自己都合か会社都合か

労働者が退職するときに,自己都合ではなく

会社都合にしてほしいという法律相談を受けることがあります。

 

 

本日は,労働者が退職する場合,自己都合と会社都合で

どのような違いが生じるのかについて解説します。

 

 

まず,労働者が会社を辞める場合,

解雇なのか(会社都合の中に解雇は含まれます),

自己都合退職なのかが問題となるときがあります。

 

 

これが問題になるのは,労働者が会社を辞めることに

納得がいっておらず,会社に対して,

職場復帰したい,または,金銭請求したいという場合です。

 

 

 

 

解雇であれば,会社は,よほどの理由がない限り

解雇ができないので,解雇を争った結果,

労働者の会社に対する金銭請求などが認められる可能性が高いです。

 

 

他方,会社からの退職勧奨などに応じて,

労働者が辞めて,労働契約が合意で解約された場合

(自分から辞めているので自己都合退職になります),

労働者の退職の意思表示に勘違い(錯誤といいます)があったり,

会社からだまされたり,強迫されたりしたときに限り,

退職の意思表示を取り消すことができます。

 

 

この場合,勘違いがあったり,だまされたり,強迫されたことを,

労働者が証明しなければならないため,

労働者の請求が認められる可能性は低くなります。

 

 

そのため,労働者が会社を辞めることに納得していない場合,

解雇だと争いやすく,自己都合退職だと争いにくいのです。

 

 

次に,労働者が会社を辞めることに納得している場合,

雇用保険の基本手当(失業給付のことです)の受給が問題になります。

 

 

解雇されたり,退職勧奨に応じて退職する場合,

雇用保険では,特定受給資格者となります。

 

 

 

 

特定受給資格者は,一般の離職者よりも給付日数が優遇されます。

 

 

他方,退職勧奨に応じたのではなく,

純粋に自分の意思で辞めた自己都合退職や

定年退職で退職した人は,一般の離職者といいます。

 

 

正当な理由がなく自己都合退職した場合,または,

自己の責めに帰すべき重大な理由によって解雇(重責解雇といいます)

された場合は,3ヶ月間の給付制限がかかります。

 

 

会社を辞めた後3ヶ月間,

雇用保険の基本手当が受給できなくなるのです。

 

 

ここでいう正当な理由とは,家庭の事情の急変や

配偶者や子供との別居生活の継続の困難などの事情のことをいいます。

 

 

条件のいい会社に転職するために辞める場合や,

会社の雰囲気があわないから辞める場合などには,

正当な理由がない自己都合退職になります。

 

 

重責解雇は,懲戒解雇の中でも,悪質な場合に限定されています。

 

 

このように,解雇でも退職勧奨に応じて自己都合退職した場合でも,

雇用保険の基本手当を受給する際には,あまり差はありませんので,

自己都合か会社都合かにこだわる必要はないと考えます。

 

 

 

 

会社を辞めることに納得した上で,

雇用保険の基本手当を受給する際には,

特定受給資格者に該当するか否か,

正当な理由がない自己都合退職として

3ヶ月間の給付制度を受けるのか否か,

という点を気にすればいいのです。

 

 

なお,会社から離職票が届いた場合,

離職票の内容をよくチェックして,

離職理由が自分が想定していたものと異なっていた場合には,

会社に訂正を求め,ハローワークにも相談するようにしましょう。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

会社から退職勧奨を受けたらどうするか

会社は,時として,労働者に対して,

次のような言動をすることがあります。

 

 

「あなたはこの仕事に向いていない」,

「転職した方があなたの将来のためになる」,

「今辞めれば,退職金を上乗せする」

 

 

 

 

労働者としては,会社からこのようなことを言われると,

会社から必要とされていないと感じ,とてもショックを受けます。

 

 

会社のこのような言動は,退職勧奨とよばれています。

 

 

退職勧奨とは,会社が労働者に対して,

労働契約を合意で解約するために,

希望退職者を募集したり,

個別に退職を勧めることをいいます。

 

 

本日は,労働者が退職勧奨を受けた場合の

対処法について説明します。

 

 

まず,退職勧奨は,会社から労働者に対する,

労働契約を合意解約する申込みまたは誘引にすぎないので,

労働者には,これに応じる義務はありません。

 

 

