蔵王登山

私が所属している青年法律家協会の総会に出席するために,

仙台へ出張してきました。

 

 

せっかく仙台まで行ってきたので,仙台の近くに百名山があれば,

登山したいと思い立ち,蔵王で登山をしてきました。

 

 

私は,日本百名山を制覇したいという目標がありますが,

結婚してからは,なかなか登山にいけません。

 

 

このままでは,百名山を制覇できないのではないか。

 

 

そこで思いついたのが,出張したついでに登山をするという方法です。

 

 

弁護士の集まりは全国で開催されることが多く,

いろいろな地方に出張できます。

 

 

出張したついでに登山すれば,少しずつ百名山制覇に近づいていきます。

 

 

というわけで,スーツケースに登山靴や登山用の格好,

レインコートなどをつめて出張してきました。

 

 

このやり方は,本来の出張用の仕事道具

(私の場合はパソコンや紙媒体の資料)以外に

登山道具を持っていくので,荷物が重くなってしまうのが難点であります。

 

 

さて,仙台駅でレンタカーを借りて,

東北自動車道を南に進み,村田インターチェンジで降りて,

蔵王エコラインを進み,刈田岳のふもとにある駐車場に到着しました。

 

 

高速道路を使って約1時間30分ほどで到着しました。

 

 

駐車場のすぐ近くに蔵王山頂レストハウスがありますので,

ここで登山情報を収集します。

 

 

 

このレストハウスのさくらんぼアイスがおいしかったです。

 

 

レストハウスの外に出れば,すぐそこに蔵王の有名なお釜がみえます。

 

 

 

エメラルドグリーンに輝くお釜はなんとも神秘的で,

多くの観光客を魅了していました。

 

 

お釜が見れる場所から徒歩10~15分ほど坂道を登れば,

刈田岳の山頂です。

 

 

 

登山した2020年6月28日は,小雨が降っていたため,

山には霧がかかっていたので,景色がはっきりとみえませんでした。

 

 

その後,刈田岳を降りて,お釜が見える場所に戻り,

次は,蔵王の山で一番高い熊野岳を目指して歩きました。

 

 

馬の背と呼ばれる平坦な道を歩きました。

 

 

お釜の周囲を歩くことになるので,絶景を楽しみながら進めます。

 

 

当日は霧がひどかったのですが,馬の背の道には木の柱が建っていて,

道しるべとなっていたので,道に迷うことはありませんでした。

 

 

平坦な道を30分ほど歩くと,熊野岳に登る坂道に着きます。

 

 

この坂道はあまり整備されていませんが,簡単に登れます。

 

 

坂道を登ると,熊野岳の避難小屋があり,

そこから少し歩くと,蔵王山神社がある熊野岳の山頂に到着します。

 

 

 

霧がひどかったので,道に迷うのが怖かったことと,

帰りの電車時間があったので,熊野岳に登頂してから,すぐに戻りました。

 

 

蔵王山頂レストハウスから,熊野岳山頂までの往復は

約1時間30分から2時間ほどでいけます。

 

 

道は険しくなく,初心者でも気軽に登れる山でした。

 

 

帰りは,遠刈田温泉で温泉につかり,疲れをとりました。

 

 

登山をして温泉にはいるのは最高のデトックスになると思います。

 

 

遠刈田温泉にある賛久庵というお店でランチを食べたところ,

地元でとれた食材をつかった料理がとてもおいしかったです。

 

 

 

大自然で癒やされましたので,今日からまた仕事をがんばります。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

残業を許可制とする就業規則がある場合に残業代請求が認められるか

1 残業の許可制

 

 

未払残業代請求の事件を担当していると,たまにですが,

残業を許可制としている就業規則を見ることがあります。

 

 

具体的には,「従業員が時間外労働を行う場合には,

原則として所属長に事前の承認を得なければならない」

などという就業規則の条項があります。

 

 

 

労働者が未払残業代請求をすると,会社から,

うちは残業をする場合は,事前に会社の許可をとる必要があるところ,

当該労働者は,事前に会社の許可をとらずに

勝手に残業をしていたのであるから,残業代を支払わない,

という反論がされることがあるのです。

 

 

それでは,このような残業を許可制としている

就業規則の条項がある場合,残業代請求は認められないのでしょうか。

 

 

結論を先に言えば,残業を許可制としている

就業規則の条項があったとしても,

残業代請求が認められる可能性は十分にあります。

 

 

2 労働時間とは

 

 

労働者が,会社に対して,残業代を請求するには,

残業をしている時間が,労働時間といえなければなりません。

 

 

では,労働時間とはどのような時間でしょうか。

 

