過酷な労働で健康を害する労働者が減らない日本社会

厚生労働省が平成29年度の過労死等

の労災補償状況を公表しました。

 

 

厚生労働省では,過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患や,

仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害

の状況について,毎年公表をしています。

 

 

まず,脳・心臓疾患については,

労災請求件数が840に対して,

支給決定件数が253であり,

認定率は38%です。

 

 

このうち,脳・心臓疾患を発症して死亡した,

いわゆる過労死の労災請求件数が241に対して,

支給決定件数が92であり,

認定率は39%です。

 

 

脳・心臓疾患の労災請求件数は,

平成26年度以降増加していますが,

支給決定件数は,その年で増えたり減ったりしています。

 

 

発症前1ヶ月間におおむね100時間または

発症前2ヶ月間から6ヶ月間にわたって,

1ヶ月当たりおおむね80時間を超える

時間外労働が認められると,長時間労働が原因で

脳・心臓疾患を発症したと認定されやすいです。

 

 

 

 

そのため,脳・心臓疾患の労災請求件数が増えている

ということは,長時間労働が原因で,

脳や心臓を悪くした労働者が増加しているといえ,

長時間労働による労働者の健康悪化の状況が

改善されていないと考えられます。

 

 

もっとも,過労死は,平成27年度から減少傾向にあります。

 

 

業種別でみると,脳・心臓疾患の労災請求件数も支給決定件数も

一番多いのは,運輸業,郵便業のうち道路貨物運送業です。

 

 

他の業種に比べてダントツで多いです。

 

 

長距離トラック運転手は,深夜に長時間運転しますし,

トラックの中で休憩しているので,十分な休息ができておらず,

睡眠の質が悪く,疲労を回復することができずに,

疲労が蓄積して,脳・心臓疾患を発症するのだと考えられます。

 

 

次に,精神障害の労災補償状況ですが,

平成29年度の労災請求件数が1732に対して,

支給決定件数が506で,

認定率は32.8%です。

 

 

労災請求件数は,前年度と比較して146件も多く,

精神障害の労災請求は毎年右肩上がりに増加しています。

 

 

転勤やクレーム処理をしたという出来事の前後に,

1ヶ月100時間程度の時間外労働が認められたり,

発病直前の連続した3ヶ月間に1ヶ月当たり

おおむね100時間以上の時間外労働が認められる場合

長時間労働が原因で精神疾患を発症したと認定されやすいです。

 

 

 

 

労災認定された506人のうち,

最も多かった原因の出来事は

嫌がらせ,いじめ,または暴行を受けた」の88人でした。

 

 

パワハラや長時間労働が原因で精神を

病んでしまう労働者が増加していることが分かります。

 

 

精神疾患では,労災請求件数が多い業種は,医療・福祉の分野です。

 

 

医療や福祉の職場では,夜勤や交替勤務,

組織における人間関係,患者とのトラブルなどが原因で,

疲労とストレスが蓄積して,

精神疾患を発症する労働者が多いのかもしれません。

 

 

平成29年度の過労死等の労災補償状況をみると,

日本の労働者は,過酷な労働をして健康を

害してしまうことがよく分かります。

 

 

過酷な労働で健康を害する労働者を少しでも減らすように,

長時間労働を削減したり,パワハラを防止する施策が求められます。

 

 

また,労災の認定率が30%台で,

労災はやや狭き門となっているので,

労災の認定率が多くなり,一人でも多くの

労働者が労災で救済されることを願っています。

依頼者様の声のページを更新しました。

労働事件と相続事件について,依頼者様の声のページを更新しました。

https://www.kanazawagoudoulaw.com/portfolio-item/iraishanokoe20180710

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https://www.kanazawagoudoulaw.com/portfolio-item/iraishanokoe20180710-2

 

 

 

ドリルを売るには穴を売れ

マーケティング脳トレーナー・MBA・中小企業診断士

の佐藤義典氏の「ドリルを売るには穴を売れ

~誰でも売れる人になるマーケティング入門~

という本を読んだので,気づきをアウトプットします。

 

 

 

 

マーケティングとは,

顧客に関する全てのことであり,

売ることに関するすべてのことです。

 

 

私達が何かを買うときに,売り手にとっての

マーケティングが起きているので,物を買うときに,

「自分はなぜこの商品を買ったのか?」

という質問を自分に投げかけて,

その答えを探すとマーケティング脳が鍛えられます。

 

