セクハラ相談リーフレット

先日,異業種交流会で,ある女性と

名刺交換をさせていただいた際,

男性ばかりの職場なので,

セクハラ発言が多くて困っているというお話を聞きました。

 

 

その発言は,明らかにセクハラだとわかるようなことでも,

男性ばかりの職場ですと,セクハラ発言が頻繁に

生じている現実を知りました。

 

 

財務省のセクハラ事件や#MeToo運動などで,

セクハラが広く問題になっていても,

なかなかセクハラがなくらない現実があります。

 

 

そのような現状において,日本労働弁護団が,

セクハラを受けた場合に,どのように対処すべきか,

どこに相談すればいいのかをまとめた

リーフレットを作成したので,紹介します。

 

 

 

 

(こちらのURLからダウンロードできます)

http://roudou-bengodan.org/wpRB/wp-content/uploads/2018/07/c06d6f8fe4d42f26395283418205edea.pdf

http://roudou-bengodan.org/wpRB/wp-content/uploads/2018/07/c2f831de625f3bed06199cfbc63cc53c.pdf

 

 

まず,何がセクハラなのかという問題がありますが,

このリーフレットにはセクハラの具体例が

コンパクトにまとめられています。

 

 

セクハラとは,かんたんにいえば

相手方の望まない性的な言動のことです。

 

 

そのため,「しつこくメールがきたり,食事に誘われた」,

「交際を断ったら異動させられた」,

「容姿や体型,結婚の予定を聞かれた」,

「交際相手についてしつこく聞かれた」

といったことは,相手が嫌がるのであれば,セクハラになります。

 

 

次に,セクハラを受けた時の対処法について,

「嫌だなと感じたら,はっきり断りましょう」,

「セクハラで困ったら信頼できる人に相談しましょう」,

「職場の相談窓口への相談を検討してみましょう」,

「嫌だと言えなくて応じてしまった場合でも,

あきらめたり,自分を責めたりしないでください」,

「心身の不調を感じたら医師などに相談しましょう」

など具体例に記載されています。

 

 

セクハラの対処法としては,まず,

録音やメモなどで記録化し,証拠を確保することが必須です。

 

 

証拠を確保した上で,加害者に対して,

はっきりとセクハラをやめるように伝え,

会社の相談窓口にセクハラの相談をします。

 

 

 

 

会社には,セクハラを防止し,

セクハラ被害の相談があった場合には,

事実を確認して,被害回復や再発防止のための

適切な対応をする義務があります。

 

 

会社に相談したけれども,会社が何もしてくれずに,

セクハラが続いた場合,会社に対して,

損害賠償請求することを検討します。

 

 

加害者や会社にセクハラをやめるように申し入れても,

セクハラがとまらない場合には,弁護士に相談して,

法的手段にでるかを検討するといいでしょう。

 

 

セクハラが社会問題になっている現状において,

セクハラについてわかりやすくまとめたリーフレットですので,

多くの方々に知ってもらいたくて,紹介させていただきました。

 

 

本日も,お読みいただき,ありがとうございます。

セクハラの同意は厳しく判断されます

セクハラの被害者が,セクハラにNoと言わなかった場合,

セクハラについて同意したと判断されてしまうのでしょうか。

 

 

 

 

本日は,セクハラにおける同意について判断された

重要な最高裁判例を紹介します(海遊館事件・

最高裁平成27年2月26日判決・労働判例1109号5頁)。

 

 

大阪の海遊館という水族館で管理職をしていた男性労働者2名は,

複数の女性従業員に対して,セクハラ発言を繰り返したとして,

出勤停止の懲戒処分(一人は30日間,もう一人は10日間)

を受け,その結果,降格となり,給料が減額となりました。

 

 

1名の男性労働者は,女性従業員に対して,

自分の不倫相手に関することや,自分の性欲について,

次のような発言をしました。

 

 

 

「俺のでかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」

「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」

「でも,俺の性欲は年々ますねん。なんでやろうな。」

 

 

もう1名の男性労働者は,女性従業員に対して,

次のような発言をしました。

 

 

「いくつになったん。」

「もうそんな歳になったん。

結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」

「30歳は,22~23歳の子からみたら,おばさんやで。」

「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん。」

 

 

このようなセクハラが1年ほど続いた結果,

ある女性従業員は,会社を退職しました。

 

 

2名の男性労働者は,出勤停止の懲戒処分は

無効であるとして,裁判を起こしました。

 

 