 

労働時間とは,労働者が会社の指揮監督下にある時間です。

 

 

会社の指揮監督下にある時間なので,会社から,労働者に対して,

この仕事をしなさいと明示の指示があり,

会社から指示された仕事をしていた時間は,

当然に労働時間になります。

 

 

加えて,会社の指揮監督下にある時間には,

会社の明示の指示がある場合だけでなく,

会社の黙示の指示がある場合も含まれます。

 

 

3 黙示の指示とは

 

 

黙示の指示とは,労働者が残業していることを会社が黙認していて,

残業していることについて異議を述べていなかった場合や,

労働者の仕事量が多くて,とても所定労働時間内には処理できず,

残業が常態化している場合に認められます。

 

 

ようするに,会社が明示的に残業を指示していなくても,

残業を知ってて放置していたり,残業しなければ終わらないような

仕事量を与えていたのであれば,黙示の指示が認められて,

会社は,残業代を支払われなければならないのです。

 

 

 

そのため,会社が,就業規則に残業の許可制があり,

残業を許可していなかったと主張しても,

黙示の指示が認められる場合には,

労働者の残業代請求が認められるのです。

 

 

そして,黙示の指示が認められることは多いと実感しています。

 

 

ちなみに,昭和観光事件の大阪地裁平成18年10月6日判決

(労働判例930号43頁)では,

残業を許可制とする就業規則の条項について,

不当な残業代の支払いがなされないようにするための工夫を定めただけで,

事前に残業の許可を受けていなくても

残業代の請求権が失われる規定ではないと判断されました。

 

 

残業の許可制があって,実際に残業代の請求が認められないのは,

会社から残業禁止命令が出されて,

残業がある場合には役職者に引き継ぐことを命じて,

これが徹底されていたような場合です

(神代学園ミューズ音楽院事件の東京高裁平成17年3月30日判決・

労働判例905号72頁参照)。

 

 

ようするに,残業を許可制とする就業規則の条項があるだけではだめで,

実際に残業の禁止が徹底されていない限り,

労働者の残業代請求は認められることになります。

 

 

そのため,残業を許可制とする就業規則の条項があっても,

労働者は,ひるむことなく,会社に対して,

未払残業代を請求すべきなのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラの被害実態とは

1 パワハラ・コロナ・過労死110番に寄せられた相談

 

 

6月20日に実施された「パワハラ・コロナ・過労死110番」では,

全国で次のようなパワハラの相談がありました。

 

 

上司に話しかけても返事をしてもらえなかったり,

あいさつをしても無視されたりして困っている。

 

 

上司から人前で「バカヤロー」などと怒鳴られる。

 

 

上司が必要な情報を教えてくれなかったり,

こちらのプライベートを執拗に詮索してきて,

「あなたの仕事はなくなるからね」と言われる。

 

 

 

このようなパワハラ被害が後を絶たないのが現実です。

 

 

今年の6月1日から改正労働施策総合推進法が施行され,

大企業に対して,パワハラ防止措置が義務付けられましたので,

今後はますます,企業におけるパワハラ対策が重要になってきます。

 

 

2 パワハラの被害実態

 

 

さて,パワハラ被害について興味深い論稿を読みましたので,

アウトプットします。

 

 

ジュリストという法律家の専門誌の1546号で

パワハラに関する特集があり,その特集の中にあった

神奈川県立保健福祉大学講師の津野香奈美先生の

メンタルヘルスとハラスメント予防」という論稿です。

 

 

この論稿には,全国におけるパワハラの実態調査

の結果が記載されています。

 

 

この論稿に記載されている調査の結果によりますと,

雇用者の6.1%(17人に1人)が

過去30日間に職場でパワハラを受けており,

14.8%(7人に1人)が職場でパワハラがあると

認識しているようです。

 

 

日本の雇用者数は約6000万人であるため,

その6.1%とすると,全国で約360万人が

パワハラにあっているという計算になるようです。

 

 

パワハラの被害が拡大しており,

パワハラの被害にあう確率も高いことがわかります。

 

 

では,パワハラにあう人はどのような人なのでしょうか。

 

 

この論稿に記載されている調査によると,

若年者(29歳以下),高卒未満,

世帯収入250万円未満,主観的社会階層

(自分自身が日本社会の中でどの階層に属しているかどうかの認識)

が低い労働者が,よりパワハラを受けていることが

明らかになったようです。

 

 

立場の弱い方がパワハラを受けやすい可能性があるのです。

 

 

パワハラは弱い者いじめという側面があるので,

立場の弱い方がターゲットになりやすいわけです。

 

 

