ヤマハ英語教室の名ばかり個人事業主の英語講師が労働者となります

1 ヤマハ英語講師ユニオンの活躍

 

 

朝日新聞の報道によりますと,ヤマハ英語教室で

個人事業主とされていた英語講師が労働組合を結成し,

ヤマハミュージックジャパンと団体交渉を続けた結果,

ヤマハミュージックジャパンは,英語講師を個人事業主ではなく

労働者として雇用するようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN637HCWN57PTIL01H.html

 

 

ヤマハ英語教室の英語講師は,ヤマハミュージックジャパンと

1年ごとに契約を更新する委任契約を締結して,

教材選びや勤務の時間や場所について

会社の指揮命令に従って働いていたようです。

 

 

 

形式的には,個人事業主なのですが,

実質的には,労働者だったわけです。

 

 

このように,実質は労働契約なのに,

契約の形式が請負契約や委任契約となっているために,

労働法の保護を受けれていない方がいるのです。

 

 

本日は,名ばかり個人事業主の労働者性について解説します。

 

 

2 なぜ名ばかり個人事業主がいるのか

 

 

まず,会社は,なぜ,働き手を労働者ではなく,

個人事業主として,働かせたいのでしょうか。

 

 

一つは,経費の削減です。

 

 

会社は,労働者を雇用すると,

厚生年金保険料と健康保険料を労働者と折半して

負担しなければならないですし,

労災保険料は全額会社負担となります。

 

 

労働者を雇用することで会社に発生する

これらの社会保険料の負担を免れるために,

実質は労働者なのに形式は個人事業主として

働かせることがあるのです。

 

 

もう一つは,契約を打ち切りやすいことです。

 

 

正社員の労働者には,労働契約法16条の

解雇権濫用法理が適用されるので,

簡単に労働契約を終了させることはできません。

 

 

他方,個人事業主との業務委託契約では,

契約期間が区切られていることが多く,例えば,

契約期間が1年であれば,1年が経過すれば,

業務委託契約は終了してしまうので,

個人事業主は不安定な立場にあるのです。

 

 

会社からすれば,契約期間で雇用を調整できるので,

個人事業主は都合の良い働き手になるわけです。

 

 

とはいえ,会社の都合だけで,

労働法による保護を潜脱できるわけではなく,

形式が個人事業主であっても,実質は労働者であれば,

労働法の保護が及びます。

 

 

3 労働者の要件

 

 

実質は労働者であるといえるためには,

①会社の指揮監督下において労務の提供をする者であり,

②労務に対する対償を支払われる者

という2つの要件を満たす必要があります。

 

 

①の要件については,次の4つの要素が考慮されます。

 

 

ア 仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無

 

 

イ 業務遂行上の指揮監督の有無

 

 

ウ 時間的,場所的拘束の有無

 

 

エ 労務提供の代替性の有無

 

 

②の要件については,次の2つの要素が考慮されます。

 

 

オ 金額,計算方法,支払形態

 

 

カ 給料所得としての源泉徴収の有無,

雇用保険,厚生年金,健康保険の保険料徴収の有無

 

 

また,その他の補強要素として,次の2つの要素が考慮されます。

 

 

キ 事業者性の有無

 

 

ク 専属性の程度

 

 

例えば,会社からの仕事の指示を断れず(ア),

会社から仕事の進め方について指揮命令を受けていて(イ),

勤務時間と場所を会社に管理され(ウ),

自分以外の労務提供が認められておらず(エ),

労働時間に応じて報酬が決まり(オ),

報酬から源泉徴収されていて(カ),

仕事の器具を会社から借りていたり(キ),

他の会社で仕事をすることができない(ク)

といった場合には,労働者に該当します。

 

 

 

ヤマハ英語教室の場合,英語教材を会社から指示されたり,

毎月の会議に出席することを求められていたので,

業務遂行上の指揮監督を受けていたといえます(イ)。

 

 

また,講義の場所と時間も会社に管理されていて,

英語講師には裁量がなかったといえます(ウ)。

 

 

そのため,ヤマハ英語教室の講師は,

会社の指揮監督下で労務提供をしていたとして,

労働者に該当すると考えます。

 

 

コロナ禍においては,労働者に該当すれば,

会社が休業しても,労働基準法26条が適用されるので,

会社に対して,休業手当を請求できますし,

雇用保険が適用されるので,仕事を失っても失業給付を受給できます。

 

 

逆に,労働者ではなく,個人事業主であれば,

これらの補償はもらえません。

 

 

コロナ禍は,個人事業主の立場の弱さをあらわにしましたので,

実質は労働者として働いている名ばかり個人事業主には,

労働法をしっかりと適用して保護すべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。