通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止

9月21日に,ある労働組合から,

同一労働同一賃金についての勉強会の講師の依頼を受けましたので,

同一労働同一賃金について勉強をしています。

 

 

同一労働同一賃金に関連して,働き方改革において,

パートタイム労働法が,パートタイム有期雇用労働法に改正され,

その9条において,通常の労働者と同視すべき

短時間・有期雇用労働者に対する

差別的取扱いの禁止が規定されております。

 

 

 

本日は,この差別的取扱いの禁止について解説します。

 

 

まず,①業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度,

②職務の内容及び配置の変更の範囲が,

通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で同一である場合,

会社は,短時間・有期雇用労働者であることを理由として,

基本給,賞与,その他の待遇のそれぞれについて,

差別的取扱いをしてはなりません。

 

 

①業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度については,

まず,業務の種類が同一であるかを確認し,

同一である場合には,次に,

通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の中核的業務を抽出し,

中核的業務が同一であれば,両者の責任の程度が

著しく異なっていないかを確認します。

 

 

責任の程度とは,具体的には,授権されている権限の範囲

(単独で契約締結可能な金額の範囲,管理する部下の数,

決裁権限の範囲等),業務の成果について求められる役割,

トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の程度,

ノルマなどの成果への期待の程度などをいいます。

 

 

②職務の内容及び配置の変更の範囲とは,

人事異動(転勤,昇進を含むいわゆる人事異動や本人の役割の変化等)

の有無や範囲のことです。

 

 

まずは,転勤の有無が同じかを確認し,

通常の労働者にも,短時間・有期雇用労働者にも転勤がある場合には,

転勤により異動が予定されている範囲

(全国転勤か,エリア限定かなど)を比較します。

 

 

通常の労働者にも,短時間・有期雇用労働者にも転勤がないか,

あってもその範囲が実質的に同じであれば,

事業所内における職務の内容の変更の態様を比較することになります。

 

 

以上について,ニヤクコーポレーション事件の

大分地裁平成25年12月10日判決(労働判例1090号44頁)は,

差別的取扱いを認めました。

 

 

この事件では,原告の短時間労働者の職務内容が

タンクローリーのドライバーということで正社員と同一であり,

転勤や出向について,短時間労働者にはなく,正社員でも,

年間数名と少なく,九州管内では2002年以降

実施されていませんでした。

 

 

また,チーフ等の重要な役職への任命について,

短時間労働者であってもチーフ等の役職に就くことがありました。

 

 

そのため,上記①と②について,

原告の短時間労働者と正社員とでは同一であると判断されました。

 

 

 

そして,原告の短時間労働者と正社員との間で,

賞与について年間40万円の差があること,

週休日の日数が,正社員は年間39日であるのに対して,

短時間労働者は年間6日であること,

正社員には退職金が支給されるのに,

短時間労働者には退職金が支給されないことが,

差別的取扱いに該当しました。

 

 

差別的取扱いに該当すれば,パートタイム有期雇用労働法9条に

違反することになり,不法行為を構成することになるので,

会社は,損害賠償責任を負うことになるのです。

 

 

正社員と同じ仕事をしているのに,

短時間・有期雇用労働者であるという理由だけで,

労働条件に格差を設けられている場合には,

パートタイム有期雇用労働法9条の差別的取扱いに

該当する可能性がありますので,是正を求めていくべきです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

育休取得を理由に昇給させないことは違法です

化学メーカー大手のカネカに勤務していた男性労働者が

育休復帰後に転勤を命じられたり,

アシックスの男性労働者が育休復帰後に

倉庫勤務を命じられたりしたことなどで

パタハラが問題となっています。

 

 

https://biz-journal.jp/2019/06/post_28469.html

 

 

https://www.bengo4.com/c_23/n_9816/

 

 

育休を取得しても,その後に,不利益な取扱を受けるのであれば,

男性労働者は,育休をとれなくなってしまうため,

上記の企業の対応に批判が生じています。

 

 

 

これらの問題に呼応するように,

男性の育休取得の義務化の動きもでてきました。

 

 

https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5cf713f8e4b0dc70f44ea4d0

 

 