3 パワハラの健康被害

 

 

また,職場のパワハラによる健康被害についても,

興味深い記載がありました。

 

 

デンマークの研究では,時々パワハラを受けていた場合,

受けていない場合に比べて,2年後にうつ病を

新規発症するリスクが約2.2倍であるのに加えて,

より頻繁にパワハラを受けていた場合は,

受けていない場合に比べて,2年後の新規うつ病発症リスクが

約9.6倍であったようです。

 

 

 

ノルウェーの研究では,パワハラを受けていると,

受けていない人に比べて,2年~3年後に希死念慮を持つリスクが

約2.1倍であったようです。

 

 

津野先生の研究では,パワハラを受けていると,

受けていない場合と比べて約12倍もPTSD症状

(精神的不安定による不安,不眠などの過覚醒など)

を持つリスクが高い結果になったようです。

 

 

このように,パワハラを受けると,

被害者は直接,精神的な苦痛を受けて,

メンタルヘルスが害されるのです。

 

 

さらに,パワハラの被害がやっかいなのは,

周囲にも影響を及ぼすという点です。

 

 

パワハラの直接の被害者だけでなく,

パワハラ行為を目撃した人もメンタルヘルスの不調になるようです。

 

 

自分が直接パワハラの被害をこうむっていなくても,

「次は自分がターゲットになるのではないか」と怖くなったり,

「見ていて辛い。被害者がかわいそうだ」と思いながらも

うまく助けることができずに罪責感を感じ,

働きにくくなるのが原因と考えられています。

 

 

パワハラの被害は,間接的に広範囲に拡大することがわかります。

 

 

メンタルヘルスが害されると回復に時間がかかりますので,

被害者本人にとっても,社会全体にとっても大きなマイナスとなります。

 

 

このようなパワハラの被害実態からしても,

早急にパワハラを撲滅する必要があるのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

新型コロナウイルスで死亡した医師の労災

1 新型コロナウイルスに関連する過重労働の相談

 

 

6月20日に実施されたパワハラ・コロナ労災・過労死110番では,

全国で新型コロナウイルスに関連する労働問題の相談が寄せられました。

 

 

会社の新型コロナウイルス対策の関係で,

女性社員が早く帰るようになり,休みがなくなり,

1ヶ月の時間外労働が160時間を超えるようになった。

 

 

 

コロナのために営業店舗数が縮小され,

遠くの店舗への出勤を命じられて

通勤時間が往復で約2時間増えた。

 

 

このように,新型コロナウイルスに関連する

過重労働の問題が生じている現状があることがわかりました。

 

 

このような過重労働については,

無理せずに年次有給休暇を取得するなどして,

しっかりと休むことが重要です。

 

 

働き過ぎると健康を害するので,会社は,

労働者が過重労働に陥らないように仕事量を調整するべきです。

 

 

2 新型コロナウイルスに感染した医師の死亡

 

 

さて,新型コロナウイルスに関連して,

大阪の医師3名が新型コロナウイルスに感染して死亡したようです。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN6Q747WN6QPTIL03H.html

 

 

報道によりますと,患者を診察した際に,

新型コロナウイルスに感染したようです。

 

 

死亡した医師が勤務医であれば,

仕事中に新型コロナウイルスに感染したとして,

労災認定されます。

 

 

今年の4月28日に厚生労働省から公表された通達によれば,

医療従事者が新型コロナウイルスに感染した場合,

仕事以外で感染したことが明らかである場合を除いて,

原則として労災保険給付の対象となります。

 

 

通常であれば,仕事をしていて新型コロナウイルスに感染した

という感染経路を特定しなければ,労災と認定されないのですが,

新型コロナウイルスは症状がなくても感染を

拡大させるリスクがあることから,

感染リスクがとくに高い医療従事者を保護するために,

医療従事者に労災保険が適用されやすくしたのです。

 

 

 

大阪の新型コロナウイルスで死亡した医師も,

患者が新型コロナウイルスに感染していたとは知らずに診察して,

感染したようですので,医師が勤務医であれば,労災保険が適用されます。

 

 

3 遺族補償給付

 

 

この場合,死亡した医師のご遺族は,

労働基準監督署に対して,労災申請をすることで,

遺族補償給付を受けられます。

 

 

遺族補償給付には,遺族補償年金と遺族補償一時金があります。

 

 

遺族補償年金は,次の要件を全て満たす遺族が受給できます。

 

 

①被災労働者が死亡した当時その収入によって生計を維持していたこと

 

 

 ②被災労働者の配偶者,子,父母,孫,祖父母または兄弟姉妹であること

 

 

 ③年齢要件を満たしていること

 