 

マーケティング脳とは,

マーケティングのヒントに敏感で,

マーケティング的な思考・発想ができることです。

 

 

マーケティング脳を鍛えることで,

マーケティングに対する感度・確度が高まり,

自分がビジネスに使うときのネタやヒントが増えていきます。

 

 

マーケティングでは,最低限おさえておくべき

4つの理論として,次のものがあげられます。

 

 

1 ベネフィット 顧客にとっての価値

2 セグメンテーションとターゲティング 顧客を分けて絞る

3 差別化 競合よりも高い価値を提供する

4 4P 価値を実現するための製品・価格・販路・広告

 

 

この4つの理論から得た気づきを紹介します。

 

 

まずは,ベネフィットという顧客にとっての価値です。

 

 

売り手は,顧客にとっての価値を売り,

その対価として,顧客からお金をいただきます。

 

 

 

 

ドリルを売る場合,顧客にとっては,

穴に価値があるのであり,顧客は,

ドリルを買っているのではなく,

穴を開ける道具を買っているのです。

 

 

顧客は,得られる価値が支払う対価よりも

大きいと感じるときに買います。

 

 

そのため,「顧客が得る価値>顧客が払う対価

という不等号を維持する必要があるのです。

 

 

それでは,顧客にとっての価値とはなんなのでしょうか?

 

 

それは,人間の欲求です。

 

 

人間の欲求とは,

生存欲求(生き続けたい,肉体的な快楽),

社会欲求(他人との関係においてよく思われたい),

自己欲求(他人とは無関係に,自分の中で完結する)

という3つの欲求があり,売るためには,

顧客のこれらの欲求を満たしてあげればいいのです。

 

 

弁護士とクライアントの関係で考えると,

弁護士は,クライアントに対して,

トラブルを解決して安心したいという生存欲求,

トラブルを解決して周囲の人から認められたいという社会欲求,

自分の主張を貫いて納得したいという自己欲求

を満たしてあげていると考えられます。

 

 

おそらく,クライアントが弁護士に求めている価値とは,

トラブルを解決することの安心感や,

自分の主張は間違っていないという納得

なのだと思います。

 

 

次に,顧客に価値を提供する際に,

競合よりも高い価値を提供しなければ,

自分の商品を買ってもらえず,

顧客は競合の商品を買います。

 

 

 

 

競合よりも高い価値を顧客に提供すること,

すなわち,提供する価値の競合との差が差別化の本質なのです。

 

 

差別化には,3つの戦略があります。

 

 

手軽軸(手軽に済ませたいというベネフィットを求めている顧客を狙った差別化戦略),

商品軸(とにかく良いものを求めている顧客を狙った差別化戦略),

密着軸(顧客に密着する差別化戦略)

の3つです。

 

 

この3つの差別化戦略を同時に実施すると

中途半端になって,逆に差別化できないので,

1つに絞る必要があります。

 

 

法律事務所の場合,

リーガルサービスの質を高める商品軸か,

クライアントの話しに耳を傾けて

クライアントの要望にこたえていく密着軸

のどちらかを選択することになると思います。

 

 

私は,弁護士としてクライアントに対して,

どのような価値を提供しているのかを

日々意識しながら,仕事をしていきます。

 

 

マーケティングの基礎を一から

分かりやすく解説している名著ですので,

紹介させていただきました。

 

 

ライドシェアの運転手は労働者か

昨日に引き続き,ライドシェアの労働法

の問題点について記載します。

 

 

ライドシェアの世界最大手のウーバーは,

あくまで,運転手と利用者のマッチングを

仲介しているだけなので,ウーバーに登録している運転手は,

労働者ではないという見解を示しているようです。

 

 

 

 

日本において,ライドシェアの運転手が,

労働者ではないことになれば,最低賃金法が適用されないので,

報酬が際限なく低くなり,どれだけ働いても

生活できなくなる危険があります。

 

 

また,ライドシェアの運転手が,

労働者ではないことになれば,ウーバーが突然,

運賃から取得する手数料を勝手に増額して,

運転手が取得する利益が勝手に減らされても,

運転手は何も文句をいえない可能性があります。

 

 

仮に,ライドシェアの運転手が労働者であれば,

会社が労働条件を一方的に不利益に変更することはできないので,

勝手に手数料を増額されることはなくなり,

運転手が取得する利益を一定水準に確保することができます。

 

