上司の不正を内部告発した准教授へのパワハラ

金沢大学において,准教授が,上司にあたる主任の教授の不正を内部告発したところ,主任の教授からパワハラを受けたとして,損害賠償請求をしました(金沢地裁平成29年3月30日判決・国立大学法人金沢大学元教授事件・労働判例1165号21頁)。

 

主任の教授は,原告の准教授に対して,研究室の鍵の使用を制限したり,担当授業のコマ数を削減した等の様々な嫌がらせ行為を行ったようですが,そのような嫌がらせ行為のうち,主任の権限を逸脱濫用したもの等について違法なパワハラであると判断されました。

 

そして,原告の准教授の雇用主である金沢大学は,労働者にとって働きやすい職場環境を保つように配慮する義務を負っており,労働者から,内部告発を原因とするハラスメント行為が行われているという申告があった場合には,ハラスメント行為の有無の事実関係を調査した上で,具体的な対応をすべき義務があるとされました。

 

金沢大学は,原告の准教授と面談して事情を聴取しようとしましたが,原告の准教授は,事情により面談に応じなかったため,調査ができなかったと主張しました。しかし,判決では,面談以外の方法でハラスメント行為の調査をすべきであり,それが実施されていないため,金沢大学には,原告である准教授の職場環境改善に向けた対応義務が尽くされていないとして,原告の准教授の損害賠償請求が認められました。

 

通常,ハラスメントがあった場合,当事者の言い分を聞き取った上で,事実を認定するのはよくあることです。ハラスメントの被害を訴えている人物が事情聴取に応じない場合に,それ以外の方法で調査しなければ,職場環境改善対応義務に違反するとされるのは,使用者にとってやや酷な気がします。ハラスメント事件において,使用者がどこまで調査しなければならないかについて判断している判例として紹介しました。

年末年始の休業のお知らせ

平成29年1月29日から平成30年1月4日まで年末年始の休業となります。仕事始めは,平成30年1月5日からとなりますので,よろしくお願い致します。

野村不動産の企画業務型裁量労働制に対する是正勧告

報道によると,東京労働局が野村不動産に対し,企画業務型裁量労働制を社員に違法に適用して,残業代の一部を支払っていないとして,是正勧告をしました。

 

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20171226/k10011272001000.html

 

裁量労働制とは,業務の性質上その遂行方法を大幅に労働者に委ねる必要がある場合に,実際の労働時間とは関係なく,あらかじめ決められた労働時間に基いて残業代込の賃金を支払う制度です。そのため,あらかじめ決められた労働時間以上働いたとしても,追加の残業代が支払われなくなります。

 

裁量労働制には2つあり,専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制です。今回の野村不動産で問題になったのは,企画業務型裁量労働制です。企画業務型裁量労働制の対象業務は,①「事業の運営に関する事項についての企画,立案,調査及び分析の業務であって」,②「当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要があり」,③「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をないこととする業務」とされています(労働基準法38条の3)。

 

しかし,労働基準法の条文の定義を読んでも,どのような業務が対象になるのかがよく分かりません。厚生労働省のパンフレット等を読むと(http://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/kantoku/dl/040324-8a.pdf),本社において企業全体の事業戦略の策定をする業務は対象になりそうで,個別の営業活動は対象にならないようですが,実際にどこまでが対象業務になるのかは不明確です。

 

このように,労働者にとって不利益を及ぼすことになる制度の要件が不明確であると,対象業務をしていない労働者にも対象業務に就いているとして,適用が拡大される等の悪用されるリスクが高まります。

 

野村不動産では,マンションの個人向け営業の労働者に対しても,企画業務型裁量労働制が違法に適用されており,適切な残業代が支払われていなかったようです。

 

