うつ病で休職中の先生を解雇できるのか
私は,今年から母校の高校の学校評議員
をさせていただくことになりました。
学校評議員制度とは,地域に開かれた学校づくりを
推進していくために,地域住民が学校運営へ参画する仕組みです。
学校評議員は,学校運営に関し,
保護者や地域住民の意向を反映し,
学校は,学校評議員の意見を聞いて,
特色ある教育活動を積極的に展開していくのです。
以上が,文部科学省の説明です。
要するに,学校の運営に,地域住民として
意見を述べることが期待されている役職です。
先日,第1回の会合に参加してきました。
学校側が詳細な目標や中間査定の評価をまとめており,
それに対して,自分なりに感じたことを発言してきました。
そこで感じたことは,学校の先生は本当に大変だなぁということです。
最近では,アクティブラーニングといい,
生徒同士が課題について調べてきたことを互いに教え合う授業や,
パワーポイントを使って授業したりと,
私が高校生だったころと比べて,かなり先進的な授業が行われています。
しかし,このような先進的な授業をするには,先生の準備が大変です。
さらに,部活動の指導があったり,
保護者対応があったり,
今回の会合の資料作りがあったりと,
先生は仕事が多すぎると思いました。
残業時間が多いのに,働き方改革のため,
残業時間を削減しなければならず,学校現場では,
大変な苦労があるのを実感しました。
さて,前置きが長くなりましたが,
先生の仕事が大変だということについて,
学校法人武相学園事件の裁判例を紹介します
(東京高裁平成29年5月17日判決・労働判例1181号54頁)。
うつ病で休職中の先生を懲戒解雇できるのかが争われました。
原告の先生は,平日は,午前6時に出勤し,
午前8時まで部活の顧問の仕事をし,日中は授業をして,
午後8時まで部活の顧問の仕事をしていました。
土曜日も朝早くから部活動の顧問の仕事をし,
日曜日に対外試合があれば,生徒を引率し,審判もしていました。
原告の先生がうつ病を発症する前6ヶ月間の時間外労働は,
1ヶ月あたり91時間~146時間でした。
原告の先生は,部活動の生徒に対して失言をし,
生徒に対して,失言の口止めをしました。
このことについて,学校の調査が始まったところ,
部活動の会計に不明点があることが発覚していきました。
そして,原告の先生は,長時間の時間外労働と,
これらの調査によるストレスが原因で,
うつ病の診断を受けて,病気休職となりましたが,
学校は,原告の先生を懲戒解雇しました。
ここで,労働基準法19条1項には,
労働者が業務上負傷し,または疾病にかかり療養のために
休業する期間は,解雇してはならないと規定されています。
これは,労働者が労災補償としての療養のための
休養を安心して行えるように配慮する必要があるからです。
本件では,原告の先生のうつ病が仕事が原因で
発症したものか否かが争われました。
すなわち,仕事が原因でうつ病を発症したのであれば,
解雇できませんし,そうでないなら,
解雇の要件を満たせば解雇できることになります。
学校は,部活動の顧問をしている先生に定額の顧問手当
(1年間で1万5500円)と休日出勤手当(日額2500円)
を支給し,部活動は,顧問手当の範囲でできることを
やればよいという建前がとられていました。
しかし,入学金免除の特待生をかかえる運動部の顧問の先生が,
学校の指示をそのまま受け取ることはできず,
運動部の顧問の先生は,対外試合で好成績を残すことを
学校から黙示的に努力目標として課されていたのです。
そして,学校の仕事ではない,県高体連の仕事も,
原告の先生の本来業務と同じと扱われ,
部活動の顧問の仕事で長時間の時間外労働をしたことの
心理的負荷が強かったと判断されました。
その結果,仕事が原因でうつ病を発症したと認定され,
労働基準法19条1項により,解雇は無効と判断されました。
人間は,1ヶ月の残業時間が100時間を超えると
うつ病を発症するリスクが高まります。
働き方改革が叫ばれている今こそ,
学校の先生の仕事の負担を軽減し,
先生が健康なまま働ける社会に
していかなければならないと考えます。
学校の先生が働き過ぎによって健康を害することがないように,
学校評議員の役割を全うしていきたいと思います。
本日もお読みいただき,ありがとうございます。
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