そこで,本日は,育休取得と不利益取扱について解説します。

 

 

育児介護休業法5条で,1歳未満の子供を養育する労働者は,

会社への申出により,子供が1歳に達するまでの一定期間,

育休を取得できます。

 

 

育休中の賃金は,育児介護休業法で特に定めがないので,

会社の就業規則などに定めがない場合は,無給となります。

 

 

もっとも,育休開始前2年間に賃金支払基礎日数が

11日以上ある月が12ヶ月以上ある場合,

会社を通じてハローワークに申請することで,

育児休業給付金が支給されます。

 

 

育児休業給付金の支給額は,概ね給料の67%,

育休開始から6ヶ月経過後は50%です。

 

 

さて,育児介護休業法10条は,

労働者が育休を取得したことを理由に

不利益な取扱をすることを禁止しています。

 

 

この育児介護休業法10条の不利益な取扱に該当するかが争われた

最近の裁判例として,学校法人近畿大学(講師・昇給等)事件の

大阪地裁平成31年4月24日判決

(労働判例1202号39頁)があります。

 

 

この事件は,男性労働者が育休を取得したところ,

昇給されなかったことについて,

昇給があれば支給されるべき賃金と現実の支給額との差額を

損害賠償請求したものです。

 

 

 

被告の旧育休規程は,1年間のうち一部でも育休を取得した職員に対し,

残りの期間の就労状況にかかわらず,

当該年度における昇給の機会を一切与えないことになっていました。

 

 

そして,昇給不実施による不利益は,

年功序列の昇給制度においては,

将来的にも昇給の遅れとして継続し,

その程度が増大する性質がありました。

 

 

そのため,定期昇給日の前年度のうち一部の期間のみ

育休を取得した労働者に対し,定期昇給させないこととする取扱は,

育休を取得したことを理由に,育休期間中に働かなったことによる

効果以上の不利益を与えることになるので,

育児介護休業法10条の不利益取扱に該当すると判断されました。

 

 

その結果,原告に対して昇給を実施しなかったことは

育児介護休業法10条違反であるとして,

差額賃金の損害賠償請求が認められました。

 

 

昇給を実施しなかったことが,育休以外の理由が別にあれば,

育休取得を理由とする不利益取扱と言いにくくなりますが,

育休しか理由がないのであれば,やはり,

育児介護休業法10条の不利益取扱に該当します。

 

 

男性労働者が育休を取得しようとすると,会社から,

不当な圧力がかけられるかもしれませんが,そのときは,

育児介護休業法10条に違反していないかを検討するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

パワハラの分水嶺

今年の通常国会において,労働施策総合推進法が改正されて,

パワハラの定義が,次のように,法律に明記されました。

 

 

職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって,

業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより

その雇用する労働者の就業環境が害されること

 

 

もっとも,「業務上必要かつ相当な範囲」という定義が

抽象的であるため,上司による部下の指導が

違法なパワハラに該当するかについては,

具体的な諸事情を考慮して,ケースバイケースで

判断していくしかないのです。

 

 

 

本日は,違法なパワハラか否かについて,

興味深い判断がされた公益財団法人後藤報恩会ほか事件の

名古屋高裁平成30年9月13日判決

(労働判例1202号138頁)を紹介します。

 

 

この事件は,美術館の学芸員が恩師のお通夜と葬儀に

参列しようとして,美術館に有給休暇の申請をしたものの,

無断欠勤とされて,上司から,次のような言動をされたことが

違法なパワハラに該当するかが争われました。

 

 

すなわち,上司は,原告の学芸員に対して,

「非常識」,「信頼関係ゼロ」,「ここの職員としてふさわしくない」

などと非難し,原告の性格では美術館で任せられる仕事はなく,

性格を変えられないのであれば,

辞表を書いて退職することを求めることを伝えました。

 

 

この際,上司には,声を荒げたり,

高圧的な態度はなかったようです。

 

 

一審の名古屋地裁は,上司の言動は,

部下に対する仕事上の注意や指導として,

社会通念上許容しうる限度を超えた違法なものとはいえないとして,

原告の損害賠償請求を否定しました。

 

 

言葉はきつくても,指導の範囲内と判断されたのです。

 