企画業務型裁量労働制の要件に,労働者の個別合意を得ることがあげられています。労働者としては,合意をしなければ,企画業務型裁量労働制の適用を回避できますし,同意をしなかったことで不利益な取扱をうけることはありません。労働者は,ワークルールを学び,自分の身を守るために,与えられている権利を行使して,適切に働く環境を実現していくべきだと思います。

知的プロフェッショナルへの戦略

私が所属している青年法律家協会の議長である名古屋の弁護士の北村栄先生から紹介された,田坂広志氏の「知的プロフェッショナルへの戦略~知識社会で成功するビジネスマン11の心得~」を読みました。インターネット全盛期において,ビジネスマンがどのようにキャリア形成をしていくべきかについて,深い智恵に裏付けられながら端的にまとめられている名著です。

 

インターネット全盛期では,専門知識は,インターネットで検索すればすぐに入手できます。法律の専門知識も,インターネット上に多く掲載されています。このような時代には,専門知識よりもディープナレッジ(深層知識)を身につけることが求められます。スキル,センス,テクニック,ノウハウといった職業的な智恵,言葉で表せない智恵を身につけて,磨いていくのです。

 

このディープナレッジは,日々の仕事を行う職場で学ぶべきなのです。毎日の仕事に対して時間を最大限に投資すべきなのです。ある仕事やプロジェクトに携わって働いたとき,具体的に何を学んだかを言語化して確認していくことでディープナレッジを意識的に増やしていきます。

 

そして,ビジネスマンは,仕事の報酬として,マネーリターンよりも,①ナレッジリターン(知識報酬),②リレーションリターン(関係報酬),③ブランドリターン(評判報酬),④グロースリターン(成長報酬)という4つの報酬に目を向ける必要があります。まずは,新しい専門知識を学び,職業的な智恵を身につけます(ナレッジリターン)。そして,人間関係や人的ネットワークを得て(リレーションリターン),社内での評価,業界での評判,顧客からの人気を得て(ブランドリターン),人間として成長していくのです(グロースリターン)。

 

これからの時代,日々の仕事で何を意識していくか,長期的な人生における戦略をどのように構築していくか,といったことについて,深く考えることができ,行動に移す勇気を与えてくれる名著です。何度か読み返すことで,新しい発見があります。ビジネスマンにお勧めの1冊です。

明るい失敗

東京のパートナーズ法律事務所の所長弁護士である原和良先生が執筆した「明るい失敗~身近な悩みや,ちょっとした躓きからの脱出法~」という本を読みました。原先生は,これまで,新人弁護士向けの本や,弁護士の事務所経営に関する本等,弁護士に対する本を執筆されていたのですが,今回は,原先生の弁護士として多くの事件を担当してきた経験から,ビジネスマン向けの自己啓発本を執筆されました。

 

自分の生き方に自信を持ち,自分のために充実した人生を送るには,人間力が重要になります。この人間力は7つの要素で構成されています。

 

①自愛する。自分を愛し,自分に優しくする。ありのままの自分を受け入れ,前に進もうとする自分を認めてあげることです。

 

②自分軸を持つ。自分のアイデンティティ,自分らしさの軸を持つ。自分軸を持っていると自分の信じる道を迷わずに進むことができます。

 

③自分の小ささを知る。常に謙虚であること,自分の未熟さや自分の小ささを自覚して努力を続けることです。

 

④自分を卑下しない。自分を必要以上に卑下する必要はなく,自分のありのままを受け入れて大切にします。

 

⑤他人の愚痴を言わない。愚痴は人間を成長させません。うまくいかない原因を他人のせいにするのではなく,自分の反省点,改善点に焦点をあてるべきです。

 

⑥他人と比較しない。他人の成功や幸せは,うらやむのではなく,心から祝福するものです。他人と自分を比較することは,比較できないものを比較しようとすることで不可能なことです。

 

⑦いつも他人に感謝する。常に他人に感謝することを忘れずにいましょう。感謝の気持ちを言葉や態度で伝えましょう。

 