 

このように,ライドシェアの運転手が

労働者であるか否かによって,

運転手の待遇や権利が全然違ってくるのです。

 

 

ウーバーは,自社の利益を大きくするために,

運転手は労働者ではないとして,

雇用責任が生じないようにしているのだと思います。

 

 

それでは,労働者といえるためには,

どのような判断基準を満たせばいいのでしょうか。

 

 

 

 

以前ブログで記載しましたが,

労働基準法の「労働者」について,

昭和60年に労働基準法研究会報告

「労働基準法の『労働者』の判断基準について」

という文書に判断基準が記載されています。

 

 

大まかに言えば,

①指揮監督下の労働といえるか,

②報酬が労務対償性を有するか,

③補強要素を総合考慮します。

 

 

ただ,この判断基準が抽象的なこともあり,

裁判の実務では,個々の事案ごとに,

具体的な事実をあてはめて結論を出しますので,結論がわかれます。

 

 

そのため,労働者といえるか判断に迷うこともあります。

 

 

さて,ウーバーの場合,運転手は,

顧客の評価が低かったり,

配車依頼に応じなかった場合,

ウーバーのアルゴリズムに低い評価をつけられて,

配車依頼がこなくなります。

 

 

配車依頼がこなくなれば,

ライドシェアを本業にしている運転手は,

仕事がなくなり,事実上解雇されるのと同じになるので,

顧客の評価をあげるような努力をしたり,

配車依頼に極力応じるようになりますので,

ウーバーからの依頼を断る自由が事実上ないことになります。

 

 

また,配車依頼のあった顧客のもとへ迎えに行く際に,

GPSによって経路が指示されますので,

ウーバーから業務遂行の指示があるといえます。

 

 

そうであれば,ライドシェアの運転手は,

ウーバーの指揮監督下で労働しているといえるので,

労働基準法の労働者にあたる可能性があります。

 

 

今後,雇用によらない働き方が増えていきますが,

労働法によって保護されない人が増えて,

低賃金で長時間働かせられて健康を害する人

が増えるリスクがあります。

 

 

そうならないために,雇用によらない働き方が増えたとしても,

労働者として適切な保護を及ぼす必要があります。

 

 

そのためにも,今の労働者の判断基準は

不明確な点がありますので,労働者の概念を拡張して,

労働者として守られる人を拡大していくべきだと考えます

 

 

なお,今年の夏から,ウーバーは,

淡路島において,タクシー事業者と連携して,

配車事業の実証実験を始めるようですので,

日本におけるライドシェアの行末について注目していきます。

ライドシェアについて考える

昨日の北越労働弁護団総会において,

東京の弁護士中村優介先生から,

ライドシェアについて講義を受けましたので,

アウトプットします。

 

 

ライドシェアとは,いわゆる相乗りのことで,

時間が空いていて自家用車を提供できる運転手が,

アプリから配車依頼があれば,利用者のもとへ迎えに行き,

利用者を目的地まで送るという仕組みです。

 

 

 

 

ライドシェアで,世界一はアメリカの

ウーバー・テクノロジーズです。

 

 

アメリカで実際にウーバーの配車サービスを利用した

中村先生の話によると,まずは,

ウーバーのアプリをダウンロードして配車依頼をすると,

近くにいた運転手が2~3分で迎えに来たようです。

東京で地下鉄を待つより早いかもしれませんね。

 

 

中村先生は,40キロ移動したので,

東京でタクシーに乗車したら,

約15,000円から20,000円の運賃がかかるところ,

ウーバーの場合は,約4,000円の運賃しかかからなかったようです。

日本のタクシーと比べると,おそろしく安いです。

 

 

車に乗るときに料金が決まっているので,

到着に時間がかかっても値段は変わらず,

さらにクレジット決済なので,手持ちの現金が減りません。

 

 

利用者からすると,とても安くて便利なのです。

 

 

一方,ウーバーの運転手の報酬は,

ウーバーが運賃から手数料2~3割をひくので,

1回の走行で得られる利益は低く,

数をこなさなければ生活できる水準の利益を確保することは困難です。

 

 

さらに,この手数料が突然,

ウーバーから一方的に変更されるときがあり,

運転手の利益が急に減少することもあるようです。

 

 

