電通の36協定違反から残業時間の上限規制を説明します
1 電通の36協定違反
2019年9月に,電通の高橋まつりさんが過労自殺したことが
労災と認定されるニュースが大々的に報道されて,
電通は,厳しいバッシングを受けました。
電通は,労働基準法違反で書類送検され,公開の法廷において,
刑事裁判の審議されて,罰金50万円の有罪判決となりました。
このニュースの影響は大きく,
長時間労働による過労死や過労自殺を撲滅する機運が高まり,
働き方改革において,残業時間の上限規制につながりました。
このように,厳しいバッシングを受けた電通でしたが,
残念ながら,2018年度に労働基準法違反があったとして,
労働基準監督署から是正勧告を受けたようです。
https://www.asahi.com/articles/ASMD44GM6MD4OIPE00G.html
本日は,電通の2018年度の労働基準法違反について説明します。
2 36協定
報道によりますと,電通は,労働組合との間で,
1ヶ月の残業時間の上限を45時間,
事前に申請すれば1ヶ月75時間に延長できる
36協定を締結したにもかかわらず,
1ヶ月75時間を超える違法残業をさせていたり,
事前申請なしに1ヶ月75時間まで残業をさせたケースがあったようです。
まず,労働基準法32条では,1日8時間,
1ヶ月40時間を超えて労働させてはならないと規定されています。
1日8時間,1ヶ月40時間を超えて労働させるためには,
会社は,36協定を締結して,
労働基準監督署に届け出なければならないのです。
36協定を締結せずに残業をさせたり,
36協定で定めた時間を超えて残業をさせた場合には,
労働基準法32条違反として,
6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられることがあります。
3 残業時間の上限規制
働き方改革関連法により,改正労働基準法では,
36条3項,4項により,残業の限度時間は1ヶ月45時間以下,
1年間360時間以下としなければなりません。
もっとも,「通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い
臨時的に限度時間を超えて労働させる必要がある場合」に限って,
限度時間を超えて,休日労働を含めて1ヶ月100時間未満,
休日労働を除いて1年720時間以下で残業させることを許容する
特別条項を定めることができます(労働基準法36条5項)。
この特別条項による残業は,
1ヶ月45時間という限度時間を超えて残業させることになるので,
法令で定められた事項を36協定に記載し,
その36協定が遵守される必要があります。
例えば,36協定の特別条項には,
限度時間を超えて労働させることができる場合や,
限度時間を超えて労働させる場合における手続を定めなければなりません
(労働基準法施行規則17条1項4号,7号)。
まず,電通では,限度時間を超えて残業できる上限を
1ヶ月75時間に設定していたようです。
1ヶ月75時間は,1ヶ月100時間未満ですので,
特別条項としては適法です。
しかし,特別条項の残業の上限を1ヶ月75時間としているので,
1ヶ月75時間を超えて働かせれば,
36協定の特別条項に違反しているので,
労働基準法違反になります。
また,電通では,1ヶ月45時間を超えて,
75時間までに働かせるためには,事前申請の手続が必要なのですが,
この事前申請の手続を経ずに,
1ヶ月75時間まで働かせたことがあったようですので,
この点においても労働基準法違反が認められます。
4 36協定のチェックは大切です
このように,会社は,36協定を締結したならば,
36協定に記載されていることを遵守しなければならず,
違反したらならば,労働基準監督署から行政指導されるリスクがあります。
労働基準監督署から行政指導されたことがマスコミ報道されれば,
風評被害となりますので,気をつけるべきでしょう。
また,労働者も,会社が36協定をしっかりと遵守しているのか
チェックしていくことが重要です。
本日もお読みいただきありがとうございます。
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