そのため,労働者に退職の意思がないのであれば,

きっぱりと断ればいいのです。

 

 

 

労働者が,会社に対して,退職勧奨に応じないことを伝えても,

会社からの退職勧奨がやまない場合には,

弁護士が労働者の代理人として,退職する意思はないので,

退職勧奨を辞めるようにと内容証明郵便で通知すれば,

ほとんどのケースでは,退職勧奨が止まることが多いです。

 

 

次に,退職勧奨は,どのような場合に違法になるのでしょうか。

 

 

退職勧奨の裁判例によれば,

退職勧奨の手段・方法が社会通念上の相当性を欠くものは,

違法な退職勧奨,すなわち退職強要になります。

 

 

社会通念上相当性を欠く退職勧奨とは,具体的に,

労働者が退職を拒否しているにもかかわらず,

何回も呼び出し,数人で取り囲んで退職勧奨をしたり,

労働者の名誉感情を不当に害するような言動で

退職勧奨をするような場合です。

 

 

退職勧奨が違法と判断されれば,労働者は,

会社に対して,慰謝料などの損害賠償請求をすることができます。

 

 

もっとも,違法な退職勧奨か否かの線引は難しいところがあります。

 

 

日本アイ・ビー・エム事件(東京地裁平成23年12月28日判決)

では,労働者がさらなる説明や説得活動を受けても

退職勧奨に応じない意思が固く,変更の余地がなく,

退職勧奨のための面談には応じられないことを

はっきりと明確に表明し,かつ,会社に対してその旨を

確実に認識させた段階で初めて,

会社によるそれ以降の退職勧奨のための説明や説得活動は,

社会通念上相当性を欠く退職勧奨と

評価されることがあり得ると判断されました。

 

 

 

 

退職勧奨は,どこまでいけば違法となるのかの

線引がしにくいので,この判決では,

労働者が退職勧奨に応じられないことを明確に表明して,

会社に確実に認識させることが必要であると判断されたようです。

 

 

そのため,労働者としては,退職勧奨に応じられないのであれば,

その意思を内容証明郵便や特定記録郵便で会社に通知して,

退職しないことを確実に会社に分からせる必要があるのです。

 

 

また,違法な退職勧奨について,

損害賠償請求するのであれば,

会社からどのような退職勧奨を受けたのかを

証明する必要がありますので,

会社からされた退職勧奨を録音するようにしてください。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

教師の労働時間規制

昨日の医師の労働時間の規制に関連して,

本日は,教師の労働時間の規制について解説します。

 

 

12月7日に,教師の働き方改革を議論している

中央教育審議会の特別部会が,

教師の長時間労働の解消策に向けた答申素案を公表しました。

 

 

 

 

このブログで何回か記載しましたが,教師の残業については,

「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する法律」

給特法といいます)が,非常に大きな問題となっていました。

 

 

給特法では,基本給の4%に相当する

教職調整額が支給される代わりに,どれだけ残業しても,

残業代が支払われない取り扱いとなっています。

 

 

この基本給の4%という水準は,

給特法が成立した1971年当時の

平均的な教師の残業時間をもとに設定されているようです。

 

 

時代が変化し,学校における保護者対応が複雑になっており,

ICTを活用した授業や,アクティブラーニングなどの

新しい学習法に対応しなければならないなど,

教師の仕事が増えているにもかかわらず,

給特法の取り扱いは変わらないまま続けられてきたのです。

 

 

どれだけ働いても基本給の4%以上の残業代が

発生しないのであれば,教師に対する労働時間の管理が甘くなり,

生徒のためにとがんばる教師の善意に依存した結果,

教師に長時間労働が蔓延したのです。

 

 

その結果,過労死ラインと言われている

1ヶ月の時間外労働が80~100時間を超えて

働いている教師が増え,教師の過労死や過労自殺の

原因になっているのです。

 

 

 

 

この悪循環を断ち切るための政策が求められていたところ,

ようやく教師の労働時間についての規制が動き出したのです。

 

 

今回の答申素案では,原則として,

1ヶ月の時間外労働が45時間を超えないこと,

1年間の時間外労働が360時間を超えないこととされました。

 

 

例外的に,児童生徒に係る臨時的な特別の事情により

勤務せざるを得ない場合についても,

1ヶ月の時間外労働が100時間未満であること,

連続する複数月の1ヶ月あたりの平均の時間外労働が

80時間未満であること,1年間の時間外労働が

720時間を超えないこととされました。

 