 

他方,控訴審の名古屋高裁は,採用間もない原告に対して,

一方的に非があると決めつけ,原告の性格や感覚を非難して,

職場から排除しようとするものであり,

社会的相当性を逸脱する違法な退職勧奨であるとして,

慰謝料60万円の損害賠償請求が認められました。

 

 

 

このように,一審と控訴審とで判断が分かれました。

 

 

一審は,上司の言動を個々にとらえて,

違法なパワハラではないとしましたが,

控訴審は,半月ほどの期間に集中して,

パワハラな言動が複数回行われた一連の経過を重視して,

違法な退職勧奨があったとしました。

 

 

微妙な判断ではありますが,パワハラの期間や,

連続性,一連のものといえるかといった事情も,

違法なパワハラといえるかの考慮要素になります。

 

 

やはり,違法なパワハラといえるか否かは,

様々な事情を総合考慮して判断されるため,

どのような結論になるのか見通しが立てにくく,

難しい事件類型の一つであると思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

妻語を学ぶ

先月のお盆の時期に高校の同窓会が開催されました。

 

 

私は,現在35歳ですので,同級生で集まると,

夫婦のことや子育てのことで盛り上がります。

 

 

私が,妻が私の実家で私の両親と同居していることを話すと,

同級生の女性からは,口を揃えて,

「あんた,奥さんを大切にせんなんよ。」と言われました。

 

 

それくらい,私達の世代で,妻が夫の親と同居することは

ありえないことなので,改めて,

妻に対する感謝の思いを強くしました。

 

 

とはいえ,仕事場とは異なり,家庭内においては,

夫婦は,感情的になることが多く,どうしても衝突してしまいます。

 

 

そこで,衝突を回避するための方法を探るべく,

黒川伊保子先生の「妻語を学ぶ」という本を読みました。

 

 

 

ベストセラーとなった「妻のトリセツ」の実践編で,

妻からこのようなシチュエーションでこう言われたら,

このように答えましょうという,

具体的な対応策が豊富に記載されています。

 

 

例えば,妻から「これするの,大変なんだからね」と言われたとします。

 

 

このセリフの意味は,「私がどんなに大変なことをしているのか,

あなたわかっていないでしょう」ということのようです。

 

 

このセリフに対して,「大変だったら,やらなくていいんじゃない」

と答えるのはNGです。

 

 

妻がしていることを,しなくたって済むくらいのことだ

と言ってしまったことになるからです。

 

 

このセリフに対する正しい答え方は,

「大変だよね。いつもありがとう」と感謝の言葉をかけて,

ねぎらってあげることです。

 

 

私は,妻から子育て大変なんだよと言われたとき,

俺だって仕事で大変なんだよと答えてしまうので,

妻へのねぎらいが足りていなかったと反省しました。

 

 

次に,「何もわかってない」と責められるケースです。

 

 

 

これに対する正しい対処は,

「気づいてあげられなくて,ごめん」と謝ることです。

 

 

私は,よく言ってくれればやったのにと答えてしまいますが,

これはNGです。

 

 

女性は,察してほしい生き物なので,

察することを放棄するこのセリフは,

女性を絶望させてしまうのです。

 

 

女性は,やってくれないことが悲しいのではなく,

察してくれないことが悲しいのであり,

察しなかったことを謝る必要があります。

 

 

ただ,感情的になっているときに,

「気づいてあげられなくて,ごめん」というセリフは

なかなか出てこないのがネックですね。

 

 

妻にアドバイスしたら逆ギレされたというケースでは,

女性は,話しを聞いてくれて共感さえしてくれればOKで,

男性に問題解決を期待していないので,

ただただ共感すればいいわけです。

 

 

アドバイスして逆ギレされたのは,

共感とねぎらいをあげ損ねた証拠であり,

これを挽回するには,「そりゃあ,ひどいね」,

「きみは,正しい」,「よくわかる,その気持ち」

と共感のあいづちを打ちながら,

話しを聞けばいいのです。

 

 

とはいえ,私は,妻の話に共感できないのに,

共感しているようなセリフを話していると,

妻から,「ぜんぜん気持ち入ってないよね」と鋭く指摘されます。

 

 

妻から共感できないことを言われたときにも,

上辺だけ共感してもだめなので,

ここの対処法に悩んでいます。

 

 

共感できないことに,どう共感すればいいのか?

