休職している労働者のリワークプログラム利用後の復職可能性

ここ数年,うつ病などのメンタル疾患に罹患した

労働者の休職と復職をめぐる裁判が増加しています。

 

 

メンタル疾患で長期間休職していた労働者が,

会社に復職を申し入れたものの,

会社からは復職を認められず,

休職期間満了で退職か解雇となり,

トラブルとなるのです。

 

 

 

精神障害に関する労災申請が年々増加していることから,

メンタル疾患に罹患する労働者が増加しており,

それに伴いトラブルが増加していることが予想されます。

 

 

それにあわせて,休職や復職に関して重要な裁判例が

出されていることから,順次紹介していこうと思います。

 

 

本日は,リワークプログラム利用後の復職可能性と

退職扱いの有効性が争われた東京電力パワーグリッド事件を紹介します

(東京地裁平成29年11月30日判決・労働判例1189号67頁)。

 

 

リワークプログラムとは,主としてうつ病などの

気分障害にかかって働けなくなって休業した労働者向けに,

病状の回復,安定と復帰準備性の向上及び

再発防止のためのセルフケア能力の向上を目的として,

医療機関などが提供するリハビリプログラムのことです。

 

 

 

 

この事件では,リワークプログラム実施後に,

原告の労働者が会社に復職を申し入れたのですが,

会社は復職を不可として,休職期間満了により

退職となったと主張してきたので,原告の労働者は,

復職申入時において復職が可能であったと主張して,

裁判を起こしました。

 

 

裁判所は,復職の判断枠組みについて,次のように提示しました。

 

 

まず,復職が認められるためには,原則として,

従前の職務を通常の程度に行える健康状態になること,

または,当初軽作業に就かせればほどなく

従前の職務を通常の程度に行える健康状態になることが必要です

(健康状態の回復の判断枠組み)。

 

 

次に,労働者が職種や業務内容を特定せずに

労働契約を締結した場合,現に就業を命じられた

特定の業務についての労務の提供が十分にできないとしても,

その能力,経験,地位,当該企業の規模,業種,

当該企業における労働者の配置・異動の実情及び難易などに照らして

当該労働者が配置される現実的可能性があると認められる

他の業務について労務を提供することができ,かつ,

その提供を申し出ているなら,復職が認められます

(他部署への配置の判断枠組み)。

 

 

本件事件では,原告の労働者は,

リワークプログラムへの出席率が低く,

復職した場合に,規則正しく定時に

出勤できる状態にまで回復しておらず,

また,自分に対する精神疾患の病識が欠如しており,

自分のストレス対処についての十分な考察が

できていないと判断されました。

 

 

その結果,健康状態の回復について,

仮に休職前の部門に復職しても,

他の社員との仕事上の対人関係に負担を感じ,

精神疾患を悪化させるおそが大きく,

原告労働者の負担を軽易なものにしても,

原告労働者の精神状態の負担が直ちに

軽減されるわけではないことから,

当初軽易作業に就かせればほどなく

当該職務を通常の程度に行える健康状態

であったとはいえないと判断されました。

 

 

 

 

そして,他部署への配置について,原告労働者にとって,

新たに配属された部署で業務を覚えたり,

一から人間関係を構築することが大きな精神的負担となり,

精神状態の悪化や精神疾患の再燃を招くおそれがあることから,

他部署で原告労働者が配置される現実的可能性は

なかったと判断されました。

 

 

以上より,原告労働者の復職は認められませんでした。

 

 

休職している労働者が復職を求めていくには,

主治医や産業医の意見をきちんと確認して,

復職できる健康状態なのかを見極めつつ,

他の部署で労働者が働くことができないか

についても検討していくことが必要になります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

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