 

ただし,この例外的な場合に残業時間の上限を超えて残業しても,

教師の雇用主である自治体に罰則は科せれられません。

 

 

この点が,民間企業と異なるところです。

 

 

働き方改革関連法の成立によって,民間企業で,

上記の上限を超えて労働者に残業をさせた場合,

会社には,6ヶ月以下の懲役または

30万円以下の罰金が科せられます。

 

 

また,教師が校内に在校している時間を,

基本的には労働時間とし,校外での勤務についても,

職務として行う研修への参加や児童生徒の引率の職務に

従事している時間については,職務命令に基づくもの以外も含めて

外形的に把握して,労働時間とすることになりました。

 

 

さらに,タイムカードによる記録や

電子機器の使用時間の記録などの客観的な方法によって,

労働時間を適正に把握することになりました。

 

 

 

 

給特法そのものが廃止されておらず,

残業の罰金付上限規制が導入されていない点で不十分なのですが,

教師の労働時間を適切にしていくための第一歩として評価できます。

 

 

これを機に,教師の働き方が見直されて,

教師の労働時間が削減されて,

教師の過労死や過労自殺が減少していくことを期待したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

医師の労働時間規制

昨日に引き続き,医師の働き方改革について記載します。

 

 

東京都内の病院で産婦人科医として働いていた

30代の男性が自殺したのは,1ヶ月170時間を超える

時間外労働が原因であるとして,

品川労働基準監督署が労災認定をしました。

 

 

電子カルテのアクセス記録によれば,

この男性医師は,月に4回程度,当直勤務をし,

自殺する1ヶ月前の時間外労働が約173時間で,

6ヶ月間ほとんど休日がない状態で働いていたようです。

 

 

 

 

精神障害の労災認定基準では,

1ヶ月以上にわたって連続勤務を行った場合,

心理的負荷は「強」となり,

1ヶ月の時間外労働が100時間以上でもあることから,

労災が認定されたのだと思われます。

 

 

医師は,高度な専門知識を求められる職業であるため,

若いころに,知識と手技を身につけるために,

長時間労働となりやすいようです。

 

 

実際,1ヶ月の時間外労働80時間が

過労死ラインとされているのですが,

過労死ラインの2倍である1ヶ月の時間外労働160時間

を超えて働いた医師の約半数以上を

20代と30代の医師が占めており,

20代と30代の医師の勤務時間が長くなっているのです。

 

 

また,長時間労働以外にも,宿直勤務の負担も,

医師の過労の原因になっていると考えられます。

 

 

夜働いて,昼間眠ると,睡眠の質が落ちてしまい,

疲労が回復しにくくなるのです。

 

 

このように,過労死ラインを超えて

働いている医師が多いことから,

医師が健康で働くための労働環境を

整備することが求められているのです。

 

 

 

 

そこで,医師の働き方に関する検討会は,

医師の残業時間の上限の設定方法について案を提示しました。

 

 

まず,1ヶ月の時間外労働が100時間未満,

複数月の時間外労働の平均が80時間未満

という残業時間の上限が提示されました。

 

 

この基準は,今回の働き方改革関連法で導入された,

罰則付きの残業時間の上限と同じになります。

 

 

次に,必要な地域医療が適切に確保されるため,及び,

医療の質を維持・向上するための診療経験が担保されるために,

一定の条件をもとに,上記の上限規制を緩和する案が提示されました。

 

 

1つは,地域医療提供体制の確保の観点から,

対象となる医療機関を特定して,経過措置としての,

上記の上限規制を緩和する水準を設定するという案です。

 

 

もう1つは,一定の期間集中的に

技能の向上のための診療を必要とする医師について,

医療機関を特定した上で,本人の申し出に基づき,

上記の上限規制を緩和する別の水準を設定するという案です。

 

 

この2つの場合には,医師に最低限必要な

睡眠時間が確保できるように,勤務と勤務の間に

一定時間の休息を設けて,連続勤務時間を制限する

勤務間インターバルが義務付けられます。

 

 

 

 

そもそもの残業時間の上限規制が

過労死ラインに設定されていることの問題点があるものの,

まずは,医師の健康を確保するための労働時間の規制が

一歩進んだことは評価すべきと考えます。

 

 

過労死や過労自殺する医師をなくし,

医師が健康に働ける労働環境を整備するためにも,

医師の労働時間の規制を着実にすすめていくべきです。

 

 

今後の医師の働き方改革の行方に注目したいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

医師の自己研鑽は労働時間なのか?