 

 

悩みは続きます。

 

 

この本の最後に,「いい女の定義は,簡単である。

その人の機嫌が安定していること。そのことに尽きる。」

と記載されています。

 

 

 

結婚して,妻と一緒に生活していると,

この言葉のとおりだと,強く共感できます。

 

 

仕事で疲れて家に帰ったときに,

妻の機嫌が悪いと,かなりしんどくなります。

 

 

仕事のストレスの上に,家庭のストレスが重なると,

体と心を休める場所がなくなり,疲弊してしまいます。

 

 

そのため,男性は,女性の機嫌を直す術を学ぶ必要がありますし,

女性は,自分の機嫌を自分自身でなんとかする術を

学ぶ必要があると思います。

 

 

夫にも妻にも読んでもらいたい1冊ですので,

紹介させていただきました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

入社時期繰り下げへの対処法

会社から内定をもらったものの,

今いる従業員が退職しないので,

入社を待つように言われ,待っていたものの,

いつまでたっても,会社から連絡がなく,

しびれを切らして,会社に連絡したところ,

会社から採用内定取消の通知がきました。

 

 

このように,入社時期を当初の入社時期から繰り下げられた場合,

労働者としては,どのように対処すればいいのでしょうか。

 

 

本日は,入社時期繰り下げへの対処法について解説します。

 

 

まず,会社が労働者に対して,採用内定通知を出した時点で,

会社と労働者との間に労働契約が成立します。

 

 

 

この労働契約は,入社予定日を就労の始まりとするものであり,

入社予定日までに採用内定取消事由が生じた場合には,

労働契約を解約することができるという解約留保権が付いています。

 

 

採用内定取消事由は,通常内容内定通知書などに記載されており,

内定通知の時点から,入社予定日までの間に,

労働者に採用内定取消事由が認められれば,会社は,

留保されている解約権を行使して,

採用内定を取り消すことができます。

 

 

もっとも,採用内定の取消は,会社が一方的に行うものであり,

採用内定通知を受けた労働者に対して

大きな不利益を与えることになることから,制約があります。

 

 

すなわち,会社が採用内定当時知ることができず,

また知ることが期待できない事実が後から判明し,しかも,

その事実によって採用内定を取り消すことが,

客観的に合理的と認められ,社会通念上相当といえる場合に限って,

採用内定取消が有効となるのです。

 

 

たんに,採用内定通知書に記載されている

採用内定取消事由に該当するだけではなく,

上記の要件を満たさないと,

採用内定取消はできないのです。

 

 

さて,採用内定通知によって,労働契約が成立するので,

入社予定日に労働者は出社して働かなければならないのですが,

会社の都合で,入社時期を繰り下げられた場合,会社は,

労働者からの労務の提供を受け取ることを予め拒否したことになります。

 

 

 

そのため,労働者は,会社の「責めに帰すべき事由」によって,

働くことができなくなったので,民法536条2項によって,

働くことができなかった期間の賃金全額を請求することができます。

 

 

会社が入社時期を繰り下げてきた場合,会社は,

労働基準法26条を根拠に,入社時期を繰り下げていた期間中の

60%の賃金補償しかしない場合があります。

 

 

しかし,労働基準法26条は,会社の責めに帰すべき事由

による休業の場合,平均賃金の60%以上の手当を支払わないと,

会社に30万円の罰金が科されるという刑事罰に関する規定であり,

民事においても60%だけ支払えばいいということにはなりません。

 

 

よって,会社の都合で入社時期を繰り下げられたのであれば,

労働者は,入社時期を繰り下げられた期間中の

賃金全額を会社に対して請求できます。

 

 

また,以前から勤務している従業員が退職しないことを根拠に

採用内定を取り消すことは,会社が採用内定時において

知ることが期待できない事実ではなく,また,

客観的合理的な理由とはいえず,

社会通念上も相当といえないので,無効となると考えます。

 

 