このようなライドシェアのようなものを

シェアリング・エコノミーといいます。

 

 

シェアリング・エコノミーとは,

「場所や時間などの遊休資産をインターネットの

プラットフォームを介して個人間で貸し借りしたり,

交換したりすること」をいいます。

 

 

ウーバーにあてはめると,

時間と自家用車があいている運転手と,

今手元に自動車はないけど目的地へ移動したい観光客などが,

ウーバーが提供しているアプリでマッチングされて,

運転手が観光客などを目的地へ送ることで,

運転手には報酬が支払われ,観光客は安く移動できて,

両者にとってウィンウィンの関係になるということです。

 

 

利用者からすると,安くて便利なすごいサービスなのですが,

いろいろな問題が生じているようです。

 

 

まず,ウーバーが流行すると,利用者は,

ウーバーの方が安くて便利なので,

既存のタクシーを利用しなくなり,

ウーバーばかり利用するので,

タクシー会社が倒産します。

 

 

実際に,アメリカでは,タクシー会社の倒産が増えているようです。

 

 

 

 

すると,タクシー会社で働いていた運転手は,

ウーバーに登録することになりますが,

運賃が安いうえに,ウーバーに手数料をとられるので,

収入が激減します。

 

 

収入をあげるためには,1日に何回も

送迎しなければなりませんので,

低賃金による長時間労働が蔓延してしまい,

運転手の過労死・過労自殺のリスクが高まります。

 

 

副業でライドシェアをするなら

小遣い稼ぎにいいかもしれませんが,

タクシー会社が倒産して,やむなく本業で

ライドシェアをしなければならない運転手にとっては,

生活していくのが相当に困難になることが予想されます。

 

 

このように,ライドシェアには,

運転手の保護をどうしていくのかという

労働法上の問題点があります。

 

 

長くなりましたので,ライドシェアの問題点の

続きについては,明日以降に記載します。

通勤手当の格差は不合理!

最近,労働契約法20条違反を争う裁判例が増えています。

 

 

本日は,正社員と非正規雇用労働者の通勤手当の格差

について争われた九水運輸商事事件を紹介します。

(福岡地裁小倉支部平成30年2月1日判決・

労働判例1178号5頁)

 

 

被告会社では,正社員とパート社員にわかれており,

集荷の段階から配達,検品までを行うのは正社員だけでしたが,

それ以外の仕事は,正社員もパート社員も同じでした。

 

 

被告会社では,正社員には通勤手当が1万円支給され,

パート社員には通勤手当が5千円支給されており,

5千円の差がもうけられていました。

 

 

原告らパート社員は,通勤手当に5千円の差

もうけられていることについて,

労働契約法20条違反を主張して,裁判をおこしました。

 

 

労働契約法20条には,正社員と非正規雇用労働者の

労働条件の違いが,

「労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度,

当該職務の内容及び配置の変更の範囲

その他の事情を考慮して」,

不合理であってはならないと定められています。

 

 

被告会社が通勤手当をもうけた理由は,

少しでも手当が多い方が求人に有利であるというもので,

正社員とパート社員の通勤手当に格差が生じる

合理的な理由ではありません。

 

 

また,正社員もパート社員も仕事場へ自家用車で通勤しており,

パート社員の方が正社員よりも通勤時間や

通勤経路が短いということはなく,

被告会社が通勤手当の金額を決めるに当たり,

正社員の通勤経路を調査したこともありません。

 

 

 

 

被告会社において,通勤手当は,

労働者の通勤のための交通費を補填するものである

という性質からして,正社員とパート社員との間に,

通勤手当に5千円の格差を生じさせることは不合理であるとして,

労働契約法20条違反が認められ,

原告らが主張した毎月の通勤手当5千円の差額分

の損害賠償請求が認められました。

 

 

正社員も非正規雇用労働者も等しく会社に通勤しており,

一般的に通勤手当とは,通勤にかかる交通費の補填

という性質があることから,正社員と非正規雇用労働者との間に,

通勤手当について格差があると,

労働契約法20条違反が認められやすいです。

 

 

実際に,労働契約法20条違反が争われた

最近の裁判例をみてみると,通勤手当については,

労働者の主張が認められています。

 

 

さらに,先日成立した働き方改革関連法の中の

短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律

9条において,非正規雇用労働者であることを理由として,

基本給,賞与その他の待遇について,

差別的取扱をしてはならないと改正されました。

 

 

今後は,この条文を根拠に,非正規雇用労働者は,

正社員との待遇の格差の是正を求めやすくなります。

 

 

非正規雇用労働者が通勤手当の格差に

疑問をいだいたのであれば,

専門家に相談することをおすすめします。

仮眠時間は労働時間か?