現在,厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会

という組織において,医師の長時間労働などを

どのように改善していくべきかが議論されています。

 

 

医師の労働には,次のような特殊性があります。

 

 

 

 

病気の発生や症状の変化が予測不可能であり,

治療効果が不確実である一方,

国民の生命と健康を預かるため,

医療安全の確保が必要不可欠です。

 

 

医療の不確実性を重視すれば,

突発的な事態に対応するために,医師は,

長時間労働をせざるをえなくなります。

 

 

他方,医師が働きすぎると,疲労が蓄積し,

医師の過労死や医療事故といった最悪の事態に発展し,

医療の公共性を確保できなくなります。

 

 

平成30年度の過労死白書をみても,

救急や入院患者の緊急対応,診断書やカルテの書類作成などが

,医師の時間外労働の原因として挙げられています。

 

 

このように,医療の不確実性と公共性を両立させる観点から,

医師の働き方をどのように改善していくのかが議論されているのです。

 

 

この検討会で,注目される判断がされました。

 

 

それは,医師の自己研鑽が労働時間に該当するのかという点です。

 

 

 

 

医師は,高度な専門知識を取得して,

医療水準を維持・向上させるために,

自己研鑽が欠かせない職業です。

 

 

この自己研鑽が,労働に該当すれば,

病院としては,医師に賃金を支払わなければなりませんし,

適切に労働時間を管理して,

医師の疲労が蓄積しないようにしなければなりません。

 

 

他方,自己研鑽が労働でないのであれば,

病院は,医師に賃金を支払う必要はなく,

医師の純粋なスキルアップのために,

医師の責任で行うものになります。

 

 

このように,自己研鑽が労働時間に該当するか否かは,

医師と病院にとって気になるところですが,

これまで明確な指針がありませんでした。

 

 

そもそも,労働時間とは,会社の指揮命令下に置かれている時間,

会社の明示または黙示の指示により働く時間といわれており,

労働から離れることが保障されていることが必要です。

 

 

しかし,この基準だけでは,いまいちよく分からず,

個々の事件で,具体的な事実を検討して,

労働時間に該当するかが判断されています。

 

 

今回,厚生労働省は,医師の自己研鑽が労働時間に該当する例を

具体的に提示したので,かなりわかりやすくなりました。

 

 

診療ガイドラインについての勉強,

新しい治療法や新薬についての勉強,

自らが術者である手術や処置についての予習や振り返りは,

診療の準備行為または診療後の後処理として,

基本的に労働時間に該当します。

 

 

学会や外部の勉強会への参加や発表準備,

院内勉強会への参加や発表準備,

本来業務とは区別された臨床研究にかかる診療データの整理,

症例報告の作成,論文執筆,

大学院の受験勉強,

専門医の取得・更新にかかる症例報告作成,講習会受講は,

自由な意思に基づき,業務上必須でない行為を所定労働時間外に,

上司の指示なく行う場合は,労働時間には該当しません。

 

 

 

 

もっとも,実施しない場合には制裁などの不利益が課されて,

実施が余儀なくされている場合,

業務上必須である場合,

業務上必須でなくても上司が指示して行わせる場合

は労働時間に該当します。

 

 

おおむね,今の裁判例の見解をもとに,

自己研鑽が労働時間にあたる場合とあたらない場合を,

具体的に明確化した点が評価できます。

 

 

とてもわかりやすくなりました。

 

 

病院の経営者や管理職には,上記の見解をもとに,

医師の自己研鑽の時間を把握していくのは大変だと思いますが,

医師の働き過ぎを防止して,

国民が安心して医療を受けられる体制を維持するためにも,

少しずつでもいいので検討していってもらいたいです。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

リボーンアワード2018

私のブログの恩師である板坂裕治郎師匠が主催している

リボーンアワード2018に参加してきました。

 

 

 

 

板坂裕治郎師匠のご指導のもと,毎日ブログを更新している

全国のブログ仲間達が,神戸の六甲アイランドに結集しました。

 