会社の都合で入社時期を繰り下げられた労働者は,遠慮なく,

会社に対して,賃金全額の支払を請求すればいいのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

仕事中に犯罪に巻き込まれたら労災の認定が受けられるのか

報道によりますと,京都アニメーションの放火事件において,

京都労働局が労災の認定に前向きであることが伝えられています。

 

 

https://www.asahi.com/articles/ASM7Z4F1SM7ZPTIL00W.html

 

 

仕事中に犯罪に巻き込まれてしまった場合,

通常,犯罪行為の加害者は,財産を持っていないことが多く,

加害者から損害賠償を回収することは困難なので,被害者は,

労災保険から補償を受けられないのかを検討することになります。

 

 

とはいえ,仕事中に犯罪に巻き込まれたからといって,

必ずしも,労災と認定されるとは限らないのです。

 

 

本日は,仕事中に犯罪に巻き込まれた場合の労災について解説します。

 

 

まず,労災保険の給付を受けるためには,

仕事が原因で労働者が負傷したことが要件となります。

 

 

 

この仕事が原因で労働者が負傷したといえるためには,

仕事と負傷との間に相当因果関係があることであり,

もう少し具体的には,労働災害の発生が業務に内在する危険が

現実化したことによるものと認められることが必要になります。

 

 

これを業務起因性といいます。

 

 

そこで,仕事中に犯罪に巻き込まれて負傷したことが,

業務に内在する危険が現実化したことによるものと

認められるかが問題となるのです。

 

 

この問題で,注目すべき裁判例として,

国・尼崎労基署長(園田競馬場)事件の

大阪高裁平成24年12月25日判決

(労働判例1079号98頁)があります。

 

 

この事件では,競馬場で馬券を購入する客にマークシートの

記入方法などを案内する女性担当員(通称マークレディといいます)が,

ストーカーと化した同じ競馬場に勤務する男性警備員に

勤務中に刺殺されたことについて,

業務起因性があるのかが問題となりました。

 

 

 

裁判所は,労働者が仕事中に同僚などからの暴行

という災害によって負傷した場合には,原則として,

業務に内在する危険が現実化したと評価でき,

同僚などからの暴行が個人的恨みや,

仕事上の限度を超えた挑発的・侮辱的行為によって生じたなど,

仕事と関連しない事由によって発生したのではない限り,

業務起因性が認められると判断しました。

 

 

そのうえで,男性警備員が,来場者や警備員を含めて

圧倒的に男性が多い園田競馬場において,

近隣で1対1の関係にもなり得る数少ない魅力的な女性である

マークレディに対して,恋愛感情を抱くことも決してないとはいえず,

その結果,男性警備員が良識を失い,

ストーカー的行動を引き起こすことも,

全く予想できないわけではなく,

単なる同僚労働者間の恋愛のもつれとは質的に異なっており,

マークレディとしての仕事に内在する危険性に基づくものであるとして,

業務起因性が認められました。

 

 

競馬場において男性警備員が良識を失って,

ストーカー行為をすることが,

マークレディの仕事に内在する危険が現実化したというのは,

やや強引な気がしますが,被害者救済のために,

裁判所は,業務起因性について,

柔軟に捉えているのだと考えられます。

 

 

京都アニメーションの放火事件では,加害者が,

京都アニメーションへの恨みを語っていることから,

会社と加害者とのトラブルに労働者が

仕事中に巻き込まれてしまったといえ,

業務起因性が認められる可能性があります。

 

 

 

他方,加害者が京都アニメーションへの恨みがなく,

通り魔的に放火して,それに労働者が巻き込まれてしまった場合には,

業務起因性が認められるかは微妙になってきます。

 

 

もっとも,京都アニメーションの放火事件は,

あまりにも悲惨であり,被害者をなんとか救済しないといけない

という世論が強く,京都労働局は,世論に動かされて,

労災認定に前向きになったと考えられます。

 

 

京都アニメーションの放火事件において,労災の認定がされて,

被害者が救済されることを祈念しております。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

解雇期間中の未払賃金と中間利益の控除

昨日は,解雇された後に,他の会社に就職しても,

就労の意思を失ったことにはならず,

労働者の未払賃金請求が認められることについて記載しました。

 

 