セクハラを理由とする出勤停止処分について,

一審の大阪地裁は有効と判断し,

二審の大阪高裁は無効と判断し,

最高裁は有効と判断しました。

 

 

二審の大阪高裁は,女性従業員から明確な

拒否の姿勢が示されておらず,加害者である男性労働者は,

上記のセクハラ発言が女性従業員から許されている

誤信していたことなどを理由に,

出勤停止処分は重すぎるとして無効と判断しました。

 

 

 

 

これに対して,最高裁は,加害者である男性労働者は,

管理職としてセクハラ防止のために部下を指導すべき立場

にあるにもかかわらず,1年ほどにわたり繰り返した

セクハラ発言は,女性従業員に対して,

強い不快感・嫌悪感・屈辱感を与えて,

女性従業員の職場環境を著しく害するものであり,

女性従業員の就業意欲の低下や

能力発揮の阻害をまねく行為であると,

厳しく批難しました。

 

 

そして,職場におけるセクハラは,

被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感などを抱きながらも,

職場の人間関係の悪化などを懸念して,

加害者に対する抗議や抵抗,会社に対する被害の申告を

躊躇することが少なくないので,加害者である男性労働者が,

被害者である女性従業員から明確な拒否の姿勢が示されておらず,

上記の言動が許されていると誤信したとしても,

そのことを加害者に有利に扱うべきではないと判断して,

出勤停止処分は有効と判断しました。

 

 

このように,最高裁は,そもそもなぜ被害者である女性が,

職場において男性上司からセクハラを受けてもNoと言えないのか,

というセクハラの本質を的確にとらえ,

加害者がよく主張する被害者の同意をそう簡単には採用しない

と示したものであり,実務に与えるインパクトは大きいです。

 

 

セクハラの被害者は,会社での勤務を継続したい,

セクハラの被害をなるべく少なくしたいと考えて,

やむを得ず,加害者に迎合することがありますが,

それらの事実から,被害者の同意があったと

安易に判断すべきではないのです。

 

 

セクハラに対する世間の目も厳しくなってきていますので,

被害者から好意をもたれているという加害者の勘違いは,

もはや通用しない世の中になってきています。

 

 

本日も,お読みいただき,ありがとうございます。

親会社に対してセクハラの損害賠償請求できる場合とは

勤務先の子会社においてセクハラを受けた場合,

セクハラの被害者は,その子会社のグループ企業内の親会社に対して

損害賠償請求をすることができるのでしょうか。

 

 

本日は,子会社におけるセクハラの被害者が,

親会社に対して,セクハラの損害賠償請求をしたイビデン事件

(最高裁平成30年2月15日判決・労働判例1181号5頁)

について解説します。

 

 

 

セクハラの被害者の女性労働者は,

イビデンキャリア・テクノという会社の契約社員でした。

 

 

被害者は,イビデンキャリア・テクノの親会社である

イビデンの事業場で働いていました。

 

 

被害者が親会社のイビデンの事業場で働いているときに,

同じ事業場で働いていた他の子会社であるイビデン建装の

正社員である加害者の男性労働者と交際をしていました。

 

 

しかし,被害者が加害者に対して,交際を解消したいと

申し出ましたが,加害者は交際を諦めきれず,

被害者に対して,繰り返し交際を要求し,

被害者の自宅に押しかけるなどのセクハラ行為をしました。

 

 

 

 

被害者は,勤務先の上司に,加害者の行為をやめるように

注意してほしいと相談しましたが,その上司は,朝礼の際に,

「ストーカーやつきまといをしているやつがいるようだが,やめるように」

などと発言しただけで,それ以上の対応はしませんでした。

 

 

その後も,加害者のセクハラ行為は止まらなかったため,

被害者は,イビデンキャリア・テクノを退職し,

イビデンの別の事業場で働きました。

 

 

被害者が退職した後も,加害者は,被害者の自宅付近で

自動車を停車させていたことがあり,

被害者から相談を受けていた同僚が心配して,

イビデンの相談窓口に対して,

事実確認をしてほしいという申し出をしました。

 

 

イビデンは,加害者などから聞き取り調査をしましたが,

イビデンキャリア・テクノから,申し出に関する事実は存在しない

という報告を受けて,被害者に対して事実確認を行わずに,

被害者の同僚に対して,申し出にかかる事実は

確認できなかったことを伝えました。

 

 

なお,イビデンのグループ企業では,

法令を遵守する体制を整備し,

グループ企業で働く労働者が法令遵守に関して

相談するための相談窓口を設けていました。

 