 

石川60期のブログ仲間である,福井のママ柿木有紀さん

が出場するので,私は,その応援のために,

参加させていただきました。

 

 

リボーンアワードとは,板坂裕治郎師匠の門下生の中で,

板坂裕治郎師匠から学んだことを行動に移して,

成果をあげている人のプレゼンを聞き,

そのプレゼンのときの魂の叫びに刺激を受けて,

自分のビジネスの活力にするというビジネスエンターテイメントです。

 

 

近未来を予感させるオープニングムービー,

大迫力の音響とまばゆい光の演出に,度肝を抜かれました。

 

 

ビジネスのプレゼンが,これほどまでに見ている人に

楽しさを与えることができるのかとうなりました。

 

 

ビジネスエンターテイメントという新しい分野を開拓した,

板坂裕治郎師匠は,やはりすごい人物なのだと,

改めて感銘を受けました。

 

 

今年のリボーンアワードのテーマは,「」です。

 

 

 

 

人生のどん底の「零」からはいあがってきた

人だけが語れる,強みを学ぶというものです。

 

 

さて,私が応援していた柿木さんは,

トップバッターとしてプレゼンをしました。

 

 

若かりしころにグレて,

夫からDV(ドメスティックバイオレンス)を受けて,

離婚したものの,子供を育てるために,

福井の歓楽街片町でお店を経営し,業績をあげてきました。

 

 

数々の人生のどん底を経験しながらも,

子供のために,懸命に働いてきた柿木さんのプレゼンを聞き,

母はなんと強いのかと感動しました。

 

 

死ぬこと以外かすり傷

 

 

柿木さんは,こう言いました。

 

 

人生のどん底を経験した人が発する言葉だけに,心に響きました。

 

 

私が一番感動したのは,大津みかさんのプレゼンでした

(柿木さんごめんなさい)。

 

 

 

 

うつ病に罹患し,自殺未遂や精神科への入退院を繰り返しながらも,

8年間の闘病生活を経て,見事うつ病を克服したのです。

 

 

大津さんは,日記に自分の気持を書き出すことで,

自分の正直な気持ちに向き合うことができて,

うつ病から回復したようです。

 

 

うつ病から回復した大津さんだからこそ,

その経験を語ることで,うつ病に苦しむ人に

勇気と希望を与えることができるのです。

 

 

「自分に生まれてよかった」と語る大津さんの姿を見て,

涙が止まりませんでした。

 

 

自分の経験を語ることが人の役に立つ

ということがよくわかりました。

 

 

5人の出場者のプレゼンを聞いて,

自分の弱みは強みになり,強みは弱みになる,

すなわち,強みと弱みは紙一重なのだと感じました。

 

 

辛い過去に真剣に向き合い,それを浄化したときに,

圧倒的な自分の強みになるのです。

 

 

「人生とはプラスマイナスゼロである」

 

 

5人の出場者の赤裸々なプレゼンを聞き,

板坂裕治郎師匠がおっしゃった,

この言葉の意味がよくわかりました。

 

 

自分とは何か,自分には何ができるのか,

自分の経験がどのような人の役に立つのか。

 

 

自分と向き合い,自分を開示することの大切さを

学んだ貴重な一日となりました。

 

 

今後も,私の労働問題の解決の経験が

誰かの役に立つと信じて,ブログを更新していきます。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

マタハラの対処法

  女性労働者が妊娠や出産を理由に降格させられた場合,

どのように対処すればいいのでしょうか。

 

 

女性労働者が妊娠,出産,育児などに関連して

職場で嫌がらせ行為を受けたり,

妊娠,出産などを理由として会社から

不利益を被るといった不当な取り扱いを受けることを

マタニティハラスメント(マタハラ)といいます。

 

 

 

 

女性の活躍が叫ばれている今,

マタハラは時代錯誤なのですが,実際に,

理不尽なマタハラを受けて悩んでいる女性労働者は多いです。

 

 

本日は,マタハラ事件で有名な最高裁平成26年10月23日判決

(広島中央保健生協事件・労働判例1100号5頁)を検討しながら,

マタハラへの対処法について解説します。

 

 

この事件は,副主任の職位にあった理学療法士の女性労働者が,

妊娠中の軽易な業務への転換に際して副主任からはずれて,

育児休業の終了後に副主任になれなかったことが問題となりました。

 

