造園業の労働者の転落事故における安全配慮義務
1 造園業には転落事故のリスクがある
毎年11月1日,兼六園では,
雪から樹木を保護するために,
雪吊りをしています。
雪吊りのされた樹木と雪の景色は美しく,
金沢の冬の風物詩となっています。
ちょうど,11月ころになると,石川県内のニュースで,
兼六園の雪吊り作業が始まりましたというトピックが流れてきます。
そのニュースを見ていると,庭師や造園業の方々は,
高い樹木の上で作業をしているのがわかります。
このように,高い樹木の上で作業をしている方々が
転落した場合の労災事故について,本日は解説していきます。
2 安全配慮義務とは
まず,会社は,自己の使用する労働者の生命と健康を
危険から保護するように配慮する義務を負っています。
これを安全配慮義務といいます。
労災事故において,会社に損害賠償請求をする場合には,
会社に安全配慮義務違反がなかったかを検討することになります。
安全配慮義務の具体的内容は,
労働者の職種,仕事内容,仕事の場所
などの具体的状況によって定まります。
3 転落事故における安全配慮義務とは
次に,高い樹木の上から転落した場合の安全配慮義務違反が争われた,
日本総合住生活ほか事件の東京高裁平成30年4月26日判決
(労働判例1206号46頁)を紹介します。
この事件は,被災労働者が樹木の上から転落して,
四肢体幹機能障害などの後遺障害が生じたとして,
直接の雇用主である第2次下請業者と第1次下請業者と元請業者に対して,
安全配慮義務違反を根拠に,損害賠償請求をしたものです。
労災事故における安全配慮義務を検討するときには,
会社に労働安全衛生法や労働安全衛生規則の
違反がなかったかを検討します。
本件のような転落の労災事故については,
労働安全衛生規則518条と519条が参考になります。
(作業床の設置等)
第五百十八条 事業者は、高さが二メートル以上の箇所
(作業床の端、開口部等を除く。)で作業を行なう場合において
墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、
足場を組み立てる等の方法により作業床を設けなければならない。
2 事業者は、前項の規定により作業床を設けることが困難なときは、
防網を張り、労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等
墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。
第五百十九条 事業者は、高さが二メートル以上の作業床の端、開口部等で
墜落により労働者に危険を及ぼすおそれのある箇所には、
囲い、手すり、覆い等(以下この条において「囲い等」という。)
を設けなければならない。
2 事業者は、前項の規定により、囲い等を設けることが著しく困難なとき
又は作業の必要上臨時に囲い等を取りはずすときは、防網を張り、
労働者に要求性能墜落制止用器具を使用させる等
墜落による労働者の危険を防止するための措置を講じなければならない。
ようするに,労働者が転落しても,被害が最小限になるように,
防網を張り,墜落防止の器具を使用させなければならないのです。
そして,墜落防止の器具として使用されているのが安全帯です。
安全帯とは,高いところで作業する人の
墜落を防止するための保護具のことです。
https://www.bildy.jp/mag/safetybelt-fullharness/
http://www.cranenet.or.jp/susume/susume12_05.html
(安全帯についてはこちらのサイトに
わかりやすい説明が記載されています)
本件事件では,造園業界では一般的ではなかった
二丁掛の安全帯を使用させていなかったことが
安全配慮義務違反になるかが争点となりました。
二丁掛の安全帯を使用していれば,原則として,
高い樹木の上で作業する際に転落事故を防ぐことができ,
本件労災事故も防ぐことができました。
そして,雇用主が二丁掛の安全帯を被災労働者に提供して,
使用方法を指導して,樹木の上での作業のときに
二丁掛の安全帯を使用させる安全配慮義務があったのに,
これを怠ったと判断され,
雇用主の会社に対する損害賠償請求が認められました。
もっとも,被災労働者は,
一丁掛の安全帯を着用すべきことを認識しており,
一丁掛の安全帯を使用していれば,
本件労災事故を防ぐことができたとして,
5割の過失相殺がされました。
造園業界ではまだ一般的ではなかった
二丁掛の安全帯を使用させることが
安全配慮義務の具体的内容となると判断したことが,
今後の転落の労災事故で応用できそうです。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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