未払残業代の消滅時効が5年になるか

 労働基準法115条で,労働債権である未払残業代の消滅時効は2年になっています。賃金の支払日から2年が経過すると,未払残業代を請求できなくなるのです。

 

 ところが,今年の民法改正で債権の消滅時効が5年に統一されました。それにもかかわらず,労働債権については,労働基準法115条が改正されていないため,消滅時効は2年のままです。他の債権が5年の消滅時効なのに,労働債権だけ2年の消滅時効のままでは,労働者保護に反するとして,厚生労働省の労働政策審議会で見直しの議論が始まりました。

 

 http://www.asahi.com/articles/DA3S13033572.html

 

 経営者側は,未払残業代の消滅時効が5年になれば,支払わなければならない残業代が増えるので,当然抵抗しています。しかし,民法の消滅時効の原則が変更された今,労働債権だけ2年の消滅時効にする理由は乏しく,労働者保護の観点から早急に労働債権の消滅時効を5年にすべきです。

 

 早急に労働債権の消滅時効が5年になるといいですね。

 

トラック運転手の未払残業代請求

1 事案の概要

クライアントらは,40代と50代の2人の長距離トラック運転手です。クライアントらは,夜中に関東や関西方面へトラックで荷物を運送し,翌日の朝に目的地へ到着し,荷物を降ろした後,長時間休憩し,夕方に関東や関西で荷物を集荷し,夜間に北陸方面へトラックを運転し,翌日の朝,北陸へ到着し,荷物を降ろしてから会社へ戻り,トラックの洗車,燃料補給,日報の作成をして帰宅するという労働をしていました。深夜に長時間労働をしているにもかかわらず,「運行手当」という名目で残業代が支払われているからという理由で,残業代は全く支払われていませんでした。

そこで,証拠保全手続で証拠を確保してから,約500万円と約450万円の未払残業代請求の訴訟を提起しました。

 

2 証拠保全

長距離トラックには,デジタルタコグラフが搭載されていることが多く,デジタルタコグラフには,トラックの走行時間とトラックの停車時間が記録されています。デジタルタコグラフのデータを入手すれば,トラック運転手が日々の労働で何時間働いたのかを客観的に証明することができます。

もっとも,貨物自動車運送事業輸送安全規則第8条において,デジタルタコグラフの保存期間は1年であるため,急いでデジタルタコグラフを入手する必要がありました。

そこで,デジタルタコグラフのデータが削除される前に,デジタルタコグラフのデータを入手するために証拠保全の申立を行いました。証拠保全とは,弁護士が裁判官と共に証拠が存在する現場へ赴き,証拠を確保するという手続です。

本件でも証拠保全を実施し,消滅時効にかかっていない2年分のデジタルタコグラフのデータを入手することに成功しました。デジタルタコグラフのデータから労働時間を客観的に証明できるので,会社は,その時間は働いていないやもっと休憩していたはずだ等と反論することはできなくなります。

 

3 未払残業代請求訴訟提起

訴訟において,会社は,①運行手当を残業代として支払っているので,残業代の未払はないこと,②1カ月単位の変形労働時間制を採用しているので,未払残業代は少なくなることを主張しました。

①運行手当を支払っているので未払残業代が存在しないという主張は,いわゆる固定残業代と呼ばれるものです。固定残業代とは,会社が労働基準法の計算によらずに,残業代を一定金額に固定して支払うものです。この固定残業代が認められるためには,労働者に対して時間外労働の時間数と残業代の額が明示されなければならないのですが,この会社では,トラック運転手がどれだけ残業したのか,残業時間に対して残業代がいくらになるのかとったことが何ら明示されていませんでした。

②1カ月単位の変形労働時間制が認められるためには,法定労働時間を超えて労働させる週及び日を特定する必要があるのですが,この会社では,その特定がなされていませんでした。

このように,会社の固定残業代と1カ月単位の変形労働時間制の主張は認められず,最終的に会社は,クライアントらに対して,390万円と435万円の残業代を支払うことで和解が成立しました。

 

4 小括

トラック運転手は深夜に長時間労働をしているにもかかわらず,残業代が支払われていないケースもあります。デジタルタコグラフのデータ等の証拠を確保できれば,会社に対して,未払残業代を請求することができます。未払残業代でお困りの場合は,ぜひお気軽にご相談ください。

残業代ゼロ 連合容認?

 平成29年7月12日の朝日新聞の報道によれば,連合は,高度プロフェッショナル制度について修正を求め,要請が認められれば制度の導入を容認する方針を固めたようです。

 

http://www.asahi.com/articles/ASK7C777MK7CULFA03X.html

 

 高度プロフェッショナル制度とは,ざっくりと言えば,年収1075万円以上のコンサルタント等の専門職の残業代がゼロになる制度です。労働基準法では,1日8時間,1週間40時間を超えて働かせた場合,使用者は,労働者に残業代を支払わなければならないという規制があります。この労働時間の規制の対象から,年収の高い専門職を外すのが高度プロフェッショナル制度で,残業代ゼロ法案と批判されていました。

 

 高度プロフェッショナル制度の問題点は,会社が労働者に対して残業代を支払うことなくどれだけでも働かせることができてしまうので,長時間労働が蔓延し,過労死・過労自殺が増加する危険があることです。

 

 昨年の電通事件以降,長時間労働を是正するために,これ以上働かせた場合には,会社に刑罰を科すという,労働時間の上限規制が議論されてきたのですが,高度プロフェッショナル制度は,労働時間の規制を撤廃するものであり,労働者保護に逆行するものです。

 

 連合は,これまで高度プロフェッショナル制度に反対してきたのですが,突如として,条件付きで容認の立場に変わったようです。連合が求めている,年104日以上の休日取得,勤務間インターバル等は,労働者保護の見地から必要な政策ですが,高度プロフェッショナル制度を廃止した上で求めていくものと考えます。労働者の立場を代表する連合には,高度プロフェッショナル制度には,最後まで反対して欲しかったです。

 

 高度プロフェッショナル制度の概要や問題点については,私も作成に携わった日弁連のパンフレットに分かりやすく解説されています。

 

 https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/publication/booklet/data/kodo_professional_seido_pam_color.pdf