研修医は労働基準法の労働者か
医師になるためには,医師国家試験に合格して医師免許を取得した後,2年以上病院などにおいて臨床研修を行う必要があります。この臨床研修をしている医師を研修医といいます。
関西医科大学附属病院において,臨床研修を受けていた研修医が急性心筋梗塞で急死し,遺族が,関西医科大学に対し,研修医は,労働基準法の「労働者」であるとして,本件研修医は,最低賃金を下回る賃金しか受け取っていないことから,最低賃金との差額の支払いを請求しました。
最低賃金制度とは,国が賃金の最低限度額を定め,使用者は,最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない制度です。最低賃金法4条2項により,最低賃金額に達しない賃金は無効となり,無効となった部分については,最低賃金との差額を請求できます。そして,労働基準法の「労働者」であれば,最低賃金を請求できます。
関西医科大学は,研修医は,教育課程にあり,病院や指導医の指揮命令によって就業していないので,労働基準法の「労働者」ではないと争いました。
最高裁平成17年6月3日判決(関西医科大学研修医事件・労働判例893号14頁)は,本件研修医は,労働基準法の「労働者」にあたるとして,遺族の最低賃金との差額請求を認めました。
本件研修医は,指導医が診察する時に診察の補助をしており,指導医の指示に基づき検査の予約をしているので,指導医の指揮命令下にあり,指導医の指示に反対する諾否の自由はありませんでした。
また,平日午前7時30分から午後7時までの研修時間中,時間的にも場所的にも拘束され,勤務状況が管理されていました。
さらに,本件研修医は,奨学金として月額6万円と副直手当1回1万円が支給されていましたが,給与として源泉徴収されていました。
「労働者とはどのような人のことか」というブログ記事に記載した,労働者の判断基準のうち,①業務諾否の自由の有無,②業務遂行における使用者の指示の程度,③時間的・場所的拘束性,⑧その他の事情にあてはめれると,本件研修医は,労働基準法の「労働者」にあたります。
https://www.kanazawagoudoulaw.com/2018/05/05/roudousha20180505/
労働裁判の現場では,「労働者」かどうかが争われることがありますが,個別の事案ごとに労働者性が肯定さたり,否定されたりしていますので,会社から,労働者ではないと主張された場合には,弁護士に相談して,自分の勤務状況を詳細に説明して,アドバイスをもらうようにしてください。