私は,特に⑥他人と比較しないというワードにはっとしました。知らないうちに他人と比較してしまっていたからです。他人と比較しても幸せになりません。他人との比較の中に自分の幸せを見出そうとすると,自分よりも不幸な人を見つけることでしか,幸福感は得られなくなるからです。他人と比較しないことを意識するようになりました。

 

人生で悩んだとき,壁にぶつかったときに読むと,ヒントが得られる名著です。読むと勇気がわく本ですので,多くのビジネスマンに読んでもらいたい一冊です。

農協における就業規則の不利益変更

和歌山県の紀北川上農業において,一定の年齢に達した職員をスタッフ職員として処遇し,賃金や賞与,定期昇給等について,他の職員と異なる扱いをする制度(スタッフ職制度)が導入されたところ,原告らは,スタッフ職制度の導入に伴う就業規則の変更は,労働条件を労働者に不利益に変更するものであり,定期昇給が実施されたことを前提とした未払賃金や賞与の支払を求めて提訴しました(大阪地裁平成29年4月1日判決・紀北川上農業事件・労働判例1165号5頁)。

 

労働条件を定める労働契約は,労働者と会社の契約である以上,当事者は契約で定められた労働条件に拘束され,当事者の合意がない限り,労働条件を一方的に不利益に変更できないのが原則です(労働契約法9条)。しかし,例外的に労働契約法10条に規定されている,①労働者の不利益の程度,②労働条件の変更の必要性,③変更後の就業規則の内容の相当性,④労働組合等との交渉の状況等を総合考慮して,就業規則で労働条件を不利益に変更することも可能です。

 

まず,本件では,スタッフ職には,賞与が原則的に支給されなくなり,定期昇給も実施されなくなるので,労働条件が不利益に変更されています。原告らが,過去にフタッフ職制度について反対の意思表示をしていないといった消極的な事情で,黙示的に同意したとは認められないと判断されました。原告らは,労働条件の不利益な変更に同意していないと認定されました。

 

次に,①スタッフ職は,ノルマが軽減されていることから不利益の程度が大きいとはいえないこと,②被告農協の経常収支において赤字が恒常化していたとはいえず,定年後再雇用について,希望する者が少数であったことから,経営上の必要性は一定程度うかがえるものの,高度な必要性は認められないこと,③原告らは,過去に継続して定期昇給されて,他の職員に比べて賃金が相当高額になっており相当性が認められ,④労働組合はスタッフ職制度の導入に反対の意思表示をしていなかったことから,総合考慮の上,本件就業規則の変更に合理性が認められました。その結果,原告らは敗訴しました。

 

労働条件の変更のための労働者の同意を厳格に判断する点や,就業規則の不利益変更における4つの要素のあてはめ等が参考になるので,紹介しました。

「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法

販促コンサルタントの岡本達彦氏の「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法という本を読みました。この本は,SNSのセミナーの際に講師の方から紹介があった本で,興味がわいたので,読んでみました。

 

自分がお客様から本当に喜ばれていることは当たり前になっている事が多く,自分ではなかなか分からず,自分で考えてもその良さに気づかないので,お客様に自分の良さを聞く必要があります。そこで,A4・1枚アンケートを利用します。

 

A4・1枚アンケートには,①「商品を買う前に,どんなことで悩んでいましたか?」(第1段階:欲求発生),②「何で,この商品を知りましたか?」(第2段階:情報収集),③「(商品名)を知ってすぐに購入しましたか?もし購入しなかったとしたら,どんなことが不安になりましたか?」(第3段階:購入不安),④「いろいろな商品がある中で,何が決め手となってこの商品を購入しましたか?」(第4段階:購入実行),⑤「実際に使ってみていかがですか?」(第5段階:購入評価)の5つの質問を行います。

 

この質問の回答から,自分のお客様の購買パターンを把握できるようになります。さらに自社の強みを理解することもできます。

 

