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セクハラの同意は厳しく判断されます

セクハラの被害者が,セクハラにNoと言わなかった場合,

セクハラについて同意したと判断されてしまうのでしょうか。

 

 

 

 

本日は,セクハラにおける同意について判断された

重要な最高裁判例を紹介します(海遊館事件・

最高裁平成27年2月26日判決・労働判例1109号5頁)。

 

 

大阪の海遊館という水族館で管理職をしていた男性労働者2名は,

複数の女性従業員に対して,セクハラ発言を繰り返したとして,

出勤停止の懲戒処分(一人は30日間,もう一人は10日間)

を受け,その結果,降格となり,給料が減額となりました。

 

 

1名の男性労働者は,女性従業員に対して,

自分の不倫相手に関することや,自分の性欲について,

次のような発言をしました。

 

 

 

「俺のでかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」

「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」

「でも,俺の性欲は年々ますねん。なんでやろうな。」

 

 

もう1名の男性労働者は,女性従業員に対して,

次のような発言をしました。

 

 

「いくつになったん。」

「もうそんな歳になったん。

結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」

「30歳は,22~23歳の子からみたら,おばさんやで。」

「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん。」

 

 

このようなセクハラが1年ほど続いた結果,

ある女性従業員は,会社を退職しました。

 

 

2名の男性労働者は,出勤停止の懲戒処分は

無効であるとして,裁判を起こしました。

 

 

セクハラを理由とする出勤停止処分について,

一審の大阪地裁は有効と判断し,

二審の大阪高裁は無効と判断し,

最高裁は有効と判断しました。

 

 

二審の大阪高裁は,女性従業員から明確な

拒否の姿勢が示されておらず,加害者である男性労働者は,

上記のセクハラ発言が女性従業員から許されている

誤信していたことなどを理由に,

出勤停止処分は重すぎるとして無効と判断しました。

 

 

 

 

これに対して,最高裁は,加害者である男性労働者は,

管理職としてセクハラ防止のために部下を指導すべき立場

にあるにもかかわらず,1年ほどにわたり繰り返した

セクハラ発言は,女性従業員に対して,

強い不快感・嫌悪感・屈辱感を与えて,

女性従業員の職場環境を著しく害するものであり,

女性従業員の就業意欲の低下や

能力発揮の阻害をまねく行為であると,

厳しく批難しました。

 

 

そして,職場におけるセクハラは,

被害者が内心でこれに著しい不快感や嫌悪感などを抱きながらも,

職場の人間関係の悪化などを懸念して,

加害者に対する抗議や抵抗,会社に対する被害の申告を

躊躇することが少なくないので,加害者である男性労働者が,

被害者である女性従業員から明確な拒否の姿勢が示されておらず,

上記の言動が許されていると誤信したとしても,

そのことを加害者に有利に扱うべきではないと判断して,

出勤停止処分は有効と判断しました。

 

 

このように,最高裁は,そもそもなぜ被害者である女性が,

職場において男性上司からセクハラを受けてもNoと言えないのか,

というセクハラの本質を的確にとらえ,

加害者がよく主張する被害者の同意をそう簡単には採用しない

と示したものであり,実務に与えるインパクトは大きいです。

 

 

セクハラの被害者は,会社での勤務を継続したい,

セクハラの被害をなるべく少なくしたいと考えて,

やむを得ず,加害者に迎合することがありますが,

それらの事実から,被害者の同意があったと

安易に判断すべきではないのです。

 

 

セクハラに対する世間の目も厳しくなってきていますので,

被害者から好意をもたれているという加害者の勘違いは,

もはや通用しない世の中になってきています。

 

 

本日も,お読みいただき,ありがとうございます。

親会社に対してセクハラの損害賠償請求できる場合とは

勤務先の子会社においてセクハラを受けた場合,

セクハラの被害者は,その子会社のグループ企業内の親会社に対して

損害賠償請求をすることができるのでしょうか。

 

 

本日は,子会社におけるセクハラの被害者が,

親会社に対して,セクハラの損害賠償請求をしたイビデン事件

(最高裁平成30年2月15日判決・労働判例1181号5頁)

について解説します。

 

 

 

セクハラの被害者の女性労働者は,

イビデンキャリア・テクノという会社の契約社員でした。

 

 

被害者は,イビデンキャリア・テクノの親会社である

イビデンの事業場で働いていました。

 

 

被害者が親会社のイビデンの事業場で働いているときに,

同じ事業場で働いていた他の子会社であるイビデン建装の

正社員である加害者の男性労働者と交際をしていました。

 

 

しかし,被害者が加害者に対して,交際を解消したいと

申し出ましたが,加害者は交際を諦めきれず,

被害者に対して,繰り返し交際を要求し,

被害者の自宅に押しかけるなどのセクハラ行為をしました。

 

 

 

 

被害者は,勤務先の上司に,加害者の行為をやめるように

注意してほしいと相談しましたが,その上司は,朝礼の際に,

「ストーカーやつきまといをしているやつがいるようだが,やめるように」

などと発言しただけで,それ以上の対応はしませんでした。

 

 

その後も,加害者のセクハラ行為は止まらなかったため,

被害者は,イビデンキャリア・テクノを退職し,

イビデンの別の事業場で働きました。

 

 

被害者が退職した後も,加害者は,被害者の自宅付近で

自動車を停車させていたことがあり,

被害者から相談を受けていた同僚が心配して,

イビデンの相談窓口に対して,

事実確認をしてほしいという申し出をしました。

 

 

イビデンは,加害者などから聞き取り調査をしましたが,

イビデンキャリア・テクノから,申し出に関する事実は存在しない

という報告を受けて,被害者に対して事実確認を行わずに,

被害者の同僚に対して,申し出にかかる事実は

確認できなかったことを伝えました。

 

 

なお,イビデンのグループ企業では,

法令を遵守する体制を整備し,

グループ企業で働く労働者が法令遵守に関して

相談するための相談窓口を設けていました。

 

 

以上の事実関係において,加害者に対するセクハラの

損害賠償請求が認められ,被害者の勤務先である

イビデンキャリア・テクノに対して,

就業環境に関して労働者からの相談に応じて

適切に対応すべき義務を怠ったとして,

損害賠償請求が認められました。

 

 

これに対し,親会社であるイビデンの損害賠償請求については,

控訴審の名古屋高裁は,法令遵守についての相談窓口を

整備していたことから,グループ企業の全従業員に対して,

直接またはその所属する各会社をつうじて

相応の措置を講ずべき義務を負うとして,

損害賠償請求を認めましたが,

最高裁は,イビデンに対する損害賠償請求を認めませんでした。

 

 

最高裁は,親会社であるイビデンは,

被害者に対して指揮監督権を行使する立場になく,

被害者から労働の提供を受ける立場にもなかったことから,

子会社であるイビデンキャリア・テクノが

義務違反をしたからといって,そのことだけで

イビデンの義務違反があったことにはならないと判断しました。

 

 

また,被害者がイビデンの相談窓口に直接申し出をしたなら,

適切に対応すべき義務がありますが,本件事実関係のもとにおいて,

被害者の同僚が相談窓口へ申し出をした場合にまで,

イビデンが,被害者に事実確認をしなかったとしても,

損害賠償責任を負うものではないと判断しました。

 

 

本件では,親会社の責任は否定されましたが,

被害者が直接,親会社の相談窓口へ相談したのに,

親会社が何もしなかった場合,

親会社もセクハラの損害賠償責任を負う可能性があります

 

 

 

親会社に対して,セクハラの損害賠償請求ができるのは

どのような場合かについて,検討をする際に

参考になる裁判例として紹介させていただきました。