不当解雇を争うときに別の会社に再就職していても問題はないのか
1 クルーズ船会社における整理解雇事件
新型コロナウイルスの集団感染が発生した
クルーズ船ダイヤモンド・プリンセス号の運行会社の
日本法人カーニバル・ジャパンの従業員が整理解雇されたのですが、
元従業員3名が、解雇は無効であるとして、訴訟を提起しました。
https://www.asahi.com/articles/ASN876D7PN87ULFA033.html
報道によりますと、原告らは、カーニバル・ジャパンが
雇用調整助成金を活用しておらず、
解雇回避努力を尽くしていないとして、
整理解雇は無効であると主張しているようです。
新型コロナウイルスの感染拡大を理由とする整理解雇の事件では、
会社が雇用調整助成金を活用したかがポイントになりますので、
原告らの勝訴判決を期待したいです。
2 解雇を争うときには就労の意思を明確にする
新型コロナウイルスの問題が勃発してから、
解雇に関する法律相談が増えています。
不当解雇を争うときには、労働者は、会社に対して、
解雇が無効であるので、会社で働かせるように求めていきます。
解雇が無効になると、労働者は、会社に対して、
解雇されていた期間の未払賃金を請求できます。
この未払賃金を請求する前提として、労働者には、
就労の意思と能力が必要になります。
労働者の就労の意思を明確にするために、労働者は、
不当解雇を争う際には、会社に対して、
働かせるように請求するのです。
3 再就職しても就労の意思は認められる
とはいえ、解雇された労働者は、収入がなくなりますので、
通常でしたら、別の会社に再就職することがほとんどです。
すると、別の会社に再就職しているのに、
解雇された会社に対して、働かせるように請求するのは
矛盾するのではないかという問題が生じます。
ようするに、別の会社に再就職すると、
解雇された会社に対する就労の意思が失われてしまい、
解雇された会社に対して、
未払賃金を請求できないのではないかという問題です。
結論から言うと、労働者が解雇後に別の会社で働いてるというだけでは、
就労の意思を失ったことにはなりません。
すなわち、労働者が別の会社で働いていても、
解雇が無効であるとして、労働者の地位の確認を求めて交渉したり、
裁判をしている場合には、就労の意思があることが明らかとなるからです。
また、解雇されて賃金の支払を受けられなくなった
労働者が生活のために、別の会社で働いて
賃金を得るのはやむを得ないことだからです。
別の会社への再就職と就労の意思について、
参考になる裁判例を紹介します。
みんなで伊勢を良くし本気で日本と世界を変える人達が集まる事件の
名古屋高裁令和元年10月25日判決(労働判例1222号71頁)です。
この事件では、解雇された原告が新たに就労して
収入を得ていたのですが、新しい就職先での収入は、
解雇された会社における賃金額には及んでおらず、
新しい就労形態も、解雇された会社との間の
労働契約上の地位が確認された場合には、
離職して就労に復帰することが可能なので、
就労の意思が認められると判断されました。
この事件の原告らは、解雇された会社に勤務していたときの住居から
転居していましたが、それは新しい就労の都合上のものなので、
転居しているからといって、
就労の意思がなくなることにはならないと判断されました。
このように、不当解雇を争う場合には、
未払賃金を請求するために、
就労の意思を明確にする必要があるのですが、
別の会社に就職しても、
就労の意思が否定されることはないことになります。
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