 

これらの受給要件を満たすご遺族に対して,

ご遺族が1人の場合には,

被災労働者の直近3ヶ月間の賃金の総支給額を日割り計算した

給付基礎日額の153日分が年金として支給されます。

 

 

また,ご遺族の中に遺族補償年金を受けるご遺族がいない場合には,

遺族補償一時金が支給されます。

 

 

その他にも,葬儀費用として,労災保険から葬祭料が支給されます。

 

 

このように,残されたご遺族にとって,

生活保障となる給付が支給されますので,

今後の生活のために,労災申請をすることをおすすめします。

 

 

特に,ご遺族から申請しないと,

労災手続は何も進まないことには注意が必要です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラ・コロナ労災・過労死110番で石川県で多かった労働相談は休業手当でした

1 パワハラ・コロナ労災・過労死110番

 

 

6月20日に過労死弁護団全国連絡会が主催する,

「パワハラ・コロナ労災・過労死110番」を石川県でも実施しました。

 

(NHKで報道していただきました)

 

 

もともと,この過労死110番は,過労死の被害を防止するために,

1年に1回実施しているもので,今年で33回目となります。

 

 

今回の過労死110番では,

パワハラとコロナ労災についても,

電話相談を受け付けました。

 

 

今年の6月1日から,改正労働施策総合推進法が施行され,

大企業に対してパワハラ防止措置が義務付けられたことから,

パワハラに関する労働相談が増えることが予想されたからです。

 

 

また,今年は,新型コロナウイルス感染拡大の影響で,

仕事中に新型コロナウイルスに感染したという労災や,

新型コロナウイルスに対応するために過重労働をしなければならなくなり,

過労死や過労自殺に至るケースが増えることが予想されたからです。

 

 

そのため,パワハラやコロナ労災の法律相談が

多く寄せられることを予想していました。

 

 

実際に,全国では,パワハラに関する相談が最も多かったです。

 

 

ところが,石川県では,6件の電話相談があったのですが,

そのうち4件は,休業手当に関する相談でした。

 

 

要するに,会社から休業するように言われたものの,

賃金が支払われないという相談です。

 

 

 

緊急事態宣言が解除され,経済活動が再開されてきているので,

休業手当の法律相談は減少すると考えていたのですが,

まだ,休業手当に関する法律相談が多いことに驚きました。

 

 

2 休業手当

 

 

さて,休業手当ですが,会社は,

災害などの不可抗力の場合を除いて,

労働者を休業させた場合,労働者に対して,

平均賃金の6割以上を支払わなければなりません。

 

 

休業手当を支払わない会社に対しては,

30万円以下の罰金が科せられます。

 

 

特に,新型コロナウイルスの感染拡大がおさまって,

経済活動が再開した現段階においては,会社は,

労働者から労務を提供してもらうことが可能であるのに,

会社の判断で休業させる場合には,民法536条2項に基づき,

労働者に対して,給料の全額を支払う必要があります。

 

 

そのため,現時点において,休業をしている労働者は,

会社に対して,給料の全額を請求すべきなのです。

 

 

この休業期間中の賃金の全額の請求は,

パートやアルバイトなどの非正規雇用労働者にも認められます。

 

 

3 雇用調整助成金の特例措置

 

 

さらに,今年の6月12日付の雇用調整助成金の特例措置により,

雇用調整助成金の1人当たりの助成額の上限が

8,330円から15,000円に引き上げれました。

 

 

また,解雇や雇止めをしない中小企業の助成率が

9/10から10/10に引き上げられることになりました。

 

 

そのため,企業にとっては,労働者を休業させても,

雇用調整助成金をより利用しやすくなったのです。

 

 

休業中に賃金が支払われないと,

労働者の生活は困窮してしまうので,

会社は,雇用調整助成金を活用して,

労働者に対して,休業期間中,

最低6割以上の賃金を支払うべきです。

 

 

ただ,現実には,6割の休業手当すら

支払われていない労働者がいるのも現実です。

 

 

 

4 新型コロナウイルス感染症対応休業支援金

 

 

会社が休業手当を支払わない場合,新しく,

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金が導入され,

労働者がハローワークに申請することで,

約8割の賃金が国から直接支給されることになりそうです。

 

 

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金については,

まだ詳細が公表されていませんが,これが導入されると,

労働者は,休業手当を支払わない会社に対して,

裁判を起こすことなく,国から一定額の支給を受けられるので,

便利になります。

 

 

新型コロナウイルス感染症対応休業支援金が

早急に導入されることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

2020年6月1日から大企業にパワハラ防止対策が義務付けられました

1 パワハラ防止対策の義務付け

 