警備員や看護師,ホテルのナイトフロントなど

宿直を伴う業務には,仮眠時間がもうけられていることがあります。

 

 

 

 

この仮眠時間が労働時間なのかが,

未払残業代請求事件で争点になることがあります。

 

 

仮眠時間中,労働者は寝ているので,労働時間ではなく,

休憩時間であり,仮眠時間について,

賃金は発生しないとも考えられます。

 

 

しかし,仮眠時間であっても,呼び出しがあったら,

すぐに仕事に戻らなければならない場合,

労働時間のようにも思えます。

 

 

そもそも,労働時間とは,どのような時間なのでしょうか。

 

 

 

 

労働時間について判断した重要な判例を紹介します。

 

 

最高裁平成12年3月9日判決(三菱重工業長崎造船所事件)は,

労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい,この時間に該当するか否かは,

労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと

評価することができるか否かにより

客観的に定まるものであると判断しています。

 

 

ようするに,使用者の指揮命令があって,

それにしたがって働けば労働時間になります。

 

 

もっとも,使用者の指揮命令下に置かれている時間

という基準だけでは,仮眠時間が労働時間にあたるのかが

判然としません。

 

 

次に,仮眠時間が労働時間にあたるかの基準を

示した重要な判例を紹介します。

 

 

最高裁平成14年2月28日判決(大星ビル管理事件)は,

次のように判断しました。少し長いですが引用します。

 

 

「不活動仮眠時間において,労働者が実作業に従事していない

というだけでは,使用者の指揮命令下から

離脱しているということはできず,

当該時間に労働者が労働から離れることを

保障されていて初めて,労働者が使用者の指揮命令下に

置かれていないものと評価することができる。

したがって,不活動仮眠時間であっても

労働からの解放が保障されていない場合には

労基法上の労働時間に当たるというべきである

そして,当該時間において労働契約上の役務の提供が

義務付けられていると評価される場合には,

労働からの解放が保障されているとはいえず,

労働者は使用者の指揮命令下に置かれているというのが相当である。」

 

 

ようするに,仮眠時間中に労働から完全に

解放されていないのであれば,

仮眠時間は労働時間になります。

 

 

労働から完全に解放されているかについては,

①業務遂行についての義務付けがあるか

(仮眠中に呼び出しがあれば,すぐに現場に

戻らければならないように指示されていたか),

②場所的拘束性があったか

(仮眠時間とされていた時間に,会社の外に出て

自由に過ごすことができたか),

③対応の頻度

(仮眠時間中の呼び出しが多いか少ないか)

といった事実をもとに判断されます。

 

 

例えば,ホテルのナイトフロントの場合,

①仮眠時間中であっても,顧客からの呼び出しがあれば

すぐに対応しなければならず,

②ホテルの外に出て休むことが禁止されており,

③顧客の呼び出しが頻繁にある場合,

仮眠時間は労働時間と判断されると考えられます。

 

 

仮眠時間について,多くの会社では残業代が

支払われていないでしょうが,場合によっては,

労働時間となり,労働者は,

未払残業代を請求できることがあります。

 

 

仮眠時間のある労働者は,一度,

ご自身の労働実態を検討し,

仮眠時間の対応頻度などを調べてみるといいでしょう。

大東建託の36協定違反

朝日新聞の報道によれば,大東建託が

36協定で定める上限を超えて労働者に長時間労働をさせたとして,

労働基準監督署から是正勧告を受けたようです。

 

 

 

 

労働基準法32条によれば,1日8時間,1週間で40時間

を超えて労働させてはならないのが原則ですが,

会社と労働組合や労働者の過半数代表が36協定を締結すれば,

36協定で定められた上限時間まで働かせてもよいことになります。

 

 

大東建託では,36協定の上限時間が1ヶ月70時間,

繁忙期は1ヶ月80時間となっていたのですが,

1ヶ月の残業時間が約97時間の営業職の元社員がいたのです。

 

 

 