この本を読んでから,早速A4・1枚アンケートを実施してみました。すると,クライアントが弁護士へ依頼するまでの思考回路が理解できますし,自分の仕事へのフィードバックを受けれて,大変有意義な情報を得ることができました。弁護士にとっては当たり前のことであっても,一般の方々にとってはかなり特殊なことが多いことに改めて気付かされました。

 

今後もA4・1枚アンケートを実施していきますので,アンケートにご協力いただければ幸いです。

 

給与規程変更による給与の減額に伴い退職金が減額された事件

被告学校法人において,給与規程によって給与が減額され,その結果退職金が減額されたことから,原告らが差額退職金の支払を請求した事件において,労働者が敗訴しました(大阪地裁平成28年10月25日・判例時報2340号106頁)。

 

労働者の給与といった重要な労働条件を変更するには,原則として,労働者の同意が必要になります。例外的に,労働者の同意がない場合であっても,就業規則を変更することで労働条件を変更できます。その際には,①労働者の受ける不利益の程度,②労働条件の変更の必要性,③変更後の就業規則の内容の相当性,④労働組合等との交渉の状況等が総合考慮されて,労働条件の変更が有効か無効か判断されます(労働契約法9条,10条)。

 

本件では,①退職金が約270万円から約424万円の減額となっており,労働者の受ける不利益の程度は大きいと判断されました。

 

しかし,②被告学校法人は,役員報酬の減額,定期昇給の停止,手当の削減,希望退職募集等の措置を講じたものの人件費の支出が多く,入学者が減少しており,私学共済財団に借入を拒否されたことから,経営状況は危機的であり,変更の必要性が認められました。

 

そして,③基本給の減額は段階的に行われる等の激変緩和措置がなされており,内容の相当性が認められ,④被告学校法人は,7年前から労働組合に対して財務情報を適宜提示し,交渉においても柔軟な対応をしてきたことから,総合考慮の上,給与の減額という労働条件の変更は有効となり,原告が敗訴しました。

 

労働者側が敗訴した事件ですが,就業規則の変更で労働条件を変更する際に,どのような事実をどのようにあてはめていくかについて参考になりますので,紹介しました。

徳田弁護士のブログ

徳田弁護士のブログを開設しました。労働事件の情報発信をしていきますので,時折チェックしていただければ幸いです。


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東大5年で雇止めルールを撤廃

今年8月26日のブログで,東大が有期労働契約の教職員約4800人を最長5年で雇止めにする就業規則を定めていたことの問題点について記載しました。

 

ところが,朝日新聞の報道によると,東大が,この有期労働契約の教職員を最長5年で雇止めにする規則を撤廃することになりそうです。東大の労働組合が,5年で雇止めにする規則の撤廃を強く求めた結果,撤廃が現実化しそうです。

 

http://www.asahi.com/articles/DA3S13274138.html

 

以前にも解説しましたが,労働契約法18条1項は,有期労働契約が2回以上更新され,契約期間が通算で5年を超えれば,非正規雇用の労働者は,会社に対して,申込をすれば,正社員になれると規定されています。この規定が施行されてから5年経過するのが平成30年4月なのです。

 

しかし,会社は,不況になった際に,人員削減を容易にできる非正規雇用を一定数確保したいことから,契約期間が通算で5年経過する前に,雇止めをしてくることが予想されていました。平成30年4月以降に,雇止めされる非正規雇用の労働者が出てくるおそれがあります。

 

このような情勢の中,東大で5年で雇止めにする規則が撤廃されれば,他の教育機関における非正規雇用の対応にもプラスの変化が波及するかもしれず,非正規雇用の労働者にとっては明るいニュースです。また,今回は,東大の労働組合が,労働者の労働条件を維持または向上するために力を発揮したといえ,労働組合の重要さが再確認されました。他の職場でも5年で雇止めのルールが撤廃されていくことを期待したいです。