会社から給料を減額したいと言われたときの対処法

ある日,突然,会社の管理職から

「給料を下げたい」という話があったとします。

 

 

突然のことに驚き,管理職に対して,

給料減額の理由を尋ねても,管理職は,

あいまいなことしか言わず,

給料減額の理由はよくわかりません。

 

 

そのうち,給料減額に同意することのサインを求められました。

 

 

 

 

このように,会社から,給料減額の話があった場合,

労働者は,どのように対処するべきなのでしょうか。

 

 

労働者としては,会社からもらう給料で生活しているので,

給料が減額されれば,生活が苦しくなるので,当然に反対したいです。

 

 

しかし,今後も会社に勤めたいのに,

会社からの要望を断ったのでは,

不利益な取扱を受けるのではないかと不安になります。

 

 

そこで,本日は,このような場合の対処法について説明します。

 

 

まず,一度決められている給料を減額することは,

労働条件を変更することを意味します。

 

 

 

 

労働契約法8条において,労働条件を変更するには,

労働者と会社の合意が必要である,と規定されています。

 

 

このように,労働条件を変更するには,

労働者の同意が必要になるのが大原則なのです。

 

 

次に,この労働者の同意があったと認定されるのは

どのような場合なのか,について検討します。

 

 

会社から十分な説明を受けられないうちに,

よく分からないまま,給料の減額に合意してしまった場合,

給料の減額に労働者が同意したのかが問題になります。

 

 

労働者の同意の有無について,重要な最高裁判決があります。

 

 

最高裁平成28年2月19日判決の山梨県民信用組合事件です。

 

 

この判決では,労働者は,会社の指揮命令に従う立場にあり,

自分の意思決定のための情報を収集する能力に限界があることから,

賃金や退職金についての労働条件の変更の場合,

労働者の同意の有無についての判断は

慎重にされなければならないと判断されました。

 

 

そして,労働条件の変更による労働者の不利益の内容及び程度,

労働者が同意をするに至った経緯及びその態様,

労働者への情報提供または説明の内容を考慮して,

労働者の自由な意思に基づいてされたものと

認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するか否か

という観点から,労働者の同意の有無を判断することになります。

 

 

そのため,会社が給料減額の理由を明確に労働者に説明して,

労働者が給料減額の不利益を十分に理解して,

給料減額に同意したのではない限り,

形式的に同意書にサインしただけでは,

給料減額についての労働者の同意は無効になるのです。

 

 

 

 

地方の中小企業では,ここまで丁寧に,

労働者の同意を取り付けていることはほとんどないので,

仮に,給料の減額についての同意書にサインしても,

あきらめずに,給料の減額を争う道はあります。

 

 

まとめますと,会社から給料の減額を持ちかけられたときには,

会社に説明を求めて,納得できないのであれば,

断固として給料の減額に同意しないことです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

農協における就業規則の不利益変更

和歌山県の紀北川上農業において,一定の年齢に達した職員をスタッフ職員として処遇し,賃金や賞与,定期昇給等について,他の職員と異なる扱いをする制度(スタッフ職制度)が導入されたところ,原告らは,スタッフ職制度の導入に伴う就業規則の変更は,労働条件を労働者に不利益に変更するものであり,定期昇給が実施されたことを前提とした未払賃金や賞与の支払を求めて提訴しました(大阪地裁平成29年4月1日判決・紀北川上農業事件・労働判例1165号5頁)。

 

労働条件を定める労働契約は,労働者と会社の契約である以上,当事者は契約で定められた労働条件に拘束され,当事者の合意がない限り,労働条件を一方的に不利益に変更できないのが原則です(労働契約法9条)。しかし,例外的に労働契約法10条に規定されている,①労働者の不利益の程度,②労働条件の変更の必要性,③変更後の就業規則の内容の相当性,④労働組合等との交渉の状況等を総合考慮して,就業規則で労働条件を不利益に変更することも可能です。

 

まず,本件では,スタッフ職には,賞与が原則的に支給されなくなり,定期昇給も実施されなくなるので,労働条件が不利益に変更されています。原告らが,過去にフタッフ職制度について反対の意思表示をしていないといった消極的な事情で,黙示的に同意したとは認められないと判断されました。原告らは,労働条件の不利益な変更に同意していないと認定されました。

 

次に,①スタッフ職は,ノルマが軽減されていることから不利益の程度が大きいとはいえないこと,②被告農協の経常収支において赤字が恒常化していたとはいえず,定年後再雇用について,希望する者が少数であったことから,経営上の必要性は一定程度うかがえるものの,高度な必要性は認められないこと,③原告らは,過去に継続して定期昇給されて,他の職員に比べて賃金が相当高額になっており相当性が認められ,④労働組合はスタッフ職制度の導入に反対の意思表示をしていなかったことから,総合考慮の上,本件就業規則の変更に合理性が認められました。その結果,原告らは敗訴しました。

 

労働条件の変更のための労働者の同意を厳格に判断する点や,就業規則の不利益変更における4つの要素のあてはめ等が参考になるので,紹介しました。

給与規程変更による給与の減額に伴い退職金が減額された事件

被告学校法人において,給与規程によって給与が減額され,その結果退職金が減額されたことから,原告らが差額退職金の支払を請求した事件において,労働者が敗訴しました(大阪地裁平成28年10月25日・判例時報2340号106頁)。

 

労働者の給与といった重要な労働条件を変更するには,原則として,労働者の同意が必要になります。例外的に,労働者の同意がない場合であっても,就業規則を変更することで労働条件を変更できます。その際には,①労働者の受ける不利益の程度,②労働条件の変更の必要性,③変更後の就業規則の内容の相当性,④労働組合等との交渉の状況等が総合考慮されて,労働条件の変更が有効か無効か判断されます(労働契約法9条,10条)。

 

本件では,①退職金が約270万円から約424万円の減額となっており,労働者の受ける不利益の程度は大きいと判断されました。

 

しかし,②被告学校法人は,役員報酬の減額,定期昇給の停止,手当の削減,希望退職募集等の措置を講じたものの人件費の支出が多く,入学者が減少しており,私学共済財団に借入を拒否されたことから,経営状況は危機的であり,変更の必要性が認められました。

 

そして,③基本給の減額は段階的に行われる等の激変緩和措置がなされており,内容の相当性が認められ,④被告学校法人は,7年前から労働組合に対して財務情報を適宜提示し,交渉においても柔軟な対応をしてきたことから,総合考慮の上,給与の減額という労働条件の変更は有効となり,原告が敗訴しました。

 

労働者側が敗訴した事件ですが,就業規則の変更で労働条件を変更する際に,どのような事実をどのようにあてはめていくかについて参考になりますので,紹介しました。