36協定の上限時間を超えて働かせることは

労働基準法違反になるので,労働基準監督署は是正勧告をしました。

 

 

大東建託が36協定の上限時間を超えて

働かせていた背景に,過酷な労働実態があります。

 

 

20代の営業職の元社員の話しによれば,

契約が獲得できないと上司から

成果が取れていないのに,帰らないよな

と長時間労働を迫られたようです。

 

 

 

 

また,契約がとれない時期が続くと,会議において

無実績で申し訳ありません」と言わされて,

罪悪感を植え付けられたようです。

 

 

上司からの過度なプレッシャーにさらされて,

長時間労働をせざるを得ない状況に追い込まれたのです。

 

 

このような過酷な働き方をさせられたのでは,

長時間労働とプレッシャーによって体調を崩し,

うつ病になるリスクがありますので,

まずは,身近にいる人に相談してください。

 

 

身近な人の支援を受けながら,労働基準監督署へ相談して,

労働環境を改善してもらったり,弁護士などの専門家へ相談して,

未払の残業代請求をすることにつなげます。

 

 

場合によっては,勇気をもって会社を辞めることも必要です。

 

 

長時間労働とプレッシャーで健康を害するよりも,

早目に退職する勇気を持ってください。

 

 

 

一方,会社は,労働者に過酷な労働を強制していると,

労働基準監督署の監督指導があり,マスコミで報道されると,

企業イメージが一気に悪化します。

 

 

労働環境が悪いという評判がたてば,

若者が就職してこなくなり,人手不足に陥り,

業績が悪化するという負のスパイラルに陥る危険があります。

 

 

そのため,どの会社も,労働者が安心して

働ける環境を整備する必要があります。

 

 

なお,先日成立した働き方改革関連法の中の

残業時間の上限規制では,1ヶ月100時間,

2~6ヶ月平均80時間を超えた場合に

会社に罰則が科されるのですが,今回の大東建託の場合,

1ヶ月の残業時間が約97時間だったため,

残業時間の上限規制に違反しないことになります。

 

 

会社が本気で,長時間労働を是正するという

モチベーションを高めるためには,

残業時間の上限規制を労働者のために

低く設定し直すべきだと考えます。

勤務間インターバル制度,年休,残業代の法改正

6月29日に成立した働き方改革関連法のうち,

本日は,その他の法改正について解説します。

 

 

まずは,勤務間インターバル制度です。

 

 

勤務間インターバル制度とは,

仕事が終わってから次の仕事が始まるまでに,

一定時間の休息を確保させる制度です。

 

 

 

 

EUでは,企業に対して,終業と始業の間に

連続11時間の休息をとらせるように義務付けられています。

 

 

11時間のインターバルが必要になった場合

例えば,午後11時に仕事が終わったとしたら,

翌日の出社は,午前10時以降にしなければなりません。

 

 

勤務間インターバル制度は,休息なしで

連続勤務することを防止することで,

労働者の健康を確保することにつながり,

過労死を防止する切り札となります。

 

 

特に,夜勤労働者の場合,日勤に比べて

疲労がたまりやすいため,十分な休息期間を確保して,

疲労を回復させる必要があることから,

夜勤労働者がいる職場でこそ,

勤務間インターバル制度の導入が求められます。

 

 

もっとも,この勤務間インターバル制度の

導入については,企業に対する努力義務であり,

必ず導入しなければならないものではなく,

実際に導入している企業は1.4%程度です。

 

 

今後は,勤務間インターバル制度を導入する企業が

多くなるように,法整備がなされていくことが期待されます。

 

 

次に,年休(年次有給休暇)についてです。

 

 

2019年4月から,企業に対して,

1年間に10日以上の年休が与えられている労働者に対して,

最低5日を消化させることが義務付けられました

 

 

 

 

 

労働者が5日未満しか消化できなかった場合,

企業に対して,労働者一人当たり

最大30万円の罰金が科せられます。

 

 

労働者は,入社後,6ヶ月継続勤務して,

8割以上出勤すれば,1年間に10日の年休を取得できます。

 

 

年休を取得した日について,労働者には賃金が支払われます。

 

 

しかし,休むことによって,

会社や同僚に迷惑をかけてしまうと思ってしまい,

年休を消化できていない労働者が多いと思います。

 

 

そこで,年休を取得することを促進するために,

今回の法改正が行われたのです。

 

 