 

今年の6月1日から,改正労働施策総合推進法が施行されて,

大企業に対して,パワハラ防止対策が義務付けられました。

 

 

このパワハラ防止対策の義務付けは,

2022年4月から,中小企業にも適用されます。

 

 

まずは,大企業からパワハラの防止対策を始めて,

その後に中小企業にも広めていくことになります。

 

 

パワハラの被害が後を絶たない現状において,

今回のパワハラ防止対策の義務付けが

どこまで効果を発揮するのか注目していきたいです。

 

 

 

本日は,パワハラ防止対策の義務付けについて解説します。

 

 

2 パワハラの定義

 

 

まずは,改正労働施策総合推進法において,

パワハラの定義が明文化されました。

 

 

すなわち,パワハラとは,職場において行われる

優越的な関係を背景とした言動であって,

業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

その雇用する労働者の就業環境が害されること,

と定義されました。

 

 

実務で問題になるのは,違法なパワハラと適正な業務指導の線引です。

 

 

パワハラの被害者がうったえる,

パワハラの加害者の言動が,

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」

と評価できるかが問題となるのです。

 

 

この「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」

言動に該当するかの判断にあたっては,

事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する

問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」において,

以下の要素を総合考慮するとされました。

 

 

①当該言動の目的

 

 

②当該言動を受けた労働者の問題行動の有無や

内容・程度を含む当該言動が行われた経緯や状況

 

 

③業種・業態

 

 

④業務の内容・性質

 

 

⑤当該言動の態様・頻度・継続性

 

 

⑥労働者の属性や心身の状況

 

 

⑦行為者との関係性

 

 

指針においては,パワハラの該当例と非該当例が記載されていますが,

それはパワハラだよね,それは適正な指導だよね,

と一般の方が読めば判断できるケースしかありません。

 

 

実際の実務では,上記の要素を総合考慮する必要があるので,

違法なパワハラと適正な業務指導の線引が難しいことがほとんどなのです。

 

 

「業務上必要かつ相当な範囲を超えた」言動に該当するかの

勘所を磨くには,実際のパワハラの裁判例を

検討するのが最もよいと考えます。

 

 

3 パワハラ防止措置義務

 

 

さて,今回の改正の目玉は,企業に対して,

パワハラ防止対策を義務付けたことです。

 

 

 

企業は,パワハラ防止対策として,

以下のことを実施する必要があります。

 

 

①職場におけるパワハラの内容,

パワハラを行ってはならないこと,

パワハラを行った者に対して厳正に対処する

旨の方針を就業規則などに明確化し,

労働者に周知すること

 

 

②パワハラの相談窓口を設立して,労働者に周知すること

 

 

③パワハラの相談があった場合には,

事実関係を迅速かつ正確に確認し,

パワハラの事実が確認できた場合には,

被害者に対する配慮のための措置を行い,

加害者に対する適正な措置を行い,

再発防止に向けた措置を講ずること

 

 

④パワハラの相談をした場合には,

プライバシーは保護され,

解雇やその他の不利益な取扱いをされないことを

労働者に周知すること

 

 

そして,厚生労働大臣は,必要があると認めるときには,

企業に対して,助言,指導,勧告をすることができ,

勧告に従わない場合には,そのことを公表できます。

 

 

そのため,企業は,労働者に対して,

パワハラ対策の研修をしたり,

パワハラの相談窓口を設置したりといった

対策をしなければならないのです。

 

 

これらの企業の取り組みを通じて

パワハラが撲滅されることを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

テレワークに事業場外みなし労働時間制を適用できるか

1 テレワークが普及しています

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大が一旦は収束し,

日常生活が復活しつつありますが,

テレワークで引き続き働きたい労働者が一定数存在するようです。

 

 

https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXMZO5879473006052020000000/

 

 

都会における通勤のストレスから解放されることが

理由なのかもしれません。

 

 

自宅でテレワークをする場合,

労働者が何時から何時まで働いたのかを会社が把握しにくくなります。

 

 

 

そのため,会社かテレワークを導入する際に,

事業場外みなし労働時間制を導入することがあります。

 

 

本日は,テレワークと事業場外みなし労働時間制について解説します。

 

 

2 事業場外みなし労働時間制とは

 

 

まず,事業場外みなし労働時間制とは,

会社は労働者の労働時間の把握・算定義務を負っていますが,

会社の外で行われる労働については

使用者の指揮監督の及ばない労働もあり,

その場合には会社が当該業務を行う

労働者の労働時間を把握することが困難なため,

その限りで,会社の労働時間の把握・算定義務を免除するための制度です。

 