もっとも,他の会社で働いて得た収入については,

中間利益として未払賃金から控除されるという問題があります。

 

 

本日は,解雇期間中の賃金と中間利益について解説します。

 

 

昨日のおさらいになりますが,無効な解雇によって,

労働者が働くことができなくなった場合,労働者は,

働く意思があることを表示しておけば,

民法536条2項1文に基づいて,未払賃金を請求できます。

 

 

他方,民法536条2項2文には,

労働者が解雇された会社に労務提供をしないことによって,

利益を得たときは,解雇された会社に

償還しなければならないと記載されています。

 

 

この条文を素直に読めば,

別の会社に就職して収入を得たら(中間利益といいます),

その収入を解雇された会社に返還しなければならず,

結果として,未払賃金と相殺されてしまうことになりそうです。

 

 

 

他方,労働基準法26条という条文があり,

使用者の責めに帰すべき事由による休業の場合,

使用者は,休業期間中,労働者に対して,

平均賃金の100分の60以上の手当を

支払わなければならないと規定されています。

 

 

そのため,会社は,解雇期間中の未払賃金を支払うときに,

未払賃金から中間利益を控除することができるのですが,

平均賃金の6割に達するまでの部分については,

中間利益を控除することができないのです。

 

 

ようするに,会社は,労働者に対して,

解雇期間中の未払賃金を支払うにあたり,

平均賃金の6割の部分については中間利益を控除できませんが,

平均賃金の4割の部分については中間利益を控除できる

ということになります。

 

 

労働者としては,おおざっぱには,

解雇されて他の会社で働いて中間利益を得ていた場合,

未払賃金の6割くらいは請求できると考えればわかりやすいと思います。

 

 

 

ちなみに,平均賃金とは,3ヶ月間の賃金の総額を,

その期間の総日数で割って計算される金額をいいます。

 

 

なお,解雇期間中の賃金のうち,賞与については,

労働基準法26条の休業手当の保障の対象外であるため,

賞与の全額が中間利益の控除の対象になります。

 

 

以上をまとめると,解雇された労働者は,

解雇後に他の会社で働いて収入を得ても,

未払賃金の6割くらいは確保できますので,

解雇後の生活を安定させるためにも,

他の会社に就職して,解雇を争えばいいのです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

解雇された後に別の会社で働いても問題はないのか?

解雇された労働者は,以前の勤務先から

給料がもらえなくなるので,生活が苦しくなります。

 

 

雇用保険の基本手当を受給できれば,

しばらくの間はしのげますが,

ずっと無職のままでいるのは辛いですし,

勤務していた期間が短いと雇用保険の基本手当を

受給できない場合もあります。

 

 

 

 

そのため,解雇された労働者は,次の仕事をみつけて,

新しい職場で給料をもらいながら,

以前の勤務先に対して,解雇を争うことになります。

 

 

この場合,以前の勤務先から,別会社に就職したということは,

解雇を承認したことになるなどという主張がされることがあります。

 

 

本日は,解雇されて別会社へ就職した場合にも,

解雇された以前の勤務先に対して,

未払賃金を請求できるのかについて解説します。

 

 

そもそも,労働者は,働くことによって,

会社に対して,賃金を請求することができます。

 

 

これをノーワーク・ノーペイの原則といいます。

 

 

そのため,労働者が働いていない場合には,

原則として,会社に対して,賃金を請求できません。

 

 

労働者が解雇された場合,解雇後に労働者は,

働いていないので,賃金を請求できるのかが問題となります。

 

 

解雇が有効の場合には,ノーワーク・ノーペイの原則に従い,

労働者は,賃金を請求できませんが,

解雇が無効の場合,労働者は,無効な解雇によって

会社から働くことを拒否されたこととなり,

会社の「責めに帰すべき事由」によって,

労働者が働けなかったわけなので,

民法536条2項本文を根拠に,労働者は,

会社に対して,賃金を請求できるのです。

 

 

 

民法536条2項本文を根拠に,労働者が会社に対して,

未払賃金を請求する場合,労働者には,

働く意思と能力が必要となります。

 

 

解雇された労働者には,働く能力があることがほとんどですので,

働く意思があることを表示することが重要になります。

 