 

以上の事実関係において,加害者に対するセクハラの

損害賠償請求が認められ,被害者の勤務先である

イビデンキャリア・テクノに対して,

就業環境に関して労働者からの相談に応じて

適切に対応すべき義務を怠ったとして,

損害賠償請求が認められました。

 

 

これに対し,親会社であるイビデンの損害賠償請求については,

控訴審の名古屋高裁は,法令遵守についての相談窓口を

整備していたことから,グループ企業の全従業員に対して,

直接またはその所属する各会社をつうじて

相応の措置を講ずべき義務を負うとして,

損害賠償請求を認めましたが,

最高裁は,イビデンに対する損害賠償請求を認めませんでした。

 

 

最高裁は,親会社であるイビデンは,

被害者に対して指揮監督権を行使する立場になく,

被害者から労働の提供を受ける立場にもなかったことから,

子会社であるイビデンキャリア・テクノが

義務違反をしたからといって,そのことだけで

イビデンの義務違反があったことにはならないと判断しました。

 

 

また,被害者がイビデンの相談窓口に直接申し出をしたなら,

適切に対応すべき義務がありますが,本件事実関係のもとにおいて,

被害者の同僚が相談窓口へ申し出をした場合にまで,

イビデンが,被害者に事実確認をしなかったとしても,

損害賠償責任を負うものではないと判断しました。

 

 

本件では,親会社の責任は否定されましたが,

被害者が直接,親会社の相談窓口へ相談したのに,

親会社が何もしなかった場合,

親会社もセクハラの損害賠償責任を負う可能性があります

 

 

 

親会社に対して,セクハラの損害賠償請求ができるのは

どのような場合かについて,検討をする際に

参考になる裁判例として紹介させていただきました。

ハラスメント禁止の世界基準作り

国際労働機関(ILO)は,働く場での

暴力やハラスメントをなくすための条約

をつくる方針を決めました。

 

 

 

ILOがハラスメントをなくすための条約を作成し,

日本がその条約を批准すれば,今の日本には,

ハラスメントを禁止する法律がないので,

日本は,ハラスメントを禁止する法律を

整備しなければならなくなります。

 

 

ハラスメントを禁止する法律が成立すれば,

労働者は,これまでは泣き寝入りを強いられていたのが,

ハラスメントは違法であると訴えやすくなります。

 

 

また,会社は,職場でハラスメントが起きると,

労働者から訴えられるリスクがありますので,

そのリスクを回避するために,積極的に

ハラスメントを防止する対策をとるようになります。

 

 

労働問題の法律相談を受けていると,

職場のパワハラに関する相談が

多くなっていると実感しています。

 

 

6月8日に実施された,日本弁護士連合会主催の

労働ホットライン(電話による労働の法律相談)では,

金沢弁護士会に8件の電話相談があり,

そのうち3件がパワハラに関する相談でした。

 

 

労働局の労働相談においても,

「いじめ・嫌がらせ」が年々増加しており,

相談内容の中ではパワハラが一番多いようです。

 

 

 

 

今最も労働者が悩んでいるハラスメント

を防止するためには,職場におけるハラスメント

が許されない行為であることを社会に広く知ってもらい,

会社に対して,職場におけるハラスメントの

予防・解決のための措置義務を課す必要があります。

 

 

さて,ハラスメントに関して,判例を一つ紹介します。

 

 

パワハラを苦に自殺した労働者の遺族が,

会社に対して損害賠償請求をした事件において,

合計5574万6426円の損害賠償請求が認められました

(乙山青果ほか事件・

名古屋高裁平成29年11月30日判決・

労働判例1175号26頁)。

 

 

本判決では,社会通念上許容される

業務上の指導の範囲を超えて

精神的苦痛を与える注意・叱責行為(パワハラ)

を会社が制止したり,改善するように

注意・指導する義務が会社にはあり,

本件会社は,その義務を怠ったと認定されました。

 

 

また,会社は,労働者の自殺を予見すること

ができなかったと争いましたが,

会社が労働者のうつ病発症の原因となる事実や状況

(パワハラが行われていたのに会社が何もしなかったこと)

を認識し,あるいは容易に認識することができた場合には,

労働者が業務上の原因で自殺することを

予見することが可能であったとされました。

 

 

パワハラによって労働者がうつ病になり,

自殺することが現実に起きている時代状況にてらして,

会社の予見可能性を広く捉えたのです。

 