 

具体的には,みなし労働時間が8時間の場合,

実際には11時間労働したとしても,

8時間だけ労働したものとみなされますので,

8時間を超える3時間分の残業代を請求できなくなります。

 

 

会社が残業代の支払を免れる制度ですので,

労働者にとっては基本的には不利益であり,

事業場外みなし労働時間制が適用されるための要件は

厳格に判断される傾向にあります。

 

 

3 労働時間を算定し難いときとは

 

 

すなわち,事業場外みなし労働時間制の要件の一つに

労働時間を算定し難いとき」があるのですが,

テレワークだからという理由だけで,

この要件を満たすことにはなりません。

 

 

具体的には,①その業務に用いる情報通信機器が,

会社の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと,

②その業務が,随時会社の具体的な指示に基づいて行われないこと,

という要件を満たす必要があるのです。

 

 

①の「会社の指示により常時」とは,

労働者が自分の意思で通信可能な状態を切断すること

が会社から認めれていない状態をいいます。

 

 

①の「通信可能な状態」とは,会社が労働者に対して,

情報通信機器を用いて随時具体的な指示を行うことが可能であり,

かつ,会社から具体的指示があった場合に

労働者がそれに即応しなければならない状態をいいます。

 

 

労働者が自由に情報通信機器から離れることが認められていて,

会社からの指示に即応する必要がない場合であればよいことになります。

 

 

②の「具体的な指示に基づいて行われる」には,

例えば,業務の目的,目標,期限などの基本的事項を指示することや,

これらの基本的事項について変更の指示をすることは含まれません。

 

 

細かい指示はしないけど,大枠の指示は認められるということです。

 

 

情報通信機器が発達した現代においては,

「労働時間を算定し難いとき」というのは

なかなか考えにくいのかもしれません。

 

 

 

こう考えますと,テレワークに事業場外みなし労働時間制を

適用するのは案外ハードルが高いといえそうです。

 

 

事業場外みなし労働時間制が適用されないとなると,

テレワークをしていて1日8時間を超えれば

会社に対して,残業代を請求できることになります。

 

 

会社に納得してもらって残業代を支払ってもらえるためにも,

労働者はテレワークをする場合,パソコンのログなどを活用して,

自分の労働時間を記録しておくことが重要になります。

 

 

なお,事業場外みなし労働時間制が適用されても,会社は,

休日労働や深夜労働についての割増賃金の支払義務を

免れることはできないことには注意が必要です。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

河井議員夫妻の労働基準法違反の疑惑

1 公職選挙法違反だけではないようです

 

 

6月16日,広島地裁において,

公職選挙法違反の罪に問われた河井案里参議院議員の

公設秘書の男性に対して,

懲役1年6ヶ月執行猶予5年の判決が言い渡されました。

 

 

この公設秘書の事件以外にも,

河井案里参議院議員と河井克行前法務大臣が地元の議員に対して,

総額2600万円もの現金を渡した疑惑が浮上しており,

検察当局が捜査をすすめています。

 

 

 

河井議員夫妻には,公職選挙法違反以外にも,

労働基準法違反の疑惑も浮上しています。

 

 

2 給料の減額

 

 

まず,河井議員夫妻の事務所で働いていた元私設秘書は,

一方的に給料を減額されたようです。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/1fc7a5dd0a73c3c79f4a5a675f3cafd2d52082c3

 

 

雇用主が労働者の給料を一方的に減額することは原則としてできません。

 

 

雇用主が労働者の給料を減額できるのは次の4つの場合に限定されます。

 

 

①給料の減額について労働者との個別の同意がある場合

 

 

 ②就業規則の不利益変更を行った場合

 

 

 ③新たな労働協約の締結による不利益変更を行った場合

 

 

 ④労働契約や就業規則で使用者に委ねられた

労働条件の決定・変更権限を行使した場合

 

 

このうち④については,懲戒処分としての減給,

業務命令としての降格による給料の減額,

就業規則中の賃金査定条項に基づく給料の減額などがあり,

原則として,労働契約や就業規則の根拠が必要になります。

 

 

河井議員夫妻による給料の減額ですが,

上記の②と③の可能性は低く,①か④を検討することになります。

 

 

元私設秘書の方が,①給料の減額に同意していなければ,

河井議員夫妻が一方的に給料を減額することは違法になります。

 

 

④による給料の減額の場合であれば,

労働契約や就業規則に根拠規定があるのか,

根拠規定があれば,減額の要件を満たすのかをチェックします。

 

 

3 割増賃金が支払われていない

 

 

