残業時間の上限規制とは

6月29日に成立した働き方改革関連法のうち,

高度プロフェッショナル制度については,

これまで解説をしてきましたので,これからは,

その他の改正部分について解説します。

 

 

まずは,残条時間の上限規制です。

 

 

 

労働基準法が定める労働時間は,

1日8時間,週40時間が原則です。

 

 

これを超えて働かせることは違法なのですが,

36協定を締結すれば,1日8時間以上,

週40時間以上働かせても問題はなかったのが

これまでの労働基準法でした。

 

 

今回の法改正で,この原則に対する例外として,

残業時間の上限が1ヶ月45時間及び

1年について360時間となりました。

 

 

さらに,例外の例外で,

「当該事業場における通常予見することのできない

業務量の増加等に伴い臨時的に限度時間を超えて

労働させる必要がある場合」には,

1年間に6ヶ月以内なら,

1ヶ月の時間外労働が45時間を超えても,

年間上限720時間以内であれば違法になりません。

 

 

もっとも,この例外の例外には,

休日労働は含まれていません。

 

 

休日労働を含めた場合は,

1ヶ月100時間未満,

2~6ヶ月の平均80時間未満が,

休日労働を含んだ残業時間の上限となります。

 

 

そして,休日労働を含む残業時間が,

1ヶ月100時間を超えたり,

2~6ヶ月の平均80時間を超えた場合,

企業には,6ヶ月以下の懲役若しくは

30万円以下の罰金の刑罰が科されます。

 

 

例外の例外があったり,休日労働を含めるか含めないか

という複雑な構造になっていますが,ようするに,

休日労働を含む残業時間が,1ヶ月100時間を超えるか,

または,2~6ヶ月の平均80時間を超える場合に,

企業に刑罰が科せられると覚えておけばいいと考えます。

 

 

労働者としては,休日労働を含む残業時間が,

1ヶ月100時間を超えたり,

2~6ヶ月の平均80時間を超えた場合には,

労働基準監督署へ相談にいけば,

労働基準監督署が会社に対して,

監督指導する可能性があります。

 

 

この残業時間の上限規制は,大企業であれば,2019年4月から,

中小企業であれば,2020年4月から適用されるので,

労働者を働かせすぎている会社は気をつけた方がいいでしょう。

 

 

もっとも,この残業時間の上限規制は,

建設業や運送業,医師については,5年間,

適用が猶予されていますし,

新技術や新商品などの研究開発業務については,

適用がはずされています。

 

 

これまでは,残業時間の上限がなかったので,

際限なく働かせることも可能でしたが,今回の法改正で,

働かせすぎを予防する規制ができました。

 

 

 

 

しかし,残業時間の上限が,

1ヶ月100時間未満,2~6ヶ月の平均80時間未満という,

過労死や過労自殺ラインに設定されているので,

過労死や過労自殺に至るまで働かせることを

容認することになりかねないので,今後は,

残業時間の上限時間を段階的に少なくしていくことが求められます。

 

労働基準監督官は高プロを取り締まれない?

昨日に引き続き,6月29日に成立した

高度プロフェッショナル制度(通称,「高プロ」といいます)

に抗議する意味を込めて,高プロの問題点を指摘します。

 

 

今回の高プロの問題点は,

労働基準監督署の労働基準監督官が,企業に対して,

長時間労働の監督指導をできないということです。

 

 

 

 

労働基準法に定められている労働時間規制によって,

労働者は,企業から働かされ過ぎないように保護されています。

 

 

具体的には,企業は,労働者を

1日8時間以上働かせてはいけなくて,

これに違反した場合には,

残業代を支払わなければなりません。

 

 

労働基準法は,企業に残業代を支払わせることで,

長時間労働を抑制して,労働者の働き過ぎを

予防しようとしているのです。

 

 

そして,労働基準監督官は,残業代を支払わずに

長時間労働をさせている企業があれば,監督指導を行います。

 

 

しかし,高プロが適用されれば,

この労働時間規制がはずされるため,

残業代ゼロで24時間働かせても合法になり,

労働基準監督官は,高プロが適用されている

労働者の長時間労働について,

企業に監督指導ができなくなります。

 

 

また,企業は,高プロが適用されている労働者の

労働時間を管理する必要がないので,

高プロが適用されている労働者の労働時間

についての記録が残らなくなります

 

 

 

 

労働時間の記録が残らないため,労働基準監督官が,

高プロが適用されている労働者がどれだけ働いていたのかを

証明することができないので,監督指導が困難になります。

 

 

さらに,高プロが適用されている労働者が,

本当に高プロの対象業務を行っているのか,

いつ働くかの裁量を本当にもっているかについて,

法律の概念が抽象的なので,労働基準監督官が,

高プロが適法に運用されているのかを調査するには,

時間と手間がかかり,やはり,監督指導が困難になります。

 

 

例えるなら,穴の空いた網で魚を捕まえようとするようなものです。

 

 

 

 

 

労働基準監督官を増やせば,高プロ違反を

取り締まることができるという意見もありますが,

労働基準監督官を増やしても,高プロ違反の摘発は困難なのです。

 

 

なお,公務員の人員削減が進んでいる中で,

地方労働行政の職員が,労働基準法違反を監督指導する

労働基準監督官に移されている結果,

労災を担当する職員が減少し,労災の認定が遅くなっている

というひずみも生じているようです。

 

 

このように,違法に高プロが適用されていたとしても,

労働基準監督官が違法に高プロを適用している企業を

監督指導することが困難ですので,企業は,

残業代ゼロで労働者を長時間働かせてしまい,

過労死が増えるのは目に見えています。

 

 

取締が困難で,過労死を助長する高プロは,廃止するべきです。