 

男女雇用機会均等法や育児介護休業法では,

妊娠,出産,育児を理由に,労働者に対して,

不利益な取り扱いをすることが禁止されています。

 

 

そこで,本件事件では,妊娠を理由に副主任からはずれて,

育児休業終了後に副主任になれなかったことが,

男女雇用機会均等法や育児介護休業法で禁止された

不利益取り扱いに該当するかが争われたのです。

 

 

 

最高裁は,女性労働者に対して妊娠中の軽易作業への

転換を契機として降格させることは,原則として,

男女雇用機会均等法や育児介護休業法が禁止している

不利益取り扱いに該当すると判断しました。

 

 

ただし,次の例外的な場合には,

不利益取り扱いにはならないとしました。

 

 

①労働者について自由な意思に基づいて降格を

承諾したと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき。

 

 

②労働者について降格の措置をとることなく

軽易作業への転換をさせることに円滑な業務運営や

人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合で,

降格の措置に男女雇用機会均等法や育児介護休業法の

趣旨目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情があるとき。

 

 

具体的には,①はどのような場合かといいますと,

単に労働者が降格に同意しただけでは足りず,

降格による有利な影響が不利な影響を上回っていて,

会社から適切な説明を受けたなど,

通常の労働者であれば誰しもが同意する理由が

客観的に存在していることをいいます。

 

 

②については,経営状況の悪化や労働者の能力不足などの

業務上の必要性から,降格などをせざるをえない状況であり,

業務上の必要性が降格などの不利益取り扱いによって

受ける労働者の影響を上回る場合のことをいいます。

 

 

本件事件では,育児休業から職場復帰するときに

副主任に復帰できるかについて会社から十分な説明がなく,

降格によって管理職の地位と手当を失う不利益が大きいことから,

①の事情はないと判断されました。

 

 

また,本件事件では,業務上の必要性があったのか不明であり,

降格によって仕事上の負担の軽減がされたのかも不明であり,

②の事情についての審理が不十分とされました。

 

 

結果として,本来支給されるべき手当相当額と

慰謝料の損害賠償請求が認められました。

 

 

 

 

このように,妊娠,出産,育児休業を理由とする

降格などの不利益取り扱いは,原則として違法となり,

例外的に有効となるのは,限定されていますので,

このような不当な取り扱いを受けた場合,

会社におかしいと主張するべきです。

 

 

会社に相談窓口があれば,そこに相談し,

それでもうまくいかないときには,

都道府県の労働局の雇用環境・均等部(室)に相談して,

会社に助言指導してもらうこともできます。

 

 

それでも会社が対応を改めないのであれば,

弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

求人票の労働条件と実際の労働条件が異なる場合の対処法

求人票に記載されている情報を見て,応募したら,

めでたく採用されて,実際に働き出したところ,

実際の労働条件は,求人票に記載されていた

労働条件と異なっていました。

 

 

 

 

労働者としては,だまされた感じがして,

不満に思いますが,せっかく採用されたので,

このまま働き続けようか迷ってしまいます。

 

 

本日は,求人票の労働条件と実際の労働条件が異なる場合,

労働者としては,どのように対処すべきかについて解説します。

 

 

まず,会社が労働者の募集を行う場合,募集にあたって,

仕事の内容,賃金,労働時間その他の労働条件を

明示しなければなりません(職業安定法5条の3第1項)。

 

 

当たり前ですが,会社は,正確な労働条件を

明示しなければなりません。

 

 

会社が最初に明示した労働条件と,

実際に労働契約を締結する際の労働条件に変更がある場合,

会社は,その変更した労働条件を,

労働者に明示しなければなりません(職業安定法5条の3第3項)。

 

 

会社が,虚偽の求人広告をし,

虚偽の労働条件を提示して,

労働者の募集をおこなった場合には,

6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金に処せられます。

 

 

求人票の労働条件と実際の労働条件が異なる場合,

ハローワークへ相談すれば,ハローワークが,会社に対して,

是正指導してくれる可能性があります。

 

 

 

 

次に,求人票の労働条件と実際の労働条件が異なる場合,

求人票の労働条件で労働契約が成立したといえるのでしょうか。

 

 