次に,河井克行前法務大臣に雇用された運転手は,

選挙期間中は休日を返上して深夜まで働いたにもかかわらず,

割増賃金が支払われなかったようです。

 

 

使用者は,労働者に対して,

1週間に1回の休日を与えなけばなりません(労働基準法35条1項)。

 

 

1週間に1回与えなけばならない休日を法定休日といい,

法定休日に労働させた場合,使用者は,労働者に対して,

35%増しの割増賃金を支払わないといけません(労働基準法37条1項)。

 

 

22時から5時までの深夜の時間帯に働かせた場合には,

使用者は,労働者に対して,25%増しの

割増賃金を支払わなければなりません(労働基準法37条4項)。

 

 

そのため,河井克行前法務大臣が運転手に対して,

法定休日に労働させたり,深夜の時間帯に労働させていたのに,

割増賃金を支払っていないのであれば,

労働基準法37条に違反し,6ヶ月以下の懲役または

30万円以下の罰金となります(労働基準法119条)。

 

 

 

4 解雇

 

 

さらに,河井克行前法務大臣に雇用された運転手は,

選挙後に,突然解雇を通告されたようです。

 

 

https://news.yahoo.co.jp/articles/e92cecc0bcc23a630eb03137d3fe9a21cd1753c2

 

 

解雇は,よほどの理由がないとできませんし,

他の手段を尽くしても解雇はやむを得ないという社会的相当性がないと,

無効になります。

 

 

報道によりますと,河井克行前法務大臣に雇用された運転手の

解雇については,合理的な理由がなく無効になる可能性があります。

 

 

このように,政治家に雇用される秘書の方々は,

労働基準法で保護されていない実態がありそうです。

 

 

政治家は権力者なので,労働基準監督署も

調査に踏み込みにくいのかもしれません。

 

 

政党内に労働法に関する相談窓口を設置するなどの

対策が必要だと考えます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

スーパーホテルの支配人は労働者か

1 スーパーホテルの名ばかり支配人が提訴

 

 

スーパーホテルの支配人であった男女が

未払残業代請求の訴訟を起こしました。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASN5X635MN5XULFA01J.html

 

 

スーパーホテルでは,支配人との間で

業務委託契約を締結しているようで,提訴した支配人の男女は,

業績悪化を理由に業務委託契約を解除されたようです。

 

 

 

形式的には業務委託契約を締結していたため,

支配人は労働者として扱われず,裁量がないなかで

24時間365日働かされてきたと主張しています。

 

 

支配人が個人事業主ではなく労働者と判断されれば,支配人には,

労働基準法が適用されますので,1日8時間を超えて働いた場合に,

会社に対して,残業代を請求できることになります。

 

 

今後,雇用によらない働き方が増えていきますと,

実質は労働者なのに,形式が労働契約ではないので,

労働基準法の保護を受けられないという問題

が増えてくることが懸念されます。

 

 

本日は,労働基準法が適用される労働者について,解説します。

 

 

2 労働基準法の労働者とは

 

 

労働基準法9条には,労働者の定義が定められており,

「事業に使用される者で,賃金を支払われる者」とされています。

 

 

「事業に使用される者」とは,使用者の指揮監督下において

労務の提供をする者をいい,「賃金を支払われる者」とは,

労務に対する対償を支払われる者をいいます。

 

 

これだけでは,まだ抽象的なので,具体的には,

以下の考慮要素を総合して判断していきます。

 

 

使用者の指揮監督下における

労務の提供の有無に関する考慮要素としては,

①仕事の依頼,業務従事の指示に対する諾否の自由の有無,

②業務遂行上の指揮監督の有無,

③時間的・場所的拘束の有無,

④労務提供の代替性の有無があげられます。

 

 

例えば,①仕事の依頼を断ることができず,

②会社からの指揮監督を受けていて,

③仕事の時間と場所が決められていて,

④自分以外の代わりの人材に仕事をしてもらうことができない場合には,

労働者と判断されやすくなります。

 

 

報酬の労務対償性の有無に関する考慮要素としては,

⑤報酬の額,計算方法,支払形態,

⑥給与所得としての源泉徴収の有無,

雇用保険,厚生年金,健康保険の保険料徴収の有無があげられます。

 

 

例えば,⑤報酬が時間給を基礎として計算されていたり,

⑥報酬から社会保険料がひかれていれば,

労働者と判断されやすくなります。

 

 

その他の補強要素として,

⑦事業者性の有無に関する要素,

⑧専属性の程度に関する要素があげられます。

 

 

例えば,⑦仕事で使用する器具を会社から支給されていたり,

⑧他の会社で働くことか事実上困難であれば,

労働者と判断されやすくなります。

 

