休日の朝に出勤を命じることはパワハラか
教師が休日の朝に突然,校長や教頭から
「今すぐ出勤して」という連絡を受けた場合,
このような連絡はパワハラにあたるのでしょうか。
また,教師がこの連絡に従って休日に働いた場合,
休日労働の割増賃金を請求することができるのでしょうか。
まず,休日労働の朝に出勤を命じることが
パワハラに該当するかについて検討します。
そもそも,職場のパワハラとは,
同じ職場で働く者に対して,
職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,
業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える
又は職場環境を悪化させる行為と定義されています。
そして,厚生労働省は,職場のパワハラに
あたりうる行為類型として,以下の6つをあげています
(職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告)。
①身体的な攻撃(暴行・傷害)
②精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)
③人間関係からの切り離し(隔離・仲間はずし・無視)
④過大な要求
(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制,仕事の妨害)
⑤過小な要求(業務上の合理性なく,
能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
もっとも,上記の6類型は,職場のパワハラのすべてを
網羅するものではなく,最終的に損害賠償請求できる
違法なパワハラか否かは,社会通念に照らして
ケースバイケースで判断することになります。
パワハラが人事権の行使のかたちで行われた場合には,
次の3つの基準に照らして違法か否かが判断されます。
ア 当該業務命令が業務上の必要性に基づいているか
イ 当該業務命令が退職強要目的など社会的にみて
不当な動機・目的に基づきなされたか
ウ 当該業務命令が労働者に対して
通常甘受すべき程度を超える不利益を与えたか
さて,休日の朝に出勤を命じることは,
パワハラの6類型には該当しません。
また,仮に,休日にしなければならない仕事があり,
嫌がらせ目的もなく,代休が与えられているのであれば,
損害賠償請求できる違法なパワハラとはいえないと考えられます。
次に,教師は,休日労働した場合に,
割増賃金を請求できるのかについて検討します。
公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法
(「給特法」といいます)第3条2項には
「教育職員については,時間外勤務手当及び休日勤務手当は,支給しない。」
と定められています。
教師に対しては,以下の「超勤4項目」の場合以外は,
原則として時間外勤務を命じないこととされています。
①校外実習その他生徒の実習に関する業務
②修学旅行その他学校の行事に関する業務
③職員会議に関する業務
④非常災害などのやむをえない場合の業務
そして,教師に対して,残業代が支払われない代わりに,
給料月額の4%に相当する教職調整額が支給されています。
しかし,実際には上記の超勤4項目以外の業務を
時間外や休日にせざるをえないことはよくあるものの,
実務上は残業代は支払われません。
結論として,教師は,休日労働しても割増賃金を請求するのは困難です。
もっとも,教師が休日に勤務することが命じられて勤務した場合,
代休が与えられます。
本来,休日に勤務を命じることは,
労働者のワークライフバランスの観点から負担が重く,
また,教師の場合は,超勤4項目でしか
休日の勤務を命じることができないのですが,
実際は,超勤4項目以外でも休日労働がまんえんしています。
教師の労働環境を改善するためにも,
給特法を廃止して,教師にも労働基準法に基づいて
残業代が支払われるようにするべきと考えます。