千代田工業事件の大阪高裁平成2年3月8日判決は,

この点について,重要な判断を示しました(労働判例575号59頁)。

 

 

求人票に真実の労働条件を提示させることで,

労働者は,様々な会社の求人を比較して,

どの会社に応募するかの選択の機会が与えられます。

 

 

また,求人票に真実の労働条件が記載されれば,

会社が現実の労働条件とは異なる好条件を餌にして

労働契約を締結して,それを信じた労働者が予期に反する

悪条件で労働を強いられることを防止することができます。

 

 

そのため,求職者は当然求人票記載の労働条件が

労働契約の内容であると考えますし,

会社も求人票に記載した労働条件が

労働契約の内容になることを前提としていることから,

求人票記載の労働条件は,当事者間においてこれと異なる

別段の合意をするなど特段の事情がない限り,

労働契約の内容になると判断されました。

 

 

 

したがって,求人票の労働条件と

実際の労働条件が異なる場合,労働者は,

会社に対して,求人票の労働条件が

労働契約の内容になっていることを主張できるのです。

 

 

例えば,求人票には退職金有りと記載されていたのに,

実際には退職金が支給されていなかった場合,

労働者が退職金請求をすれば,認められる可能性があるのです。

 

 

さらに,求人票の労働条件と実際の労働条件が異なっていたので,

このような会社では働きたくないと思ったのであれば,

労働者は,即時に,労働契約を解約することができます

(労働基準法15条2項)。

 

 

このように,求人票の労働条件と実際の労働条件が異なる場合,

労働者が取りうる手段がいろいろありますので,

弁護士に相談することをおすすめします。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

年功序列型賃金から成果主義型賃金への変更

これまでは,年功序列型賃金だったため,

ある程度の年齢になれば,自動的に昇給していたのに,

就業規則が変更されて,これからは,

労働者の成果に応じて賃金を支払う

成果主義型賃金に変更されたとします。

 

 

その結果,ある労働者の賃金が減額されてしまいました。

 

 

 

 

このように,会社の賃金体系が変更された場合,

労働者は,どのように争うことができるのでしょうか。

 

 

賃金体系が変わると,もらえる給料の金額に

変更が生じますので,労働者としては,

このまま会社の言うとおりに従わなければ

ならないのか悩みますよね。

 

 

本日は,就業規則による労働条件の変更について解説します。

 

 

まず,会社が労働条件を変更する方法は,2つあります。

 

 

1つは,労働条件を変更することについて,

労働者と個別に同意する方法です。

 

 

もう1つは,就業規則を変更することで,

労働条件を変更する方法です。

 

 

就業規則とは,会社におけるルールを定めたものであり,

会社が一方的に決定するものです。

 

 

 

 

会社は,多くの労働者と労働契約を締結しているのですが,

全ての労働者の合意をとりつけるのは困難であり,

労働者の公平を保つためにも,就業規則を変更して,

労働条件を変更させる必要があるのです。

 

 

とはいえ,無条件に,労働条件が労働者に

不利益に変更されたのでは,

労働者の労働条件が一方的に切り下げられて,

労働者にとって酷な結果となります。

 

 

そこで,就業規則によって,労働条件を不利益に変更するには,

就業規則の変更が合理的でなければなりません。

 

 

そして,就業規則の変更の合理性を検討する際に,

労働者の受ける不利益の程度,

労働条件の変更の必要性,

変更後の就業規則の内容の相当性,

労働組合などとの交渉の状況

などが総合考慮されて,合理的か否かが検討されます。

 

 

それでは,年功序列型賃金から成果主義型賃金へ

就業規則が変更されたことが争われた

東京商工会議所事件を検討してみましょう

(東京地裁平成29年5月8日判決・労働判例1187号70頁)。

 

 

この事件では,年功序列型賃金から成果主義型賃金

に変更されたことによって,原告の労働者の賃金が

42万7300円から41万1300円に減額されました。

 

 

 

 

まず,労働条件の変更の必要性についてです。

 

 

この事件では,経営難から人件費を削減するためではなく,

会員や社会に対してより質の高いサービスを提供するために,

必要な人材を育成し,組織を強化するための

人事制度を見直す中で,職員の能力や成果を適正に評価して,

その評価に応じた報酬を支給する目的で賃金体系を変更したので,

賃金の配分の仕方を見直したものと判断されました。

 