 

このように,上記①~⑧の要素を総合考慮するので,

労働者といえるかの判断は,そう簡単ではありません。

 

 

スーパーホテルの支配人の場合,あらゆる業務内容は

1400ページもあるマニュアルに規定されていたようですので,

②業務遂行上の指揮監督があったといえそうです。

 

 

 

また,ホテル内の居住スペースには,

フロントの監視カメラの映像が常に流れており,

緊急時対応用の電話があって,

客とのトラブルにいつでも対応しなければならないので,

③時間的,場所的拘束性があり,

⑧専属性が高かったといえそうです。

 

 

そのため,スーパーホテルの支配人は,

労働者と判断される可能性があると考えます。

 

 

裁判所がどのような判断をするのか,動向を注視していきたいです。

 

 

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新型コロナウイルスに感染した看護師か労災認定されました

1 院内感染の看護師労災認定

 

 

新型コロナウイルスのクラスターが発生した

東京都中野区の病院に勤務し,新型コロナウイルスに感染した

看護師について,新宿労働基準監督署が労災認定したようです。

 

 

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60131190Z00C20A6CE0000/

 

 

労災の申請をしてから約3週間で労災認定されたようで,

迅速に審査がすすんだようです。

 

 

労災認定された看護師は,病院から労災についての説明がなく,

弁護士に教えてもらうまで労災手続を知らなかったとコメントしています。

 

 

 

他方,6月10日時点で,医療機関での

新型コロナウイルスの集団感染が102件起きており,

約550人の医療従事者が新型コロナウイルスに感染したようです。

 

 

https://www.tokyo-np.co.jp/article/34903?rct=national

 

 

多くの医療従事者が新型コロナウイルスに感染したにもかかわらず,

労災申請まですすんだケースは少ないと思われます。

 

 

その理由として,医療従事者の方々や病院側が

労災についてよくわかっていないことがあげられます。

 

 

2 新型コロナウイルスに感染した医療従事者の労災申請

 

 

そこで,新型コロナウイルスに感染した

医療従事者の労災申請について解説します。

 

 

今年の4月28日に厚生労働省から重要な通達がでました。

 

 

「新型コロナウイルス感染症の労災補償における取扱いについて」

と題する通達でして,医療従事者が新型コロナウイルスに感染した場合,

仕事以外で感染したことが明らかである場合を除いて,

原則として労災保険給付の対象となるとされました。

 

 

通常,仕事中に新型コロナウイルスに感染して

労災と認定されるには,仕事中に新型コロナウイルスに

感染した径路を特定する必要があります。

 

 

しかし,感染経路を特定することは非常に困難でして,

新型コロナウイルスの治療の最前線にいる医療従事者に,

感染経路の特定を求めていたのでは,

適切な補償がないまま仕事をさせることになりますので,

医療従事者については,新型コロナウイルスに感染した場合,

原則として労災認定されることになったのです。

 

 

新型コロナウイルスは症状がなくても

感染を拡大させるリスクがあるので,

医療従事者が新型コロナウイルスに感染した

患者を診療していなくても,労災認定されます。

 

 

そのため,医療従事者がプライベートな活動で

新型コロナウイルスに感染するようなことをしていないのであれば,

新型コロナウイルスに感染すれば,

労災認定されますので,労災申請をすべきです。

 

 

労災認定されれば,治療費が全額,労災保険から支給されますし,

仕事を休んでも,給料の約8割分が休業補償給付として支給されるので,

安心して治療に専念することができるのです。

 

 

 

3 労災申請をするには

 

 

医療従事者が新型コロナウイルスに感染した場合,

まずは,ご自身が勤務している医療機関に対して,

労災申請の手続をとるように求めましょう。

 

 

勤務先の医療機関が労災申請の手続をしてくれない場合には,

自分で労災申請をすればいいです。

 

 

インターネット上にある労災申請に必要な書式に必要事項を記載して,

労働基準監督署に提出すればいいのです。

 

 

労災申請書には,勤務先である事業主の証明欄があり,

勤務先に証明をしてもらいます。

 

 

勤務先か証明欄に署名押印してくれないのであれば,

そのことを労働基準監督署に説明すれば,

労働基準監督署は受け付けてくれますので,問題ありません。

 

 

私が所属している過労死弁護団全国連絡会議では,

6月20日土曜日10時~15時に,

全国一斉の新型コロナウイルスに関する労災の電話相談を実施します。

 

 

石川県の担当は,当事務所ですので,

6月20日10時から15時の時間帯に

076-221-4111にお電話いただければ,

弁護士が無料で電話相談に応じます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。