 

現実に,ハラスメントを苦に自殺する悲劇が起きているので,

ハラスメントを禁止する法律が早急に制定することが重要であります。

 

 

ILOで,どのような内容の条約が

制定されるのか注目していきます。

セクハラの対処法

東京都狛江市の市長が,女性職員へ

セクハラをしたとして,辞職することになりました。

 

 

市長の具体的なセクハラ行為は,

宴会でお尻を触った,

エレベーター内で腰を引き寄せられて体を密着させた,

といったものです。

 

 

狛江市のセクハラにつては,

被害にあった女性職員らが,

実名入りの抗議文を提出して発覚しました。

 

 

被害者が実名で公表するからには,

セクハラの事実を証明できるだけの証拠

があったのだろうと思います。

 

 

また,財務省のセクハラ事件では,

記者が事務次官から,

「胸触っていい?」,

「手縛っていい?」

と言われたことが,音声データとして

保存されていたからこそ,

ここまで大きな問題になったと思います。

 

 

音声データがなければ,

財務省からの圧力がかかり,

事務次官が「はめられている」

と判断されていたリスクがあります。

 

 

そもそも,セクハラとは,

相手方の意に反する性的言動であり,

性的言動をした本人がどういう意図だったかはさておき,

相手方が不快に感じたかどうかが重要になります。

 

 

 

 

そして,セクハラとは,

権限をもっている男性が,

立場の弱い女性に対して,

その優越的地位を利用して行われる点に特徴があります。

 

 

立場の弱い女性は,

立場の強い男性からの性的言動に対して,

抵抗しにくいという構造的な問題があります。

 

 

財務省や狛江市のセクハラ行為は,

女性であれば,そのような言動をされれば,

当然不快に感じますし,

事務次官と記者,

市長と職員

という力関係の構造が背景にあります。

 

 

それでは,女性がセクハラの被害にあった場合,

どのように対処するべきでしょうか。

 

 

最も重要なことは,

セクハラの事実を証明するための証拠を確保することです。

 

 

セクハラは密室で行われるため,

証拠が残りにくいという問題があります。

 

 

証拠がなければ,

加害者に「そんな言動はしていない」

という言い逃れを許してしまうことになります。

 

 

そのような言い逃れを許さないためにも,

セクハラの言動があった場合,

スマホやボイスレコーダーで録音をしましょう。

 

 

録音があれば,加害者は,

「そんな言動はしていない」と言えなくなります。

 

 

録音できない場合は,

セクハラの事実をその場で詳細にメモしておくことも有効です。

 

 

そして,証拠を確保した上で,

セクハラにあったことを,

会社のセクハラの相談窓口や外部の相談窓口へ相談にいって公表し,

また,セクハラをやめるように加害者へはっきりと伝えるといいです。

 

 

 

 

加害者は,セクハラをしているとは思っていないことがあるので,

何もしないとセクハラがますますエスカレートするリスクがあります。

 

 

そのため,その言動はセクハラである

とはっきりと伝えることは効果的です。

 

 

もっとも,加害者に直接伝えるのが難しい場合もありますので,

信頼できる人に相談して,対策を一緒に検討してもらうといいでしょう。

航空自衛隊自衛官セクハラ事件

航空自衛隊の非常勤隊員として採用された原告が,庶務係長をしていた被告からセクハラ行為を継続的に受けたことによりPTSDを発症したとして,被告に対し,1100万円の損害賠償を請求した事件で,東京高裁平成29年4月12日判決において,慰謝料800万円が認容された事件を紹介します(労働判例1162号・9頁)。
 

被告は,原告に対して,非常勤隊員採用試験への人事上の影響力を示唆して,性的関係を強要しました。原告は,母子家庭であり,自らの収入だけを頼りとする生活を送っており,雇用と収入の確保が重要であったため,人事に関する影響力を誇示する被告の求めに応じざるをえませんでした。

 

判決では,被告のセクハラ行為によって,原告は,精神状態を悪化させ,生活保護を受けざるをえない状態に追い込まれ,被告に関係解消を訴えても無視されたことが悪質であると判断され,慰謝料としては高額な800万円が認められました。

 

職場の上司が部下の女性に対して,人事上の影響力を示唆することで性的関係を求めたという悪質なセクハラ行為で,高額な慰謝料が認められた点に特徴があります。セクハラは密室で行われるので,立証が難しいのですが,本件では,詳細にセクハラ行為が認定されているので,事実認定の参考になります。