 

そして,賃金の配分の見直しについては,

会社の経営判断に委ねられる部分が大きいので,

年功序列型賃金から成果主義型賃金へ変更する

経営判断に合理性はあり,変更の必要性が認められました。

 

 

次に,労働者の不利益について,給料が一度減額されたしても,

その後の努力次第で増額の余地があるので,

不利益の程度は大きくないとされました。

 

 

内容の相当性について,どの従業員にも

人事評価の結果次第で等しく昇給の機会が与えられており,

公平性があり,激変緩和措置として,

3年間調整給が支給されるので,内容の相当性も認められました。

 

 

会社は,労働組合に対して,丁寧に説明をしていたため,

労働組合との交渉も問題ありませんでした。

 

 

結果として,年功序列型賃金から成果主義型賃金へ

就業規則を変更することは合理的であり,有効と判断されました。

 

 

成果主義型賃金の場合,一時期給料が下がったとしても,

その後の成績によっては,給料が上がる可能性があるので,

これを不合理とするのは難しいのだと思います。

 

 

労働者としては,成果主義型賃金が導入された場合,

その制度の中で,成果を挙げられるように

努力した方がいいのでしょう。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。

過労自殺で労災が認められなくても,会社に対する損害賠償請求が認められた事件

過労死や過労自殺事件の相談を受ける際に,

弁護士が気にするのは,長時間労働をどのようにして

証明していくかということです。

 

 

タイムカードやパソコンのログデータといった証拠は,

会社が保管しているので,それをどうやって入手するのか。

 

 

 

 

時間外労働が1ヶ月80~100時間を超えるのか。

 

 

弁護士は,このようなことを考えます。

 

 

証拠保全という裁判所の手続を利用して,

会社に乗り込み,タイムカードの証拠などを確保して,

長時間労働を立証できるかを検討します。

 

 

では,タイムカード等の労働時間を証明する

証拠がなかった場合,どうすればいいのでしょうか。

 

 

本日は,タイムカード等の客観的証拠が存在しなくても,

過重労働によって過労自殺したことを認めた

大阪地裁平成30年3月1日判決を紹介します

(判例時報2382号60頁)。

 

 

過労死や過労自殺事件で有名な大阪の

弁護士松丸正先生がご担当された事件です。

 

 

通常,過労死や過労自殺の事件では,

まず,労働基準監督署に労災の申請をし,

労災と認定された後に,会社に対して,

労災では補償されない慰謝料などについて

損害賠償請求をします。

 

 

労災申請をしても,労災と認定されない場合,

労災を不支給とする行政処分について,

異議申し立てをする審査請求をし,

それでも労災と認定されない場合,

再審査請求や労災不支給処分を取り消すことを

求める訴訟を提起します。

 

 

それでも,労災不支給処分の取消訴訟をしても,

労災と認定されない場合,裁判所が,

労働者の自殺は仕事が原因ではなかったと

判断したことになるので,会社に対して,

損害賠償請求をすることは非常に困難です。

 

 

しかし,この事件では,

労災不支給処分→審査請求→再審査請求→

労災不支給処分取消訴訟の第1審判決→高裁判決と,

全ての過程で労働者の自殺は仕事が原因ではない

と判断されたにもかかわらず,

会社に対する損害賠償請求では,

労働者の自殺は仕事が原因であるとして,

約6959万円の損害賠償請求が認められたのです。

 

 

遺族と弁護士のあきらめない熱い思いが,

裁判所を変えたという点で,本当にすごいことです。

 

 

 

 

この事件では,自殺した労働者が通院していた

精神科のカルテに3ヶ月休みなく働いていたことの記載があり

同僚も3ヶ月休みがなく働いていたと証言していることから,

自殺した労働者が3ヶ月休みなく働いていたことが認定されました。

 

 

さらに,自殺した労働者のうつ病発症のきっかけは

過重労働と考えられるという主治医の意見書が提出されており,

仕事が原因で自殺したと認定されました。

 

 

 

 

労災の手続では,すべて負けたにもかかわらず,

あきらめずに,会社に対して損害賠償請求したところ,

それが認められたという画期的な判決です。

 

 

労働者の弁護士として,あきらめずに,

全力を尽くすことの大切さを学ばせていただきました。

 

 

本日もお読みいただきありがとうございます。