療内科へ通院するようにしましょう。

 

 

その後,労災の申請をしたり,

いじめの加害者や会社に対して,

損害賠償請求を検討したいときには,

弁護士に相談するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。