 

そこで,解雇を争う場合,労働者は,会社に対して,

「解雇は無効なので,働かせてください。」

という内容の通知書を作成して,

配達証明付内容証明郵便で会社に送付します。

 

 

これで,会社に対して働く意思があることを

表示したことになりますので,

民法536条2項本文に基づいて,

未払賃金を請求できます。

 

 

会社に対して働く意思があることを表示しておけば,

他の会社で働いて給料をもらったとしても,

解雇した以前の勤務先に対して未払賃金を請求できるのです。

 

 

この点について,聖パウロ学園事件の

大阪高裁平成12年1月25日判決(労働判例794号7号)

が参考になります。

 

 

この事件では,解雇されていた期間中に喫茶店を営業していた

労働者の賃金請求権が認められました。

 

 

その理由としては,「使用者の責めに帰すべき事由により

解雇された労働者は,収入を得る途が閉ざされることになり,

不当であることは明らか」だからなのです。

 

 

このように,単に労働者が解雇後に

他の会社で働いていたというだけでは,

労働者が働く意思を失ったとは認められず,

解雇した会社に対して,未払賃金を請求できるのです。

 

 

そのため,解雇された労働者は,働く意思を表示しておけば,

収入を得るために,解雇後に他の会社で働いても問題ないことになります。

 

 

もっとも,他の会社で働いて得た収入については,

中間収入として未払賃金から控除されるという別の問題がありますが,

この問題については,明日以降に記載します。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

学部廃止を理由とする整理解雇の有効性

少子高齢化がすすんでいるからか,

大学教授の解雇に関する事件が発生しているように感じます。

 

 

本日は,大学教授に対する整理解雇が問題となった

学校法人大乗淑徳学園事件の東京地裁令和元年5月23日判決

(労働判例1202号21頁)を紹介します。

 

 

整理解雇とは,使用者側の経営事情などにより生じた

従業員数削減の必要性に基づき労働者を解雇することです。

 

 

いわゆるリストラというやつです。

 

 

 

会社が整理解雇を行う場合,会社側の経営事情で

解雇をするのであり,労働者には落ち度がないわけですので,

次の4つの事情を総合考慮して,解雇が無効となるかが判断されます。

 

 

①人員削減の必要性があること

 

 

 ②解雇回避努力が尽くされたこと

 

 

 ③人選基準とその適用が合理的であること

 

 

 ④解雇手続の相当性

 

 

本件事件は,国際コミュニケーション学部が廃止され,

人文学部が新設された際に,

国際コミュニケーション学部に所属していた

大学教授が整理解雇されたというものです。

 

 

東京地裁は,上記の4つ要素について,次のように検討しました。

 

 

①人員削減の必要性について,

国際コミュニケーション学部において

定員割れが継続していたことから,

学部を廃止する必要性はあったものの,

被告の学校法人の資産,収支,キャッシュフローは

いずれも良好であり,整理解雇をしなければ

経営危機に陥ることは想定されていませんでした。

 

 

加えて,原告の大学教授は,新設された人文学部における

一般教養科目や専門科目の相当な部分を

担当することができたこともあり,

人員削減の必要性が高度にあったとは

いえなかったと判断されました。

 

 

 

②解雇回避努力について,被告の学校法人は,

希望退職に応じた場合には退職金に

退職時の本棒月額12ヶ月分の加算金を支給すること

を提案していましたが,それでは足りないと判断しました。

 

 

また,被告の学校法人の附属機関や他学部に配置転換させて

教授を継続させることも可能であったことから,被告は,

解雇回避努力を尽くしていないと判断されました。

 

 

④解雇手続の相当性について,被告は,原告に対して,

解雇の必要性や配置転換できない理由を十分に説明したとは言えず,

労働組合からの団体交渉の申し入れを拒否していることから,

解雇手続としては不相当であったと判断しました。

 

 

以上を総合考慮して,本件整理解雇は無効と判断されました。

 

 

大学教授という特殊な労働者に対する整理解雇について,

労働者に有利な判断をした裁判例ですので,

紹介させていただきました。

 

 

大学教授の整理解雇の事例で活用できる裁判例だと思います。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。