定年退職後に再雇用された労働者の賃金格差は不合理なのか?
6月1日にあった重要な2つの最高裁判決のうちの
1つである長沢運輸事件について説明します。
昨日紹介したハマキョウレックス事件の原告らは,
定年退職する前の非正規雇用の労働者でしたが,
長沢運輸事件の原告らは,
定年退職後に再雇用された非正規雇用の労働者でした。
長沢運輸では,定年退職後に再雇用された非正規雇用の労働者を
嘱託社員と呼んでおり,嘱託社員の年収は定年退職前の79%程度となります。
正社員と嘱託社員との間に,
仕事の内容や責任の程度に違いはありませんでした。
また,ハマキョウレックスとは異なり,
長沢運輸では,嘱託社員であっても転勤の可能性がありました。
そこで,長沢運輸の嘱託社員らは,正社員には支給されている
能率給,職務給,精勤手当,住宅手当,家族手当,役付手当,賞与が,
嘱託社員に支給されないのは,不合理であるとして,
労働契約法20条に違反していると主張しました。
労働契約法20条では,正社員と非正規雇用の労働者の労働条件の違いが,
「労働者の業務内容及び当該業務に伴う責任の程度,
当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して」,
不合理であってはならないと定められています。
長沢運輸事件の最高裁判決では,
「その他の事情」に,
非正規雇用の労働者が定年退職後に再雇用された者である
という事情が考慮されると判断されました。
どういうことかといいますと,
定年退職後に再雇用された労働者は,
長期間雇用されることは前提となっておらず,
定年退職するまでの間に賃金の支給を受けており,
一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けれることを考慮すれば,
正社員との賃金に差があったとしても,
割と寛大にみてもらえることになります。
嘱託社員は,一定の要件を満たせば老齢厚生年金の支給を受けられますし,
老齢厚生年金の支給が開始されるまでの間,
2万円の調整給が支給されていることから,
能率給,職務給,住宅手当,家族手当,賞与については,
正社員にのみ支給されて,嘱託社員に支給されなくても
不合理ではないと判断されました。
他方,精勤手当については,
従業員に対して休日以外は1日も欠かさずに出勤する
ことを奨励するために支給されるものであり,
正社員と嘱託社員との間に皆勤を奨励する必要性に違いはないので,
精勤手当を正社員にのみ支給し,
嘱託社員に支給しないことは不合理であると判断されました。
手当の実質的な中身が慎重に吟味されていますが,
役付手当がなぜ不合理ではないのかが,
判決文を読んでいて腑に落ちませんでした。
定年退職後に再雇用された労働者の場合,
正社員との労働条件の差について不合理とはいいにくくなりましたが,
賃金の格差が大きく拡大していたり,
手当の支給の有無の説明がよくわからない場合には,
定年退職後に再雇用された労働者であっても,
労働契約法20条違反が認められる余地があると考えます。
いずれにせよ,ハマキョウレックス事件と
長沢運輸事件の最高裁判決は,
企業の賃金体系に多大な影響を与えます。