労働者としては,年休をしっかりと消化しないと,

逆に会社に迷惑がかかるので,遠慮なく休めばいいことになります。

 

 

最後に,中小企業の残業代についてです。

 

 

2023年4月から,1ヶ月60時間を超えて

時間外労働をさせた場合,中小企業に対して,

5割増の残業代を労働者に支払うことが義務付けられます。

 

 

 

 

既に,大企業では,1ヶ月60時間を超えて時間外労働させた場合,

5割増の残業代を支払わなければなりませんが,

中小企業に対しては,これが猶予されていたのです。

 

 

今回の法改正で,この猶予がなくなり,

1ヶ月60時間を超えて時間外労働をさせた場合,

中小企業の残業代が増加します。

 

 

中小企業は,長時間労働を是正しなければ,

人件費が増加して,経営が悪化するリスクがありますので,

労働生産性を向上させる必要があります。

同一労働同一賃金の法改正

6月29日に成立した働き方改革関連法のうち,

本日は,同一労働同一賃金について説明します。

 

 

パートや契約社員,派遣社員といった

非正規雇用労働者の賃金は,正社員に比べて低い水準にあります。

 

 

少し古い統計ですが,平成24年の賃金構造基本統計調査によれば,

非正規雇用労働者の平均賃金は,

正社員の平均賃金の約6割くらいの水準のようです。

 

 

(日弁連の「あなたの暮らしも危ない?誰が得する?生活保護基準切り下げ(労働編)のチラシより抜粋)

 

 

正社員と非正規雇用労働者の仕事の内容が異なり,

正社員の方が,より難しい仕事をしているのであれば,

賃金に差が生じてもしょうがないと思えるのですが,

正社員と非正規雇用労働者の仕事の内容が同じであるにもかかわらず,

賃金に差が生じているのでは,非正規雇用労働者は納得できません。

 

 

そこで,非正規雇用労働者の待遇改善を図るために,

正社員との不合理な待遇差を是正するのが

同一労働同一賃金の法改正です。

 

 

同一労働同一賃金とは,読んだとおり,

同じ仕事なら同じ賃金が支払われるべきということで,

不合理な賃金格差をなくすことにつながります。

 

 

 

具体的に,どのような賃金格差が違法になるかは,

今後,厚生労働省がガイドラインで定めるのですが,

2016年12月に公表されたガイドラインでは,

次のように定められています。

 

 

すなわち,通勤手当,皆勤手当といった手当や,

食堂の利用といった福利厚生については,

原則として待遇格差は認められません。

 

 

正社員も非正規雇用労働者も,

自宅から会社まで通勤するのは同じですし,

皆勤については,正社員も非正規雇用も変わりませんし,

正社員だから食堂が利用できて,

非正規雇用労働者だから食堂が利用できないのは不合理ですよね。

 

 

他方,基本給が,職業経験や能力,業績や成果,

勤続年数などの差に応じて支給される場合や,

賞与が,業績などへの貢献度に応じて支給される場合には,

待遇差は認められにくいです。

 

 

この待遇差については,仕事の内容を判断の基本にするべきであり,

一般的な異動の可能性や長期雇用のための動機づけ

といった会社の主観的な要素で判断されることが

ないようにする必要があります。

 

 

このような理由で待遇差を安易に許せば,

正社員と非正規雇用労働者の格差の解消が

図れなくなってしまうからです。

 

 

他にも,会社は,非正規雇用労働者から求めがあれば,

正社員と非正規雇用労働者との間の待遇差の内容や

その理由を説明しなければならない義務が生じます。

 

 

非正規雇用労働者は,正社員との待遇差に納得できない場合,

会社に説明を求め,その理由に納得できなければ,

是正を求めていくことになります。

 

 

 

同一労働同一賃金の法改正は,

大企業は2020年4月から,

中小企業は2021年4月から施行されます。

 

 

なお,NTTグループでは,

正社員と非正規雇用労働者の間で

待遇差があった福利厚生制度を見直し,

正社員の制度に一本化したようです。

 

 

その結果,非正規雇用労働者は,

定期健康診断の受診項目が増え,

提携するフィットネスクラブやレジャー施設を

割安で使えるようになったようです。

 

 

今後は,NTTグループのような取り組みが

他の会社にも広がり,正社員と非正規雇用労働者の格差が

是正されていくことが期待されます。